アルガス転生 〜家畜に神はいない(俺以外)〜   作:葛葉狐

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詰みポイント6:貴族は全員謝罪しない

 

 ようやく縄より解放された手首をぶらぶらさせる、俺の眼前では。

 篠つく雨を弾くフードの、内深く。

 その華奢な美貌を包んだ、非常によく似た二人の女がーー白樫の杖を構えてこちらを見ている。

 こいつらこそが……通称。

 "貴族全員謝罪要求白魔"である。

 

「通称にしても長すぎませんか……?」

 

 ティータの指摘はもっともだが。

 名前というものにはすべからく理由があるのである。

 一章シナリオ中盤。この砦を預かるミルウーダは、本隊との連絡が途絶えたことに落胆し、つい部下の前で弱気な発言を行ってしまう。

 その際ーー「貴族全員が私達に謝罪するまでこの戦いは続くんですッ!」といきなり非現実的な熱量をぶちまけてくるのが、この白魔道士ふたりなのである。

 回復役の白魔道士にもかかわらず貴族へやたら強火なのと、女の子女の子した顔グラに似合わぬ過激主張っぷりが、多くのプレイヤーの琴線に触れ、必ず仲間にしたりあるいは極めて残虐にトドメを刺したり陰陽術のツタでいたぶったり戦闘不能時絶叫を何度も聞いたりと、その愛され方は実にさまざまである。プレイヤーの性癖博覧会かよ。

 そんな、貴族全員謝罪要求白魔(長い)であるのだがーー

 しょせん回復役の白魔道士と軽んじて、"ぐへへ。おうおう気が強いねぇお嬢ちゃんたちぃ?"と下卑た笑いと共に近づくバカがいようものなら……実は。

 とんでもない罠が待っているのである。

 なにしろこいつらは、本当にこのマップ1番のーー

 

「ぐへへ。おうおう気が強いねぇお嬢ちゃんたちぃ?」

 

 そのバカがいた。

 

「師匠!こんな白魔なんて一発!一発ですよねぇ?」

 

 俺の弟子だった。

 

「バカお前ティータ、油断するなッ! そいつらはーー」

『●サンダー』

「あばばばばばッ!?!」

 

 豪雷一閃。

 ティータの骨格が透けて見え、そして稲光が収まるとアフロ黒人になっていた。全身から煙を上げている。

 

「……師匠!何ですかこいつら!めちゃくちゃ魔法ダメージデカいんですけどッ!?」

「まあお前のFAITHが68と高いせいでもあるけどーー

 それは"荒天サンダー"だ」

「"荒天サンダー"? それどんな技ですか?」

 

 この2マップ前の、ドーターのスラム街で初経験するプレイヤーも多少はいるだろうが。

 大抵のプレイヤーは、このーー貴族全員謝罪要求白魔によって、その威力を身をもって教育される。

 

「いや技でもなんでもないんだが。

 単純に、悪天候下でサンダーの魔法使うとダメージが上がるってだけだ。

 ただ、会話シーンでも目立ってた上に、初期配置的にも回復役が前衛に混ざって出てきたように見えるから。先に回復役から片付けよう、と考えて真っ先に近づくと……」

「ーーサブアビリティの黒魔法が飛んできて、しかも悪天候下でどでかいダメージ食らわされるってわけですか。えげつない初見殺しですね……」

「まあ敵の見た目でわかるメインジョブだけでなく、ちゃんと敵のステータス開いてサブアビリティまで確認しろや、っていう松野なりの教育なんだろうけどな」

「だから松野って誰ですか」

 

 顎の煤汚れを拭って、ティータはぺろりと唇を舐めた。

 

「……ですが今の一撃で掴みました。

 師匠ーー例の、最終奥義。いけそうです」

「おお……三分の一引けたか」

 

 ティータはspeedが1上がったらしい。

 まあその代償としてもう死にかけだが。代償デカすぎる。

 その時、俺たちの会話をずっと聞いていた貴族全員謝罪要求白魔のひとりがーーようやく口を開いた。

 

「……最終奥義、ねえ。

 あなた達はーー何かの流派の、修行者なの?

