プリンセスコネクト!!Re:DIVEアナザーストーリー   作:タピオカ&ピスタチオ

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第1章三部
腕輪の秘密


〇ランドソル城(1日目夜)

 

 夜間のランドソル城は平素であればアストライア王家の居室を始め、使用人、国家運営の役人らの居住区、その他末端の兵士までさまざまに活動しているために至る所に証明の仄かな灯が見えるが、どうにも今宵は些かに明々としているように思われる。取り分け王家旗下、王宮騎士団(NIGHTMARE)の行き交いが一際に騒がしい。ギルドマスターを拝命するジュンの指示が下り、ギルドの面々が齷齪している最中、当のジュンは城内のとある一部屋に坐し、夜目に紛れる漆黒の鎧を装備し、その面頬の奥の余り暗い影から鋭い双眸が向いの少年をねめつけていた。

 

ジュン「そろそろ正直に話してくれないかな、カイト君」

 

カイト「……」

 

ジュン「こう強硬的な態度をとるのは性分じゃないんだけどね。もっと君に寄り添った質問から入ろうか。経過の方はどうだったか?」

 

カイト「特に別状はありませんでした」

 

ジュン「そうか、それは何よりだよ。まあ、報告は受けていたけどね」

 

カイト「……」

 

ジュン「ふむ、懸念する程でもなかったけれど、言葉はちゃんと通じているようだ。少なくとも大陸の人間みたいだね」

 

カイト「あの……腕輪は」

 

ジュン「安心してくれて大丈夫だよ。解析にかけているとは言え、そう無下に扱う無作法はしない。君に返却するかはまだ要相談なのだけどね」

 

カイト「あれは、あれは大切なものなんです」

 

ジュン「大切か」

 

 ジュンはわざとらしく一拍措いて、

 

ジュン「ところで、君に今回御足労願ったのは、他でもない腕輪の件が主旨だけれど、同時にこちらが抱えている問題の参考人でもあるからなんだ」

 

カイト「問題?」

 

 カイトの顔に怪訝な色が浮かぶ。壁に背を委ねながらに話を聞いていたキャルは、街で見せたあの鑑識の目で少年を観察していた。あたかもカイトの疑問の表情に、キャルもまた疑惑を覚えた。先日、カイトを発見した森に美食殿が訪ったのは、元はランドソルにて発生した異変の調査のためである。腕輪の問題と異変とは浅からず関係があるのは腕輪の魔力の残滓からして間違いはない。異変の根源とされる森に、カイトと腕輪……、出来すぎている感は否めないが、森での魔物との戦闘の折に認めた影響も、その腕輪の効力の一端と鑑みれば仮説としての効力は十分にある。ランドソルに蔓延る異変も腕輪の影響と視ても、以前のシャドウの事にしても、キャルのプリンセスナイトの権能の事にしても、それら魔物の制御や人間を術中にかける行いが一つ腕輪の効果でまかなえるオーバースペックさは驚きものだが、そうであったとすれば疑問は一気に払拭される。

 だからこそ、キャルの疑惑は、『カイトが諸々の異変の元凶であるのかどうか』に集約される。もっと言えば、カイトが意義の下、腕輪を用いたのか、であろうか。

 

キャル「アンタが腕輪を使って何かを企んでいたんじゃないの?」

 

カイト「え?」

 

キャル「え?」

 

ジュン「……違うのかい?」

 

カイト「企むって、何をですか?」

 

キャル「……アンタ、腕輪の効果は知ってるの?」

 

カイト「……はい」

 

 首肯するカイトにジュンやキャルは無言のまま続きを促した。

 

カイト「腕輪を装着した対象を、魔力を注ぎ込んだ当人が操るものです」

 

 

・・・・・

 

〇ランドソル商業地区(1日目夜)

 

ラビリスタ「千里真那、覇瞳皇帝の後始末以来だね」

 

コッコロ「御無沙汰しております」

 

ユウキ「ひさしぶり」

 

ラビリスタ「傷も癒えたみたいで何よりだよ。街も、人も、活気を取り戻した。ひとまずは安心だね」

 

コッコロ「キャル様も、ペコリーヌ様もすっかり元気を取り戻されましたし……」

 

ラビリスタ「その顔を見るに、またごたごたに巻き込まれているみたいだね。まあ……君たちなら仕方ないことなのかもしれないけど」

 

コッコロ「厄介続きでございます」

 

ラビリスタ「……この世界は、沢山の人の希望と絶望のもと成立っているんだ。表向きの平和を成り立たせているのは、いつだって絶望のなかで希望を求める誰かなのさ」

 

 ここまで言って、ユウキへ顔を向けると、

 

ラビリスタ「君は、そんな人たちに希望を指し示す役目を持っている、のかもしれないね」

 

