旅の道すがら、杯に月色を満たして   作:77493

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二度目まして!!!!の話()
何故かこちらの掲載だけ抜けていました。さすが私 ( ‘д‘⊂彡☆))`ν゚)・;'
トロピーチ酒は黄金芋酒本編においてメヅキ兄さんが実際に口にしていたお酒になります。実に美味しそうです。私桃もが好き(黙れ)(はい)




2022年の記録
弐回目の筋交い『トロピーチ酒でも祝杯を』


 

 

「ペッコー。お客さんだよー」

 

 不穏な予感がした。得てして、こういった直感というものは外れた試しがないものだ。

 銀朱の瞳の男は、たいして長くもない経験からそれを熟知していた。「たいして長くもない」経験。同期に名を呼ばれ、何やら要件を賜りそうになったその瞬間。躊躇せず、男はその場からの離脱を図った。イスを蹴倒す勢いで作業机を離れ、窓から一目散に逃走しようとした矢先、

 

「――これ、ペッコちゃーん。飛び降りて散ろうなんて、まだ若いのに早まったらあかんてぇ」

「ぐうっ!? お前オズっ、おい……ローラン!!」

 

 「遥かに上としかいえない」経験の持ち主、即ち目上の人間に後ろから首をキメら、れ……もとい、羽交い締め(?)にされ脱走は阻止される。

 もがもがと赤色の洋装をしわくちゃにして抵抗する男を、オズと呼ばれた厳つい――轟竜防具との掛け合わせという贅沢装備だ――男が容易に屋内に引きずり込んだ。

 招かれざる客を案内した同期はすでに姿を消している。あの裏切り者め覚えていろ、ぎしりと歯噛みする後輩を、オズは気持ちのいい笑顔で見下ろしていた。

 

「……なんの用です、じゃない、用だ」

「ワァー、ペッコちゃんペッコちゃん。逆、逆」

「あんたが来るとろくなことにならないから言ってるんだ。なんだ? この間の報告書なら龍歴院に回したし、ローランとディエゴのことなら管轄外だぞ」

 

 羽根つき帽子を外せば、眼と同色の、リオレウスの甲殻さながらの硬質な銀朱の髪がこぼれ落ちる。

 一方、いかにも気のいい顔の――かつ、百戦錬磨のハンターといった体を隠せていないオズは、不機嫌そのものといった表情の後輩に構わず笑いかけた。

 ……彼がこうして仕事の合間に出没するとろくなことにならない、のだが、当の本人に悪気がないのが余計に悪質だ。銀朱の男は舌打った。

 

「いやね、こないだのフルフルベビーの後処理のことなんやけど。ペッコちゃん成績やたら良かったやけ、参考にさしてもらえんかなぁと思て」

「フルフルベビー? ああ、あの食材消費の」

 

 少しばかり前の話だ。繁殖期の終わり、温暖期への移行の最中、とある寒冷地方で盲目の飛竜種フルフルが大量に発生した。

 細かい原因の特定には時間を要しているが、大まかの予想を立てた研究部署の言ではこうだ。「幼生であるフルフルベビーが異常繁殖した」、と。

 知っての通り、フルフルベビーは生き物の体内に産みつけられた卵からふ化した後、寄生元を内側からじわじわと喰らって成長する。フルフル自体を嫌悪するハンターがいる理由もそこにあった。とはいえ、特定の種が増えすぎたら間引けばいい、というのがハンターズギルドの共通認識である。

 銀朱の男、ユカもまた、大量に運び込まれたフルフルベビーの消費活動に関わらざるを得ない身だった。

 

「そ、そ。料理でもして新規流通確保しよかぁってやつ。ほれ、ユカちゃん料理得意やし。ウチは七竈にべた惚れやん? せやから、」

「お断りだ」

「って、早っ。まだ何も言うとらんがな!」

「『竜人族の手で特殊加工されたものだけが食用になる』、だったか。人間には荷が重いと、担当職員からも悲鳴が上がっていたはずだが」

「冷たいこと言わんといてや!? それにユカちゃんはノルマ分、誰よりも早う達成しとったやないかぁ」

「オズ。あんたのことだ、他に何か言いたいことがあるんじゃないのか」

 

 フェザーの下で色黒の肌の男が、不穏に笑んだのをユカは見た。ぞわりと悪寒が背筋を駆け抜け、知らず眉間にしわが寄る。

 

