アルガス転生 〜家畜に神はいない(俺以外)〜   作:葛葉狐

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詰みポイント37:死の先を征く者たち

 

「師匠!ーーいくら何でも!

 数が多すぎやしませんかッ!?」

 

 背中合わせに構えるティータが、声に焦りを滲ませる。

 それを好機と受け取ったか、もっとも近くにいたアルテマデーモンが一体、爪を振るって襲い掛かってきた。

 その刹那ーー

 

「「オッラアアアアアアァッ!」」

 

 襲ってきたアルテマデーモンは、突然突っ込んできた二人のーー腰の入った正拳突きを綺麗に脇腹へ浴び。横ざまに吹っ飛んでいった。うわあ痛そう。

 腰を深く落とした態勢より残心を解く、その二人はーー揃いの白いローブに身を包んでいる。

 フードの内側から、おさげの金髪が揺れる。

 そして俺たちへ向ける勝気な笑顔は……よく似た華奢な美貌。

 もしかして。こいつらーー

 

「待たせたわね全員!」「謝罪をしない貴族どもは!」

 

 声を合わせて叫ぶ二人は、なんか拳法使いっぽいポーズを決めた。

 

「このシャザイナと!」「シャザイアが相手よッ!!」

「「誰ーー!?」」

 

 俺とティータの魂の叫びに二人は崩れ落ちた。コイツらマジか、みたいな顔を向けてくる。

 

「アンタたちねえ!」「あれだけ深々と内臓を抉った相手を忘れないでよ!」

 

 二人して砂山に突っ込んだK,O,の光景を思い出す。

 

「「あ…!貴族全員謝罪要求白魔…!」」

「「相変わらず長すぎる呼び名ね!?」」

 

 いやだって名前知らんし。そうか。シャザイナとシャザイアというのか。初めて知った。

 

「えっとーー名前も似てるけど。双子?」

「「逆にそれ以外の何に見えるの!?」」

 

 凄い勢いで怒られた。ごめん。量産型モブかと思ってて……。

 

「ランベリーからの援軍が間に合って良かったわッ!」「これで全員に謝罪を要求できるッ!」

 

 貴族全員謝罪要求白魔たちは、白魔導士としての外見からは似ても似つかぬ高速拳法を操り、瞬く間に付近のアルテマデーモンを殴り飛ばしている。よく見ていると時折、お互いに石を投げあっている。

 ん? これひょっとして、サダルファス流最終奥義か? もしやあの敗戦をバネに、自分たちなりに修行して、まさか自得したのか? すげえなこいつら……あんな、そもそも存在しない架空の流派を……。

 あれ?ランベリーからの援軍?と思ったところでーー俺とティータの口へ突然、パンが突っ込まれる。

 

「「ヴォエッ」」

 

 口中に広がるのは忘れ得ぬ味。クソ不味い。突如人の口にパンを突っ込む巨悪をはたらいた男を見ると……その騎士、ギュスタブはなぜか「しょうがないなぁ、特別サービスだぜ?」と言わんばかりの笑顔を向けてきた。

 

「どうせお前らも強行軍でロクに食べてないんだろ? それが最後の食料だがーーなあに、礼はいらないぜ?」

 

 むしろ謝罪を要求したい。こんな不味いものまた食わせやがって。

 

「おらおらおらぁッ! 俺に必要なのは今すぐ食うものや今すぐ寝るところなんだッ! 俺が休む為にお前ら化け物は今すぐに死ねッ!」

 

 滅茶苦茶なことを言いながら剣を振り回すギュスタブは、よく見ると寝不足でクマがすごい。あと空腹なのかよろよろしている。もしかしてロクに飲まず食わず休まず寝ずで、ランベリーから強行軍で辿り着いたのか。メロスかよ。ごめんパン不味いとか言って……。

 ありあまる睡眠不足と栄養不足とを気迫に変え、ギュスタブはアルテマデーモンと対等に渡り合っている。そんな戦い方アリなのか。

 その時ーーアルテマデーモンの肉壁の向こうで爆発が起き、数匹が吹っ飛ばされてくる。

 

「いいか!俺に近づくんじゃないぞ!このアイテム袋には火薬がゴマンと詰めてあるんだ!命が惜しかったらさっさと下がるんだッ!」

 

 そんな事を喚きながらへっぴり腰でアルテマデーモン目掛け爆弾を投げつけているのは、騎士ゴラグロスだ。

 まったく、どいつもこいつも手段を選ばんな。逆に笑えてきてーー俺はティータと顔を見合わせる。

 視界の端で不動無明剣の光がきらめき。また数匹のアルテマデーモンが吹っ飛ばされる。

 

