プリンセスコネクト!!Re:DIVEアナザーストーリー 作:タピオカ&ピスタチオ
周辺調査
――森・AM0:09:23――
夜半の森は闇が充溢し、背だかの樹冠が月照を黒く揺れて隠し通していた。
男「ふふっ、漸う繋がったか」
男は薄緑がかった橙色の双眸を凝らして、周辺を見廻した。空気の流れが可視化されたかのように彼の瞳の動きに応じて、冷ややかな風が白髪をその方向に揺らした。
男「空間歪曲運動体裁定機構……。上手くいってくれたようだ。流石は我が子だ」
静寂の森である。微かな誰かの魔力の残滓が風に舞って掻き消えんとする森である。男は知らない土地に馳せるように、中空に向けて微かに顔を上げた。
男「“アストルム”。神の祝福せし大地、その光輝こそ偽りであると。我が手挟む鞘よ、我が幽玄永劫なる刃よ、虚仮の幽邃、烈烈たる巌の本然は豆腐であると——、我こそが、神の編む幻影雲霧を晴らしてくれよう」
――美食殿ギルドハウス AM4:17:54――
キャル「こっちはバッチリよ! ペコリーヌ、あんたも良いのね?」
ペコリーヌ「はいっ☆ んー、でも、あの人がまだ……」
キャル「コロ助が言う分には動物宛——自警団(カォン)の連中と話していたらしいわ。それももう二時間も前のことだから……ああ! アイツ、一刻も争えないってのにどこほっつき歩いてんのよ!」
キャルの苛立ちは致しかたなし、と言うよりも同情の余地さえある。凡そ四時間前にペコリーヌが公務の一部を王宮の役人や、騎士団(NIGHTMARE)に引き継ぎ、通りがかりのクレジッタに嫌味ったらしく政務への愚痴を言われ、各所にペコペコして来、ギルドハウスに帰ると、眠れそうもないキャルを寝台に無理矢理縛りつけた。ペコリーヌの疲労も大概であったが、日中のキャルの運動量は王家の装備を纏ったペコリーヌの全力の戦闘と良い勝負だったろう。
ペコリーヌ「大丈夫ですか、キャルちゃん? コッコロちゃんが帰って来るまでゆっくりしていても良いですよ?」
キャル「……はぁ、ペコリーヌに言われると複雑ね。あんただって働きづめだったじゃない」
ペコリーヌ「コッコロちゃんにご飯の準備をしてもらっているから安心です! それに私、そんなにやわじゃありませんから」
キャル「まあ、そうよね……シャドウの件といい、陛下の時だって、体力馬鹿だったわね」
キャルは嘆息した。
キャル「どちらにしろ、コロ助が戻ってくるまで動きようがないし、お言葉に甘えることにしようかしらね」
ペコリーヌ「はい☆ そうしちゃってください。大事な時におねむだといけないですからね」
キャル「はいはい」
キャルは踵を返して、手をひらひら振りながら階段を上がっていった。ペコリーヌはその姿を見送りながら、完全に見えなくなると、一息吐いた。
ペコリーヌ「カイトくん、皆さん心配していますよ」
ぼそりと呟いた。
その時、背後、玄関から物音がした。戸が開けられる。
コッコロ「お待たせしてしまい申しわけございません。只今、戻りました」
ペコリーヌは今しがた上階のドアが閉められたのを聴いたばかりなのに、今度は烈しく、思い切り開け放たれるのを聴いた。
〇或る町近隣平原 AM1:46:37
展けた平原は月あかりで、一面の草花を仄かに、どこか優しく照らし上げている。張り詰めた空気が、視界を凛として克明に描画していた。月は遥か高天に、雄大に、雲も霞も一つとかかっていない有りのままに空の一部を領していた。
カイト「……はぁ、はぁ……っ、はぁ」
町を出、ここまで走ったり歩いたりを続けていたカイトはまさしく疲労困憊であった。食欲はもううせていたが、代りに身心と頭脳のパフォーマンスが大幅に落ち込んでいるのを自分が想定よりもずっとそれらが全然機能していないことから痛いほど感じ取っていた。
カイト「無理にでも食べていれば、良かったですね」
だだっ広い平原に孤独に往くカイトは、大自然に囲まれて、生物の本能も手伝って、独り言も漏れる。ローブの懐に容れた魔導書と財布とがこすれて、騎士具の立てる金音が鳴っているようだった。
カイト「恐らくは……これの影響なのでしょう。お父様、いえ……決してあきらめてはいなかったとは知っていましたが、それでも、それでも……その果てに何があるのですか? お母様は何を求めていたのですか?」
カイトは、厚いローブと魔導書と赤い巾着財布と、腕輪をその身に課していた。しかし、それらでは到底説明のつかないような重量物を運んでいるような体の重さである。栄養不足がカイトには堪えている主因に彼自身は考えていたものの、副因に退けられつつ睡眠不足の方が、却ってカイトの思考に影響を及ぼしている。体力が落ちているのであれば、精神と根性とで歩を進める他ないのであるから、この点において、睡眠不足のデバフの方が本質的にはカイトの身には重い足かせになっている。
カイト「ビデスさんにも、オレットさんにも、悪いことしましたね。端からこうする積りでしたけれど、これも美食殿の皆さんに行った行為と同じことです」
朝は遠く、道程もまた遠い。カイトは、自分がやろうとしている事一切が、自身のため、引いては世界のためにもなると言う使命感があった。それが、カイトを突き動かしてものであろうことは間違いなかった。
そして、自分の背中を押してくれた言葉もまた——。
続く