【本編完結】時間の悪魔はデンジとレゼを幸せにしたい 作:もく
この話に関しては過去の話の修正もしなければならないので、かなり大変ですが少しずつ進められたらなと思います。
現状を報告すると書き溜めは0、結末の半分は構想済み(みなさまの望む展開とは限りませんが…)、そこまでの過程がほぼ0というかなりよくない状況です。
しかし勝手に二部を始めてしまった以上やりきらないと絶対に後悔するので、いつか絶対に最後まで書くことはここに誓わせていただきます!
2日前、マキマの部屋
クロは、鎖によって拘束されたその悪魔を見上げる。
「さてと……監視の悪魔だったな」
「公安で管理するなら、かなり役に立ちそうだが……」
隣に立つアキが、悪魔を見ながら口を開いた。
「クロ。ヒカリの蘇生には、どれくらいの対価が必要なんだ?」
クロは少しだけ黙った。
時間の悪魔の力で、死者を蘇らせる。
それは単純な時間の巻き戻しではない。
一度途切れた命を、もう一度この世界の時間の流れへと戻す行為だ。
「……強力な悪魔の命。もしくは、百人程度の人間の全寿命」
アキの表情がわずかに険しくなる。
「百人か……」
「マキマは死刑囚を力の使用に利用していたが、百人もいねえよな」
「いてたまるかよ……」
アキはため息をついた。
死刑囚を百人集めることなど、現実的ではない。
ましてや、それだけの人間の命をヒカリ一人のために使うことを、アキが選ぶはずもなかった。
必然的に、視線は一体の悪魔へ向かう。
監視の悪魔は、拘束されたまま静かに口を開いた。
「私は、マキマ様の命令通りにここにいます」
その声に感情はなかった。
「どうぞ、お好きになさってください」
クロはしばらくその悪魔を見つめた。
「だとよ。どうする?」
アキは目を閉じる。
ほんの数秒だけ考えた。
そして——
「……やってくれ」
翌日、公安の墓地。
ヒカリの墓の前に、クロとアキは立っていた。
「一応、契約者が必要だからな」
クロは隣に立つアキへと視線を向ける。
「公安のトップについてるお前しか、こいつを差し出せねえ。頼む」
アキは墓石を見つめた。
そこに刻まれた名前を、しばらく黙って見下ろす。
「……わかった」
そして、監視の悪魔へと向き直った。
「時間の悪魔」
クロの目が赤く光る。
「こいつの全てを差し出す。天野ヒカリを蘇らせてくれ」
「……ああ」
その瞬間、地面に巨大な時計のような紋様が浮かび上がった。
墓地全体を覆うほどの円形の紋様。
針が回る。
一周。
二周。
三周。
時間が、逆流する。
墓の中にあるはずのないものが、地面の上に集まり始めた。
灰、血、骨、肉。
かつて失われたものが、時間の流れを逆に辿るように集まり、形を取り戻していく。
足が生まれ、胴体が形成され、腕が伸びる。
そして最後に、顔が作られた。
長い眠りから覚めるように、ヒカリの瞼がゆっくりと開く。
「……アキ……?」
その声を聞いた瞬間、アキはほんのわずかに目を細めた。
だが、すぐにいつもの表情に戻る。
「クロ」
「ん?」
「話したいことがあるんだろ?」
アキはヒカリを見た。
「俺は先に戻る。あとで知らせてくれ」
「……サンキュ」
アキは踵を返す。
そして数歩進んだところで、振り返らずに言った。
「あとで姫野先輩のところに顔を出せよ」
ヒカリは目を瞬かせる。
「え?」
「じゃあな」
それだけ言って、アキは歩き去っていった。
残されたヒカリは、しばらくその背中を見送る。
そして隣に立つクロへと視線を向けた。
「……なんか、普通だね」
「お前が勝手に死んでから大変だったんだぞ」
クロは大きくため息を吐いた。
「アキにも、天使にも、デンジにも、レゼにも散々詰められた。お前のせいで俺まで何回怒られたと思ってる」
「ふふっ……」
ヒカリは少しだけ笑った。
「なら、なおさら今は会えないかな?」
「会えよ」
クロは呆れたように言った。
「せっかく続きがあるんだぜ?」
その言葉に、ヒカリの表情から笑みが消えた。
