アルガス転生 〜家畜に神はいない(俺以外)〜   作:葛葉狐

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詰みポイント4:俺らはエール使えない

 

「旅立ってわずか一日。

 いきなり死ぬかと思いましたよ……」

「ああ。確かに。死にかけた。

 ーーだが必要なものはすべて、手に入れた」

 

 夜のマンダリア平原。

 粗朶を焚火へくべながら、俺とティータは火を囲んでいた。

 ティータは随分軽くなってしまった、大袋を揺らす。

 

「たった一度の戦闘でポーション50個くらい使いましたね……こんな調子で大丈夫ですか?」

 

 街を旅立ち。俺が真っ先にした事は、ティータのステータスの確認だった。

 編成画面を開くと想像通り、自軍扱いになったティータのステータスは閲覧だけではなく、ちゃんと変更できた。

 よかった。ゲストキャラ扱いならどうしようかと思った。あいつらせっかく成長させても、本加入の時に初期状態までステータスもJPもジョブレベルも全部リセットされてんだよ。ムスタディオとか。アグリアスとかさあ。ゲストキャラの期間長いんだから成長反映とか引き継ぎとかしてくれよ。ムスタなんて本加入1マップ目は銃なし素手で出てくるんだぞ!? くっ殺さんなんか本加入1マップ目敵に囲まれてる上に操作できないんだぞ!? こんなんでどう稼げって言うんだよ!

 ハアハア。つい松野への怒りが噴出してしまった。少し落ち着こう。

 話を戻すとーー弓使いへの転職条件見習い戦士レベル2を満たしていたティータは、JPもギリ330取得していた。

 俺はティータにジョブアビリティ、取得JPupと投石を取得させながら、どうしてすでに強いのかを訊ねた。

 ティータは、貴族学院にも護身術のクラスくらいあるんですよ、とかはぐらかしていたが最終的にこう答えた。

 

"うちってもともと馬飼いなんですよね。で、ベオルブ家って武門の棟梁じゃないですか。そこで飼われてる軍馬もやっぱり一流、戦場で役に立つような、選りすぐりの気性の荒い馬ばかりなんですよね。そういう馬のお世話をする上で一番大切なのはもちろん精魂込めて仕事することなんですけど……馬にナメられない事も同じぐらい重要なんですよね。蹴りをかわすとか、噛みつきをかわすとか。傷が目立たないぐらいの反撃するとか、している内にーーずいぶん鍛えられましたね"

 

 軍馬をひと睨みで黙らせる子供達、という光景を先代の天騎士バルバネスに目撃されたせいで、ディリータもティータも、こやつ只者にあらずと目をかけられてしまったらしい。

 なるほど。家畜こわい(二重の意味で)。そもそも貴族学院でのイジメなんて、こいつにはそよ風以下にしか感じられなかったことだろう。

 で、そのまま続けてアイテム士のポーションも取得。弓使いのサブアビリティにアイテムを設定。習得した取得JPupのアビリティもその下にセットさせた。

 で、とりあえず育成に入れる準備を終えた。

 

:ティータ・ハイラル(ステータス)

: BRAVE 32 FAITH 68

:キャラレベル2 見習い戦士レベル3 弓使いレベル1

: チャージ

: アイテム

: 取得JPup

 

 直後ーー行く手に4匹のゴブリンが現れた。

 ゴブリン達は俺を見つけるなり、ゴブゴブ言って襲い掛かってきた。

 俺たちはなし崩し的に戦闘に突入。慣れない弓を構え、接近前に一体を仕留め、近接戦に持ち込まれながらもう一体を仕留め、拳でしか語らないゴブリンに肉弾戦でボコボコにされながらもう一体もどうにか仕留めーーそこからが長かった。

 残り一体になった敵を、回復してやりながら死なない程度に弓で撃ち続ける。有限のポーションを使ってわざわざ敵を回復する俺を、そして接近したところをゴブリンに殴られる俺を、ティータは信じられないような目で見ていた。