「まさか、そんな裏なんてあらへんて。裏があるド腹黒はウラくらいちゃうんかなぁ」

「……? 誰が上手いことを、いや、それより今回は七竈堂は」

「なぁ、ユカちゃんてばウチの可愛い南天屋のコらにノルマ押しつけて、自分はかわいこちゃんと仲良くフライ齧っとっただけって聞いたんやけど。ほんま?」

「かわい……なんだと?」

「せやからユカちゃんにはまだまだレシピも余力もあるんと違かと思て。ウチのかわいこちゃんたちばっかり苦労するのも……アレやしね?」

 

 「お前、今回の仕事手抜きした上にノルマ余所にぶん投げて手柄だけ丸取りしただろ」。

 オズの目はもはや笑っていなかった。思い当たる節は……ある。ありすぎる。

 故に即逃げ出そうとしたユカだったが、もう一回りは太いであろう、年齢を感じさせない逞しい腕に素早く腕を拘束されてしまった。ギギギとどこぞの部品を欠落させたコロコロガルクよろしく緩慢に振り向く銀朱の騎士に、オズはなーんにも企んでやいませんよ、という顔で笑いかける。

 

「なんも難しいことあらへんがなぁ、そない逃げんでもええやんか! ――ほれ、ユカちゃん。仕事しよ」

 

 ……人生とは、常に思うようにはいかないものだ。

 午後は久々にベルナ村に立ち寄り、「かわいこちゃん」たちと狩りでもしながらのんびりしようと考えていたユカは、冷徹の皮をすぽんと剥かれて顔を引きつらせた。

 

 

 

 …Now ヽ(`Д´)ノ Loading…

 

 

 

 防衛都市としても交易都市としても、ドンドルマは広く世界中に名を知られた大都市だ。

 連なる山岳にハンターズギルドの総本山、大いなる内海、古龍種襲来の折には迎撃地点として作用する広大な平原、砦と、あらゆる設備が一身に備わっている。人の出入りは常に絶えず、一般市民から商人、駆け出しから腕利きのハンター、はたまた富裕層から貧民層まで、あらゆる人手と物資が行き交う街だった。

 さて、ドンドルマの最南端、いわゆる下町といわれている区画の一カ所に、その店はひっそりと構えられている。

 常緑の葉に赤い実をつける災い除けの木、南天。その名を冠する便利屋にして狩猟代行、護衛業と、なんでもござれのよろず商事「南天屋」だ。

 

「……ここが、南天屋なのか」

「そっ、儂らのご自慢の塁壁、兼店舗だネェ」

「本当にやってるのか、実は奥にもう一店舗とか」

「オニーサンが何を言いたいのかは分かったけどネ、従業員を前にそりゃねェンじゃねェのかイ」

 

 本日、店舗入り口の前に立つのは二人の男。

 一人は淡い桜、紅と、色鮮やかな装備で身を包む小麦色の髪の若者だった。艶やかな衣裳はとにかく目を引くが、それに負けず劣らずの独特な存在感を纏っている。

 

「と、いうかだ。オニーサンはなンだってウチを『飯屋』だって勘違いしたんだイ。そりゃウチにはとんでもねェドス料理人はいるけどネ、そんな宣伝した覚えがねェからサ」

 

 すらすらぺらぺらと並べ立てられ、若者の隣に立つ男はぐむむともぐぬぬとも、声にならない声を堪えて口を結ぶより他にない。

 遠方、化石、鉱石類や新種の着色素材、酪農品などを中心に近年注目を集める牧歌の狩猟拠点、ベルナ村。

 その地方で愛用される雲羊鹿の毛織物の装備を着、いかにも「田舎者です」といった垢抜けなさを放つのは、若者よりほんの僅かに年上と思わしきハンターだった。

 上質なタマミツネ装備を優雅に着こなし、目尻にはさりげなく紅を入れ……と、真逆の洗練された雰囲気の若者を見る黒瞳は、物言いたげな恨みがましい目つきをしている。

 

「だいたい、下町に来るってのに『見せ財布』を持ってこないってェのは……不用心、丸鳥に棍棒ネギ、不用心が些か過ぎるンじゃァないのかねェ」

「うう……そんな、こんなところでまさか贋作売りだのスリだのが出るなんて、誰も思わないだろ」

「オッ? 喋った。動転しすぎてランゴスタに刺されたのかと思ったゼィ」

「どこを! どう見たら!! 俺が麻痺ってるように見えるんだ!? ああくそっ、助けてくれたことには感謝してるけどな、そこまで言わなくてもいいだろ!」

 