——続き。
それが何を意味しているのか、ヒカリには分かっていた。
この世界での、彼の物語。
そしてクロは知っている。
ヒカリがこの世界の外側を知る存在であることを。
「……うん」
ヒカリは、自分の手を見つめた。
一度死んだはずの手。
もう一度、動いている。
「それで……どういうこと?」
二人は墓地を離れながら、歩き始めた。
クロは、マキマが残したDVDとメモのことを話した。
ノストラダムスの大予言。
1999年7月に訪れる、人類の滅亡。
そして、マキマが残した最後の命令。
「マキマの遺言で、お前を生き返らせた」
クロは淡々と説明した。
「この物語の続きは知ってるのか?」
ヒカリは足を止めた。
「……ノストラダムス」
その言葉を聞いた瞬間、ヒカリの表情が変わった。
「……っ!?」
「どうした?」
「……外で、続きを見た」
クロも足を止める。
「……お前の知るこの世界では、何が起きるんだ?」
ヒカリはしばらく黙っていた。
知っている。
この先に何が待っているのか。
ただ、知っているからこそ簡単には口にできなかった。
「……ポチタが消える」
クロの表情が固まる。
「ここまでも、これからも……全部が無になって、新しい世界が形成されるんだ」
「……マジか」
二人の間に沈黙が落ちた。
風が吹く。
一年ぶりに戻ってきた世界は、何も変わらないように見えた。
だが、その先には確実に最悪の未来が待っている。
ヒカリは自分の胸に手を当てた。
「……僕にできることは少ないよ」
一度、死んだ。
この世界を救うために、できることを全てやった。
それでも、まだ足りない。
「それでも、僕に頼るの?」
クロは少しだけ笑った。
「お前ならできるだろ」
「…随分と高く買われちゃってるみたいだね」
「お前はここまで全員を救ったんだからな」
その言葉に、ヒカリは黙った。
クロは続ける。
「それに、一度死んだことでお前の魂はリセットされた」
ヒカリが顔を上げる。
「……まさか」
「ああ」
クロは笑った。
「もう一回、契約ができる」
その言葉の意味を、ヒカリはすぐに理解した。
かつて一度だけ結んだ、時間の悪魔との契約。
その代償も、その危険性も知っている。
それでも——
ヒカリは迷わなかった。
「……うん」
「拒否はしねえんだな」
「しないよ」
ヒカリは前を向く。
「また、頼むよ。クロ」
クロは一瞬だけ目を見開き、それから笑った。
「また頼むぜ、相棒」
「こっちの台詞だよ」
そして二人は、再び歩き始めた。
一度終わったはずの物語の、その先へ。
最悪の未来を変えるために。
「感動の再会は済んだか?」
その声に、ヒカリは振り返った。
いつの間にか、アキが戻ってきている。
「ばっちり!」
ヒカリは親指を立てた。
「任せてよ」
アキは満足そうに頷いた。
「じゃあ、お前は明日から学校に行け」
「……ん?」
そして今に至る
ヒカリは転校生として紹介されたその日のうちに、あっという間にクラスの中心にいた。
デンジとレゼの席の一つ前に用意された席。その周囲には、いつの間にか多くの生徒が集まっていた。特に女子が多い。
どこから来たのか、前の学校はどこなのか、好きなものは何なのか。
次から次へと飛んでくる質問に、ヒカリは困ったように笑いながらも、一つひとつ丁寧に答えていた。
その様子を、後ろの席からデンジがじっと見つめている。
「いいなぁヒカリ……俺も転校生になりてぇ……」
「……あのねぇ」
隣のレゼが呆れたようにため息をつく。
すると、まるでその声が聞こえたかのように、ヒカリがふいに振り返った。
「順調そうでよかったよ」
「ヒカリもな!」
デンジが満面の笑みで返す。
その笑顔を見て、ヒカリも自然と微笑んだ。
「うん……でも、君のせいでデンジ君が他の子に目移りしちゃいそうなんだけど」
レゼが少しだけ不満そうに言う。
「デンジは大丈夫でしょ」
ヒカリはそう言い切った。
「え、ヒカリ君と2人は知り合いなの?」
