継ぎ接ぎだらけの少年少女   作:鹿呂久陸

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第十話:ミガルーサの身は案外脂っこいらしい

019

 

 ――そうして。若干日が傾きかけていたものの、無事にその日のうちに、カカクタウンにたどり着く事が出来たのであった。

 

「なんかすっごい疲れた気がする……」

 

「だな」

 

 とは言ったものの、サンカは余裕そうである。

 

「そうだ、甘いものでも食べないか?このあたりの名物でな、こしあんの餅を、すまし汁に浮かべたものがあるのだ」

 

「へえ、おいしそうだな、それ」

 

 甘じょっぱい物と言うのは好きだ。サンカがこっちだ、と言うのに付いていくと、それなりの賑わいを見せる店があったので、そこに入った。賑わってこそいたが、並ぶほどではなかったので、すんなりと座る事が出来た。

 

「すみません、【けいらん】を二つ」

 

「はーい」

 

 なるほど、その料理はけいらんと言うのか――ほどなくして、それは届いた。出来立てで、ほこほこと湯気が立っている――。

 

「ほう、奇遇だな――そして偶然だなァ」

 

 そして。

 湯気とは対照的に。

 背筋から底冷えするような、不吉で不気味な声が、後ろから聞こえた――。

 

「十六日と十七時間七分振りか……いや、二日ぶり、だったな」

 

 その男はやはり。ハガネールを回収し、たましいの珠を押し付けた、不気味な男に他ならなかった――堂々と、犯罪予告のようなものをした男が、どうしてここに?

 

「ここのけいらんはいいぞォ?まあ、俺は食べないが……」

 

 と、男が食べていたのはあんこ餅であった。甘いものを食べていても、相変わらず不気味である。ちっともイメージがよくならないな……。

 

「あんた、どうしてここに?」

 

「なんだ、俺がここに居てはいけないのか」

 

「いや、まあ、あんな犯罪予告みたいなことされちゃあな」

 

 ふん、と男は鼻で笑い。

 

「犯罪予告?そんなこと、お前の前でしたことはないな」

 

「でも、神を堕とすって――この地方のポケモンに、何かしらするってことじゃないのか?」

 

「おいおい、この地方に伝わるのはあくまで『カミ』だ。俺が言っているのは神――表記が違うじゃないか。日本語――ではなく、言語は正しく使え、若人」

 

 まったく、いやな大人だ。

 それに――と、男が続けた。

 

「まさかお前は神を信じているのか?」

 

 ――ばかばかしい。

 

 神を堕とすだのなんだの言っておいて、それを信じていないとは……不気味で不思議な人物である。

 

 ぐい、と、男は茶を飲み干した。

 

「――アオイとマサユキ」

 

「え?」

 

 かん、と男は茶飲みを置き、ぼそりと、単語をつぶやいた。

 

「道中、男女二人組にあっただろう」

 

「――ああ」

 

 あの、リングマをぼろぼろにしていた。

 

「あいつらがなかなか戻ってこないのだが、何か知らないか」

 

「さあな」

 

 答えたのは、サンカであった。いや、これは一体何の意味がある嘘なのだろうか。と言うかそもそもウソか?虚言じゃないか?

 

「ふむ――大方、どこぞのラルトスとミカルゲにぼこぼこにされた後、ゴールドスプレーの効果を消され、今現在必死にリングマと追いかけっこをしているのかと思ったが――いや、お前らは知らないのならばいい。迷惑をかけたな――」

 

 さては……というか知ってるだろう、それ。知ったうえで聞いてきたのだろう。

 男は席を立ちあがり、会計を済ませた。そしてふと思い立ったように立ち止まり、

 

「デイドロ」

 

「は?」

 

「俺の名前だ――憶えておけ。いつまでも男と呼ばれるのは気が進まない」

 

 と、今度こそ店を立ち去った。

 

020

 

 ところ変わって。

 本来の目的地であるはずの、「おこざわこうざん」に、僕らは来ていた。けいらんは冷え切り、あんこ餅は若干固まっていた……。あの野郎。

 なお、事前に確認したパンフレットによると、カカクタウンは滝と鉱山が有名らしい。鉱山に至っては、コチキタ有数だとか。

 しかし、観光地として有名であったであろうその鉱山も、デイドロの襲撃によって形無しである。入口にはテープが張られ、何人も入れないようになっていた。

 