 黒髪黒瞳。童顔、初期装備、おのぼりさん。そりゃァいいカモにされるに決まってらァ、と若者ハルチカはにへにへと頬を緩めて笑った。

 ……ついさっきの話だ。あからさまな贋作売りの露店で、この黒髪ハンターは「ちょっとお高く感じるけどまぁ品物はそこまで悪くないかな」な土産物を買おうとしていた。放っておけばそのうちお高いツボでも買わされそうな勢いだった。どうするかな、と様子見をしている最中、先に露天商の方がハルチカの見物に気がついたのだ。

 

(いやァ、『ギャアッハルチカ!!』って、ネェ? ヤダネェ、儂ァそんな悪い男じゃねェっての)

 

 あのうさん臭い見慣れぬ露天商の顔はしっかりがっつり覚えてやった――閑話休題。間接的に人助けをしてしまったハルチカだったが、予想外の事態は続く。

 黒髪曰く、「この辺にある南天屋っていう飯屋を探してるんだが、知らないか」と。何が悲しくて、狩猟と商事のかんたんなおしごとがレストラン稼業に化けるのか。言いたいことは山ほどあったが、男の純朴そうな眼差しに好奇心の方が勝った。

 幸い、自分もちょっとした買い出しから帰還する最中だった。案内がてら男をからかいつつ、素性を観察していたという次第である。

 ……その合間にも、ポーチの底に穴が開いて道具がぼろぼろと落っこちたり、分かりやすすぎるスリに財布を奪われかけたりと、黒髪男の武勇伝は事欠かなかった。

 よくこれで火山まで上がれたなァ、とは言わずにおれた。男が腰に下げるのは、鉱山から採掘できる竜の顎を模した片手剣だ……こちらへはフゥン、と鼻を鳴らすに留めておく。

 

「この時間ならー……アァ、ちょいとここでお待ちヨ、オニーサン」

「うん? ああ、分かった」

 

 思考中断、会話再起動。こじんまりとしながらも掃除と手入れと緑への水やりは怠らない愛する店舗に、ハルチカはのそのそと単身入り込む。

 通り慣れた動線をたどって目的地点に顔を出せば、見知った顔が二人分、何やら複雑な顔で話し込んでいた。

 

「あ、元凶が帰ってきた」

「ム、そうとも限らんが」

「なンだいなンだい、藪から棒に! 誰が大人気売れっ子元凶だッてェ!?」

 

 居間の中央、使い込まれた馴染みのテーブルを囲むのは黒髪の若者二人組。

 前者の、思わずぽろっと本音こぼしました感のある発言者がシヅキ、後者のやや冷静にことを観察しているのがメヅキである。どちらも南天屋の従業員であり、ハルチカにとって顔馴染みの相手であり、ついでにいうと彼らは双子だ。

 双子というわりに顔立ちはさほど似ていないが、ものの捉え方やちょっとした癖、雰囲気などにはどこか共通するものがある。ハルチカはフンと鼻を鳴らした。

 

「……ッて、『お題』はこれかイ。さァさァ、どっちが持ってきたか、ほれ、白状しちまいナ!」

「えっ、ハルチカが持ってきたんじゃなかったの?」

「だから言っただろう、弟よ。誰が好き好んで同じ轍を踏みにいきたがると思うのだ」

「受け取ったの僕じゃないからねぇ。報告書書いてて気付かなかったし」

「それを言うなら俺も同じだ。乾燥が頃合いの素材があったからな、宅配便に構っている暇などなかった」

「アァ、こりゃアレだ。儂らが不在のときを狙って送りつけられてきたッて体サ。あンの赤髪の奴さんに違いネェさな」

 

 スチャ、と三人仲良く定位置に座り、テーブルの上に置かれた木箱をなんとなく薄目薄目を意識してチラ見した。

 見覚えのある木箱である――数日、数週間前か、どうだったか。まだ記憶が新しい頃に、彼ら南天屋はこの木箱に相対したことがあったのだ。「大量」の「白いブヨブヨ」した「謎の食材」がみっちりと詰まった木箱……発送元は、何故か伝票がビリビリに破かれていて確認のしようがない。

