【本編完結】時間の悪魔はデンジとレゼを幸せにしたい 作:もく
それではまたいつか
side アサ
どうしてこうなったのだろうか。
私はただ、普通の学校生活を送っていたかっただけなのに。
転んだ拍子にコケピーを潰してしまい、クラスメイトから嫌われ、委員長と田中先生が会いに来て、それから……
委員長が悪魔だとわかって、私は殺されかけた。
そのとき、戦争の悪魔が私の体を乗っ取ったのだ。
そして、私の体を使って生き延びることになった彼女は、今度は私を巻き込んでチェンソーマンを探し始めた。
ここまでは、まだいい。
いや、よくはないけれど、少なくとも私の理解できる範囲ではあった。
問題は、その戦争の悪魔が、今朝になって突然とんでもないことを言い出したことだ。
「おい男、お前を私の彼氏にしてやろうか?」
……私の体で、何を言っているんですか?
しかも、相手の反応がおかしい。
「相変わらず色気の欠片もねえな、戦争」
「へえ……」
いや、なんで会話が成立しているの?
なんで正体を見破られているの?
そもそも、この人は誰なの?
次から次へと疑問が浮かんでくるが、今はそれどころではない。
まずは体の所有権を取り戻さなければ。
私は必死に意識を集中させ、戦争の悪魔から体の主導権を奪い返した。
「あ、えっと……ごめんなさい」
さっきまでとは打って変わって、彼の目つきが優しいものに戻った。
穏やかで、人当たりのよさそうな目。
……私は、こういう目があまり好きではない。
なんとなく、自分とは違う世界に生きている人の目に見えるからだ。
それでも、目の前の彼に非はない。むしろ、突然告白まがいのことをされた被害者なのだから、謝るのが当然だろう。
「大丈夫大丈夫。お互い大変だけど頑張ろうね」
「はい……」
なんだか、こちらの事情まで見透かされているような言い方だった。
彼は特に気にした様子もなく、軽く手を振って校舎へ向かっていく。
私はその背中を見送りながら、心の中で大きくため息をついた。
そして、周囲に聞こえないように声を潜める。
「……何してるのさ」
『何がだ?』
「何がだ、じゃないよ!いきなりあんなこと言って、どうするつもりだったの!?」
『私は自分のものを武器に変える力がある。あの男が私に惚れれば、私のものになったということだろ? そうすれば、あの男を武器にすることができる』
「だからって……!」
思わず頭を抱えそうになる。
この悪魔は、どうしてこうも考え方が極端なのだろうか。
そもそも、相手が自分に惚れることを前提に話を進めている時点でおかしい。普通、そんな簡単に人を好きになったりはしないはずだ。
……いや、普通という言葉が通用する相手なのかどうかも怪しいけれど。
『まあ、あれは無理だな』
「……何者なの?」
思わず尋ねていた。
あの男は、戦争の悪魔のことを知っているようだった。
それどころか、戦争の悪魔を相手にしてもまったく動じていなかった。まるで、以前から知り合いだったかのように。
『私と同じ悪魔だよ』
戦争の悪魔はあっさりと答えた。
『言うなら、この世界で一番自由な悪魔だな』
「……あの人と一緒にいるのも?」
『あいつが選んだんだろうな。面白くなりそうだ』
まるで他人事だ。
実際、彼女にとっては他人事なのだろう。私の体を使って好き勝手に行動しているくせに、こういうところだけは妙に割り切っている。
『あいつがどう動こうが、邪魔はさせない。チェンソーに核兵器を吐き出させてやる』
「……カクヘイキ?」
口に出してから、私はその言葉の意味を考えた。
カクヘイキ……ヘイキはおそらく兵器だろう。カクはなんだろう……
ただ一つわかるのは、戦争の悪魔が欲しがるものなのだから、きっとろくでもないものだということだ。
私は再びため息をついた。
どうやら、これからもこの悪魔に振り回されることは確定らしい。
……普通の学校生活って、いったいどこに行けば手に入るのだろうか。
そんなことを考えながら、私は重い足取りで校舎へと向かった。
side ヒカリ
まさか、告白される側になるとは思わなかった。
しかも、相手は戦争の悪魔。
それ以上に驚いたのは、クロとヨルに面識があったことだ。
時間の悪魔と戦争の悪魔。本来なら、そう簡単に顔を合わせるような関係ではないはずなのに、クロはヨルのことを知っていた。どうやら、僕が知らないところでいろいろと交流があったらしい。
……マキマの件といい、本当に僕の知らないところで何をやっているんだろうか。
とりあえず、まずはクロと話し合う必要がある。
教室で話すわけにもいかないので、僕は屋上へ向かうことにした。
「参ったなぁ、本当に予測不能だよ」