 それぞれ50回以上は行動しただろうか。延々と、空が茜色になるまでそれを繰り返したところで。俺は二人のステータスを確認し、キャラレベル5、弓使いレベル4、取得JP900超えになっていることを確認してからーー俺はようやく、ゴブリンにトドメを刺した。

 そのまま。くたびれ果てた俺たちは早々に野営の準備を始めーー今に至る、というわけだ。

 俺はティータの質問に、やり込み知識を思い出しながら答えた。

 

「……弓使いとしての経験稼ぎはもう終わった。育成のロードマップから考えると、以後は敵を回復する必要など、たまにしかない」

「たまにはあるんですか……」

「安心しろ。今後必要となる回復は、ほとんど味方に対するものだけとなるだろう」

.「まあそっちの方が普通なんですが……。そもそも、どんな攻撃を受けることを想定しているんですか?」

 

 俺は頭の中で計算した。俺のBRAVEが34で、ティータのBRAVEが32だから……。

 

「一戦闘でーーまあだいたい、最低でも。投石を150発はくらう、と考えておいてくれ」

「ひゃ、150発!? 人間が投げつけられていい石の限界量超えてませんそれ!? 何ですか宗教裁判ですか!?」

「だから回復が要るんだよ。あ、くれぐれも避けるなよ?」

「避けなきゃ死ぬわそんな大量の投石! だいたいそんな大量の石、一体誰が投げてくるんですか!?」

「いや、俺がお前に投げるんだけど」

「まさかの敵は師匠!?」

「お前も俺に投げるんだよ?150発」

「わたしの肩壊れちゃいますよ!?」

 

 次の修行はそれかー、みたいな顔で溜息をつくティータ。

 いや、厳密には修行はもう終わってるんだけど。

 あとは最強に至る手順をどれだけ最短化できるか。その追求だけなんだよな。

 ティータは焚き火に照らされた呆れ顔で、根本的な質問を投げてくる。

 

「そもそも。最強をめざす修行がなんで、初手で弓使いなんですか……」

「ーーいい質問だ」

 

 俺は枯れ木を焚き火に放り込み、大きくなった火を前に立ち上がる。

 

「ティータ。戦いにおいて最も『強い』とはーー具体的に、何のステータスが高いことだと思う?」

「え。そりゃまあ……攻撃力が高い、とか」

「違うな。最も『強い』とは、最も速い者のことなんだ。

 行動速度、攻撃速度。それらは多少のステータスの差など、簡単にひっくり返してしまう。

 たとえばーー敵が一回行動する間に、十回行動できる戦士がいたとしたら。そいつはもう、無敵だろう?」

「え〜ー……。でも現実的に言って、そんなに素早さに差がつく事って、ないじゃないですか」

「そうできる手段があるとしたらーーどうする?」

 

 ティータは少し固まった。

 この人ホントに大丈夫かな、みたいな視線を向けてくる。

 

「いやホントにあるんだよ。相手が一回行動する間にこっちが十回とか行動する方法」

「なんですかそれヤバいお薬キメるとかですか……?」

「違えよ。あー……」

 

 当然といえばそうなのだが、ティータ達には自分のステータス画面なんて見えたりはしないらしい。

 俺はアビリティをどう説明したものか。少し逡巡した。

 

「あー、ーー熟練の弓使いの、極意にだな。

 『自分に向けられた攻撃がゆっくり見える』というのがあるんだが」

「はあ」

「これって別に、本当に敵の攻撃が遅くなってるわけじゃなくてさ。

 逆に、自分の反応速度や、動きそのものが速くなっているんだよ」

「あー。鍛冶場の馬鹿力、みたいな」

「なんでそいつ鍛冶屋で覚醒してんだよ。

 まあとにかくそれだ。身体が緊急時を自覚すると、平時をはるかに超越した能力を発揮できる。

 もちろん意図的に起こせる現象じゃないし、それに緊張が解ければ元に戻ってしまう。

 しかし、熟練の弓兵の中にはーー戦いのさなかに意図してその覚醒を重ね、人の限界を超えた反応速度と、それに追従し得る高速機動を実現する者もいる」

 