 差出人不明、目的不明、これも前回と同じ仕様である。

 当時の箱を受け取ったのはハルチカだったが、稲穂髪の若元締めは此度は「知らん知らん」と首を振るばかりだった。

 

「まァた、レシピ開発しろってェのかねェ……ンで、中身は?」

「怖くて見てない。って言いたいとこだけど、さっきアキツネが開けて持ってっちゃったよ」

「はァ、たまげた! アキは仕事が早くてイイねェ!」

「笑っている場合ではないぞ。あの正体不明……俺とシヅキの記憶が正しければ、あれは恐らく――」

 

 『ドカン』。

 ――室内を揺らす、突然の打音。三人はぱちくりと目を瞬かせて思わず腰を浮かせていた。

 

「……何? いまの」

「聞くな。聞くな、俺達は何も聞いていない」

「どう聞いても打撃……鎚(ハンマー)にしちゃ軽いか。台所の方、ッていったら……」

 

 突如南天屋内に響いた大音、次いで怒声、何やら言い返す男の声。

 ニコリと顔を笑み満面で固定したハルチカが先陣を切る。シヅキとメヅキも、音の発生源に向かってそろそろと追跡を開始した。

 

「……だから! 俺は泥棒じゃないって、そう言ってるだろ!!」

 

 案の定。案の定、お約束かつ怒濤の展開である。アチャァと額を抑えて天井を仰ぐハルチカ、彼を盾代わりにしつつ首を伸ばす兄弟の目の前で。

 向かって勝手口に仁王立ちになりながら、ホッカホカの大ぶりなトウモロコシを差し向ける男が一人。

 

「他人様の台所の飯ァ盗ろうとして、ドロボーじゃねぇッて。昼間ッから寝ぼけてンだッたら内海さドボンさしてやるっぺよ」

 

 南天屋がドス料理人、もとい従業員の一人アキツネである。料理に関しては妥協を知らない、むしろ専属の彼にとって、南天屋付属の台所は彼の聖域といえる場所なのだ。

 造りが狭いというのもあるが、手伝おうとしてもやんわりとお断りされてしまうくらいにはその思い入れは強かった。

 台所、ならびに調理を妨害されることは彼にとって耐えがたい話なのだろう……何より、アキツネはわりと、否、なかなかに感じのよろしい沸点をお持ちのハンターでもあった。

 なンで裏口からコソコソ入ってつまみ食いしようとしちゃったかネェ、とは、黒髪男の性根を把握しきれなかったハルチカの心の叫びである。

 

「内海!? ドボン!? ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺、いまこれしか着て回れる防具がな……」

「あ゛ぁ!? ンじゃ、乾かしがてら回してやるけ、安心すっべよ!!」

「わぁー、リアルモロコシ砲だぁ」

「本物の銃槍よりかは小さいがな」

「アー……儂、茹でトウキビもいいケド、ハジケモロコシも食べたかっ……って、アキ! それ、儂の客ゥ!?」

 

 はた、とそこでクールダウンしたのかアキツネはぱっと振り返った。反撃のチャンスとでも捉えたのか、右腕の盾を下ろして黒髪男が立ち上がる。

 ……余談だが、アキツネは腕のいい銃槍使いだった。つまりそれは、腕のいいハンターでもあるということだ。

 背後から武器を強奪しようとする輩がいようものなら、反射で「つい」体が動いてしまうというもので――ばきっ、と耳障りな音がして、南天屋一同は言葉を吞む。

 

「……ン。ちょィと強めの、ミネウチだっぺよ」

「うわ、一乙した!?」

「うむ。無理もないな」

「茹でトウモロコシは正義だからネェ……ッて、客! ンもう、客だッて言ってンのにサァ!!」

 

 ぱたりと力尽きた客を覗き込んで、若者達はもう一度言葉を呑んだ。

 殴られはしたものの、口にザンギ――とびきり美味しい鶏の唐揚げの一種である――をもごもごと咥えたままの男の表情は、何やらとっても幸せそうだったのだ。

 

 

 

 …Now (=゚ω゚)ノ Loading…

 

 

 

「いやァ〜〜、悪かったネェ! まさか儂も、待ちきれなくてフラフラ裏口に回られるとは思ッてなかったからサ!」

「いや、その……俺も悪かった。つい匂いに釣られて……なあ、あの揚げもの恐ろしく美味いな! あんたら、いつもあんなの食べてるのか」

 

