田中リリス(582歳)   作:オクタマ共和国宣伝省

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第二話:覇権国家っていうけど爆増した国民の管理全部私にワンオペさせようってわけじゃねぇだろうな

「関東征服しちゃった……」

 

「完全包囲喰らった状態からでも案外勝てるもんですねぇ」

 

もう長いこと「関わんじゃねぞ、近づいたら殺すぞ」の精神で中立を保ってきた関東内陸の小国、それが我がオクタマ共和国である。一時期上層部のパッパラパーが調子に乗って暴れまわって内ゲバで空中分解したこともあったが、成立からおおよそ400年に渡って武装中立路線で生き残ってきた。

 

日本列島に戦国の嵐が吹き荒れようが、大陸からミュータントの大群が来寇しようが、徹頭徹尾我関せず。我々は我々でやってくんでよろしくの精神で蚊帳の外にあり続けてきた伝統的な平和主義国家なのだ。

 

それが、今回の戦争で関東平野一円を制圧するに至ってしまった。後は房総半島に追い込んだ敵軍の残党を圧殺すれば旧首都圏完全統一が完了してしまう格好である。伝統断絶だ。

 

「流石は旧世界の遺物を継承した我が国。やろうと思えば野蛮人如き一方的にしばき倒すことができるだなんて。もしかすると私のひいおじいさまの代の方々は必ずしも間違っていたわけではないのではありませんか?」

 

「理論上可能なことと、実際にやることの間には天と地ほどの差があるんだよセリメちゃん。力で大抵の問題を解決できることが示されると、それ以降は自分たちが力で解決されてしまう可能性が常に付きまとうことになる。革命への恐怖は圧政を生み、圧政は反って叛乱の火種を生む。後先考えずに腕力で物事を解決するのは、とても愚かな行為なんだ」

 

「でも今回は解決しちゃいましたよね」

 

「うん、そうだね。前回はその前の段階で内ゲバやらかしてすっころんだからね。今回は解決できちゃった。だからこそ問題なんだ」

 

問題とは、具体的に言うと私の労働量である。

 

「力を示しちゃったのも面倒なんだけどね、それ以上にね、今ね、我が国が占領している地域の住人と捕虜にした軍人さんたち、合わせて400万人くらいなんだけどさ。これって我が国の総人口の50倍なのよね」

 

「へえ、そんなにいっぱいいるんですか」

 

「これをね、まともな統治機関が私しかいないオクタマ共和国政府が管理してるの。神聖独裁官とかいう意味不明な肩書の人間もどき一匹に、そのすべての管理業務が押し付けられてるの、この意味が、君にわかるかなぁ?」

 

「大変ですね、がんばってください」

 

「大変どころじゃねぇわっ!!! 無理に決まってんだろこんなのやってられるかクソボケェ!!!!!」

 

なんだよ50倍ってお前、なんだよそのイカれた数字はお前、流石に死ぬぞ私お前。

 

「どーしよこれ。ホントにどーしよこれ」

 

「どうしようもこうしようも、さっさと戦争終わらせて「もう二度と攻めてこないでね」って条約を結んで撤退すればいいだけではありませんか?」

 

「そうしたいのは山々なんだけどねぇ~」

 

悲しいことにそういう訳にもいかないのが現実であった。どれもこれも私に隠れてミュータントの研究を進めてやがったサイタマ帝国とオダワラ連合王国の王家連中が悪い。200年前に情けをかけてやったのを忘れたのかあのクソガキ共は。あ、世代交代してたか。

 

「サイタマもオダワラも、ミュータント……私みたいな人外を研究してたっぽい。この手の研究ってほっとくと最悪私の首に届くレベルの人外がその辺からポップしかねないからヤバい。というか今回戦った敵の中にも少数だけどウチのガキ共と殴り合えるレベルの人外が混ざってたからもうかなりヤバい」

 

今回の戦争、サイタマ帝国の本拠地トコロザワ・ペンタゴンに悪ガキ共を放り込んで壊滅させたところまでは良かったのだ。その後「なんかおもしれーもんみっけたー」とか抜かしながら四肢を落とされ達磨と化したサイタマ帝国製強化人間を持って帰ってきた時はもうビビったね。蛮族かてめーらは。私が丹精込めて作った道徳のカリキュラムをどう流し聞いたらそうなるんだボケ。もうぜってぇお前らに政権渡してやんねぇ。