「ふむ、やはりか」

 

「どうする?このままじゃ返せるものも返せない」

 

「そうだな、鉱山の管理者兼神社の神主でも呼ぼう。試練を受けるなら、いずれ顔合わせするだろうから」

 

 そういって、サンカはスマホで誰かに電話を掛け始めた。

 神主――ジムリーダーのようなものだろうか?それの人たちと直接連絡を取れるサンカとはいったい。

 

「ふむ……ああ、わかった。それではそちらに赴こう。失礼する」

 

 そう締めくくり、電話を切ると、サンカはこちらに向き直り。

 

「今からロニエさん――神主の名前だ、その方の自宅へ行くことになった。事情などを話したら、すぐに了承していただいたぞ」

 

「ああ、ありがとう」

 

「何、私もトラブルは避けたいしな」

 

 尚、ここから彼(彼女?)の自宅まで徒歩十分だそうで、まあ近い距離であるのだと思っていたのだが――。

 

「また登山……ッ!」

 

「うん、そうだな。徒歩十分+登山二十分だ」

 

「畜生がーッ!」

 

 しかも登山二十分を言っているが、実際は三十分ぐらい登っていたような気がした――そんなこんなでたどりついたのは、オブラートに包んで言うと、趣があり。そのヴェールの脱がせて言うと、かなり年季の入った木造建築であった。

 

「神主と言っても、別にじんじゃに住んでるわけではないぞ?」

 

「いや、うん、そういう事じゃなくて……」

 

 サンカがノックすると、すぐにその家の主は出てきた。

 

「はーい」

 

 その声色から察するに、どうやら寝起きのようだ。今は十二時をとっくに過ぎており、聊か寝すぎのようにも思うが。

 そして出てきた神主――と、言っても女性であったが、その人の格好はラフで、短パンと薄いTシャツ(現在は冬である)で、短い銀髪が目を引いた。

 その格好は、道中にあったマサユキのほうがよっぽど()()()格好をしていたのだが――。彼女はちらりと、こちらを一瞥した。

 

「んー……君があれかい、サンカちゃんが言っていた巡回者?」

 

 透き通るような声の彼女は、どこか気だるげに、そしてフレンドリーに話しかけてきた。

 

「え、ああ、はい」

 

「んー、そうかい――私の名前はロニエ、一応、というか、本職で【みずがみじんじゃ】の神主だ」

 

【ロニエ みずがみじんじゃ神主兼おこざわ鉱山管理者】

 

「えーと、確か、窃盗品のたましいの珠を返しに来て、あと試練も受けに来たんだっけ?」

 

「はい」

 

 バックから、サンカに渡されたケースに入れたたましいの珠を取り出し、ロニエに手渡した。それを彼女は手に取り、ケースから取り出して、日に翳しながら吟味するように見ていた――。

 そして最後に、僕に向けて――

 

「うん、これは君が持つと言い」

 

 と言った。

 いや。

 いやいやいや。

 

「でも、これは貴重な品だと聞きましたよ?そんなもの、どこの馬の骨とも知れない男が持ってていいんですか?」

 

「まあ、サンカちゃんの知り合いだしねえ」

 

 へらへらと、気楽そうに彼女が言う。それに、と、彼女は少し神妙な顔になって。

 

「オカルトチックな話だけどね。たましいの珠、は持ち主を選ぶ――って言われてるんだよね」

 

「これ窃盗品ですけど」

 

「……それもまた運命」

 

「……」

 

 適当言ってごまかされている気がするが。

 

「さて、話を変えて試練の事だが――」

 

 ――彼女の雰囲気が、より一層引き締まった。

 

「この内容は、決して簡単ではない。それに、人の命がかかってるしね――」

 

 ごくり、と喉を思わず鳴らしてしまった。人の命が、かかっている。なんだろうか、危険なポケモンの退治だろうか。それとも――。

 様々な思案を張り巡らせる中、彼女の口から飛び出した言葉は――

 

「魚ポケモンを六匹ほど吊り上げ、捕獲してくれ。今夜の晩ご飯代がもう――」

 

 そもままふらりと、彼女は倒れてしまうのだった――。




※デイドロのメタ発言に深い意味はないです
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