 ところ変わりまして応接間、こちらは接待専用の客間となっている。

 先の従業員の休憩場所とは打って変わり、ソファは中古でありながらも上物、同じく中古品だがきちんとした長テーブルが部屋の中央に設置され、寛ぐには十分だった。

 ハルチカの客、という形で案内された黒髪男を四人組の中に加え、一行はずらりとところ狭しと並べられた料理をアツく見つめている。

 

「どうも、すみませんでした。お待たせしてしまっていたから、それはお腹も空きますよね」

 

 ぺこりと頭を下げるのはシヅキ。接客担当の口調に変貌した青年の癖の混ざる黒髪を、男は目を瞬かせながら凝視した。

 一方で、シヅキはくしゃりと困ったような笑み――仕切り直し、名誉挽回。いくら男が不法侵入(?)をはたらいたとはいえ、来客に失礼があっては店の信用に関わる。ここは食事会にご招待して機嫌良くして頂いて、とは、同じく接客スキルの高いハルチカとの打ち合わせで決定事項だ。

 青年の笑顔に何かを察したのか、黒髪男はあわあわと顔を赤くしながら何度も頷き返した……どうやら、根は素直な性分であるらしい。

 

「いや、押しかけたのは俺の方だし気にしないでくれ。というか、その、ほ、本当に飯屋じゃないんだな、ここ……」

「フハハ、さっきからなんの話だ。どこかに食堂と書かれた看板でも下げられていたか?」

「うわもうっ、もう飲んでた!? メヅキ! すみませんうちの愚兄が」

「そのカクテル? 美味そうだなあ。俺にもくれ」

「うむ。苦しゅうない」

「おぉっ、なんか凄いな、桃とパイン! って感じだ。あれ? どうしたんだ、お前は飲まないのか、シヅキ」

「……アキツネ。僕にもフラヒヤビール」

「ン。まァ、大した怪我でねぐって良がったよ。加減はしたッけど、受け身も取れでだみてェだし」

 

 謎の食材、謎の勘違い、謎の負傷。疑問点はそれなりにぽつぽつと点在していたが、この場に居合わせる五人にそれらの問題を突き詰めるほどの熱意と気力は失せていた。

 最初から、初めから。ことの起点など、おそらくはどうでもいいのだ。

 若く、稼げるだけの業があり、未来への展望だとか夢だとかをそこそこ個々で持っていて――満を持してという顔で、狩人達は顔を見合わせる。

 

「ンじゃ、数奇で奇天烈な出会いとッ」

「ええと、なんだ……よく分からないが今日の? 出会いに? あとザンギに」

 

 ――乾杯ッ!!

 

 ガコン、とジョッキを鳴らして喉に冷たいビールを流し込む。この瞬間は、このひとときだけは、どんなハンター同士であっても極上の慰労となり得るのだ。

 

「どわっ、なんだこれ! つめった……!」

「ありっ、オニーサン、フラヒヤビールは試したことないのカイ?」

「ホピ酒……くらい、なら? 飯のときに飲もうとすると、なんでか仲間から取り上げられるんだよな」

 

 この時点で、南天屋一同は「ん?」と思った……らしい。

 みるみるうちに男の顔が赤くなり、頬は緩み、口からはんへへへへと怪しい笑いが漏れ始め……見事、宴開始直後に酔っぱらいの出来上がりだ。

 アキツネお手製のカリカリザンギ――ニトロダケ、チリチーズの共演によるレッドホットソースと、オニオニオン入りタルタルの選べるソースつき――も、こんがり焼きあげた厳選サシミウオも、卵たっぷりホロロースの親子カツ丼も、もちろん茹で上がった堅牢モロコシのバター添えも、クック豆とポッケポテトのマヨサラダも。

 そして何より本日の目玉は、ミリオンキャベツとシナトマト、ポポ肉、フルフルベビ……「白色のコリコリした食感が最高の何か」の、バルバレ屋台風炒めもの!