 

それはさておき、悪ガキ共が持って帰ってきた達磨さんである。調べたところ、サイタマ帝国の技術者はウイルスに感染させた後、狙った形質を発現させるというジーン改良術式の基礎概念をすでに完成させているらしい。もう頭痛がしてくる。勘弁してくれよ。

 

そして後日オダワラの方でも似たような研究成果が発見された。頭痛が倍になった。

 

「で、そんなカスみたいな研究データを見つけちゃったもんだからさ、とりあえずしばらくは占領統治して根絶しておかないと後々面倒なことになりそうってわけ。……というか、技術の拡散の程度によっちゃ最悪日本全土征服して虱潰しにする必要とか出てくるかも。やってらんねぇわぁ。だるぅ」

 

「ダルいと思うだけで、やってやれないことはないのが嫌になりますね。できない理由を探せなくなってしまいますから」

 

「それこそ、理論上可能なことと、実際にやることの間には天と地ほどの差があるって奴の実例だね。ま、当面の問題は関東の統治体制をどうするのかってことかな。流石に400万人を一人で管理は、無理。普通に死ぬ」

 

「無理というのはですね、噓つきの言葉らしいですよ?」

 

「まあ、うん、実際死にはしないよ。私の肉体の構造上過労じゃ死ねないからね。……こりゃもう脳みそ増やすしかないか〜」

 

無慈悲なる副官ロリ眼鏡の言葉に、私はある決心を固めた。過労で体は死なずとも、心は死ぬのである。これはリスクはあるが、ガキ共に政治を委ねるよりは余程マシな選択肢だ。少なくとも物理的に私の脳を増やすよりも健康的でもある。

 

「よし、それじゃあ面接をしよう」

 

「面接……ですか?」

 

「うん。今回の戦争で生け捕りにできたサイタマとオダワラの官僚と軍人さん、こいつらをオクタマ共和国で再雇用するの。で、私の下で馬車馬の如く働かせようって算段な訳。そのための面接をします」

 

「いいアイデアだと思いますよ。それなら我がオクタマ共和国の野蛮人を政権に組み込むことなく行政組織を大幅に拡大できます。まさに慧眼というほかありません、流石は我らが神聖独裁官様ですね」

 

「よせやい。我が国の知的人材の枯渇っぷりと人間的信頼性の低さに悲しくなってくるじゃないか」

 

ともあれ、慎重に検討を重ねた結果、このプランにはとりたてて問題がなさそうという結論に至り、生きて虜囚の辱めを受けた敗残兵の再雇用計画は実行に移されることとなった。

 

早速捕虜収容所から何人か頭良さそうなのをつれてくるように指示を出せば、鎖で繋がれた人々が私の執務室にゾロゾロと引っ立てられてくる。

 

「あー皆さん、本日は我がオクタマ共和国政府の官僚ポスト登用試験にお集まりいただき……」

 

「わっ私たちは誇り高きサイタマ帝国臣民っ! 貴様の如き人外と話すことなど何もない! 早く殺せ!」

 

「おおっ、なかなか生きがいいですねぇ。敵に捕らわれ、あからさまにヤバそうな見た目のミュータントの前に引き摺り出されても怯まずに噛みつくその叛骨心、そういうバイタリティの高さは国政に関わり続ける上で大事ですよ~。我々はタフな人材を求めてますから~。というわけで、あなた、採用です。ところでお名前お伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

「えっ」

 

408万人を養う政府を作ろうというのである。採用状況はスーパー売り手市場。人語が分かって読み書きそろばんができそうなら誰でも採用であった。大丈夫、これぐらいの選考基準でもうちのガキ共よりは賢いから。

 

斯くして、人類史上最少の政府は、そこそこ大きな政府へと一息に成長する快挙を成し遂げたのである。

 

「よしっ、最初は駄々こねてた捕虜連中も房総半島でとっ捕まえた王族を人質に取ったら真面目に働くようになったし、とりあえずこれで関東の統治は安泰だな」

 

「はい、さらに大増員によってリリス様が担っていた業務も一部を捕虜に代行させることが可能になりました。ので、本日からはこれまで週二回までだったリリス様の睡眠を週四回に増やすことができそうです」

 

「マジかよセリメちゃん! 私のクオリティオブライフ爆上がりじゃん! ビバホワイト環境! これならもっと早くほかの国の人材奴隷狩りに行っとけばよかったぜ!」

 