 戦いの前の礼儀よ。名乗りなさい」

 

 俺が返事に迷ううちに。傍らのティータが一歩踏み出し、力強く宣言した。

 

「サダルファス流、免許皆伝ッ! ティータ・ハイラル!」

 

 ノリノリじゃねえか。

 俺は仕方なく、その後に続ける。

 

「サダルファス流伝承者ーーアルガス・サダルファス」

 

 俺達の間を、雨混じりの風が吹き過ぎてゆく。

 

「ーーふうん……。

 聞いたことのない流派ね……?」

 

 まあ俺がでっち上げた架空の流派だからな。

 

「……無手。

 装備からすると、拳術の流派かしら……?」

 

 貴族全員謝罪要求白魔は俺たちの装備を、油断なく観察している。

 今の俺たちの装備は、弓使い一式から、弓と盾を外したものである。

 素手だからモンクに見えるかも知れない。

 

「察するにーー高レベルの拳術使いね。

 あなた達、ジョブとレベルは? 答えなさい」

「「アイテム士レベル1です」」

「ふざけないでッ!!」

 

 怒られた。いやホントなんだが。

 装備可能なナイフとか持ってないから素手なだけなんだが。

 

「真面目に答える気はないということね……!

 いいわ。隠そうとするその実力、白日の元に曝け出してあげる……!

 『最終奥義』とやらーー使ってみせなさいッ!」

「「え!?いいんですか!?」」

 

 俺らの返答に、貴族全員謝罪要求白魔は少しとまどった。

 まるで、就職面接者からイオナズンを本当に使っていいのか訊かれた面接官のようだ。

 

「いいも何も……さっきミルウーダ様から、実力を示すように言われたでしょう?」

「いや準備とか結構かかるんで……」

「準備って何よ。そのくらい待ってあげるわ」

「あ、協力してくれるんですか。じゃあまずーー石が300個転がってる場所ありますかね?」

「石が300個って、めちゃめちゃ具体的ね……?

 なら後ろの浜を使うといいわ」

「あ、やっぱり。じゃあ移動しますね」

 

 俺たちは背後の小浜へ移動した。俺たちがここまで運ばれてきたような、幾艘かの小舟が引き上げられている。砂浜の目は荒い。

 もとは船小屋だったらしい砦の一番高台へと登り、ミルウーダは腕組みをし、浜へと移動する俺ら四人を見ている。その周りには思い思いにシーフたちが腰掛け、この突然の見せ物を見物している。

 砂浜に足跡を残し、俺たち四人は対峙した。

 すぐ隣にティータが立つが、俺は目くばせをし、十歩ほど遠ざからせる。

 これはどちらかを標的としたサンダーの効果範囲に、お互い入らないためである。

 

「もう準備はいいかしら?……じゃあ、始める?」

「あ。すみませんまだです。これから、俺たち二人が石を150発ずつ投げます」

「ーー150発!?」

「すいませんね。そんなにお待たせしないと思うんで……」

「ウソつきなさい150発って投げ切るのに結構かかるわよ!?」

「あー、そうでもないというか……いやホントすぐ終わるんで」

「ーーちょっと待ちなさい」

 

 今まで黙っていた方の、貴族全員謝罪要求白魔が……ここへきて初めて口を開いた。

 

「ーーそんな投石で。私たちを倒せると。本気で思っているの……?」

「あ、違います。そもそもこの石は、そちらに投げるものじゃないんで」

「……???」

 

 俺は手頃な石をひとつ拾いながら答えた。一方、貴族全員謝罪要求白魔は疑問符を顔いっぱいに浮かべている。

 

「あっ」

 

 ポーションを浴びるように飲み、先のサンダーのダメージを全快させるティータの横で。

 俺はここまで待ってくれたお礼として、ひとつだけ忠告してあげる事にした。

 