「ゆくぞ!ランベリー近衛騎士団、突撃ッ!!」「団長代理に続けッ!」

 

 今、路地からなだれ込んできてアルテマデーモンの列に襲い掛かったのはーーウィーグラフとミルウーダだ。率いられて突撃する近衛騎士の中には、モヒカン頭に肩パッドの部外者も相当数混じっている。

 

「総師範をお救いしろ!」「師範代を守れっ!」

「……サダルファス道場のみんな(無認可)……!」

 

 ティータが感極まったように呟くが、そもそも許可した覚えのない道場と弟子である。

 その時ミルウーダへと飛びかかった一体のアルテマデーモンを、不意に刺し貫く銀光。

 巨体が塵と消えた後には……エルムドア侯爵が平然と佇んでいた。

 

「待たせたな。指揮を引き継ごう、ウィーグラフ」「侯爵様……!」

 

 どこかから王宮を抜け出てきたのか。エルムドア侯爵は斬魔刀をひと振りした。

 

「ーー無双稲妻突きッ! 全部隊、集結せよーッ!」

 

 広場の端で無双稲妻突きを空へ放ち。アルテマデーモンを灰に変えたその稲光で、残存する北天騎士団部隊を集結させようと合図を送っているのは……ダイスダーグ卿である。

 俺の方を見て、またちょっと笑う。

 池を挟んだ反対側の路地からもーーアルテマデーモンの側面を突く、吶喊の声が響いてくる。

 

「ゆくぞ!グレバドス教会へ悪魔の首を捧げよッ!異端審問会、進めーッ!!」

「おうよ!ザルの旦那ッ!行くぞラッド!びびるンじゃねえぞッ!」

「アンタ方は回復手段充実してますけどねェ!?俺はそうじゃないんですよッ!?」

 

 物凄い勢いでアルテマデーモンへ食らいついたのは、突撃しか知らぬ異端審問会の狂犬(と闇傭兵)たちだ。ついていけないラッドがキレている。

 とーー王宮のある崖の上より数人の騎士が飛び降り、頭上からアルテマデーモンへ奇襲をかけた。

 

「我らアトカーシャ王家近衛騎士隊!

 隊長アグリアス・オークス、助太刀致すッ!

 ーーゆくぞ!アリシア、ラヴィアンッ!」

 

 ジェットストリームトライアングルアタック的な連携攻撃で瞬く間に一体を屠ると……生じた空隙へ、金の長髪を靡かせる聖騎士と黒兜の闇騎士とが背中合わせに立つ。

 

「また貴公のようなヤカラと肩を並べて戦うとはなッ!」

「はン!今は正義の味方だッての!しっかり着いてこいよ、どン亀ッ!」

「ぬかせッ!」

 

 二人が敵中に飛び込み見えなくなると。

 また違う肉壁の奥から魔法剣の緑の光が瞬いて、アルテマデーモン達を次々と鶏へ変えてゆく。

 聖印を光らせる騎士たちの先頭で魔法剣を振るうのはーー団長ベイオウーフ。

 もう見慣れた狂犬達の暴れぶりにやれやれと首を振っている。

 

「また突出か!審問会を援護するぞッ!ライオネル聖印騎士団、突撃ッ!」

 

 団長の隣に立つ、えらく場違いなーーロングスカートにバッグ持った一般人女性が、おもむろにワンツーパンチを繰り出し、易々とアルテマデーモンを吹っ飛ばした。

 あいつの拳は侮れないのを忘れていた……。

 レーゼか。たぶんロボットしばいて聖石取ってきて、ホワイトドラゴンから人間に戻れたんだな。

 

「!」

 

 人間に戻ったんだからせめて何か喋れ。

 今度はその遥か先でーード派手に空中へ打ち上げられるアルテマデーモン達。

 

「そらそらそらァ〜ッ! 俺の改造した『騎士砲』のお味はどうだッ!!」

 

 『処理する』を実行し、胸の巨砲を格納する鉄巨人。その肩には元神殿騎士バルクが乗り、ブレイズガンを乱射している。

 鉄巨人がマッスルポーズを決め、周囲へ音声メッセージを発した。

 

「騎士・バリンテン・忠実ナル剣」

 

 ちょっと大公が現政権へすり寄るために改造されてんじゃねーか。

 その周囲で不規則に乱れ咲く閃光はーー

 

「行くぞ!ラファッ!」

「ええ!兄さんッ!」

 