 ユウキはラビリスタの言葉の含意を理解しているのかは定かでないにしても、言葉に籠められた意志の凄味を感じて瞠目していた。コッコロは自身の主の表情から、あの時、覇瞳皇帝に勝を制する間際の勇気と決意の強さを認めた。彼女にして何処か寂しげに感じる成長の証拠であった。

 

ラビリスタ「実は、私も事情だけは小耳にはさんでるんだ。ランドソルでここ最近起きている魔物化現象。真那の時とはまた異なるし、ランドソルに対して明確な敵意はないみたいだよ。私以外にも七冠が一部動いているみたいだね。流石に事が大衆にまで及んでいるんだから静観を決め込めるほど世俗を疎んじてはいないよ」

 

コッコロ「では、カイト様のことも?」

 

ラビリスタ「……名前までは知らなかったけど、原因を取り除くとなるとカイト君との信頼関係構築は大事だと思うよ」

 

コッコロ「何かご事情があると?」

 

ラビリスタ「隠しているのか、封じられているのか、何にせよ君たちだって、彼と異変とが何の関係もないなんて考えていないでしょ?」

 

コッコロ「ですが……」

 

ラビリスタ「まっ、君たちの視点が突破口になるかもしれないね。状況、場所、言動、どれをとっても黒く見えるけれど、『そう思わせたい』からってこともあるものだからね」

 

コッコロ「それはどういう……」

 

 と、不意にラビリスタが二人から顔を逸らし、明後日の方へ足向きを変えた。

 

ラビリスタ「私はそろそろお暇するよ」

 

コッコロ「ラビリスタ様?」

 

ラビリスタ「大丈夫、影ながら見守ってるよ」

 

 ラビリスタはユウキへと目配せすると、さっさと夜の闇へと消えて行った。その背後からキャルとカイトが遣って来た。

 

キャル「コロ助! ユウキもまだこんな所で油売ってたの?」

 

 

・・・・・

 

 

〇美食殿ギルドハウス(1日目~2日目深夜)

 

 ペコリーヌが帰宅して、皆で食事を摂った後、早々と灯が消されたギルドハウス。冬の夜半は、木立の輪郭が克明に描かれるほど、凛として冴えわたっていた。虫の鳴声はどこか遠く、その癖にたまの風音は冥き森奥に巣くう獣の遠吠えのようであった。

 カイトは物置のベッドのうえで仰向けになっていた。家屋を構成する木材が乾燥で軋みを上げて、無機的な家鳴りを立てていた。その音が自分に迫って来る足音のように聴こえて一向に眠れない。今日一日で酷く疲れている筈なのに、目覚めるまでの数日間の睡眠の蓄積で冴えているのかもしれない、などと成る丈自身の裡で疼く怖れを遠ざけようと楽観的な思考を絶え間なく繰り返した。

 枕元にはカイトの魔導書が載っていた。美食殿のカイトに対する信頼の一端とでも言いたいのだろうか。腕輪は未だ取り戻せていない。カイトにとってあれは掛け替えのないものであると言うのに。

 

「……御父様」

 

 信頼。それは血縁関係にとって最も大切なことなのか?

 今日の皆の目だってそうだった。何よりも信頼を重んじる目。自分が意義的に行動をおかしていないと知った時の目。城から解放されて帰路を往く間じゅう、カイトの足取りは懶惰で物憂いものだった。脳が正常に機能していないのか、熱でもあるのか。ただ、自分が周囲の目の中心に在ること、それが冤罪であれ、罪業のためであれ、こういう時、カイトは熱に浮かされるかのように頭が重くなる。ランドソル城での聞き取りの時分も正に症状に苦しめられていた。熱と目、親の信用と隣人の信用……。カイトはまだ十二歳であった。それも今秋のことである。だが、この世界において年齢の云々で特別視されるほど甘くない。カイトより年下で立派な魔法使いなどごまんといるし、大人顔負けの武人だっている。そして、美食殿で、ランドソルで、カイトが唯一特別視されるのは当人の能力ではなく、身に着けていただけの腕輪であった。少なくともカイトはそう信じ切っていた。

 

 窓にカタンと何かが当る音がした。勿論、外から与えられた音である。

 カイトはひっそりとベッドを這い出、静かに窓を開けてみる。地面へ顔を落してみると、生い茂る草の一帯を押しつぶして月光を被けて表面が薄く明るめられたものがあった。すぐに確信した。

 カイトは摺り足で部屋を出、廊下を進み、玄関を開けた。裏庭にそれ、敢えて草を踏みつけにして歩いた。自室として宛がわれた物置の直下に立った。そして、小さく口辺を歪ませて呟いた。

 

