プリンセスコネクト!!Re:DIVEアナザーストーリー 作:タピオカ&ピスタチオ
少年の真実の入り口
――ランドソル城――
一日目・夕方
「それで、リッチモンド商工会は何と?」
「んー、該当品はないって」
「トワイライトキャラバンも、危険な魔力の残滓こそあれ、
発動条件を含め不明とのことッス!」
「そうか……。うん、わかったよ。二人ともありがとう」
数日前に持ち込まれた魔導腕輪――マジックリングは、現在ランドソル城にて保管され、王宮騎士団主導のもと、解析が続けられていた。
二人の供述によれば、昨今、城下を騒がせている異変の発生源と目される森林へ向かった際、意識を失った少年を発見したという。
付近に落ちていた市販品の魔導書と、少年のポケットから見つかったマジックリング。
現在、腕輪は製法や魔力の残滓が未知数であるとして警戒され、二次解析へ回されていた。
「……まったく、話題に事欠かないね」
「ふふっ。何やら面白いことになっているじゃないかっ♪」
「君は……。どこに行っていたんだ?」
「なあに、れっきとした職務上の遠征さ」
「報告は受けていないけど」
「怪しいなぁ」
「信用がないとは哀しいものだな。まあいいさ。
帰参早々恐縮だが、件の逸品を拝見したい」
「構わないよ。まあ、君の歓心をそそる類かどうかさえ、
判断が付かないけどね」
「ふっ。それを決めるのはワタシさ」
――ランドソル商業地区一日目・夕方――
「それで、アンタはどうしてあんな所にいたのよ?」
少年は、自分をカイトと名乗った。
食後、一行はトワイライトキャラバンの診療所へ向かうことになった。街の案内も兼ねた遠回りの道中、付き添いはキャル、ユウキ、コッコロの三人。ペコリーヌは、急な公務のため離脱していた。
「……よく覚えていないですけど、森で迷って、
魔物から逃げる途中で――」
「――魔力が欠乏したってこと?」
「……はい」
キャルは嘘だと気付いていた。
しかし、その嘘には真実も混じっていることも、同時に理解していた。
「アンタ、ギルドハウスにいる最中、ずっときょろきょろとしていたわね。
見ず知らずの人や場所にそうなるのは、仕方ないでしょうけど」
カイトの素振りは、かつての自分の写し鏡のようだった。
人から何かを騙そうとする目。
自らの核となる秘密を、今にも話してしまいそうな弱さ。
常に逃げ道を探すように俯く癖。
キャルには、それが痛いほどわかった。
「アンタには悪いけど、腕輪は預けさせてもらったわよ」
「……っ」
カイトが、露骨に狼狽する。
「ま、アンタがたとえ被害者であっても、私の眼の色は変わることはないわ。
アンタにはアンタの目的があるように、私にも私の使命がある。
たぶん、アンタもわかってるでしょう?」
「あの腕輪は……あれだけは、僕の大事なものです」
「……でしょうね」
「むぅ。キャル様もカイト様も、並々ならぬ雰囲気でございますね。
喧騒で聞き取れないです」
「キャル、こわい」
「心配でございますね」
前を行くユウキとコッコロが、頻りに二人を気にしている。
そんな様子を、街の影から二つの目がじっと見つめていた。
――ランドソル城――
一日目・夜
夜の城は、騎士団の行き交いで騒がしかった。
ジュンは部屋の中で漆黒の鎧をまとい、影の中に鋭い双眸を光らせていた。
「そろそろ正直に話してくれないかな、カイト君」
「……」
「強硬的な態度をとるのは性分じゃないんだけどね。
もっと君に寄り添った質問から入ろうか。
経過の方はどうだったか?」
「特に別状はありませんでした」
「そうか。それは何よりだよ。まあ、報告は受けていたけどね」
「……」
「ふむ。懸念するほどでもなかったけれど、言葉はちゃんと通じているようだ。
少なくとも、大陸の人間みたいだね」
「あの……腕輪は」