「あのーー俺たちの準備が終わるのを、別に待たなくてもいいんで。

 好きな時に仕掛けてきてくれて、全然いいですよーー?」

 

 唖然とする対手二人に、俺とティータは一礼する。決闘の礼儀だ。

 そして次に。俺とティータは互いに向かいあい、一礼する。こっちはーーあらかじめしておく謝罪みたいなものだ。

 

「では。ーー遠慮なく」

「はい。師匠。ーー手加減なしで」

 

 礼を終えた俺とティータは即座に、手に握る石を振りかぶりーーそしてお互いを目掛け、全力投球する。

 お互いの顔面へ石がめり込む。上体がブレる。ダメージに奇声が漏れる。

 

「「ぐえっ」」

 

 わははははは。響いた笑い声は、高台から見物するシーフたちのものだ。

 突然奇行をはじめた俺らに。シーフたちはよい見せ物と、久しくなかった笑顔を浮かべている。

 一方、ミルウーダは呆気に取られながらもーーその唇に笑いはない。

 

「ちょ、ちょっとあなた達……!」

「一体、何やってるの……!?」

 

 白魔道士の本性が出たか。ちょっと心配そうな様子までのぞかせ、貴族全員謝罪白魔ふたりは俺たちに困惑の声を放つ。

 だが俺たちは止まらない。すぐさま足元の石を拾い、お互いに向かって投げ放つ。

 

「ごふっ」「げはっ」「ぐふっ」「がはっ」「グッ」「ガッ」

 

 わははははは。シーフ達の笑い声をBGMに、それを唖然と見守るしかないふたりだがーー流石に相対している相手だけに、気付くのは早かった。

 

「待って。投石のスピードが、どんどん上がっていっている……!?」

「それだけじゃないわ!投石、薬の使用、行動の速度そのものが上がり続けている!」

 

 気づいたか。ポーションを使いながら、俺はちらりと相手を見た。

 俺たちのBRAVEの数値的に、投石を3発くらえばspeedは1上がる。

 speedが上がれば上がるほど投石の速度も上がる。間にポーションで回復を挟みつつ、speedMAX値50の終着点はすぐそこまで近づいている。

 他方。敵もさすがに歴戦の骸旅団ーー判断が早かった。もう黒魔法の詠唱に入っている。

 俺たちはそれに気づくと投石をやめ、すぐさまポーションを連続使用し、投石の傷を全快させる。

 

「ここで止めないとどんどん速くなるわ……!」

「そうね!今のうちに仕留めるわよ……!」

「「●サンダー!!」」

 

 対の弧を描く閃光。

 荒天より降り注ぐ太い雷柱が、俺たちの体を撃ち貫く。

 

「もう一発……!」

「これでトドメよ……!」

「「●サンダー!!」」

 

 再び稲光。

 またも降り注いだ雷光が俺たちの全身を撃つが、……俺たちが倒れることはない。

 

「ばかな!? 二発くらって耐えられるダメージじゃなかったはずよ!?」

「見て!もう傷が回復していってる!一発目をくらわした後にも、しっかり回復されていたのよ!」

 

 そう。サンダーの詠唱時間中に高速でポーションを連続使用し、傷を全快させただけである。

 

「だったら……!」

「二人同時に、お見舞いすれば……!」

 

 息を合わせて詠唱をはじめた二人にーー俺は素早く、ティータとアイコンタクトを交わす。

 ティータはポーションで傷を全快させ。

 俺はそのティータへ猛然と。石の雨を降らせる。

 負傷と回復を繰り返すティータへ、ほとんど間をおかずーー二筋の稲光が走った。

 

「●サンダー!」

「●サンダー!」

「「ハアハア……これでどう!?」」

 

 ふたりの見つめる先には。

 降りかかる雨を蒸発させ、全身から煙をあげるティータの姿。

 だがその矮躯はーー倒れない。

 