 こちらはモガモ貝の旨味を凝縮させたソースと、モガモガーリックが味の決め手となっている。これを食べなければ今回の宴は本末転倒、とはアキツネの言だった。

 しかし現実とはかくも厳しい。何もかも手つかずにして、黒髪男の箸捌きはすでに流浪の民と化している。

 

「……酔いも覚めるぞ。ハンターでも、酒に弱い奴もいるのだな」

「うん。ちょっと、珍しい気もするけどね」

「オニーサン、この贅沢飯を食べずに終わっちまうッてェのカイ!? なンてもったいない! アー、儂も眠い!」

「ハル、今朝まで伝票整理に掛かりッきりだったかンなァ。オチたら転がしといてやるっぺよ」

 

 ザンギ美味いカクテル美味いサシミウオ美味いぴえんぴえん……と、ここまで一気食いした直後、黒髪男はバタンとテーブルに突っ伏しかけた。

 幸い、完全に寝落ちる前にアキツネが大きな手で転倒を阻止してくれている。くかー、と無邪気に爆睡する姿は、悪意のようなものなど欠片も感じられない。

 

「なあ、今にして思えば、この客。本当にここをただの飯屋だと信じ込まされたのかもしれんな」

「信じ込まされた、って。どういうこと?」

「ポーチの横、手放さないように上等の酒があった。贈答用の熨斗がついていたからな、誰かに持たされでもしたんだろう」

「そう、なんだ。……って、アキツネ、何してるの?」

「いや、寝かせようと思ッて装備を……ンンッ!? これ、『龍ノコハク酒』でねェか! おれ達への土産もんか。料理酒としちゃ、最高級の酒だっぺ!!」

「えっ、最高級? この間のハルチカが貰ってきたやつも良いお酒だったのに!」

 

 ダウンした元締め以外の三名は、客間に寝かされた男の寝顔をチラ見した。とても自費でそんな高級酒を買えるようには見えないからだ……申し訳ないがこれは本心である。

 

「しかし、貰えるなら貰っておくのが礼儀だろう。どうするのだ、天才料理人」

「ヤブサカでもねェしな……酒蒸しもイイし、ジュレにしても最高だっぺよ。あぁ、それこそ今日みてェな炒めもんとか」

「うわぁ、聞いてるだけでもう美味しそう! さすが、究極の料理人! いよっ、至高の料理人!!」

「本ッ当のハンター飯ッてェのを……教えてやるッぺよ……!」

 

 時間は、刻々と過ぎていく。ただよう酒気に蒸気、街の喧騒、傾く日差し。気心の知れる仲間同士の、何気ない幸福な会話と食事。

 南天屋一同は、グラスをつき合わせながら心と言葉を通わせ合うかのように朗らかに笑った。

 ちなみに男を客として招いた体のハルチカは、いつものようにその辺に転がされてしまっていた。世の中、ときとして仲間も手厳しく無情であるものである。

 

 

 

 …Now ∩(・ω・)∩ Loading…

 

 

 

 仕事という魔物は、何故こちらの都合を考慮してくれないものなのだろう。

 着慣れた装備の一部を荷台に詰め込みしつつ、上半身はインナーという気楽な格好でシヅキは荷物を目合わせした。

 昨夜は早めに切り上げたとはいえ深酒をしてしまった。耐性はそれなりにあるつもりだったが、すぐさま全快、回復とまではいかないらしい。

 まさか客があそこまで早くにダウンするとは思わなかった。残りの食事と件のコハク酒を皆々で楽しんだばっかりに、今朝は少しだけ酒気が残っているような気がする。

 

「そろそろあの人、起こした方がいいかもなぁ」

 

 本日は自分以外の面子も仕事が入っていたはずだ。さすがに初対面の相手に店番などさせられない。

 使い慣れた太刀をカチリと背負って、応接間の片付けに勤しむアキツネと軽く目配せをしてから客間を覗いた。

 

「……おはようございますー。大丈夫ですか」

「うぐぉ……ま、待ってくれ。あ、あたまがハレツアロワナしてるぞ……」

 

 「あ、そういうの言えるなら大丈夫ですね」、とは言わずにおれた。逡巡した矢先、ふと今朝方兄に手渡されたばかりの小さな包みのことを思い出す。

 メヅキの調合の腕前は熟練者のそれだ。たとえば、彼の調合した解毒薬はえぐみどころか苦味もなく、たまにシヅキ自身も世話になるが毎回感嘆させられるばかりだった。

 二日酔いの気があるのか、ぶっきらぼうに包みを渡してきた兄の顔が脳裏を過る。ポケットをあさり、シヅキはそろそろと男に薬を手渡した。

 

