【本編完結】時間の悪魔はデンジとレゼを幸せにしたい   作:もく 

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48話 最終決戦 1

ヒカリは、ナイフを構えた

 

細身の刃

一見すればただの短刀

だがこれは違う

 

マキマの“契約”を断ち切れる、唯一の刃

 

これを壊されたら——終わる

逃げ場も逆転もない

 

空気が重い

目の前に立つ女は微笑んでいるだけなのに、世界そのものの圧力みたいなものを纏っていた

 

遠くから爆発音が響く

瓦礫が崩れる音、衝撃波

今頃、武器人間たちと皆が戦っている

 

ヒカリは息を整えた

マキマが小さく首を傾げる

 

「へえ……君はデンジ君のためにアキ君や姫野ちゃんを巻き込んだんだ。酷いことするね」

 

声は穏やか

責めているようで責めていない

ヒカリは視線を逸らさなかった

 

「僕だって最初はそう思いましたよ」

 

「でも違う。この状況を選んだのは彼ら自身です。僕はちゃんと選択肢を与えました」

 

「あなたが支配した五人の武器人間よりも——みんなは強い」

 

マキマの瞳がわずかに細まる

 

「どうしてそう思うのかな」

 

ヒカリは迷わない

 

「支配されて動かされている人間よりも」

 

ナイフを握る手に力が入る

 

「自由に、自分で選択した人間の方が何倍も強いからです」

 

沈黙

風が吹く

遠くでまた爆発

 

マキマはふっと笑った

 

「残念だけど」

 

「私の目指す世界に、君たちみたいな“自由な子”はいらないの」

 

視線が真っ直ぐヒカリを射抜く

 

「君にはここで死んでもらうよ、ヒカリ君」

 

右手がゆっくりと持ち上がる

指を揃え、銃の形を作る

マキマは微笑んだ

 

「ぱん」

 

音は小さい

だが次の瞬間——

 

世界が消し飛んだ

 

轟音

幅100メートル、後方300メートルの一直線上の建物が地面ごと抉り取られる

コンクリートも鉄骨も、影も、塵もただ“無”にされた

 

衝撃がヒカリを呑み込む

肉が裂け、骨が砕け視界が白く塗り潰される

 

——だが

 

その瞬間

 

あらかじめ設定していたヒカリの能力が発動した

砕けた肉体が巻き戻る

飛び散った血が逆流し、骨が繋がり、皮膚が閉じる

 

 

天使の悪魔は咄嗟に動いていた

 

ヒカリから受け取った際の残りの寿命を素材に大楯を形成

光を帯びた巨大な盾が遅れて来る衝撃波を受け止める

爆風が左右に逸れ、瓦礫の雨が降る

 

煙の向こうで、マキマが目を細める

 

「まあ、一筋縄ではいかないよね」

 

微笑みは崩れない

ヒカリは息を吐く

 

ナイフは手の中にある

あらかじめ未来()に送っていたため壊れていなかった

 

まだ——終わっていない

 

爆煙が晴れる

 

先ほどの一撃は契約によって威力が増幅されていた

 

その代償か——

マキマの両腕が肘から先ごと消し飛んでいた

 

だが

肉が蠢き、骨が伸び、皮膚が張る

 

時間差で再生するマキマ

 

マキマは何事もなかったかのように再び手を銃の形に構えた

 

ヒカリは即座に判断する

 

(再生にわずかなラグがある)

 

距離を取れば“ぱん”が飛んでくる

ならば——近接

至近距離は避けにくいがこっちには時間操作による再生がある

 

迷わず地面を蹴った

一瞬で間合いを詰める

 

「ぱん」

 

衝撃

腹に穴が空く

 

だが原作ほどの消滅ではない

 

クロがかつて銃の悪魔の肉片を回収していた影響か、威力は減少している

それでも十分致命傷なことに変わりはない

 

ヒカリの体が吹き飛ぶ

 

だが

 

肉が逆流し、時間が巻き戻る

穴が塞がった

 

「……寿命、削れてるよ」

 

天使が静かに言う

 

「わかってる」

 

再び踏み込む

 

「ぱん」

 

天使の盾が受け流す

同時に天使が刀で斬りかかる

 

約2年間、共に戦ってきた2人の連携

 

ヒカリが囮になり、天使が死角を取る

 

マキマの契約による再生を挟みながらも、確実に押していく

 

天使の刀が脚を裂き、肩を削り、腹を貫く

 

しかし決定打は入らなかった

 

マキマは常にナイフを警戒している

受けていたのは全て天使の攻撃だった

 

「それがある限り、私は負ける可能性があるからね」

 

微笑みは崩れない

 

ヒカリは何度も再生する

 

「ぱん」

 

肩が抉れる

 

再生

 

「ぱん」

 

腿が吹き飛ぶ

 

再生

 

寿命が削れる

タイムリミットは確実に近づいていた

 

残り——12年

 

ヒカリは歯を食いしばる

 

(あと一撃でいい)

 

天使が踏み込む

 

脚を斬りマキマの体勢が崩れる

 

今だ

 

ヒカリが滑り込む

ナイフが閃く

 

そして右腕を切断した

 

肉が再生を始める前に——

 

首へ

 

刃を振り抜く

 

その瞬間

 

「ぱん」

 

乾いた音

 

マキマの左手、銃の形

 

だが狙いはヒカリではない

 

ナイフ

 

ピンポイント

 

契約によって圧縮された一撃が刃に直撃する

 

閃光

 

そして——

 

ナイフが消滅した

 

破壊ではない

“消去”

マキマは微笑む

 

「それが唯一の希望だったんだよね」

 

ヒカリの瞳が揺れる

時間操作で無から再生するには、生成分の寿命が必要

ここまでの再生で、残り寿命は10年

ナイフの生成に使った寿命は20年

 

不可能

 

ヒカリの手には何もない

 

「くっ……!」

 

理解した

 

理解してしまった

 

ここまで来て

 

 

ヒカリは詰んだのだ

 

 

契約は破れない

攻撃はすべて国民へ転嫁される

寿命も残り僅か

 

マキマはゆっくりと歩み寄る

 

「残念だったね」

 

銃の形

 

「君はよくやったよ」

 

 

「ぱん」

 

8話で書いた裏設定について

  • 知ってる ここには書かないで(他作品へ)
  • 知ってる 終盤に触れてほしい
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