カイト「心配する必要なんてなかったんですね、御母様」

 

 それを拾い上げる。微かに鈍い赤色を帯びた、腕輪。

 在るべき持主の下に戻り、在るべき場所に装着される。

 

キャル「……アンタ、何してるの?」

 

 振り返るとキャルが立ち尽くしていた。物音を極力立てないように細心の注意を払っていたものだが、矢張り彼女には筒抜けだったようだ。

 そして、キャルはカイトの右腕に通された腕輪に目が行った。背中に回していた右手が僅かに震えた。彼女は隠しているつもりだろうが、杖の穂先が細い体に隠し切れてはいなかった。

 

キャル「どうして……」

 

カイト「ああ、キャルさん。これですか? 僕を形成する物ですから、物から僕のもとへ帰って来たんです」

 

キャル「解析にかけていたのは偽物だった? それともあたしたちに内緒で実はもう一つ持ってたって訳?」

 

カイト「まさか。唯一無二ですよ。これが二つとあるなんてあり得ません」

 

キャル「じゃあなに? 腕輪が足でも生やしてアンタのとこまで戻って来たってこと?」

 

カイト「さぁ? ただそんなに珍しい話ではないでしょう。強く願えば叶う。僕の場合これは、僕を衛るために在る」

 

キャル「ふんっ、やけに饒舌ね。それがアンタの本性?」

 

カイト「本性と言えば本性ですね。ああ、そうでした、腕輪の効果についてはお話ししてましたね」

 

キャル「アンタの話が正しければ、アンタは今誰かに操られてるってことになるわよ」

 

カイト「それなら僕の言葉は誰かの言葉と言う事ですね」

 

キャル「……? 要領を得ないわね。操られてるのか、アンタそのものなのか、はっきりしなさいよ」

 

カイト「そのどちらかって、そんなに大事ですか?」

 

キャル「もう! 面倒ね! 良いわ、こうなったら無理矢理にでもアンタから腕輪を奪うわ」

 

カイト「血気盛んですね。僕はベッドに魔導書を忘れて来たので、取りに行く間くらい待っててくださいよ」

 

キャル「馬鹿ね! 魔法使いとして三流も良い所よ」

 

カイト「三流で結構です」

 

 言うが否やカイトはキャルの死角へ飛んだ。キャルはワンテンポ遅れて杖を構える。と、そこでキャルは躊躇いを覚えた。キャルの火力をカイトに叩き込んでしまうことへのものではなく、森を、ギルドハウスを炎上させてしまいかねないことに対してである。所謂ユニオンバーストは禁じ手と言えた。同時に自身の魔力を特攻に集中させる手も有り得ない。ならば、

 

キャル「痺れてなさい!」

 

 魔導書が紫色に輝きだすと如何にもな稲妻を纏った球体が宙に浮び上った。キャルの魔力運用は覇瞳皇帝との一件を経てより熟達していた。対魔物を想定した場合、周囲にもお構いなしに電撃が拡がるものを、球体に接触した対象にのみに絞っていた。死角を突いたカイトに球状の電撃が翔ぶ。カイトは咄嗟に身を翻すと、外套を脱ぎ、球体の衝突に合せて外套から手を離した。半ば闘牛をいなすムレータの要領である。電熱服でもない外套は、しかしカイトのミスでもあるのだが、裾の部分の繊維を擦るだけであった。外套とカイトの体の間で球体は通過し、その直線状に亭と立つ木立の幹を穿った。樹冠は支えを失ったためにゆっくりと傾き、隣の木立に支えられる形で停まった。

 

カイト「いや、殺す気ですか!?」

 

キャル「ちっ」

 

 キャルの舌打ちがどれ程本気であったかをカイトは判断出来る程関係は進んでいなかったが、幹に空いた穴で確と確認できた。

 カイトが肝を冷やしている間、キャルは既に次の魔法の準備を始めていた。カイトは同業のする魔力のうねりに気付くと、距離をあけるべく再び走り出した。江戸時代の半身の姿勢で走っており、決してキャルから注意を外していなかった。

 しかし、結果としてキャルに軍配が上がることとなった。

 

キャル「今!」

 

 二発目の電撃が放たれる。今度は走るカイトを直接狙いはせず家屋は狙わず、森の側へ、カイトの左半身を掠めるような軌道をしていた。カイトには狙いが読めなかった。恐らくギルドハウスに損害を与えるのを避ける甘さに起因したものと考えられるが、奔る電撃の先に立つキャルに甘さにあたる顔は浮かんでいない。

 つまり、

 

キャル「ペコリーヌ!」

 

カイト「なっ!?」

 

