【本編完結】時間の悪魔はデンジとレゼを幸せにしたい 作:もく
天使の悪魔は槍を投げた
考える暇はなかった
躊躇する時間も、選択する余地も与えられなかった
ただ、身体が動いた
そして放たれた槍は、契約に従って――
マキマの心臓を、正確に貫いた
次の瞬間、ヒカリは時間を止めた
世界が静止する中、彼はそのまま宙へと浮かび、屋上へ向かう
天使の悪魔は動けなかった
ヒカリから、行動の権限を与えられていなかったからだ
「……このための契約だったんだね」
天使が静かに言う
「いや、僕は何も指示してないよ」
ヒカリは首を振った
「僕もクロから聞いて驚いたんだ。命令を一つ、なんでも聞く……そんな契約をしてたなんてね」
『俺は見える未来に制限があったからな』
クロの声が響く
『今回のは、俺の読みの勝ちだ。ヒカリ、支配を外すぞ』
「うん。でも大丈夫」
ヒカリは天使を見た
「天くんの支配は、もう外れてる。マキマの能力による支配を、契約っていう“絶対的な支配”で上書きできた」
「……思い出したかな?君は、マキマに何をさせられてきた?」
ヒカリは天使に停止した世界で動く権限を与える
天使は少し俯いてから、ゆっくりと頷いた
「うん……全部、思い出した」
「僕はバカだった。僕によくしてくれたみんなを……僕の手で殺させたのに、あいつについていってたんだから」
ヒカリは間を置かずに言った
「マキマを殺したい。協力してくれる?」
「もちろんだよ」
天使は即答した
「本当はめんどくさいけど……僕は、みんなの仇を取らなきゃいけない」
「それで、僕は何をすればいい?」
「ありがとう」
ヒカリは短く礼を言ってから、説明を続ける
「マキマは、総理大臣との契約で、自分への攻撃を日本国民の病気や死に変換してる」
「さっきの一撃でも、完全には死んでない」
「じゃあ……どうすればいいの?」
「天くんの武器は、いろんな性質を付与できるよね。幽霊の悪魔すら斬れるって聞いた」
「うん。でも……」
天使は少し言い淀んだ
「僕は、あまり他人の寿命を使いたくないんだ。今そんなこと言ってる場合じゃないってのは、わかってるけど」
「大丈夫」
ヒカリは迷いなく言った
「みんなの寿命は使わない。僕の寿命を使う」
「……でも、それじゃ君は……」
「君の寿命吸収は、肉体寿命――時間に縛られた寿命に適応される」
「僕が普段言ってるのは、精神寿命。契約によって発生した、時間に縛られない寿命なんだ」
「つまり……?」
「僕の契約寿命を、肉体寿命に変換して君に吸わせる。何年分使おうが、作ってほしい武器がある」
「……それって、どんな……」
ヒカリは一歩踏み出した
「種類は何でもいい。欲しいのは――契約を無効化する効果だ」
天使の目が見開かれる
「それは……」
「できるの?できないの?」
ヒカリの目は、真っ直ぐだった
「……できるけど」
天使は苦しそうに言った
「そのためには、数万年単位の寿命が必要になる……」
「クロ、何年分用意できる?」
『停滞の野郎の力と、さっき食った銃野郎の肉片の分もある』
『戦闘中ってことを考えて……25年で、肉体寿命5万年分だ』
「……僕はいける、お願い」
ヒカリが言いかけた、その時
「勝手なこと言わないでよ!」
天使が声を荒げた
「僕だってマキマを殺したいし、君の全部を差し出してでも勝ちたい気持ちはわかる!」
「でも君は……」
天使の声が震える
「君は、僕のこの世界での……初めての友達なんだ!」
「君が望んだチェンソー君の幸せの先に、君がいないなんて……」
「そんなの、僕は嫌だ……!」
沈黙
そして、ヒカリの目を見て――天使は折れた
その目は完全に覚悟を決めていて絶対に折れない、そんな目だったからだ
「……4万年で作れる」
「僕も戦うから……無理はしないって、約束して」
「……わかった」
二人は並んで座り、寿命吸収のために手を繋ぐ
「人の手って……こんなに温かいんだね」
「うん」
「ヒカリは……」
天使は言いかけて、首を振った
「……なんでもない。終わったら聞くよ」
ヒカリは一瞬、驚いた
天使が自分の名前を呼んだのは、これが初めてだったからだ
「そう……わかった」
やがて、一本のナイフが完成する
天使の悪魔が選んだ、武器の中で最も寿命消費を抑えられる形
「君なら、刺せるよね」
「頼んだよ」
「うん」
ヒカリは過去に干渉し、避難指示を出させる
これにより時間が動き出した瞬間、周囲には誰もいなくなる
元の位置へ戻り――
再び、時間が動き出す
「どういうつもりかな、天使君」
再生したマキマが立っていた
ヒカリの手には、一本のナイフ
マキマは、目的を果たすために
ヒカリは、デンジとレゼを幸せにするために
天使は、ヒカリがその先で生きられるように
それぞれの決意を胸に、戦いは始まろうとしていた
前に進むことはやめない
今度こそ全てを守る
全ての君を背負って辿り着いてみせる
君たちが
目指した未来へ
8話で書いた裏設定について
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知ってる ここには書かないで(他作品へ)
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知ってる 終盤に触れてほしい
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知らない