継ぎ接ぎだらけの少年少女   作:鹿呂久陸

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第十二話:命懸けのいただきます(お命頂戴いたします)

 

 

023

 

 

 霞む目で、怪魚を見据える。

 

 無数のヨワシによって姿を現したその怪魚の能力値は、カイリューや、サザンドラといった、とりわけ強力なポケモンたちを超える。

 しかし反面、そのすばやさは、あまり早くない――いや、鈍重といっても差し支えないだろう。

 それに、とくぼうやぼうぎょは高いが、体力があまり高くないからか、そこまでダメージが全く入らないというわけではない。

 

 そしてその群れた姿最大の弱点として、体力をある程度削ると、助けに来たヨワシたちは、全員どこかへ消えてしまうのだ。つまり、たった一匹の、貧弱はこざかなポケモンに戻る。

 

 先ほどボールに戻したばかりのメラルバとラルトスを、ボールから出す。二匹とも、気合は十分である。

 先ほどの【みずでっぽう】、威力がすさまじく、ラルトスの【かべ】でも防ぎきることができないだろう。しかしそれは、真正面から受け止めた時の話であって、角度をつけて設置できれば、完全に防ぐことはできなくとも、ある程度威力を軽減し、軌道をそらすことぐらいはできるはずだ――。

 

【 ヨワシの みずでっぽう! 】

 

 

「ラルトス、ひかりのかべ、角度をつけてッ!」

 

 ここに至るまでの道中で気が付いたことであるが、ラルトスはどうやら、僕の考えをある程度読んでくれる。これにより、長い間一緒にいたメラルバと、同じくらい円滑に指示を通すことができる。

 

 迫りくる激流は、角度のついた防御壁によってそらされる。すさまじい音を立ててひかりのかべは叩き割れたが、大したダメージは入っていない。

 僕たちの勝利条件は、あの怪魚――群れた姿のヨワシの体力を、四分の三以上削ること。しかしそれを達成するには、ラルトスはあまりに貧弱である。

 ならばどうするか――。

 

「メラルバ、ニトロチャージ!」

 

 火炎をまといながら、メラルバはヨワシに肉薄する。レベル差はあれど、もともとメラルバとヨワシには、生物的なすばやさの差が存在している。それをニトロチャージ等でさらに上げてしまえば、鈍重な動きを抜き去るのは容易であろう。

 どうせラルトスもメラルバも、タイプ相性関係なく一撃食らえばアウトなのだ。ならば、ラルトスを防御に徹させ、メラルバでヒットアンドアウェイを行う。

 

 これならば、十分僕らにも勝機はある――!

 

「【きゅうけつ!】」

 

 ガブリ、と、メラルバがヨワシに噛り付き、群れ全体から体力を食らい、吸い取る。しかしすぐさま散り散りとなり、メラルバはあっさりと落ちてしまった。

 

 そしてそこに再び――水ブレスが、メラルバめがけて炸裂する。

 

 地面は抉れ、木々は根こそぎ押し流されたが――しかしそこに、メラルバの姿はなかった。

 

 

 

「――【とんぼがえり】」

 

 

 

 とんぼ返り。

 この技を発動すると、控えのポケモンと交代――もしくは、トレーナーの下にすぐさま戻るというもの。

 

 ――隙だらけ。

 

 好機である。

 

 狙うは只一点、群れを司る司令塔その瞳

 

 

食らいつくせきゅうけつ!」

 

 

 

 恐るべき速度で、メラルバは眼球に肉薄する。そして反応など、できるはずもなく。そのまま噛り付き、体力の大半を奪い去る――!

