【本編完結】時間の悪魔はデンジとレゼを幸せにしたい 作:もく
今までよりわかりやすくなってると思いますのでそれについても感想で教えてくださったら嬉しいです
『先生とアキ君を呼び出してる。今から言う場所に向かって。私たちと君たち以外の時間は止めてね』
短く、迷いのない声だった
「わかった」
ヒカリはそう答えて歩き出す
ようやく――本当にようやく、差し伸べられた手を取ったのだ
時間が止まり、世界は白と黒に染まる
その光景を、俺たちは何度も何度も通ってきた
だが今回は違う
空気が張り詰め、胸の奥がざわつく
この先で何かが決定的に変わる
そんな予感が、はっきりとあった
「……なんで姫野は知ってたんだろ。勘じゃ済まないくらい、核心を突いてた」
『……あいつに直接聞けばいい』
それ以上、俺は何も言わなかった
今のヒカリには、答えを受け取る覚悟がもうある
指定された場所に辿り着くと、姫野が待っていた
「来たね。ここは先生の隠れ家。マキマさんに気づかれないように、時間が止まってからアキ君を連れてきた」
落ち着いた声
案内する姫野に、ヒカリが問いかける
「ねえ……どうして、僕が何かしようとしてるってわかったの?」
一瞬、言葉を選ぶ間があった
「……たぶん、ゴーストの力。幽霊は死に囚われるから、私が未来で死んだ分の記憶をゴーストが引き継いでる。襲撃のときに動けたのも、そのせいだと思う」
ヒカリは何も言わず、ただ聞いていた
「私ね、マキマさんとデンジ君の戦いに巻き込まれて死んだの。だから未来を知ってる……だから、君を助けたいって思った」
その言葉に、嘘はなかった
「来てくれて、ありがとう」
そう言って、姫野は扉を開く
中にいたのは、見慣れた2人だった
「来たか。聞かせてもらおうか、何を見た?」
低く、探るような声
ヒカリは一拍置いてから口を開いた
「その前に、確認させてください。アキは……いつ、マキマさんとどういう関係になったの?」
「俺か? マキマさんは命の恩人だ、助けてもらった。でもなんで今そんなことを……」
「いつ? どこで?」
「……わからねえ」
ヒカリは小さく息を吐いた。
「そう、わからない。――それが答えだよ。君は、マキマに支配されている」
空気が、一瞬で凍りついた。
「支配?」
岸辺が反応するが姫野は動じなかった
前の世界で、すでに知っていたんだろう、煙草をくわえたまま静かに成り行きを見ている
「好意も尊敬も、全部作られた記憶だよ。本物じゃない」
「ふざけるな……そんなの、あるわけ――」
「クロ、止めて」
短い指示、俺は即座に動いた
――ここからが、本当に重要だ。
「正しい記憶に、戻してあげて」
ヒカリの言葉に従い、俺はアキの中へ踏み込む
空白を埋めるたび、何かが軋む
鎖が切れるような感覚
――支配は外れた
「……俺は……悪魔に、利用されてたのか」
「そう。でも、取り乱さなくて助かった」
「……納得はいった。今までの違和感が、全部繋がった」
「それじゃ、始めるよ」
ヒカリの声は落ち着いていた
岸辺が腕を組んだまま口を開く
「つまり、マキマは支配の悪魔ってとこか。随分とでかいのが公安なんかに潜伏してたもんだ」
たしか岸辺はマキマが悪魔であることには気付いていたな
驚きはあっても、判断が早い
「そう。何を見たか、だったね。僕が見た未来を共有するよ」
ヒカリがテレビに触れると、画面が切り替わる
映し出されたのは、レゼが二道へ向かう場面だった
「へぇ……」
姫野が小さく声を漏らす
「これは……昨日のやつか?」
アキの声が硬い
「……モルモットか。どうしてデンジのとこに向かっている、普通は逃げるだろ」
岸辺の指摘は的確だった
任務を失敗したレゼが取る行動としては、明らかに不自然だ
「そう、彼女は本当は逃げるつもりだった。でも、デンジと出会って変わっていった」
ヒカリは淡々と続ける
「不自然なところが多かったでしょ。あんなに近くにいたのに、デンジを一週間も泳がせた」
「普通のモルモットだったら、ありえないな」
「ねえ、そもそもモルモットってなに?」
