【本編完結】時間の悪魔はデンジとレゼを幸せにしたい 作:もく
デンジとパワーは病院に連れていかれた
今日は一度解散となり、現場に残ったのはヒカリとクロだけだった
無機質な空気の中で、クロが軽く肩をすくめるようにして口を開く
「無制限だったんだからもっと自由にやりゃよかったのによ、なんかもったいなくね?」
それに対してヒカリはどこか満足げに、しかし落ち着いた声で返した
「僕はあれでよかったと思ってるよ。自由に操作できる感覚は楽しかったけどこれからは寿命は大切にしないといけないからね」
クロは小さく頷きながら視線を落とし、足元に転がるそれを顎で示す
「だな。あとは…
ヒカリは興味深そうにそれを見つめる
「そうそう、それ何に使うの?」
クロは少しだけ楽しそうに口角を上げる
「悪魔の肉片の仕組みって知ってるか?お前らは悪魔の肉片食ったら悪魔が強化されるって思ってるかもしれねえが、それは上位の悪魔、悪魔そのものを恐れさせるレベルのやつの肉片じゃないと強化はされねえんだ」
ヒカリはすぐに理解したように頷いた
「だから銃の悪魔の肉片を取り込んだのは強いんだね」
「あぁ、でも例外はある」
「能力に関連があればそいつの肉片を取り込めばその関連がある能力が強化される、もうわかっただろ?」
ヒカリは少し考えてから答えた
「じゃあクロがこれを取り込めばループが強化されるってことね」
「あぁ」
「ループの力は寿命消費が抑えられて繊細な操作ができるようになる。そっからどうするかはお前が決めればいい、俺だったらここでループの起点を立てて上手くいくまで繰り返すな」
ヒカリは一瞬言葉を詰まらせる
「…いや…なんでもない。使うなら姫野のときまでだね、マキマは寿命消費的に1発勝負だからね」
クロは短く息を吐いた
「なるほどな。…やっぱまずいなこれ」
その後、二人はお口直しにアイスを買い、自室へと戻った
部屋の中でクロが壁にもたれながら言う
「あいつの対策は俺も進めとく、俺だって力を貸すだけじゃモヤモヤするからな」
「うん、よろしくね」
クロが外へ出ていったあと、静まり返った部屋に電話の着信音が響く
ヒカリは少しだるそうにそれを取った
「なんだよー」
姫野の明るい声が受話器越しに飛び込んでくる
『新人歓迎会やるよー!いやー実は荒井君とコベニちゃんがやめようとしちゃっててさ、一緒に飲めば2人を引き留められるっしょ?マキマさんも呼ぶから今週中がいいんだけどどう?』
ヒカリは一瞬間を置き、心の中で(ゲロキスは見たくないけどなぁ…)とぼやきながら答えた
「いいよ、クロも呼んどく、もうじき20だしお酒飲んでいい?」
するとすぐにアキの声が割り込んだ
『お前まだ18だろ…これでも公安の人間なんだ、2年くらい我慢しろ』
「ちぇーっ!」
——数日後、居酒屋。
賑やかな空間の中で、全員の声が重なった
「「「「かんぱーい!」」」」
グラスの音が鳴り響く中、アキがぽつりと言う
「飲むの半年ぶりです」
それに続く声
「私も家で少し飲むくらいですね」
ヒカリは楽しそうに笑いながら言った
「僕飲むのはじめてー」
「「飲むな!」」
「チッ」
コベニは遅刻していたが、合流するとすぐに食べ始めた
デンジも同様に、他人の金で食う飯の美味さを全身で味わっている
クロが呆れたように呟く
「にしても仮に能力で年齢調整してもヒカリは酒飲めないなんて法律ってめんどいな」
アキは即座に返す
「これでもこいつは公安の人間なんだ、そんなのがルールに従わなくてどうするんだ」
するとクロとヒカリが同時に抗議した
「「ケチだ、同期のくせに保護者面すんな」」
アキはため息混じりに言う
「なんとでも言え、飲めるようになったら一緒に飲んでやるよ。ほらオレンジジュース」
ヒカリは軽く手を振った
「僕まだ残ってるしいいや。天くん飲む?」
「ありがと」
結局それは天使の悪魔が受け取ることになった
任務外では手袋をしている彼は、触れても寿命を奪わないようにしている
見た目に反して大食いで、ヒカリがクロを誘った際に自らついてきたのだった
しばらくして、デンジがそわそわしながら口を開く
「あの…キスの件は…」
姫野はすでに酔い気味で、だらけた声で答える
「んんあ〜?シラフじゃ恥ずかしいからさ〜もっと酔ったらしたげる」
デンジは満面の笑みを浮かべるが、突然先輩に絡まれた