「安心してくれて大丈夫だよ。
解析にかけているとはいえ、そう無下に扱う無作法はしない。
君に返却するかは、まだ要相談なのだけどね」
「あれは、あれは大切なものなんです」
「大切か」
ジュンが、一拍置く。
「ところで、君に今回、御足労願ったのは、他でもない腕輪の件が主旨だけれど、
同時に、こちらが抱えている問題の参考人でもあるからなんだ」
「問題?」
カイトの顔に疑問が浮かぶ。
壁に背を預けていたキャルは、鋭い鑑識眼で少年を観察していた。
キャルの疑惑は、「カイトが異変の元凶か」という一点に集約されていた。
「アンタが腕輪を使って、何かを企んでいたんじゃないの?」
「え?」
「え?」
「……違うのかい?」
「企むって、何をですか?」
「……アンタ、腕輪の効果は知ってるの?」
「……はい」
カイトは、静かに答える。
「腕輪を装着した対象を、
魔力を注ぎ込んだ当人が操るものです」
ランドソル商業地区
一日目・夜
「千里真那、覇瞳皇帝の後始末以来だね」
「御無沙汰しております」
「ひさしぶり」
ラビリスタの登場に、コッコロとユウキが反応する。
「傷も癒えたみたいで何よりだよ。
街も、人も、活気を取り戻した。
ひとまずは安心だね」
「その顔を見るに、またごたごたに巻き込まれているみたいだね。
まあ……君たちなら仕方ないことなのかもしれないけど」
「厄介続きでございます」
「……この世界は、たくさんの人の希望と絶望のもと、成立っているんだ。
表向きの平和を成り立たせているのは、いつだって絶望のなかで希望を求める誰かなんだよ」
ラビリスタは、ユウキへ視線を向ける。
「君は、そんな人たちに希望を指し示す役目を持っている、のかもしれないね」
ラビリスタは、最近起きている魔物化現象についても事情を聞いていると語った。
「名前までは知らなかったけど、原因を取り除くとなると、
カイト君との信頼関係構築は大事だと思うよ」
「何かご事情があると?」
「隠しているのか、封じられているのか。
何にせよ、君たちだって、彼と異変とが何の関係もないなんて考えていないでしょ?」
「まっ、君たちの視点が突破口になるかもしれないね。
状況、場所、言動。どれをとっても黒く見えるけれど、
『そう思わせたい』からってこともあるものだからね」
不意に、ラビリスタが顔を背ける。
「私はそろそろお暇するよ」
「大丈夫。影ながら見守ってるよ」
ラビリスタは、ユウキへ目配せを残し、夜の闇へと消えた。
その後ろから、キャルとカイトがやって来る。
「コロ助! ユウキも、まだこんな所で油売ってたの?」
――美食殿ギルドハウス一日目〜二日目・深夜――
カイトは、物置のベッドで仰向けになっていた。
軋む家鳴りが、迫りくる足音のように聞こえて眠れない。
枕元には魔導書がある。美食殿の信頼の証だろうか。
だが、腕輪は戻っていない。
「……父さん」
信頼は、血縁にとって最も大切なものなのか。
城からの帰路、カイトの足取りは重かった。
自分への疑い。冤罪。あるいは罪業。
カイトはまだ十二歳だが、この世界に甘さはなかった。
窓に、カタンと音がした。
カイトは這い出し、裏庭へ出る。
直感した。
「心配する必要なんて、なかったんですね。母さん」
拾い上げたのは、鈍い赤色を帯びた腕輪だった。
在るべき主の下へ。
在るべき場所へ。
「……アンタ、何してるの?」
キャルが立ち尽くしていた。
視線は、カイトの右腕にある腕輪へ向けられている。
「どうして……」
「ああ、キャルさん。これですか?
僕を形成する物ですから、物から僕のもとへ帰って来たんです」
「解析にかけていたのは偽物だった?
それとも、あたしたちに内緒で、実はもう一つ持ってたって訳?」
「まさか。唯一無二ですよ。
これが二つとあるなんて、あり得ません」
「じゃあなに?
