【本編完結】時間の悪魔はデンジとレゼを幸せにしたい 作:もく
side ヒカリ
「私と一緒にデビルハンターとして働くか、国に処分されるか、選んでね」
穏やかな声だった
でも選択肢なんて最初から一つしかない
なるほど――
監視と制御、おそらくその両方
こちらとしても都合は悪くない
姫野先輩を助けるなら部外者として突然介入するよりも、同僚としてそこにいる方が自然だ
「お世話になります。よろしくお願いします」
出来るだけ柔らかく笑う
マキマは満足そうに目を細めた
「よかった。期待してるよ」
隣でクロが小さく舌打ちした気がした
……気のせいということにしておこう
⸻
公安本部
無機質な廊下を歩きながらマキマが振り返る
「キミたちには公安対魔特異4課で働いてもらうよ。ヒカリ君はまず戦えるようになってもらわないといけないからね。特異課からぴったりな人を呼んできた。クロ君には少し話があるから残ってね」
クロが露骨に嫌そうな声を漏らす
僕は軽く手を振った
「あとでね」
扉が閉まる
……さて
誰が来るんだろう
僕は一応、それなりに戦える。寿命を削れば大抵のことは出来るし、削らなくてもそこそこやれる自信はある
でもぴったりな人ってなんだろう
考える間もなく、長い廊下の向こうから足音が響いた
ゆっくりと、しかし迷いのない歩幅
現れたのは金髪のツーブロック、両耳の黒いピアス、左頬には縫い目がある男
その顔を見た瞬間、血の気が引く
「……嘘でしょ」
男は片眉を上げた
「ん? どうかしたか」
近づいてくる圧力が違う、空気が重い
「お前がマキマが言ってた子供だな。俺は特異1課のデビルハンター、岸辺だ。先生と呼ばれると気持ちよくなれるから先生と呼べ。契約した悪魔が悪魔なだけあって、相当厳しく指導しろと言われてる」
終わった
心の底からそう思った
デンジやパワーと違って、僕はただの人間だ
悪魔の力を借りられるとはいえ、基礎スペックは人間
その人間を、あの岸辺が鍛える?
「……よろしくお願いします、先生」
笑えない笑顔が引きつった
未来を見れるはずなのに自分の未来だけはあまり見たくなかった
⸻
side クロ
ヒカリが部屋を出た瞬間、空気がわずかに変わった
マキマがこちらを見る
「キミはヒカリ君の目に入らないで、ヒカリ君のバディとして働いてね」
「断る」
即答だった
「未来の悪魔と同じ扱いでいいだろう。ヒカリはちゃんと働く。俺は適当にアイスでも食って――」
「勝手に人の過去を見るのはやめてくれないかな」
静かな牽制
だが続く言葉の方が重要だった
「公安は人手不足なの。キミは未来の悪魔と違って戦闘能力がある。公安に所属して、ちゃんと働いて、
……なるほど
こいつの目的は支配じゃない
時間の悪魔という存在を最大限消耗させる
ヒカリに能力を使わせ、寿命を削らせ、いざ敵対しても力を出せない状態にする
俺は過大評価されている
だから今は支配できない
だが弱ればどうなる?
だからこそ、ヒカリと完全契約を結んだ
力も心も預けた
俺単体では支配できない形にしている
――それでも足りない
指を2度鳴らす
一度目で自分の身体の時間を一分間停止させる
これにより一分間は外傷無効だ
二度目で時間をループさせる
その時間はぴったり一分
巻き込んだのは俺とマキマだけ
油断していたとはいえ、支配の悪魔を巻き込む代償は重い
ヒカリの寿命が、五年ほど削れた
……悪いな
だが今削る方が、長い目で見れば安い
「この一分をループさせた。俺は長時間には慣れている、お前が頷くまで解除しないぞ」
マキマは表情を変えない
だが一瞬、空気が鋭くなった
マキマは銃の悪魔の力を使おうとしていた
「殺しても意味ないぞ。一分後には戻る」
「でも痛みはあるよ?」
「読んでる。身体の時間を止めてある」
沈黙
そして永遠に続くその一分
やがてマキマが小さく息を吐いた
「……本当に厄介だね」
条件は軽い契約でまとめさせた
ヒカリが敵対しない限り、手出しはしない
悪魔である以上契約は絶対だ
パチン
時間を戻す
「戻っていいよ。ヒカリ君は岸辺隊長っていうこの国で1番強い人が指導してくれてる。バディも決めておくね」
「お疲れ様でーす」
軽口を残して部屋を出る
廊下の向こうのヒカリの気配
これでいい
俺が目に入っていれば未来を覗く際に無駄に寿命を使う必要はない
デンジとレゼを幸せにするためならなんだってしてやる
そして部屋の中ではマキマが小さく呟いていた
「……嫌な子を拾っちゃったな」
その声は、わずかにだけ本音が混じっていた