プリンセスコネクト!!Re:DIVEアナザーストーリー 作:タピオカ&ピスタチオ
商人とカイト
――ランドソル郊外(昼)――
獣人族の男は、カイトに簡単な食べ物を進めたが、食事という行為について、あの団欒を思い出してしまい、結局断ってしまった。
行商「もうすぐ、例の採取地だ。坊主にも商売手伝ってもらうぞ」
カイト「……わかりました」
行商「奥にある薬、薬品、携帯食、それと薬品の隣にある箱、すぐに出せるようにしていてくれ」
カイトは目視だけで、箱の居所を認めた。 道中、ギルドハウスを出てから動き続けていたカイトにとって、この暗がりと、幌に外気を必要最低限に限定された狭い空間は眠りへ誘った。 カイト「……キャル、さん」
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カイトが、眠りそうになっていた所で馬が止まった。 慣性でカイトは木箱の隅に肩をぶつけた。 カイト「っぅ!」
行商「おいおい、大丈夫か?」
カイト「ええ、問題ないです」
行商「それなら、さっさと動け。客は待ってくれないぞ」
カイトは、すかさず立上り、近くの箱に手をかけた。
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行商「……あと1つだ」
カイト「わかって……ます」
カイトは最後の一箱を外に出した。ほうほうの体である。 行商「よし。じゃあ、あそこののばした風呂敷に中身移してくぞ」
カイト「……は、い」
行商「それと、坊主、客の前に出る時はぁ、そのフードはとっとけ」
カイト「……え? あ、はい」
カイト、言われて初めて自身がフードを被っていることに気付いた。 移動中に被っていたのかもしれない。
行商「見栄えだけは整えとけよ。で、目に入る数は少なく! 不景気を装うんだ」
カイトはこの獣人族の男にある種親近感が湧いていた。商売の手法は、客の事情を理解し、それでいて利潤を得るところに基礎がある。両者はその関係において互恵的な利益を発生させる。つまり、この場合、取引相手が冒険者であるという都合上、完全なwin-winの関係とまではいかなくとも、取引の妥当性において言えば、この互恵的な利益に合致していた。
行商「あ、それと薬品は、なるべく陽の当たる所に置いておけよ。西陽があたって容器の中身を綺麗に見せるんだ」
カイト「……はい」
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――ランドソル近郊草原地帯(昼過ぎ)――
カイト「はけたのは半数近くでしたね」
行商「そういうもんだ。それに品につき単価が高いからな。半数売れたってんなら御の字だ。大体、冬場に仕事をする冒険者なんてもんはギルド御用達のエリートか、その日の日銭にも困ってる赤貧か、その二極の人間くらいだ。俺らの商売は、後者のような資金もねえ、道具も乏しい、それでいて安定してねえ……つまり、坊主、エリートとの違いの最たる部分に付け込む遣り口さ」
カイト「成程……依頼の途中に傷を負って仕方なく買い求める方々だけを対象としているのではなく、準備が万端とは言えない相手に対しても狙っているのですね」
行商「坊主もわかっていたろ、素材の採取といっても、時期からして母数は限られてくる。能あるやつがあえてシーズンを避けたとして、ここらはランドソルから行こうと思えば徒歩で行ける位置だ。そんな頭のまわるやつがわざわざシーズンオフの、しかも市場に出回ってる素材を採りにくるもんかよ」
カイトは沈黙していた。それを獣人族の男は肯定の沈黙と捉えた。
行商「……冒険者ってのは今時誰にだってなれるもんだ。そんで大抵、目的は富だの、名声だの、憧憬だの、そんなところだ。だがな、そういう“誰でもなれて、てっぺんがキラキラしてる仕事”っつうのは厄介だぜ。皆が皆、何者かになろうとして飛び込むが、真に何者かになれるやつは、その片鱗に背中を押されて飛び込んでるようなやつだ」
カイト「……」
行商「ま、坊主に言ったって仕様ねえな。お前が何になりたいとか知らねえし、前提として坊主は持ってる側だからな」
カイト「僕が、ですか?」
行商「商人の目利きってやつだ。伊達に長くこの道で食っていってねえからな」
馬をひく獣人族の男は進む先だけを見据えていた。カイトは高欄にまで深く座り込んでいる獣人族の男の背中を横目に見た。その姿にカイトはある核心を抱いた。
行商「町に着くまで暫く寝てろ。坊主みたいなひよっこには朝からの作業は大分クるだろうからな」
カイト「……わかりました」
こうは返したが、カイトは自分が眠れる筈がないと信じていた。眠る行為はあの部屋の記憶を思ってしまう。食べる行為はあの団欒の記憶を思ってしまう。カイトは獣人族の男の言うように、確かに「持っている側」であり、「賢い」人であった。この為に、カイトは自身の精神性の過剰な欠落も自覚していた。何故、眠れないのか、何故、食べようとできないのか。
カイト「……眠ろうと思えば。食べようと思えば」
水底の冥きを仰向けに沈んでいく中で射し込んだ万遍なる光のような、俯きながらに啜るスープにほのかな温かみを顔を上げた先に注いでくれるような、カイトにしてみれば、ギルドハウスでの生活はそういうものだった。
続く