【本編完結】時間の悪魔はデンジとレゼを幸せにしたい   作:もく 

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ハッピーエンドの基準は人それぞれですよ?
なんつって


52話 天野ヒカリと支配の悪魔

 

「約束じゃ!焼肉に連れて行け!」

 

ハンマーを肩に担ぎながら、パワーが堂々と要求する

ヒカリは思わず小さく笑った

 

「うん。今日の夕飯ね。パワー、約束守るからナイフ頂戴」

 

「忘れるでないぞ!」

 

パワーは胸を張り、血からナイフを生成する

それをヒカリへ放り投げた

受け取った刃は、赤く脈打っている

 

ヒカリは迷いなく踏み込み、マキマの両腕を斬り落とした

これで『ぱん』は使えない

 

元より下半身は失われ、仰向けの状態

もし撃てば反動で地面にめり込み、逆に動けなくなるだろう

だが——念のためだ

 

ヒカリは岸辺を見る

 

「少しマキマと話をします。暇だったら師匠を口説くなりしててください」

 

「ああ」

 

岸辺は短く答え、クァンシのもとへ向かう

ヒカリはパワーにも声をかけた

 

「最強のパワーはアキに報告して、自分が倒したって自慢してきな」

 

「わかったのじゃ!」

 

誇らしげに胸を張り、パワーは駆けていく

 

 

 

 

 

静寂

 

そして——

ヒカリの目から、クロが姿を現した

二人で、仰向けに横たわるマキマを見下ろす

 

パワーの血で作られた刃

その特性により、マキマの再生は止まっている

体内で血が暴れ続けていた

 

「……最後に言えよ。お前は何をするつもりだったんだ」

 

クロが低く問う

マキマは天を見たまま、淡々と答えた

 

「死、戦争、飢餓……この世には、なくなった方が幸せになれるものがたくさんあった」

 

「それらをチェンソーマンの力で消し去る。そして私自身も、チェンソーマンの力で消えようとした」

 

「勝手だな。考えも甘い」

 

クロが吐き捨てる

ヒカリは静かに口を開いた

 

「うん。マキマ、君は大きな勘違いをしているよ」

 

視線をまっすぐ向ける

「死も、飢餓も、戦争も……支配も」

 

「なくなった方が幸せになれるものなんかじゃない。それがあるから、幸せを感じられるんだ」

 

「死があるから生きていることに幸せを感じられる」

 

「飢餓があるから食べられることに幸せを感じられる」

 

「戦争があるから平和な時間に幸せを感じられる」

 

「支配があるから自由に幸せを感じられる」

 

 

「概念がなくなった時点で不幸どころか幸せもなくなるんだよ」

 

 

一拍

 

「だから僕は止めた。もちろん、それだけが理由ってわけじゃないけど」

 

マキマの瞳が細くなる

 

「それのせいで苦しむ人たちが世界中にいるのに、よくそんな能天気なことが言えるね」

 

ヒカリは首を振った

 

「死は、生きているものなら必ず訪れる」

 

「でも飢餓や戦争や支配は違う」

 

「人間たちが解決できる問題だよ」

 

ヒカリの目はどこか遠くを見るような目に見えた

 

「何百年かかるかわからない。もしかしたら解決できないかもしれない」

 

「だけど、解決できた時——概念自体は存在していないといけない」

 

「その人たちが、ずっと幸せでいるために」

 

「それに、管理されてる世界はおもしろくないよ」

 

沈黙

マキマは小さく呟いた

 

「そう……その目線……君は……あなたは……ずっと上の存在だったんですね」

 

ヒカリは正体を見破られてしまったようだ

そして少し困ったように笑って答えた

 

「そういうのやめてください。僕はあなたの部下ですから」

 

自然と敬語に戻る

マキマは微かに笑った

 

「本当に不思議な子だね……今回は君たちの思いの勝ちだね」

 

「でも、支配者が簡単に飢餓や戦争をなくせると思わないでね」

 

「支配なんて、最も手放したくないものなんだから」

 

「はい」

 

ヒカリは頷く

 

「……最後の仕事をお願いしようかな」

 

マキマは静かに言った

 

「ヒカリ君には、私の代わりにみんなが幸せになれる世界を作ってもらいます」

 

ヒカリは苦笑する

 

「最後の最後に、これまでで一番大きな仕事を押し付けないでくださいよ」

 

「ふっ……期待していますよ」

 

「さようなら」

 

ヒカリは右手を銃の形にした

 

「ぱん」

 

衝撃波が、心臓を撃ち抜く

マキマは動かなくなった

 

彼女の思想は完全な間違いではなかったのかもしれない

だが未来は——奪うものではなく、選ぶものだ

 

ここからは彼らが作っていく未来だ

あとのことは彼らに任せよう

 

ヒカリは目を閉じる

 

「クロ、ありがとう。でも……ちょっと無茶しちゃった」

 

選択肢が1つしかなかった状況

マキマの前で1度時間を止めたこと、何度も繰り返した身体の巻き戻し、切り札であったナイフの生成、そしてマキマの攻撃の所有と放出

この戦いでヒカリが使用した寿命は少なくなかった

 

「何年残ったかな?」

 

クロはしばらく黙り、答える

 

「……2ヶ月」

 

ヒカリは小さく笑った

 

「そっか……参ったね」

 

「マキマさんに頼まれた仕事は無理そうだね」

 

「寿命はもうほとんど残ってないから、君はもう自由に生きていいよ」

 

「今までありがとう」

 

ヒカリが感謝の言葉を述べるとクロは視線を逸らした

 

「あいつらの式くらいは見せてやりたかったよ」

 

「そうだね、でも結局は2人次第だよ。生きてるうちにやってくれたらいいな……」

 

その言葉は静かな空に消えていく

 

 

 

 

 

 

 

 

長い一日が終わる

ついに——ついに2人は

 

デンジとレゼを、残酷な運命から救ったのだった

 

 

 

 

 

 

 

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