「なぜ……!?」

「どうして……!?」

「今度こそ、耐えられるダメージじゃなかったはずよ……!?」

 

 己らに示せる最高のパフォーマンスでの連携攻撃でも倒れなかった少女に、ふたりは動揺を隠せない。

 俺は投石を続けながらほくそ笑む。

 タネは簡単だ。

 ふたりの同時荒天サンダーは、厳密には同時じゃなかった。

 双方の攻撃が着弾するまでには若干の間があった。

 これは運が俺たちに味方したというよりはーー単純に、speedが高くないと完全な同時行動はできないってだけである。

 あとは簡単だ。ふたりの魔法の発動の間にティータの行動順がねじ込まれるように、俺は石を投げ続け、ティータは回復したり待機したりすればいいのだ。

 そうしてティータは二発のサンダーをくらう間に回復行動を二回も挟み、連携攻撃を乗り切った。

 まあタイミングが合わなくても俺が突っ込んで回復するつもりだった。抜かりはない。

 

「もうMPが……!」

「ここからは肉弾戦ね!」

 

 ふたりはとうとうMPが尽きたらしい。攻撃力大幅ダウン。魔術師の欠点である。

 

「でも私達にも自動ポーションの心得がある!」

「回復役が自分の回復にMP使うわけにはいかないものね!」

 

 お。と思ってふたりのステータス画面を開くと、きっちりオートポーションがセットされていた。

 なるほど。魔力が尽きても肉弾戦でいく根性は、その言動にふさわしい。

 ふたりは優越感に満ちた眼差しで、俺たちの丸腰をながめやる。

 

「どれだけ相手の動きが素早くたって関係ない!」

「素手のアイテム士に殴られたって全然痛くないわ!」

「しかも攻撃を受けるごとに、こちらは自動で回復する!」

「どっちのポーションが先に尽きるか、見ものね!」

「「さあーー続けましょう!」」

 

 おお。なるほどね。考えてるなあ。

 speedMAXの敵を相手にまだ心が折れない。

 しかもこの状況でまだ勝機を見出す。継戦能力ホント高いなあ。

 確かに。システム的に敵側のアイテム数は上限数ないわけだから。このまま素手で肉弾戦に突入するなら、残りポーションの少ない俺たちが負けるだろう。

 まあでもやりようはあるんだな。

 

「……ティータ!」「はいっ!」

 

 ついに俺とティータのspeedがMAXの50に達した。 

 石を拾うのをやめ、俺はティータへ合図を出す。

 

 ギュギュギュギュギュギュギュギュギュギュギュギュギュギュ

 

「何ッ!?」「何をしているのッ!?」

 

 この音は。俺とティータが高速で「ためる」を連続使用しているだけである。

 「ためる」一回につき物理ATが1上がってゆく。

 ちなみに「ためる」は俺もティータもはじめから習得済みだった。

 やっぱねー。ラムザやアルマみたいな御曹司お嬢様とは違ってねー。

 俺ら「持たざる者」はねー。普通に生きているだけで、色々と我慢を強要されるんですよねー。

 「ためる」機会多いんすわー。そりゃここまでの人生で、とっくに習得済みですよ、ってねー。

 

「「……!」」

 

 俺とティータの物理ATが99に達した。

 俺とティータはひとつ頷き合うと。お互い目の前にいる、貴族全員謝罪要求白魔に向かって深く踏み込みーー

 腰の入った、正拳突きをぶち込んだ。

 

 ドゴス(999ダメージ)

 

 そんな音とともに肝臓を深々と打ち抜かれたふたりは、高々と宙を舞いーー砂浜を二転、三転すると砂山に突っ込んで止まった。

 砂まみれのまま……動かない。

 

「「「「…………」」」」

 

 ただ一撃による終景に。誰も言葉を発する者はいなかった。

 サダルファス流、最終奥義。

 堂々のーー決着である。

 

「まーーちょっとは骨が、ありましたかねぇ?」

 

 親指の腹で唇を拭うと、ティータはさわやかに笑った。

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