【本編完結】時間の悪魔はデンジとレゼを幸せにしたい   作:もく 

55 / 59
僕気付いたんですよ
2ヶ月じゃ法律的にデンジ結婚できないじゃん


53話 運命を変えた少年

 

2ヶ月後

 

秋晴れの空の下、式場の窓から柔らかな光が差し込んでいた

ヒカリは後方の席で静かに新郎新婦を見ていた

 

デンジは借り物みたいなスーツに身を包み、ぎこちなく立っている

その隣でレゼがくすっと笑う

その笑顔はもう誰にも奪われることはない

 

ヒカリは小さく息を吐いた

 

 

 

あの戦いの後、ヒカリは公安を退職した

2ヶ月、何をするでもなく穏やかに過ごした

 

翌日はクァンシに一日中撫で回され、本気で命の危機を感じたがそれ以外は静かな日常だった

 

デビルハンターという仕事から解放された普通の毎日、2ヶ月はあっという間だった

 

 

 

ある日、姫野から連絡が来た

 

「デンジ君とレゼちゃんの結婚式があるんだって、もちろん君は出席するよね」

 

「うん、でもなんで今? 法律的にデンジは結婚できなくない?」

 

「公安は殉職率高いからね。誰かが欠ける前に4課のメンバーを集めて、形だけでもってなったらしいよ」

 

ヒカリは少し黙ってから笑った

 

「なるほどね。わかった」

 

その日はちょうど——

 

ヒカリの寿命が尽きる当日だった

 

 

 

式は穏やかに進んでいく

 

アキが司会を務める

真面目すぎる進行にデンジが噛み、会場に小さな笑いが起きる

ヒカリはそれを見て、少しだけ寂しくなった

 

 

最後にこの幸せをちゃんと目に焼き付ける

それでいい

 

 

 

 

スピーチの時間になりアキが名前を呼んだ

 

「次は……ヒカリ」

 

返事はない

代わりに前へ出たのは天使の悪魔だった

 

「……ヒカリはもうここにはいないよ。用事があるってさ。だから僕が読むね」

 

会場はざわめく

だがそれは不安というより——予感に近いものだった

天使は封筒を開き、淡々と読み始める

 

「デンジ、レゼ、結婚おめでとう。正直、二人がこんな早く式を上げるとは思ってなかったなー。デンジの提案だろうけどレゼはデンジの言うことは断れないからね、そこはやっぱり2人らしいなって思ったよ」

 

小さな笑いが起きる

 

「レゼは強いし器用だからデンジにはもったいない人かもしれないけど……まあ、ちょっと抜けてるところあるしちょうどいいのかもね」

 

紙をめくる

一枚、また一枚

 

ここまでは普通の祝辞だった

 

次のページを開いた瞬間、天使の動きが止まった

視線がわずかに揺れる

 

「……あれ」

 

紙の端に小さく書いてある

 

 

——ここは式の後、僕が死んで、いろいろ済んでみんなが落ち着いたら読んでね

 

 

沈黙

空気が、ゆっくりと重くなる

 

「……バカだな、ヒカリは」

 

吐き捨てるように言う

けれど声は強くない

 

「……読むよ。こんなこと隠してた罰だ」

 

小さく息を吸う

 

 

「僕は今日、この世界を去ります」

 

 

ざわめきが広がる

でも誰も立ち上がらない、誰も叫ばない

ただ、理解していく

薄々みんなは察していた

 

ヒカリの無茶も、契約の代償も

でも——今日だとは思っていなかった

 

「クロとの契約で持っていた寿命を、ほとんど使いきっちゃった。でも後悔はないよ。僕はみんなと生きるって夢を叶えたから」

 

天使の指が、紙を強く握る

 

「正直、もっと一緒にいたかった。でもね、それは僕のわがままだ。だから最後は、ちゃんと笑って終わるって決めたんだ」

 

声が掠れる

 

「デンジ、レゼ。君たちは普通に生きて、たまには喧嘩して、普通に歳を取って、そういう未来をちゃんと掴んでほしい」

 

一瞬、天使は目を閉じる

 

「みんなもどうか幸せになってください。僕の分までなんて言わないよ。自分の分をちゃんと大事にしてね」

 

そして最後の一文

わずかな間の後、天使は言った

 

「結婚おめでとう」

 

紙が震えている

天使は顔を上げない

 

「……天野ヒカリ」

 

静かなざわめき

誰かが小さく息を呑む

天使はぽつりと付け足す

 

「……ほんと、最後まで勝手だよね」

 

そう言って、ゆっくり席へ戻った

アキは目を閉じ、ほんの一瞬だけ空を見上げる

デンジは拳を握りしめる

その手を、レゼがそっと包んだ

 

 

そしてクロは、静かに微笑んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃

 

 

ヒカリは秋の野を歩いていた

式場の音はもう聞こえない

風が草を揺らす

 

誰もいない草原に辿り着き、ヒカリは寝転んだ

空は青く澄んでいた

 

 

 

目的は果たされたのだ

 

姫野は幽霊の悪魔に自身の全部を捧げることはなかった

アキは呪いの悪魔と契約することはなく寿命は残っていて銃の魔人になることもない

レゼは二道に辿り着いてデンジと一緒に逃げた

 

マキマを殺したことでパワーの死もクァンシの支配も全て防がれた

 

 

そして、異物(ヒカリ)はこの世界から去り

この世界の住民だった彼らがこの世界の別の未来を繋いでいく

 

 

それがこの世界の最高のハッピーエンド

 

 

それを遠くから見守ることにしよう

マキマが奪おうとした幸せはもうここにある

 

 

そしてヒカリは微笑んだ

 

 

「幸せになってね、みんな」

 

 

風が頬を撫でる

そのまま、静かに目を閉じた

 

 

騒がしさも、苦しみも、後悔もない

ただ——

優しい秋の匂いがそこに残った

 

 

 

 

 




ここまで55話もお付き合いいただき本当にありがとうございます

天野ヒカリというキャラクターは、実は小学校高学年の頃に
「この作品にこんなキャラがいたらきっと熱いだろうな」
そんな気持ちから生まれた存在でした

それから年月を重ね、いろいろな世界にヒカリを入れて物語を想像していく中で、この積み重ねを全部忘れてしまうのはもったいないなと思ったことが、ハーメルンで投稿を始めたきっかけです

最初は鬼滅の刃から書き始めましたが、ちょうどチェンソーマンのレゼ篇が公開されていた時期でもあり、レゼ篇+マキマ戦まででひとつの区切りを作れるという手軽さから、今回はチェンソーマンをメインに執筆させていただきました

ヒカリにはまだ語っていない背景や、別の世界での旅もあります
もし少しでも興味を持っていただけたなら、他の世界のヒカリにも会いに行ってもらえたら嬉しいです

おまけについては思いついていないわけではないのですが、内容が4コマ漫画のような軽いものばかりなので文章として投稿する予定はありません
そのあたりは、どうか皆さんの想像にお任せします


改めて、ここまで読んでくださったすべての方へ

本当にありがとうございました


次回の更新は2/28午前9時の予定です

ハッピーエンドの悪魔の皆様へ

  • チギャウ……チギャウ……
  • 正解!正解!正解!正解!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。