腕輪が足でも生やして、アンタのところまで戻って来たってこと?」
「さぁ?
ただ、そんなに珍しい話ではないでしょう。
強く願えば叶う。
僕の場合、これは僕を衛るために在る」
「ふんっ。やけに饒舌ね。
それがアンタの本性?」
「本性と言えば、本性ですね。
ああ、そうでした。
腕輪の効果については、お話ししてましたね」
「アンタの話が正しければ、アンタは今、誰かに操られてるってことになるわよ」
「それなら、僕の言葉は誰かの言葉ということですね」
「……? 要領を得ないわね。
操られてるのか、アンタそのものなのか、はっきりしなさいよ」
「そのどちらかって、そんなに大事ですか?」
「もう! 面倒ね!
良いわ、こうなったら無理矢理にでもアンタから腕輪を奪うわ」
「血気盛んですね。
僕はベッドに魔導書を忘れて来たので、
取りに行く間くらい待っててくださいよ」
「馬鹿ね!
魔法使いとして三流も良い所よ」
「三流で結構です」
カイトが死角へ飛ぶ。
キャルは躊躇を覚えた。
ユニオンバーストは禁じ手。ならば――
「痺れてなさい!」
紫色の稲妻の球体が宙に浮かぶ。
死角を突いたカイトへ放たれた。
カイトは外套を脱ぎ、闘牛のように電撃をいなした。
「いや、殺す気ですか!?」
「ちっ」
次の魔法。
カイトは距離を取るために走る。
「今!」
二発目の電撃。
今度は家屋を避け、森の側へ。カイトの左半身を掠める軌道。
つまり――
「ペコリーヌ!」
「なっ!?」
壁を走るペコリーヌ。
寝間着のまま、プリンセスソードを構えている。
万全のペコリーヌとキャル。そして無防備なカイト。
力の差は歴然だった。
「えっと、これってどういう状況でしょうか☆」
「見た通りよ」
「折角、善い夢を見てたのにー」
「それは申し訳ないです」
「カイトくん、どうしちゃったんですか?
ヤバイ雰囲気を感じますよ!」
「アレよ」
「ん! あれ!?
どうして腕輪を持ってるんですか!?」
「在るべきところに帰って――」
「知らないわ」
「城から腕輪が羽を生やして飛んで来たんでしょうか」
「キャルさんと発想が同レベルですね」
「……何だろう、すっごいショックなんだけどっ!」
「詳しいことは分かりませんが、
取り敢えず正気を取り戻して貰いましょう」
「僕は正気ですよ」
「あんたは黙ってなさい」
「……すみません」
ペコリーヌが見逃すはずがない。
強烈な蹴りが、カイトの背中を木立へ叩き付ける。
カイトは気絶した。
二日目・昼
目が覚めると、物置のベッドだった。
昨晩のことは夢のようだが、足元で眠るキャルの存在が、現実を突きつけてくる。
「……ああ、そうか。
あの時も、キャルさんがそこにいたんですね」
――二日目・昼過ぎ――
「すみませんでした。ご迷惑をおかけしました」
「本当よ……ったく。
二階まで運ぶの、大変だったんだからね」
「本当は私が背負って行こうとしたんですけど、
キャルちゃんがどうしてもって言うから」
「ちょっ、ペコリーヌ!」
「そうなんです。
キャルちゃんの背じゃ小っちゃくて背負えないからって、お姫様だっこで――」
「魔法で浮かせたわ」
「あー、もう」
キャルが問う。
「で、今のアンタはどっちなの?」
「昨晩は、気が増長していただけです。
あの腕輪の本来の効力であれば、僕の意識ごと奪ってしまえますから」
「……誰がアンタを操ってんのよ」
「……僕の、母です」
カイトは語る。
父から託された腕輪。
母がつくったもの。
父は、会わせられないが、母が託したと言っていた。
「……」
ペコリーヌは同情する。
しかし、キャルだけは、カイトに巣くう暗澹たる事実を見抜いていた。
続く