 ーーー真言と裏真言による援護攻撃か。

 マラークとラファのガルテナーハ兄妹も、リオファネス騎士団の先頭に立ち戦っている。

 大公の養子として点数稼ぎに来たみたいになってるが……。

 広場へ突撃するリオファネス騎士団の頭上をよぎるのは、高々と空を舞う槍撃士の影。 

 落下の勢いを穂先へ乗せ、屈強なアルテマデーモンを刺し貫く。

 素早く飛び退きーーその竜騎士は叫ぶ。

 

「姉さん!トドメをッ!」

「ええーーイズルードッ!」

 

 入れ替わるように緑フードの女騎士が突撃し、セイブザクイーンを振るって敵の巨体を斬り倒す。

 メリアドールとイズルード……トラウマ姉弟も、駆けつけてくれたのか。

 俺の感謝の視線に気づきーー

 

「「……ヒッ……!?」」

 

 ーー恐怖の表情でのけぞる姉弟。

 どちらもトラウマは未だ払拭されていないらしい。

 傷つくわあ。

 

 広場では大乱戦が繰り広げられ、誰も俺らに構っている暇はなくなった。

 

「みんな……!

 師匠! 今のうちに!」

「ああーー!」

 

 皆が作ってくれた混戦の空隙を抜けて。

 俺たちは王宮前広場の先ーー王宮へつながる長階段へと走り寄る。

 とーーそこへ立ちはだかる、艶姿がふたつ。

 

「ーーあら。私たちを素通り?」「ちょっとは付き合ってくれてもーーいいんじゃない?」

 

 揃いの黒装束に身を包む妙齢の金髪美女はーー暗殺者。セリアとレディだ。

 しかし俺は知っている。

 この麗しい外見はまやかしに過ぎず。ブチのめせば途端に、野太い声のアルテマデーモンへと戻ることをーー!

 すなわち。こいつらはーーバ美肉……!

 バーチャル美少女受肉おじさん……ッ!

 

「黙れッ!このーーおじさんどもめッ!」

「「お、おじさん!?」」

 

 俺の大喝に思わずおじさんどもが退いたその隙間にーー背後から、二人が歩み出る。

 顔を合わせて頷き合うと、名乗りを上げて剣を抜く。

 

「ここは僕たちに任せてくれ。

 ーーベオルブの騎士!ラムザと!」

「ーー『忠実なる剣』騎士(ナイト)ディリータが!相手をしてやるッ!

 ……さあ、行ってくれッ!」

 

 二人の呼吸に、以前のような隙間は無い。

 俺とティータは。それぞれ二騎士の肩を叩くとーー掴んで乗り越えるようにして、長階段を駆け登ってゆく。

 

「ティーターーありがとう」

「師匠ーーありがとうございました」

 

 俺たちのBRAVEも100に到達した。

 徐々に速度を上げてゆく俺らを……階段の上より、裁定者ハシュマリムが振り向いた。

 その背後に王宮の入り口が見えた。聖なる結界だろうーー透明な壁の向こうへ身を寄せる、オヴェリアとラーグ・ゴルターナ両公の姿。

 その結界を執拗に殴り続ける、漆黒の双翼はーーこちらに背を向けて立つ少女の背中より生えている。

 

「アルマ様……!」

 

 ティータの呼びかけに少女が振り向く事はない。

 代わりに反応したのはハシュマリムだった。

 

「ほう。あれだけの大群の中を抜けてきたか。

 どれ、褒美を遣わそう。

 この裁定者の手にかかりーー死ねる光栄を!喜ぶがいいッ!」

 

 振りかざした長い両手に魔力の光を輝かせ。

 両拳を、俺らの突進する階段へと叩きつけるーー

 その寸前。

 

「甘いなーー隙だらけだぜ?」

 

 一発の銃声が響きーー足を撃ち抜かれたハシュマリムは。拳を振り上げた姿勢のまま、大きく体勢を崩す。

 

「ーーなにぃッ……!?」

 

 振り返れば。

 長階段の途中に膝をつき銃を構えたムスタディオが、硝煙漂う銃口の向こうで笑っていた。

 そのまま叫ぶ。

 

「……行っけええええええ!!」

 

 顔を戻せばーー疾駆する俺たちの眼前には。

 ハシュマリムの驚愕の表情と、泳ぐ上体。

 ーー絶好のタイミング。

 俺とティータは迷わず拳を振り上げた。

 

 四発。

 

 その痩身へ致命的な四正拳を受けたハシュマリムは。

 背の大翼を羽ばたかせる事もかなわぬままーー石段へ叩きつけられ。

 そのまま……長階段を、横ざまに転がり落ちてゆく。

 

