023
霞む目で、怪魚を見据える。
無数のヨワシによって姿を現したその怪魚の能力値は、カイリューや、サザンドラといった、とりわけ強力なポケモンたちを超える。
しかし反面、そのすばやさは、あまり早くない――いや、鈍重といっても差し支えないだろう。
それに、とくぼうやぼうぎょは高いが、体力があまり高くないからか、そこまでダメージが全く入らないというわけではない。
そしてその群れた姿最大の弱点として、体力をある程度削ると、助けに来たヨワシたちは、全員どこかへ消えてしまうのだ。つまり、たった一匹の、貧弱はこざかなポケモンに戻る。
先ほどボールに戻したばかりのメラルバとラルトスを、ボールから出す。二匹とも、気合は十分である。
先ほどの【みずでっぽう】、威力がすさまじく、ラルトスの【かべ】でも防ぎきることができないだろう。しかしそれは、真正面から受け止めた時の話であって、角度をつけて設置できれば、完全に防ぐことはできなくとも、ある程度威力を軽減し、軌道をそらすことぐらいはできるはずだ――。
【 ヨワシの みずでっぽう! 】
「ラルトス、ひかりのかべ、角度をつけてッ!」
ここに至るまでの道中で気が付いたことであるが、ラルトスはどうやら、僕の考えをある程度読んでくれる。これにより、長い間一緒にいたメラルバと、同じくらい円滑に指示を通すことができる。
迫りくる激流は、角度のついた防御壁によってそらされる。すさまじい音を立ててひかりのかべは叩き割れたが、大したダメージは入っていない。
僕たちの勝利条件は、あの怪魚――群れた姿のヨワシの体力を、四分の三以上削ること。しかしそれを達成するには、ラルトスはあまりに貧弱である。
ならばどうするか――。
「メラルバ、ニトロチャージ!」
火炎をまといながら、メラルバはヨワシに肉薄する。レベル差はあれど、もともとメラルバとヨワシには、生物的なすばやさの差が存在している。それをニトロチャージ等でさらに上げてしまえば、鈍重な動きを抜き去るのは容易であろう。
どうせラルトスもメラルバも、タイプ相性関係なく一撃食らえばアウトなのだ。ならば、ラルトスを防御に徹させ、メラルバでヒットアンドアウェイを行う。
これならば、十分僕らにも勝機はある――!
「【きゅうけつ!】」
ガブリ、と、メラルバがヨワシに噛り付き、群れ全体から体力を食らい、吸い取る。しかしすぐさま散り散りとなり、メラルバはあっさりと落ちてしまった。
そしてそこに再び――水ブレスが、メラルバめがけて炸裂する。
地面は抉れ、木々は根こそぎ押し流されたが――しかしそこに、メラルバの姿はなかった。
「――【とんぼがえり】」
とんぼ返り。
この技を発動すると、控えのポケモンと交代――もしくは、トレーナーの下にすぐさま戻るというもの。
――隙だらけ。
好機である。
狙うは只一点、群れを司る司令塔!
「食らいつくせ!」
恐るべき速度で、メラルバは眼球に肉薄する。そして反応など、できるはずもなく。そのまま噛り付き、体力の大半を奪い去る――!
「ぎょええええええええあああああああああ!!!」
響く悲鳴、暴れる怪魚。
しかしそれらに動じることなく――メラルバは、きゅうけつを完遂し。
恐るべき怪魚は崩れ去り、後には小魚だけが残っていた。
024
焼かれている。
コイキングが――コイキングとヨワシが、焼かれている。
食べるために――己の血肉とするために。
メラルバがきゅうけつを完遂し、ヨワシが一匹の小魚に戻った後。
そのまま捕獲し、ロニエの家まで戻った。
試練の内容である、魚ポケモンを6匹釣り上げろと言うもの。開始直前の言動から、その理由は――釣り上げることに秘められた意味は、おのずと見えてくる。
明言こそしていないが――明言をしていないというだけである。
「さて、ススム君。君は賢そうだ――どうして、私が魚ポケモンを釣ってこさせたかなど、分かりきっているだろう」
ボールに入れたコイキングたちを、ロニエに手渡す。
「――この先、旅を続けるのであれば、まあ、当然だけれど、ご飯を食べるわけだ」
ロニエは、台所から包丁を取り出す。
「そしてそのご飯には、当然、何らかの命が乗っている。サラダだけ、とかならまだしも――いや、それでも、だ」
ロニエは、続ける。
「自然と近くて――自然が猛威を振るうこの地方だからこそ、一度は、その命の有難みを知ってほしい」
――命懸けのいただきますを、体験してほしい。
ロニエはそう締めくくり、包丁を手渡して。一度告げたはずの試練内容を、再び述べた。
「【みずがみじんじゃ】、その試練内容――魚ポケモンを六匹釣り上げ、自分の手で食べる。己の血肉にして――試練終了だ」
――水。
生命が始まり、廻る――その象徴。
輪廻転生――廻る流転。
再び始まるという事は、その前に終わるという事。
思い出される、醜い魚の童話。
腹を裂かれ――水を。
滝を割り、再び生まれた魚の子。
それを思い浮かべながら、包丁を握る。
ごめん?――いや、違う。
「ありがとう」
※※※
にしても、意外だよね。
と、ロニエはコイキングをほおばりながら言う。当然、先程まで述べていた、命の有難みを知ってほしいというのも本音なのだろうが、やはり金欠で食べるものがないから釣ってきてほしい、も、本音のような気がしてきた。
焼かれたコイキングは、しっかりと脂がのっていて、塩焼きにするだけでも十分美味しい。
「案外、君みたいなタイプは、ものすごく長い時間うじうじするようなものなのだけれど」
まあ。
確かにそうだと思う。
正直、あんなにもすぐに決断できるとは思わなかったけれども――。
「正直、無駄に殺すならともかく――しっかりと食べたりするなら、いいと思ってますから」
魚肉を毟る。じゅわ、と溢れる脂を飲みながら、ふと気が付いたことを聞く。
「そういえば、サンカは?」
そう。
サンカがいないのだ。戻ってきたときから、ずっと見ていない。
「んー、彼女なら今――ま、探し物だね。宝探し、と言ってもいいだろう」
なんだか、曖昧に誤魔化されているような気がする。しかしまあ、人間、言いたくないことの一つや二つぐらいはあるだろう。僕にだってある。
と、会話しながら話しているうちに、コイキング五匹と、ヨワシを食べ終えた。ロニエがすごい食べていた。
「うん――ご馳走様でした」
「ご馳走様でした」
と。両手を合わせて、そう言った。
「それじゃあススム君、
第一。
……第一!?
「【じんじゃ】の試練は、まあ、大体第二まであるね。第一は、それぞれの神社が伝えたいこと――第二試験は総じて戦闘力を測る」
弱いとすぐに死んじゃうしね。
と、そうロニエは締めくくり――。
「腹ごなしだ、少年よ。全力でかかってきなさい」