 と、そこでティータは何かに気づいたようだった。

 

「あ。ひょっとして。さっきの投石150発くらう、ってまさか……それの為ですか!?」

「さすがだな弟子。

 ーー君のような察しのいい家畜は嫌いじゃないよ」

「誰が家畜ですか。

 だいたい、何でそこまでして速度限界超えるんですか。

 色んな意味で、もう人間やめてるじゃないですかそれ」

「が、必要な熟練なら昼の死闘で俺たちも既に経験した。

 ティーターーいまからお前に、その覚醒を会得させる」

「え!? 今朝経験したばかりの、不思議技伝授みたいのをまたやるんですか!?

 ちょっと待ってくださいまだ心の準備がッ!?」

 

 待たない。

 俺は編成画面を開き、ティータの弓使いジョブアビリティ取得画面を開いた。

 speedセーブ:900

 多額のJPを必要とするそれをためらいなく習得し、そしてリアクションアビリティの空欄にセットする。

 もう弓使いである必要もないし、転職もさせとくか、アイテム士にジョブチェンジさせる。もちろんレベル1だ。

 サブジョブが空欄になったから基本技を入れて、と。

 ティータのコマンドアビリティはこう変化した。

 

:アイテム

:基本技

:speedセーブ

:取得JPup

 

 その後俺のステータスもいじり、ティータと全く同じコマンドアビリティをセットした。

 本来なら、長い経験と悟りとかが習得に必要な技術なんだろうけど。経験さえ足りていれば、俺は自分にも仲間にも強制的に覚えさせることができる。

 だいぶ埋まってきたな。空白はあと一つだけだ。

 それよりも。

 

「……どうだティータ? お前にはもう使えるはずだ。

 戦闘時覚醒への鍵を、感じるか?

 それがーーサダルファス流、最終奥義。

 "speedセーブ"だ……!」

「くッーー感じる……! これが……最終、奥義なの……!

 え!?最終奥義!?もう最終奥義!?」

「ああ……!おめでとう、ティータ……!」

 

 俺は立ち上がり、拍手した。

 

「これにてサダルファス流、免許皆伝だ……!

 もうお前に教えることはない……!」

「早えーよ!まだ1日しか修行してないでしょうがッ!」

 

 と言われても。スキル的にはもうほぼ、これで完成形なのである。

 あとはどれだけ死角を減らしてゆくか、くらいしか努力の余地がない。

 2人居ないと成立しないが、本質的にはすでにーー最強なのである。

 

「それにまだ育成は続くんでしょう!?

 いつの間にかアイテム士になってるし!」

「ああーーここからはまず、覚醒のためにくらう投石の量を、減らしてゆくための育成となるな」

「おっ。それ、達人っぽくていいですねー。

 たった一発の石が頬をかすめただけで。身体全体に高速戦闘のギアが入る、とか」

「いやーーくらう石の数が、150発から50発まで減るだけだが」

「十分多いわ!」

 

 ふとーーそこでティータは、焚き火に向かってしゅっしゅっと拳を振るい、なんかシャドウボクシングのようなことを始めた。

 

「……とはいえ。わたしも晴れて免許皆伝、ついに戦闘準備完了ですね!

 じゃあこれからはーー次から次へ襲いくる骸旅団を。

 私と師匠の二人で、ばったばったとなぎ倒していくんですね!」

 

 実に楽しげなティータに、俺は不思議そうな顔を向けた。

 

「いや。次は、骸旅団にーー捕まりに行くんだけど?」

「なんでだよ!!!」

 

 

 

 

 

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