全てはここから。
切っ掛けは旧ツイッターでFF間で創作による贈り物をされている方を見かけたからです。「何ィ〜〜ッッSNSすごい…確かにアリ!これは個人サイトのお持ち帰り文化の血が騒ぐぜーッ!!」で、はじめました。
いやどういうこと?
個人サイトバージョンはこちら(https://confeito.amaretto.jp/mh-002110291119imosixyu01.html)
始まりの筋交い『フラヒヤビールで祝杯を』
人気のない細い道。日中、日が差しているはずなのにどこか暗く感じる裏の道。一転、華やかさの権化と見まがう出で立ちの青年が一人、ひらひらと袖や裾を揺らしながらやってくる。
片腕には使い込まれた金の装飾があしらわれたそろばん、もう片方には食材やら雑貨やらが詰められた木箱。背中に担ぐのは一本の操虫棍で、木箱の上には蝶のような蛾のような、ふわふわとした毛に包まれた蝋虫が留まっていた。
不意に泡狐竜のヒレで仕立てられた袖がよろめいて、青年は瞬時に足を止めていた。のんびりと、しかし緊張の漂う気配で振り向いた視線の先に、いつしか黒塗りの人影が立っている。
「……南天屋の者だな」
青年が華やかで目立つ装備であるのに対し、真後ろに立った男は怪しさ満点の装い。深く被られたフードも全身をすっぽり覆うマントも全て迅竜を思わせる黒色でできていて、その表情を窺うことはできない。名乗りもしないまま――問いかけが聞こえなかった、と判断したのか――男はもう一度「南天屋だな」、と口にした。
怪しい。どこをどう見ても怪しい。ただでさえ治安が悪いと言われる青年の面立ちが、隠しもせずに訝しむそれに変化した。
「お客サンだってェのかい? どんなご依頼で?」
にぱりと浮かべられた笑みは、手練れの商売人のそれだ。慣れているのか受け流そうとしているのか、青年は男に嫌みとも応答ともとれる明るい声を投げ返す。
フードの下で、薄い唇がにやりと凶悪に歪んだのを青年――ハルチカは見た。同じようににかりと笑い返してみれば、人通りのない路地で大の男二人が笑い合っている、という不気味な光景の出来上がりだ。
……この怪しさ満点の客モドキの質問通り、ハルチカはここドンドルマで仲間たちと共に商いをやっている。突発の依頼も多くあるが、その内容はジャンルから難易度までピンからキリまで、全てが選り取り見取りだ。兼業している別商売も手伝って、彼が開く「南天屋」はコアな依頼客が寄ってくることも……儘あった。
「そンで、依頼の中身は? お客サン」
「……と、そうだったな。これを見てくれ」
とりあえず表情筋疲れるから止めとかないかイ、そうするか、と言わんばかりに男らは真顔に戻った。
フードの男が足元から取り出したのは、ハルチカが抱える買い出しのそれより二回りほど大きな木箱だ。きっちりと蓋がされていたが、僅かな隙間から冷気と思わしき白い煙が漏れている。
「はァ、デッカイ箱だネェ。なンだい、コレ?」
「見ての通り、食材だ。なに、『食べられる』ものしか入っていない」
「……食べられる、ッてきたカ」
「こいつ、特に一番上の食材を使って上手い調理法を編み出して欲しい。それが俺からの依頼だ。受けてくれるか」
「料理して、毒見しろ、ッてかい。で、何ならレシピも欲しいと……そりゃ、ウチは」
何か言いかけたハルチカの前に、男は小さな革袋を突き出した。前金だ、言われて瞬きを返した後に押しつけられた袋を振ってみれば、確かに中でゼニーが弾ける音がする。
「……料理研究なら、余所のが向いてるンじゃないかい? お兄サン」
「構わん。お前たちのところの調理担当『も』、ハンターをやっていると聞いている」
ずいぶんと偉そうな客である。しかしハルチカは首を横には振らずに、目尻に差した紅をくっと細く歪めて見せた。
「お兄サン、ハンターかい」
「さあ、どうだったか」
「要らぬ詮索しちまったかネ。前金まで受け取っちまったンなら、働かないわけにゃ〜いかないねェ」
「そうか、助かった。では明日、同じ時間にここで会おう」
男は心底ほっとしたように息を吐くと、そのままきびすを返して人通りの多い表通りに出て行った。そろばんをくる、と一回しして、ハルチカはふと足下に放置されたままの箱を見やる。
「……ンッ? オイ、これ、まさか儂一人で運べッてか」
悲しいかな、返事はない。小脇に抱えられた木箱に留まった蝋虫が、小首を傾げるように一度だけ、翅をぱたりと動かした。
露天商や加工屋、様々な情報と美味い酒が行き交う賑やかなドンドルマの表通りに対し、その路地裏はしぃんと静まり返っている。時価が安く、如何にもな鄙びた建物が軒を連ねているのだから、そんな中にひっそりと店構えがある「南天屋」の周辺は今日もとても平和だった。