「新人歓迎会なんだから新人は立って自己紹介!名前と契約してる悪魔言え!」
アキがすぐに制止する
「公共の場で契約している悪魔を言うな。手の内は信用した人間にしかみせちゃいけないぞ」
デンジは気にせず立ち上がった
「それくらいいいだろ早パ〜イ、俺はフクザツだから言わねえけど〜。俺デンジ〜歳は確か16!趣味は…食うのと寝るの」
場がざわつく
「16!?ヤバっ!若っ!…でもヒカリ君は入った時15だったからちょっと薄いかも」
「うぇ!?マジかよヒカリ!」
ヒカリは軽く笑って答えた
「実は1年だけ年上だけど3年先輩なんだよねー改めて仲良くしようね!」
その後も自己紹介は続き、やがて別の先輩が口を挟む
「デンジだったか、姫野は酔えばキス魔になるんだ。ここにいる新人とヒカリ、クロ、天使の悪魔以外は全員キスされてるよ、あいつら以外逃げられねえからな」
デンジは顔を赤くしながら心の中で(確定キスじゃん!)と興奮していた
「今日…俺…ファーストキスしちゃうんだ…!」
その言葉に、マキマが静かに反応した
「キス?」
「え!?」
「げっ…」
デンジが固まり、クロが小さくと漏らす
マキマは微笑みながら続ける
「デンジ君誰かとキスするの?」
「しません!」
「え〜!デンジ君キスしないのおお!?」
「しまァす!」
その様子を見てヒカリは満足そうに微笑んだ
やがて酒は進み、ヒカリはクロに心の中で語りかける
(クロ、知ってるでしょ?ゲロチュー見る前に帰ろ、次の話が終わったあたりでさ)
(いや、少しやりたいことがある。先に帰ってもいいせ)
(天くんが寝ちゃうと思うからやっぱ残るよ)
場の空気はさらに緩み、ヒカリが呟く
「みんな飲みすぎでしょ…あ、てかパワーって凄いよね殺人衝動を抑えられる魔人は少ないんだよ」
パワーは胸を張る
「ワシはIQが高いからのお!100あるぞ!」
「IQでそういうの決まるの?…100って高いの?私も確か100くらいだったけど…」
ヒカリが笑う
「伏さんは高いんだよねー」
「134でした」
「わざわざ覚えてるあたり自慢に思ってそー!」
「…」
クロが内心で呟いた
(嬉しそうだな、言いたかったか?)
(言いたかった!)
パワーはさらに適当な数字を口にする
「ワシは確か500じゃったか…?1000…?」
その瞬間、姫野が勢いよく起き上がりデンジに迫る
だがクロが素早くデンジをどかし、姫野の口元に袋を当てた
「な、何すんだよクr「オエエエエ」なっ!」
「危なかったな、お前口に入ったら何でも飲み込むんだろ?ゲロ食わされるとこだったな」
デンジは青ざめながらも感謝する
「サ、サンキュ…俺のファーストキス…」
マキマが穏やかに言った
「危なかったね」
「はぁい!」
ヒカリはクロに語り掛けた
(止めちゃったの?それはそれでつまんなくない?)
(最初のキスがゲロはさすがにダメだろ、あいつのファーストキスは舌やられるのがいいんだよ。一生心に残るモンだろ?)
(やっぱり悪魔じゃん)
みんな酔ってしまったのでマキマが締めた
「早川家は私が送って行くよ、ヒカリ君は寝ちゃった天使君を部屋までお願い」
「はーい」
こうしてゲロキスはクロによって回避され、その日は解散となった
「直接触れないように気を付けろよ」
「わかってるよ、天くんって結構軽いんだね」
「食ってる量と合わないよな、まあ悪魔だし」
ヒカリは少し黙り込む
「…」
クロはそれを察して口を開いた
「…姫野のこと考えてたか?心配すんなよ、相手はお前の師匠の何倍も弱い武器人間だ。今回は確実に全部上手くいく」
ヒカリは何も言わず天使の悪魔を部屋まで送り、ベッドに寝かせた
「…そうだといいね。おやすみ天くん」
「んん…すぅ…すぅ…」
静かな寝息が部屋に広がる
襲撃は明日、ヒカリは自室に戻りゆっくりと目を閉じた
ゲロキス回避!つまりファーストキスはアレです
8話で書いた裏設定について
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知ってる ここには書かないで(他作品へ)
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知ってる 終盤に触れてほしい
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知らない