 

 

 

 

「ぎょええええええええあああああああああ!!!」

 

 

 

 響く悲鳴、暴れる怪魚。

 

 しかしそれらに動じることなく――メラルバは、きゅうけつを完遂し。

 

 恐るべき怪魚は崩れ去り、後には小魚だけが残っていた。

 

 

024

 

 

 焼かれている。

 

 コイキングが――コイキングとヨワシが、焼かれている。

 

 食べるために――己の血肉とするために。

 

 

 

 

 

 メラルバがきゅうけつを完遂し、ヨワシが一匹の小魚に戻った後。

 そのまま捕獲し、ロニエの家まで戻った。

 試練の内容である、魚ポケモンを6匹釣り上げろと言うもの。開始直前の言動から、その理由は――釣り上げることに秘められた意味は、おのずと見えてくる。

 明言こそしていないが――明言をしていないというだけである。

 

 

「さて、ススム君。君は賢そうだ――どうして、私が魚ポケモンを釣ってこさせたかなど、分かりきっているだろう」

 

 ボールに入れたコイキングたちを、ロニエに手渡す。

 

「――この先、旅を続けるのであれば、まあ、当然だけれど、ご飯を食べるわけだ」

 

 ロニエは、台所から包丁を取り出す。

 

「そしてそのご飯には、当然、何らかの命が乗っている。サラダだけ、とかならまだしも――いや、それでも、だ」

 

 ロニエは、続ける。

 

「自然と近くて――自然が猛威を振るうこの地方だからこそ、一度は、その命の有難みを知ってほしい」

 

 ――命懸けのいただきますを、体験してほしい。

 

 ロニエはそう締めくくり、包丁を手渡して。一度告げたはずの試練内容を、再び述べた。

 

「【みずがみじんじゃ】、その試練内容――魚ポケモンを六匹釣り上げ、自分の手で食べる。己の血肉にして――試練終了だ」

 

 

 ――水。

 

 生命が始まり、廻る――その象徴。

 

 輪廻転生――廻る流転。

 

 再び始まるという事は、その前に終わるという事。

 思い出される、醜い魚の童話。

 

 腹を裂かれ――水を。

 

 滝を割り、再び生まれた魚の子。

 

 それを思い浮かべながら、包丁を握る。

 

 ごめん?――いや、違う。

 

「ありがとう」

 

 

※※※

 

 

 にしても、意外だよね。

 

 と、ロニエはコイキングをほおばりながら言う。当然、先程まで述べていた、命の有難みを知ってほしいというのも本音なのだろうが、やはり金欠で食べるものがないから釣ってきてほしい、も、本音のような気がしてきた。

 

 焼かれたコイキングは、しっかりと脂がのっていて、塩焼きにするだけでも十分美味しい。

 

「案外、君みたいなタイプは、ものすごく長い時間うじうじするようなものなのだけれど」

 

 まあ。

 

 確かにそうだと思う。

 

 正直、あんなにもすぐに決断できるとは思わなかったけれども――。

 

「正直、無駄に殺すならともかく――しっかりと食べたりするなら、いいと思ってますから」

 

 魚肉を毟る。じゅわ、と溢れる脂を飲みながら、ふと気が付いたことを聞く。

 

「そういえば、サンカは?」

 

 そう。

 サンカがいないのだ。戻ってきたときから、ずっと見ていない。

 

「んー、彼女なら今――ま、探し物だね。宝探し、と言ってもいいだろう」

 

 なんだか、曖昧に誤魔化されているような気がする。しかしまあ、人間、言いたくないことの一つや二つぐらいはあるだろう。僕にだってある。

 

 と、会話しながら話しているうちに、コイキング五匹と、ヨワシを食べ終えた。ロニエがすごい食べていた。

 

「うん――ご馳走様でした」

 

「ご馳走様でした」

 

 と。両手を合わせて、そう言った。

 

「それじゃあススム君、()()試練、突破おめでとう」

 

 

 第一。

 

 ……第一!?

 

 

「【じんじゃ】の試練は、まあ、大体第二まであるね。第一は、それぞれの神社が伝えたいこと――第二試験は総じて戦闘力を測る」

 

 弱いとすぐに死んじゃうしね。

 と、そうロニエは締めくくり――。

 

「腹ごなしだ、少年よ。全力でかかってきなさい」

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