プリンセスコネクト!!Re:DIVEアナザーストーリー 作:タピオカ&ピスタチオ
――ランドソル商業地区(昼)――
行商「ほら、坊主、最後これ運べ」
カイト「……」
行商「よし、これで全部だな。ったく、もう昼だな」
カイトは、ほどよく汗ばみながらも冬の澄んだ空気に心地よいのを感じながら、自分は何故こんな所でこんなことをやっているのか、と思った。もう何度、同じことを思ったのか。
行商「坊主にしちゃあ、なかなか根性あるじゃねえか。しけた面しながら、要領がいい。良い行商人になるぜ。俺が保障してやる」
カイト「……ありがとうございます」
行商「ウチで雇ってやってもいいぜ。ま、数年後の話だろうがな。結構なことだと思うぞ。なにせ俺はこの道20年の大ベテランだからな」
獣人族の男は豪快に笑った。 どうやら人さらいではなかったらしい。 カイトは安堵すると同時に、どこか人さらいであってくれた方が都合が良かったのではないかと思った。 何故なら、獣人族の男の呟きの通り、もう昼であり、恐らく朝食の段階で自分の失踪は美食殿の面々に伝わっただろうから、なるたけ早くここを、この街を離れるべきである。
カイト「皆さん、心配してるだろうな」
行商「……そういやよ、坊主。俺はこれから街を出て、売りに出掛けるが、お前はどうする?」
カイト「……どうしましょうね」
行商「……はあ、あんまりこういうこと言うべきじゃねえだろうがよ、一緒について来るか?」
カイト「え……」
行商「大人として失格だなこりゃ。まあなんだ、これも社会見学ってこった。無理強いはしねえし。後、親には内緒にしといてくれよ。怒られるなら坊主一人が怒られるんだな」
カイト「……すみません、折角のお誘いですが、お断り……」
ふとカイトは口を噤んだ。 少し考える素振りをした。
カイト「あの、ルートなんかは決っているんですか?」
行商「あ? おお、そりゃあな」
カイト「少し、気になっています」
行商「お、おお。急に乗り気になったな……と、ちょっと待ってろ」
獣人族の男は、後々馬を操る手綱を握る前板と荷台の板との間に挟んだ地図を抜き取り、荷台の小さなスペースに展げた。
行商「親父の代からの紙だからな、もうくしゃくしゃになっちまってるが、今回は……ここだ、この街から南下して、この辺り、よく冒険者が素材を採りに来るんだが、そこで仕入れと季節品の相場、そんで地域特需……言っちまえば、携行品が心許ない冒険者をターゲットに商売するってこった。割増でな」
獣人族のやや太い腕が地図を隠してしまっているために、カイトは身を左右上下させながら聞いた。
行商「坊主にはまだ早いかもしれねえが、ランドソルは城壁に囲まれている。これは外敵からの防御って意味じゃあ逞しい。だが、問題は」
カイト「内敵。だから前の戦いの被害がこんなにも大きかったのですね」
行商「まあ、それだけじゃねえが。だが、商売人の目線でいやあ、更に面倒な問題がある。わかるか?」
カイトは地図から目を離して、家屋の屋根を透して、城壁を見やった。
カイト「面積に限界がある、そういうことですね」
行商「流石、賢いじゃねえか。坊主の言う通り、要は城壁内での一次産業が難しいってことだ。実際、ここ商業地区と丘の中腹にある貴族街の土地は常にぱんぱんだ。そうなると、食料や工業資源なんかの生産に制限がかかる。その上で、この惨状だ。ランドソルの食料品だったり産業資源なんかは殆ど周辺都市だよりになってる」
カイト「……成程、つまり、貴方にとってランドソルは」
獣人族の男は返事の代りに指を鳴らした。
行商「取引先、ってこったな」
カイト「じゃあ貴方の感覚としては帰るということになるのですね」
行商「ああ。俺の住んでるのが、ここだ。行商に主要な街をこえた先にある」
カイトは、南に下った獣人族の男の住む町の更に南に目を配った。 そこには、先日、美食殿の面々に救助された森がある。 獣人族の男が言うには、彼の住む町までは、幌馬車で片道2,3時間といった所だろうだ。それを日帰りで往復した美食殿の、いや、恐らくペコリーヌさんの体力は驚嘆に値する。
カイト「……クルート?」
カイトは、地図の端に記された文字をちらと見た。 しかし、すぐに森の方を直視した。
カイト「……折角ですから、連れて行ってください」
行商「……はあ、俺が持ち出した話だってのはそうだけどよ。本当に大丈夫かぁ?」
カイト「はい、きっと良い経験になると思いますから」
カイトは自分でそう言って、胸がちょっと苦しくなった。 が、一人で歩くには時間がかかりすぎるし、ここで断って他の移動の方法を模索するには、美食殿の面々に見つかる危険性もあれば、それこそ金銭的な問題がある。 と、するならば乗りかかった船であるし、こちらの方がずっと目的に向けて有利だ。
行商「……本当に、ほんとに、親には内緒にしとけよ!」
獣人族の男はそう言って、さっさと停めてあるという馬の下へ駈けて行った。 カイトは一人、荷台の中に横になった。
カイト「……一緒に行けば良かったかもしれないですね」
じっとしていると多くのことを考えてしまう。少し晴れたような気がした心がまた靄に覆われていくのを感じた。
第3章幕 了