近くにいた女子生徒が、興味津々といった様子で尋ねる。
レゼは少し考えるように首を傾げると、冗談めかして答えた。
「私とデンジ君を悪魔から助けてくれたキューピットみたいな?」
「えー! じゃあヒカリ君はデビルハンターなの!? かっこいい!」
明らかにヒカリを狙い始めた女子生徒が、目を輝かせる。
その様子を見たデンジが、負けじと口を開いた。
「お、俺もデビルハンターやって――」
「んぐっ!」
すぐさまレゼの手が伸び、デンジの口を塞ぐ。
「モテようとしないの!」
「んー! んー!」
そんな2人のやり取りを見て、ヒカリはクスクスと笑った。
その光景を、しばらく眺める。
デンジとレゼ。
自分が守った2人の未来。
こうして、普通の学校で笑い合っている。
それだけで、胸の奥にじんわりとしたものが広がっていった。
——よかった。
本当に、よかった。
だが、それでもまだ、2人の未来は暗いままだった。
ヒカリはその結末を知っている。
よほどのことがない限り、未来はそう簡単には変わらない。
しかしヒカリはマキマを殺した。
未来は変えることができるのだ。
ヒカリの知る未来では、この世界からポチタが消失し、新たな世界が形成される。
その世界で、レゼはソ連のモルモットとして生き続けることになる。
その未来を変えるために、ヒカリはすでに思考を巡らせ始めていた。
「あとで俺ん家来いよ、ナユタにも会わせてやりてえんだ」
「ちょっとデンジ君……」
デンジがそう言い、レゼが慌てて止めようとする。
ヒカリはその声を聞きながら、考え続けていた。
重要なのは、この世界ではレゼも、アキも、パワーも、ビームも、天使も、姫野も生きているということだ。
本来なら失われていたはずの命が、ここには残っている。
そして、これから先に起こることは、もう誰にもわからない。
「ごめん、今日はちょっと忙しいかも。いろいろ買わなきゃいけないから」
「そっか、じゃあまた今度だな!」
デンジはあっさりと笑った。
それにヒカリも笑顔を返す。
だが、頭の中ではこれまでに得た情報をもとに、あらゆる可能性を考え続けていた。
公安はアキがトップに立っている。
チェンソーマン教も存在しない。
本来なら存在していたはずのものがいくつも消え、本来なら失われていたはずのものがいくつも残っている。
だからこそ、何もわからない。
それはつまり——
この先の未来を、誰も知らないということだった。
そのまま学校が終わり、ヒカリはかつて自分が使っていた部屋へ戻った。
部屋の中は、以前とほとんど変わっていなかった。
埃一つなく、物の配置も整えられている。
どうやら、ヒカリがいない間も天使がずっと掃除をしていたらしい。
「……変わったなあ、天くん」
懐かしさを覚えながらベッドに腰を下ろす。
クロの声が頭の中に響いた。
『これからどうするんだよ』
「もう少し休ませてよ」
ヒカリはそのままベッドに倒れ込む。
「生き返らせてもらって2日目で学校だよ? アキもマキマに似たよね。無茶振りがひどいよ」
『まあ、生き返ってすぐはキツいか』
クロも少しだけ同情したように言う。
『とりあえず戦争の悪魔と接触しねえとな。まだ急がなくても良さそうだし、様子見だな』
「わかった……」
ヒカリは目を閉じる。
「……おやすみ……」
『おう』
そして、ヒカリは眠りについた。
翌日、校門の前
ヒカリが登校してくると、そこには見覚えのない少女が立っていた。
いや。
見覚えがないわけではない。
その存在は、ヒカリの記憶の中に確かにある。
ただし、直接会ったことはなかった。
独り言をつぶやき続ける様子のおかしな彼女に話しかけると彼女は突然人格が変わったかのように、突然口を開いた。
「おい男、お前を私の彼氏にしてやろうか?」
『…悪いヒカリ、代わってくれ』
ヒカリはクロに言われたまま主導権を渡した。
「相変わらず色気の欠片もねえな、戦争」
「へぇ……」
(どうしてこうなった……)