「すでにベッドメイクも済んでおります。本日はごゆっくりお休みください」

 

「やったー! おやすみー!」

 

再雇用計画は大成功であった。早くもその多大なる恩恵が私の生活に表れている。思わずスキップを踏みながら寝室に戻った私は、数日ぶりのベッドに頭からダイブして泥のような眠りに沈んでいった。

 

……そして目が覚めて、私は気だるい体をベッドから持ち上げ、身支度を整えて家を出た。

 

「おはようございまぁす」

 

「おはようございます田中先輩。なんか眠そすね」

 

「眠むそっつか、眠い。最近週2日しか寝れてなかったし」

 

「どんな暮らしすか。死にますよそれ」

 

「……確かに」

 

言われてみるとその通りだ。そんな暮らししてたら死ぬから、週2日睡眠生活なんて物理的に不可能なはず。いやでもそんな暮らしをしていたという確かな実感がこの胸にはあるぞ? うーん……。

 

「まあ良いか、寝ぼけてるだけだな」

 

私はそのまま普通に出勤して、普通に仕事をしていたら、普通に昼休みになった。

 

私は朝方に購入したコンビニ弁当を取り出し、後輩は愛妻弁当取り出す。愛妻?

 

「……ねぇ後輩くん。結婚ってさ、どんな?」

 

「まあ、幸せすよ。楽しいことは2倍で、辛い事は半分で済むんで、一般論すけど」

 

「そっかぁ」

 

「なんすか急に?」

 

彼の弁当はいわゆる茶色の弁当だった。作り手の実直な性格が滲み出るような弁当である。いいな、美味そう。後で唐揚げ強奪しよう。

 

「いや……なんかその……気になったから」

 

「はあ。ま、本来人間って群れで生活する動物らしいすからね、ほら、狩猟採集民族的な。日常的に抱き合ったりスキンシップしたりっていう、肉体的な接触が多いのが本来の人間なのに、現代だと結婚した相手とぐらいしかそーいうことできないじゃないすか。そういう意味でストレスのない暮しはできてますよ。また別のストレスはあるすけど」

 

「科学的な考察はいいよ。興味ない。……でも、私も現代の個人主義はそこそこクソだとは思う。ああ人肌恋しいわぁ~セックスしてぇ~」

 

30過ぎたし色々諦めて独身貴族を気取るだなんだという話もこの間したが、やっぱり寂しいものは寂しいのだ。

 

「あと、私も旦那に弁当作ってもらって周りに見せびらかしたい。それから金も足りねぇから働き手が二人になるのは単純にアド」

 

「その二つがメインすよね。見せびらかす云々はともかく、実際のところ最近は情勢不安だし、貯金は幾らあっても足りねーすよホント」

 

「あ、もうシェルターの枠取った? 私はこないだやっとこさ抽選通ったけど」

 

「シェルター公社に親族がいて、建設開始時点で家族枠分捕ってます。勿論彼の分も」

 

「公権力の癒着はっけーん。ネットに上げてリンチにしたるわ」

 

「今の平穏なネットに炎上できるほどの自由はないすよ。秒でアルゴリズムに排除されて終わりです」

 

二人で弁当を貪りながらシミジミと語り合う。嫌な時代になったものだ。

 

「……?」

 

その時、何か音が聞こえてきた。めちゃくちゃ喧しい電子音の繰り返し、誰かのスマホが鳴っているのだろうか? それにしては音量がデカすぎる気もするが。

 

「何の音だろ、うるさいなぁ」

 

「いや、これはあれの音すよ」

 

「だから何の音?」

 

「だから、先輩の目覚まし時計の音すね」

 

「……え?」

 

後輩の言葉が言い終わるが早いか、私は目を覚ました。枕元で喧しく鳴り響くアラームを殴りつけて黙らせる。見慣れた天井だ、オクタマ共和国首相官邸仮眠室、私が住み着いている部屋。

 

そうだよ。決まってるじゃないか。私は32歳じゃない、582歳だ。

 

「……」

 

私はベッドから身を起こした。当然だが、隣には誰もいない。目覚めのキスとか、抱きしめてくる人とかはいない。

 

まあ、私は強い女だから、問題ない。

 

「仕事、しなきゃ」

 

今日も一日が始まる。

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