屋上の扉を開け、誰もいないことを確認してから、僕はフェンスの近くまで歩いていった。
『じゃあ、どうすんだよ』
「それを今考えてんの!」
思わず声が大きくなる。
もっとも、ここには誰もいない。多少声を張ったところで問題はないだろう。
「で、クロとヨルの関係は?」
『別に?ただ戦争のタイミングを教えてただけだ。よかったなって』
「ふーん……」
なんだか、思っていたよりもあっさりした関係だった。
いや、そもそもクロの言うことをどこまで信じていいのかもわからないのだけれど。
僕はひとまずその話を頭の隅に置き、別のことを尋ねた。
「ポチタの力で消えた概念って覚えてる?」
『まあな。エイズとか、アーノロン症候群とか。戦争関連だとナチス、核兵器、第二次世界大戦だな』
「……エイズってなくなったんだ」
『なんかあったか?』
「いや、なんでもないよ」
思わず声に出てしまった。
今の僕には関係のないことのはずなのに、
一人の人間すら救えなかった僕に、幸せになるなんて許されないのに。
だから僕は、一人でも多くの人を救わなきゃいけないのに。
『おい』
『ヒカリ』
胸の奥に沈んでいく感情に引きずられ、僕はいつの間にか黙り込んでいた。
『ヒカリ!』
「あ……」
はっとして顔を上げる。
『どうしたんだよ、急に黙りやがって』
「ごめん、いろいろ整理してた」
できるだけ何でもないように答えた。
……まだ、僕は心が未熟らしい。
何度繰り返しても、何度立ち上がっても、過去の後悔を完全に乗り越えることはできない。
それでも、立ち止まっているわけにはいかなかった。
僕は小さく息を吐き、話を元に戻す。
「ヨルの狙いが核兵器なのは、この前言ったでしょ?」
『ああ』
「もし戦争関連の概念がポチタから吐き出されたら、ヨルはとてつもない力を得ることになる」
戦争の悪魔が核兵器を取り戻した場合、何が起こるのか。
それは、考えるまでもなく危険なことだ。
ただし、問題はそれだけではない。
「でも、核兵器の存在はヨルの力になるんだ。アメリカがまた無から作り出しちゃうからね」
『めんどくせえな……じゃあ、どうすんだよ』
「どうにも?」
僕は肩をすくめた。
「完全に予測不能だからね。まずは目の前のことから片付けよう」
先のことを考えるのは大切だ。
けれど、まだ起きていないことを延々と考え続けても、答えが出るとは限らない。
今の僕にできるのは、これから起こる出来事を一つずつ確認し、必要に応じて対処していくことだけだ。
『次は何が来るんだ?』
「まず二人が会うところでしょ?正義の悪魔とか、永遠の悪魔とか出てくるんだよね」
『……ザコじゃん』
「まあ、そうなんだけどさ」
思わず苦笑する。
クロの言うことも間違ってはいない。
僕たちにとっては、そこまで大きな脅威ではないだろう。
ただし、原作の展開を知っているからといって、すべてが同じように進むとは限らない。
すでにマキマはいない、ここは変わっていない。
ただ、レゼも、アキも、パワーも、姫野も、天くんも生きている。
そして、本来なら存在しなかったはずの僕まで、この世界に戻ってきてしまった。
これだけ条件が違えば、未来がどこへ向かうのかなんて誰にもわからない。
「ま、今後の展開も踏まえて、一旦作戦考えよ」
そう言った、そのときだった。
「私も混ぜて」
突然、背後から少女の声が聞こえた。
「……え?」
おかしい。
屋上の扉が開くなら、未来視で気づけたはずだ。
僕はすぐに振り返った。
そこには、一人の少女が立っていた。
彼女は屋上に入ってくると、僕の姿を確かめるように眺め、少しだけ興味深そうに目を細めた。
「君が噂の転校生?たしかに、他と比べると顔は整ってるかも。はじめまして、天野ヒカリ君」
なるほど。どうやら、僕が知らないうちに噂が広がっていたらしい。
転校初日から注目されている自覚はあったけれど、生徒会の人間、というより悪魔に目をつけられるとは思わなかった。
僕はいつもの調子で笑みを浮かべ、彼女に向き直った。
「僕も噂は聞いてるよ。生徒会の人だったかな。はじめまして、キガちゃん。いや、
「ふーん」
少女は短く返事をした。
そして、僕をじっと見つめ始めた。
その視線は、僕の顔を見ているわけではなかった。
目の奥。
もっと深いところにある、何かを見透かそうとしている。
やがて彼女は、納得したように小さく頷いた。
「死の概念が違うんだ……」
その言葉に、僕はわずかに目を細める。
少女は楽しそうに笑った。
「面白い子を見つけたね。やっぱり君は不思議な子だよ、時間君」
……早速、面倒なことになりそうだ。
シリーズでヒカリの過去書くまで何年かかるんだか…
ちなみにタイトルに軽いこだわりがあります
マジでただの趣味です