「ン……魚でもねェ、肉でもねェ。どっから持っできたンだ、これ」
そう、平和とは素晴らしきかな。今夜、ようやく各々の依頼を片づけ終えた「南天屋」のフルメンバーが彼等の根城に集結したのだ。
のそのそと奥のキッチンから出てきたのは、割烹着に身を包んだ妙に言葉に訛り……クセのある青年で、名はアキツネといった。出で立ちからしても、両手に大皿、その上には出来たての料理という点からしても、彼は「南天屋」における貴重な調理担当であることが見てとれる。
普段は銃槍を手にパーティを「盾」として守る立ち回りを担うこの青年は、狩りの依頼をこなしながらハンターズギルドに依頼されたとある食料の改造、改良作業を並行する器用さも持ち合わせる。更に「南天屋」に雇用されるバイトアイルーともよい連携を見せ、いつぞやはあのライゼクスを森丘から追い払った実績の持ち主だった。
「そうは言うけどねェ、奴サン、前金払うなンていうからサ。世の中ゼニーがなけりゃ、はァ、やッてらンねェよってモンだろゥ〜がい」
ぼやくのは先ほどのハルチカ。蓋を開けてビックリ、アキツネ曰く、件の箱入り食材は見事に「正体不明」だったそうな。
それにしてもやり方があったのでは、そう言いたげに口をへの字にして――これはアキツネの癖であり、決して常に不機嫌というわけではない――大皿はごとんとテーブルの上に鎮座した。
「へぇ、これが例の正体不明? ……そうかなぁ、普通に美味しそうだけど」
好奇心半分、恐る恐る半分で首を伸ばしたのは、くしゃりと柔らかな黒い短髪が特徴的な青年だった。目はどことなく丸く、優しげで、他の三人と比べると人当たりの良さそうな温和な顔立ちをしている。
名はシヅキといった。「南天屋」においては接客担当兼護衛役を担う優秀な太刀使いで、ハルチカ曰く「無難な性格」とされている。
「美味しそう、だから必ずしも美味い、とは限らないがな」
どことなく嫌みのような言い回しで、否、今にも箸を伸ばしたいとばかりに片目をきらりと光らせたのは、シヅキの隣に座る青年だった。
艶やかな黒髪に、顔の片側には痛々しい火傷痕。それを眼帯で覆いつつ、隻眼とは思わせないするすると滑らかに動く目線が――彼が狩り場において「目」に重きを置かねばならない武器種、ボウガン使いであることを窺わせる。
彼、メヅキとシヅキは双子の兄弟だった。容姿といい物言いといい、どこをどう見ても似ても似つかぬ二人だが、本人たちが口にしないだけで兄弟間だけに通じる隠された絆は根強く存在している。
「細けェこたァいいべや。あれこれ試しでみだがら、まずはな――」
「そうだよなァ、儂もそろそろ――」
「だよね、そうだよね。とりあえずお金のこととか怪しい依頼主とか、そのへんは後にして――」
「ふむ。アツアツのうちに食べなければ食材に失礼だからな――」
――それでは諸君、先ずは乾杯ッ!!
先述の通り、「南天屋」のメンバーは全員が商売人であり、それと同時に手練れの狩人でもあった。つまりどういうことかというと、彼らは――
「ッッかァ〜!! 美味ェ! 最初はやっぱフラヒヤビールだべ!!」
「待て待て、俺は見たぞ、さっき台所でグビグビやってなかったか」
「メヅキ。そっちのフライ、ソースも……早くしないと、なくなりそうだよ」
「いやァ、美味だねェ! しッかし結局例の『正体不明』って何だッたんだい、アキツネ」
――酒が大好き、なのである。とりあえずは飲め、食え、呑め、とにかく食って飲め、の精神で、先ほどアキツネが並べた料理はことごとく空っぽになりそうな勢いだった。
じゅわっとカリカリに揚げられた謎フライ。アキツネお手製の、ニトロダケが隠し味のピリ辛サルサソースつき。おまけに甲冑魚で出汁をとった、刻み棍棒ネギ入りの和風ダレ。
更にはシヅキとメヅキがお土産に買ってきた貝類の、アツアツの酒蒸し、香り高い幻獣バター蒸し。こちらにはデデ砂漠産のトウガラシを添えて。
そしてやはり、メインは謎煮物である。大鍋でしっかりあくを取り、とろとろになるまで煮込んでみた結果、割と……「食べられる」ようになっていた。あくまで「食べられる」程度の味である。要するに、件の謎食材は無味無臭、味がしなかったのだ。
「ンン……ぷにぷに、ンにゃ、ブニブニ……ブヨブヨだッぺ? こんなの豚足と一緒だべ、煮込んだらなんとがなるンでねッかと思ったが」
「……うーん。これ、なんとかなってない、よねぇ?」
「むしろ、よく料理しようとか思ったな」
「依頼は依頼だからねェ。奴サン、どこのどなたか存じませんがァ〜、儂らは頑張っておりやすよ、ッてねェ」