「どうぞ。水も、はい」

「悪い、助かる……なあ、あんた。確か、シヅキ、っていったよな」

「え? はい、そうですけど」

「それ……その太刀、ナルガクルガのだよな」

 

 包みとグラスを手にしたまま、何故か男は身じろぎ一つしない。困惑半分で、シヅキははい、と首肯した。

 

「そうか……黒い、太刀、迅竜ナルガクルガ……」

「……あのぅ、薬、早く飲んじゃった方が。メヅキのは苦くないので、」

「『鉄刀』ではない、んだよな。そうだよな……」

 

 一瞬。一瞬、刹那のうちに、男の目に冥い色が垣間見えた。

 反射、本能、危機回避能力。ハンターとして備わっている神経が、瞬時にシヅキの腕に、手に、指先に、ひりついた緊張を走らせる。

 見下ろした先、布団に未だ腰を下ろし、俯き加減のまま。男は不意に小さく笑った。底の見えない、救いのまるで見えない、常しえの暗がりを彷彿とさせる笑みだった。

 

「!? ……あの、」

「――悪い、助かった。なあ、ハルチカはいないのか」

「え……あ、ハルチカなら、今朝はもう仕事に」

「そうかー。そりゃそうだよな、昨日の礼と詫びがしたかったんだけどな」

 

 のそのそと立ち上がり、防具を整え、黒髪をうなじの辺りで結び直す男の背中。

 シヅキが見つめるその先に、先の剣呑な気配は見られない。くるりと振り向いた男は、出会ったときと同じようにニカリと子どものように破顔する。

 ふっと息を吐いて、シヅキは小さく頷き返した。確かにどこかで見たことのある顔だったと、そう思う。

 それは、一度は暗がりに沈んだものの表情だ。「死」に触れ、「生」に焦がれるそのものの……

 

「おッ。起ぎたかい。コレ、土産に持ってッたらいいっぺよ。蒸し器でちょィと熱したらァ、すぐにホッカホカだべ」

「うおっ、肉まん!! うわぁ、都会じゃ有名なんだよな、コレ? ずっと食べてみたかったんだよ、アキツネ! ありがとうな!!」

「えッ、昨日なかったよねそれ!? 肉まん! 肉まんー!! 肉まんくださいっやくめでしょ!!」

 

 仄暗い思考は、アキツネの出現によってそっと人知れず祓われていった――「肉まん」にはそれだけのパゥワーがあるのだ!

 手を振り、笑顔を交わして、南天屋と黒髪男は別れた。この瞬間、このひとときだけは、何時になっても仄かな寂寥をもたらすものといえる。

 振り返らない黒髪の一本結びを、シヅキはきゅっと眉根を寄せて見送った。アキツネ、次いで出てきたメヅキに名を呼ばれ、太刀使いの若者も自らの居場所に帰っていく。

 

 

 

 彼等の道は、再び分かたれた。

 緋に塗れ、暗がりを這いずり、己が帰路を見失い、歴々たる時代をも飲み干して。それでもなお、狩り人達は前へと進むだろう。

 今日、昨日に交わした酒と言葉こそが、暁の冥き空に灯火を点すことを信じて。交差し行く道、伝説へ至れ。

 迷える者達に光あれ――「限りない、ご武運を」。

 

 

 

 …Bonus ??? Track…

 

 

 

「――ということで、フルフルベビーの活用法はズバリ『バルバレの名物料理に加工する』となったわけだが。異論は」

「あんなぁ、ペッコちゃん。そないなこと言うて、まぁた南天屋に箱一つ押しつけたーて聞いたんやけど」

「……一箱くらい勘弁してくれ。あんたにも贈賄するから、構わんだろう」

「袖の下は蜜の味、ていうもんなぁ」

「言わん」

「在庫もボチボチやしね。ア、あとでウチとウラにも龍ノコハク酒、貰えたら嬉しなぁ」

「知ってるんじゃないか贈与先を増やすな」

 

 

To be continued…?

 

 






アキツネさんが大抵キレながらの登場になっていますが、本来の彼は初対面orお客人に対していきなりキレ散らかすような暴君などではありません。マジでごめんなさい。
解釈甘め…とは…… 。・゚・(ノД`)・゚・。

ユカとオズさんのやりとりについては、こちら(https://syosetu.org/novel/308085/)を参考にしています。

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