「ーーやった……!」

 

 ハシュマリムの転げ落ちた石段下にはーー

 既にセリアレディを倒したらしきラムザ・ディリータとーー

 そしてーー数多のアルテマデーモンを降し、その元へと集まるーーランベリー。ライオネル。フォボハム……そして北天騎士団。各地の連合軍の姿があった。

 その、イヴァリース国軍とも呼べる部隊を背に従え。

 悪魔退治の末裔ラムザはーー輝く剣先を、横たわるハシュマリムへとつきつける。

 

「諦めろ『ルカヴィ』! イヴァリースはお前達の手には、渡さないッ!」

 

 ワアアアアーー

 同意の歓声を上げ、手にした武器を天に突き上げるイヴァリースの民にーー地より見上げるハシュマリムが呻きを漏らす。

 

「おのれ……!しょせんは贄に過ぎぬ、血袋ごときが……!

 まだだ……!」

 

 横たわるまま。ハシュマリムは両手を貫手の形に変えーー

 

「無駄な足掻きをッ!お前はもう終わりだッ、ハシュマリム!」

 

 ラムザの刃が振り下ろされる寸前ーーそのまま、己が胸を突き貫いた。

 

「グッ……!

 聖天使アルテマ……御身の復活がため、我が血肉を捧げん……!」

 

 どろりと濃い血がしぶき。

 赤い霧と化した血液はーー紅の雲のごとく階段を馳せ登り……そして。

 少女の背が生やす漆黒の双翼に、見る間に吸い込まれていった。

 

「くははははーー」

 

 視界がブレる。

 血の赤と同じ色に、頭上の空が歪む。

 

「共に復活を喜ぶべき、己が血肉を最後の一片とするとはな。

 いいだろうーーお前の覚悟、受け取ったぞハシュマリム!」

 

 悪魔の双角のごとき、禍々しい黒翼を背負うままーー少女が振り返った。

 その髪は灰色。

 その目は金瞳。

 長髪をなびかせーー久々の肉の感覚を味わうように、少女だったものは微笑む。

 

「身体を取り戻したぞ……!」

 

 聖天使アルテマーーいや。

 『それ』が肉の身を得て大地へと降り立ったーー聖アジョラ。

 

「……ティータッ!」「はい!師匠ッ!」

 

 一番近くに居るーー止められるのは俺たちだけだ。

 もうこれで何度目だ? またいつものように、一撃を加えさえすれば……!

 石段を蹴り、少女の姿をした何かの元へと走り寄る俺らにーーそいつはアルマの顔でニイ、と笑った。

 

「同じ手を何度も食うものか……ほら。

 ーーこうしたら、どうする?」

 

 灰髪金瞳のそいつは……腕(かいな)のように大きく広げた漆黒の翼を、不意に畳んでみせた。

 あれだけ大きかった翼がーー少女の矮躯の影に消え失せる。

 

「……くそっ!!」

 

 攻撃対象を失い足を止める俺たちにーーアジョラは満足げに笑った。

 

「どうした……いつものように。その容赦なき拳を打ち込んではこないのか?

 うん? 翼がなくなったところで別に。違う場所を殴ればよいだけではないか。

 もっともーーか弱きこの娘の肉体が、お前らの攻撃に耐えられるかはわからんがなぁ!!」

 

 はっはっはっはっは。

 攻撃の手を失った俺たちを前に。血色の渦巻く空へ高笑いを残して。

 アジョラは再びーー空を覆わんばかりの巨大な黒翼を展開すると、その黒き天幕からーー鋭い黒羽根の弾丸を降らせた。

 驟雨のごとき針の集中砲火が……俺たちだけではなく、階段下へ集結したイヴァリース軍へも降り注ぐ。

 

「「「「「うわあああああッ」」」」」

 

 体に走る衝撃に、たまらず階段へ倒れ込む。見れば左肩にーー深々と黒羽根が突き立ち、どくどくと血を噴き出していた。

 隣のティータも全身くまなく傷を受け、倒れ込んでいる。

 見下ろした階段下はーー酷い有り様だった。

 たった一撃で……復活した聖アジョラは。ただ一撃でーー集結したイヴァリース中の精強な軍勢を、あっけなく地に這わせた。

 

「くくーー憐れな。

 実に、憐れな家畜ども……」

 

 自らがもたらした惨状を。憐れむように見下ろしながら。

 聖アジョラはまるで聖者のように。おごそかに笑う。

 

 ーーこんなやつに勝てるのか……?

 血の溢れる肩を押さえ膝をつくまま、俺はアジョラを睨み上げる。

 

 

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