宴もたけなわ、ではあるが、食材談義についてはまた別だ。そもそもこれは仕事である。
四人はテーブルを囲んで、むぅん、と唸った。中央、いつの間にかアキツネが運んできた大鍋でとろりと煮込まれた謎食材は、未だ沈黙を保っている……モコモコとか膨れられても、今更困るが。
「とりあえず、フライが美味しい、でいいんじゃない?」
「そうだな。おい、流石にナマはやってないよな」
「危ねェ食い物には火を通すべし、ッて昔ッから言うッぺよ。腐りかけの肉とかウリナマコとか」
「ウリナマコってなんだいアキツネ……アァ、駄目だ。儂、眠い」
宴もたけなわ……本当にそうだろうか。ぐでぐでとほどよい酒気と満腹感に誘われて、四人はそれぞれ、個々のスタイルで就寝した。
「……遅かったな。その様子だと、酒盛りは楽しめたようだな」
翌日、やっぱり昼下がり。艶やかな装いとは裏腹に、ずろんとした目、如何にも二日酔いです、という体のハルチカに例の黒フードは笑いかけた。
「アァー……ホレ、レシピ。ウチの自慢の、調理担当からサ」
酒盛りとかいう嫌みなのかからかいなのかよく分からない物言いは聞かなかったことにして、ハルチカはアキツネが思い起こしながら話し、メヅキがくるりと話を丸めて、シヅキがさらさらっと丸い綺麗な字で書き起こした調理メモを男に手渡した。
受け取るや否や、男はフードの下で実に満足そうに笑った。こくりと一度頷いて、またも袖の下から革袋を出してくる。
(袖の下、トカ、昔どっかの話じゃ、ワルイハナシを口封じするアレコレだとか言ったッけねェ)
ハルチカは、異様にずしりと重いその革袋を軽く手の上でじゃらつかせた。重い。やたらと重い。よく分からないが、報酬はとてもたんまりと払って貰えたようだった。
「いや、助かった。これで俺も、アレを上手く片付けることができそうだ」
「……いちお、聞いてみてイイかい?」
「なんだ」
「あの食材ッて、」
……にやり。またしても、フードの下で薄い唇が不穏に笑った。つられるように口端を上げたハルチカに、男は今度は「何かの包み」を足下から取り出して手渡した。揺らしてみると、ずしっとした重さの中から「ちゃぷん」と液体が跳ねる音がする。
中身は恐らく「酒」だ、それもかなり高価な部類の。ますますもって口封じのようだ――あえて無言を貫く若き商人に、男はおもむろにフードを取り払って頷き返した。
「また、世話になることもあるだろう。次は俺の弟子モドキが、お前の店を訪ねるかもしれないな」
火竜、リオレウスを思わせる凶悪な赤色の髪と瞳。にやりと不敵に笑った男は、二の句も告がずにそこから去って行った。
「……ユカ? これ、何のフライだ?」
ところ変わって、ベルナ村。ドンドルマより遥かに離れた牧歌の村で、一人の青年が先の赤髪を見上げながら声を震わせた。
目の前には、あの「ブヨブヨした」謎食材のフライと煮物。一口かじって何やら思うことがあったのか、箸を握る手はブヨブヨと、失敬、ぶるぶると小刻みに震えている。
「謎フライと謎煮込みだ」
「謎って! 謎ってなんだよ!? おかしいだろ!!」
さらりと爽やかに、否、にやりと凶悪に笑った顔は、ハルチカに確かな感謝を向けたあの顔で。どうやらこれが、男の素の笑い方であるようだった。
「おかしいだろ」、「これ食えるのか」、ぶつぶつと文句を並べる黒髪の青年は、背中に初心者が好んで担ぐ鉄製の弓を背負っていた。彼は、目の前で得意げに料理の腕を振るった赤髪に、弓の業を教えて貰う仲だった。
「……フライは、まあ……おい、ユカ、お前これちゃんと食えよ?」
「さて。食後は闘技場で疑似訓練だぞ、カシワ」
「聞いてるか、俺の話聞いてるのか!? なあ、この料理開発したのって誰なんだよ!?」
ここで補足しておこう。「謎煮物は止めておくべし」……これは確かに「南天屋」からもたらされた情報である、と。
くつくつと喉を鳴らして笑う赤髪に、黒髪は勝てもしないと分かっていながら食ってかかる。天気は晴天、今日もまた、ドンドルマもベルナ村も、平穏無事であるようだ。
「――カシワ。『南天屋』を知っているか。そのフライなら、そこでうんと食べさせて貰えるらしいぞ」
追伸。「フルフルベビー」は竜人族御用達の秘術でアイスクリームなどにすると美味しく戴けますが、現在、フルフルが大量発生している一件につき……ギルドに所属する者は、活用法など多く提示して頂けますと幸いです。
ハンターズギルド開発部 狩猟採集課 食品部門 特産品部ドンドルマ支部より。
解釈の甘さが目立つ。
当時はMH二次作成について、原作の解釈もまだまだ未熟でした。