姫野の問いに、岸辺が答える
「ソ連のおとぎ話の1つだ。孤児を弾薬庫の部屋に詰めて、死ぬまで実験に使う。国のために働かされる子供たちのことを、そう呼ぶ」
「つまり……」
その先をアキは言えなかった
信じたくなかった
「……そう、その部屋は実在したんだ。クロ、お前が契約していた男が見つけたんだったな」
『……悪い。その話はやめてくれ』
思わず声が低くなる
「……悪かった」
岸辺は、それ以上踏み込まなかった
「デンジは、よくも悪くもレゼの全部を受け止められる存在だったんだ」
「つまり、その子は逃げなきゃいけない状況で、デンジ君と一緒にいることを選んだってこと?」
「そう。心の中までは全部見えないけど……間違いなく、デンジはレゼの心を変えた」
「それで?なぜ、お前はそこまであの女とデンジにこだわる」
岸辺がヒカリに問う
少し、間が空いた
「……デンジは、幸せになるべきなんです」
「なぜだ」
「16歳の子供が背負うには、大きすぎる傷を負います」
「それって……どんな……?」
姫野の声が、わずかに揺れた
「落ち着いて聞いて。来年、アキはマキマによって銃の魔人にされる。それをデンジが殺さなきゃいけなくなる」
アキの顔色が変わる
「そのあと、落ち込むデンジに追い打ちをかけるように……パワーを、マキマが殺す」
「……俺が、銃の魔人に……?」
『未来のやつが言ってたろ。チェンソーにとって、最悪の死に方だ』
アキは息を呑んだ
「……そのことだったのか」
「1度は未来で、デンジをレゼのもとに辿り着かせることはできた。でも……」
画面が切り替わる、黒いチェンソーマンが出現した場面だった
「……いつものデンジ君とは違うね。これは?」
姫野がヒカリを見る
「これが、チェンソーの悪魔の真の姿。デンジは契約を放棄したんだ」
「契約内容は、デンジの夢をポチタに……チェンソーの悪魔に見せることだった」
「夢? 随分と曖昧な契約だな……」
アキの指摘は正しい
悪魔との契約は、普通もっと単純だ
「マキマは、理由はわからないけどこのチェンソーの悪魔の力が欲しかった。だからアキやパワーを利用したんだ」
「だが、なぜそれが出てくる? アキはその世界では生きてるんだろ」
岸辺が割り込む
「先生は、人がいつ夢を見なくなると思いますか」
「……幸せな瞬間から、絶望の底に突き落とされた時だろうな」
「そう」
ヒカリは、次の場面を映した
レゼの心臓が抜かれ、武器人間たちが倒れている
「マキマは、デンジと一緒に逃げようとしたレゼを殺すために、万が一に備えて五人の武器人間を配置していた」
「そして、目の前でレゼを殺された瞬間、デンジは完全に絶望する」
「偶然にしても、目的は達成された。マキマはデンジと戦った」
「姫野、どこまで覚えてる?」
「武器人間が蘇生して、デンジ君と戦った。街は壊滅状態……ほとんど何も残らなかった」
「……これが、これから起こる未来。レゼを助けても、助けなくても、大勢が死ぬ」
沈黙が落ちた
誰も、すぐには言葉を選べなかった
しばらくして、ヒカリが口を開く
「変えたい未来がある。ここでマキマを殺せば、全部防げる。だから……お願い。力を貸して」
「よく言えました。頼ってくれてありがとう」
姫野の声は、優しかった
「わかった」
岸辺が短く頷く
「俺にも、やらせてくれ」
アキの目は、まっすぐヒカリを見ていた
誰かに頼ることを覚えたヒカリは一人で戦っていた頃より、ずっと強く見えた
そして、未来を変えるための準備は、確実に動き始めていた
8話で書いた裏設定について
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知ってる ここには書かないで(他作品へ)
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知ってる 終盤に触れてほしい
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知らない