 慌ててカイトがギルドハウスを、詳しくは二階部を見上げると壁を走るペコリーヌの姿があった。常識外れの身体能力に呆気に取られるカイトにペコリーヌは急ごしらえであろうプリンセスソードとティアラを装着しただけで上下は寝間着のままである。そんなアンビバレンツな恰好はさておき、ペコリーヌの走力とキャルの電撃とに追われるカイトは先ず電撃の回避に徹した。身を翻して危なげなく電撃を見送ると、即座にペコリーヌの攻撃をバク転で躱した。丁度足下の外套を拾い上げ、襟を掴んだ。風に煽られた外套はふわりと空気を孕んで宙に泳いだ。

 一見、奇術師のようないでたちである。

 

ペコリーヌ「えっと、これってどういう状況でしょうか☆」

 

キャル「見た通りよ」

 

ペコリーヌ「折角善い夢を見てたのにー」

 

カイト「それは申し訳ないです」

 

ペコリーヌ「カイトくんどうしちゃったんですか? ヤバイ雰囲気を感じますよ!」

 

キャル「アレよ」

 

ペコリーヌ「ん! あれ!? どうして腕輪持ってるんですか!?」

 

カイト「在るべきところに帰って——」

 

キャル「知らないわ」

 

ペコリーヌ「城から腕輪が羽を生やして飛んで来たんでしょうか」

 

カイト「キャルさんと発想が同レベルですね」

 

キャル「……何だろう、すっごいショックなんだけどっ!」

 

ペコリーヌ「詳しいことは分かりませんが、取り敢えず正気を取り戻して貰いましょう」

 

カイト「僕は正気ですよ」

 

キャル「あんたは黙ってなさい」

 

カイト「……すみません」

 

 機先を制したのはペコリーヌだった。カイトは俊敏な身のこなしで回避するも、キャルにまで注意を払うのには苦心している様子。矢張り剣士には剣が必要なように、魔法使いには魔導書が必要不可欠である。否、特に魔法使いは魔導書なしでは太刀打ちできない。ペコリーヌはプリンセスソードがなくとも己が拳だけで事足りる。万全なペコリーヌとキャルと無防備なカイトとでは絶望的な力の差があった。それは、時を追う毎にだんだんと明確に状況にあらわれた。

 そして、カイトが隙を見せたほんの一瞬間をペコリーヌは見逃さず、木立へ向け強烈な蹴りを放った。カイトは防御の構えこそできていたものの、大きすぎる衝撃に体は簡単に宙に舞い、勢いよく木立に背中を叩き付けられた。反動で空気を吐き出すと、そのまま気絶してしまうのだった。

 

 

・・・・・

 

 

 

〇美食殿ギルドハウス(昼過ぎ)

 

カイト「すみませんでした」

 

 食卓に就いた所で満を持したようにカイトが頭を下げた。

 

カイト「ご迷惑をおかけしました」

 

キャル「本当よ……ったく、二階まで運ぶの大変だったんだからね」

 

ペコリーヌ「本当は私が背負って行こうとしたんですけど、キャルちゃんがどうしてもって言うから」

 

キャル「ちょっ、ペコリーヌ!」

 

カイト「そうだったんですか?」

 

ペコリーヌ「そうなんです。キャルちゃんの背じゃ小っちゃくて背負えないからってお姫様だっこで——」

 

キャル「魔法で浮かせたわ」

 

ペコリーヌ「あー、もう」

 

カイト「魔法で、ですか」

 

キャル「なによ、不満でもある?」

 

カイト「いえ……」

 

 他の面々にとっても今日最初の食事だったらしく、誰一人口を開くことなく淡々と食器の鳴る金属音だけが食卓に響いていた。暫くしてキャルが、

 

キャル「で、今のアンタはどっちなの?」

 

と問うた。

 

カイト「昨晩は気が増長していただけです。あの腕輪の本来の効力であれば僕の意識ごと奪ってしまえますから」

 

キャル「……誰がアンタを操ってんのよ」

 

カイト「……僕の、母です」

 

 カイトに曰く、と言うより、カイト自身も父から聞いた話である。カイトの父から託される形で渡された腕輪は、母の手でつくられたと言う。

 

カイト「御母様のことは余り覚えていないのですが」

 

キャル「それで?」

 

カイト「でも、俤だけは覚えているんです。その姿は幼心にひどく執着していました。そんな時に父さんが、御母様には会わせられないけどあの腕輪だけは自分のために御母様が御父様に預けたのだと、そう聞いています」

 

キャル「……」

 

 キャルはカイトの話を聞きながら、カイトとその父母のいきさつや前後関係を整理、考察していた。ペコリーヌは同情の念をありありと浮かべながらに聴き込んでいた。しかし、キャルは、キャルだけはカイトに巣くう暗澹たる事実が見えていた。

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