【本編完結】時間の悪魔はデンジとレゼを幸せにしたい 作:もく
公安の地下訓練場へ向かう廊下はやけに静かだった
隣を歩く岸辺はタバコも吸わず、無言のまま前を向いている
やがて低い声が落ちた
「お前、いくつだ」
「15です」
「そんな年でデビルハンターか。マキマもとんでもないことさせるな」
小さく鼻で笑う
(まあ悪魔なんかそんなもんだよな)
言外にそんな気配が滲んでいた
訓練場に着くと、岸辺は振り返る
「お前に何ができるか、何ができないか全部言え。それ次第で指導を決める」
ヒカリは一瞬、目を細めた
その瞬間――
世界が白黒になる
ヒカリは時間を止めた
そして天井の隅を走っていた小さなネズミへ歩み寄る
ネズミの内部に仕込まれていた“視線”を迷いなく処理した
再び色が戻る
寿命消費はおよそ一時間
ヒカリは岸辺をまっすぐ見た
「あまり手札は見せたくないんですが……あなたもマキマを殺したい側らしいので。今、マキマが放ってたネズミは処理しました。なので全部話しますよ」
岸辺の目がわずかに細くなる
ヒカリは語る
時間の悪魔と契約したことで得た力
未来視、遠い未来ほど寿命消費が増える
自己時間の巻き戻しによる再生、停止による疑似無敵
過去にいた地点への移動、距離と時間に比例して寿命消費
周囲の時間減速・停止、ただし干渉可能なのは小動物や普通の人間程度で倍率や対象の強さで消費増大
静かな説明だった
岸辺は最後まで遮らずに聞いた
「目的が一緒なら話は早いな。マキマを殺す気なら、より厳しくやる。残り寿命は?」
「94年だ。特訓で無駄遣いさせんなよ?」
ちょうどその時、クロが人型をとって現れた
「マキマと交渉した。ちゃんと目に入っていいってよ。予知系の無駄な消費は抑えられる、あとバディも決めるらしい」
岸辺はクロを見る
「お前が時間の悪魔か。こいつを強くしなきゃマキマは殺せない。何年まで許容だ」
ヒカリは少し考える
「最低50年は残したいですね。余裕は多い方がいい。保険込みで」
その言葉を聞き、クロが即答する
「じゃあ使うのは20年までだ」
「わかった。寿命を使ったら申告しろ。調整してやる」
岸辺は一歩近づいた
「その前に質問だ」
ヒカリは察する
“頭のネジ”の話だ
ヒカリは100点の答えは知っている
だが、あえて自分の言葉で答えた
「仲間が死んだらどう思う」
「僕が仲間だと思った人間は殺させません。全員寿命で死ぬんで、一緒に働いてくれてありがとうって言うと思います」
クロは肩をすくめる
「死んだならそういう運命だっただけだ」
「自分の手が届かない場所で殺されたら復讐するか」
「しません。戻ってやり直せばいい」
「興味ないな」
「お前たちは人と悪魔、どっちの味方だ」
ヒカリは迷わない
「目的達成に協力してくれる側。少なくともマキマの敵です」
クロも同じ温度で答える
「付きたい方につく。ただ確実なのはマキマの敵ってことだ」
沈黙
そして岸辺は、ゆっくり笑った
「お前たち、100点だ。お前達みたいなのは初めてだ。素晴らしい……大好きだ」
ヒカリは素直に嬉しそうにしている
それを見てクロは若干引いていた
「特訓内容は単純だ。俺に一撃入れろ。能力使用自由。ただし停止は禁止。30分後に始める」
「はい、わかり――」
ゴキッ
音が響いた
ヒカリの首が不自然に折れる
クロが即座に指を鳴らした
パチン
ヒカリの足元に時計の紋様が浮かび、首が元に戻る
「……半年分」
クロが淡々と告げる
岸辺は頷く
「蘇生は重いか。それと、お前が今のを教えないあたり、ちゃんと悪魔だな」
「当たり前だ。それと傷は少なめにしろ。最強なら調整しろよ」
岸辺はヒカリを睨んだ
「獣が狩人の言葉を信用するな」
「予知頼りにならないように試した。反応は悪くない、及第点だ。お前はこいつの目に入ってサポートしろ」
「はいよ」
そしてクロがヒカリの目に入り、地獄の特訓が始まった
数日後
ヒカリは18回殺されていた
遅延、予知、再生
だが岸辺は毎回戦法を変える
パターンを作らない
今回も粘ったが、刀を折られ、首を折られた
「起こせ。刀も戻せ」
『これで合計15年だ』
クロが能力を発動、ヒカリが元に戻る
ヒカリは地面に転がりながら呟いた
「無理ゲーだろこれ……」
「動きは良くなってる。だが力を使い切れてない」
岸辺の目は冷静だ
「自分の武器と状況を常に把握しろ。俺を倒せないなら、敵は殺せないぞ」
その時、背後から気だるい声がした
「で、僕はいつまで見てればいいの?」
振り返ると赤髪のロングヘアの背に翼、頭上に輪がある悪魔がいた
マキマに命じられ、ヒカリのバディにされた天使の悪魔だった
「今日で終わらせるよ」
岸辺が笑う
「随分自信があるんだな」
「閃きました」
ヒカリが指を鳴らす
世界が白黒になる
止まった時間の中、それを認識し動けるのはヒカリと天使だけ
「ふーん、これが君の力か。で、何?」
「ナイフ二本くれない?」
「面倒だなあ……寿命は無限じゃないんだけど」
「アイスでも奢るよ」
天使は少し考え
「……じゃあ2年使用」
ナイフを生成した
そして時間が動き出す
ヒカリはナイフを投げ、岸辺に斬りかかった
体勢を崩させるが、甘い
蹴りが横腹に入る
「未来のラグを理解しろ。変えた瞬間、見えなくなるんだろ」
ヒカリは立ち上がる
そして指を二回鳴らした
一回目
ナイフの位置を巻き戻す
先ほどと同じ軌道で飛来した
岸辺が一瞬崩れた
ヒカリはそれを見て接近
刀で斬る――
だが岸辺は刀の側面を叩き折り、蹴る
ここまでは見えていた
ヒカリは蹴りを回避
未来が変わり、予知が消える
岸辺の右拳が迫る
「ここだ!」
カチッ
発動タイミングをずらしていた二度目の能力
自分の位置を巻き戻す、戻った場所は岸辺の背後
完全な死角
ヒカリの左拳が、岸辺の横腹を打った
鈍い音
静寂
岸辺が息を吐いた
「合格だ。タイマーでずらしたな。力の解釈が広げたか」
ヒカリは大きく息を吐く
「上手くいってよかったです」
「まあいい、次は週一で俺の教え子とやれ。気を抜くな」
そして岸辺は去っていった
クロが人型で現れる
「上手く解釈を広げたな。まあもっと早く思い付いたろって思うけど」
「知ってたなら教えてよ……」
「それじゃ意味がないだろ。強くならなきゃこっちだって困るんだよ」
天使が近づく
「ほんとに今日終わらせるとはね。約束のアイス忘れないでよ?」
ヒカリは笑った
「わかってるよ。みんなで食べよっか」
訓練場の重い空気の中で
ほんの少しだけ、日常の匂いが混じった