失踪しかけて非常に危険が危ない
025
今までとは、打って変わって。
初めて試練内容を告げるような雰囲気を纏い――いや、それだとシリアスな雰囲気は一瞬でぶち壊されるが――そんな予感は、微塵も感じなかった。
ゆらり、と立ち上がるその姿は、ひどく静かなもので――底が見えなかった。
「ルールは簡単、二対二の勝ち抜き式で、アイテムの使用は無し、だ」
ぴっ、とロニエは二本指を立てた。
「レベルは当然そちらに合わせるよ。あくまで実力を測りたいだけだし、一方的な蹂躙じゃあ、戦う意味がないからね」
不敵な笑みを浮かべながら、踵を返して木々の隙間を縫うようにして歩き始める――慌ててその背中を追った。
そして歩きながら、ロニエは続ける。
「そういえば、君もそろそろ、あの蒼い珠――たましいの珠のことが、気になっているんじゃないのかな?」
『ポーチ』から、たましいの珠を取り出し――ロニエもまた、『ポーチ』からそれを取り出した。いつもより一層、輝いているようにも見えた。
「メガシンカ、ダイマックス、Z技、テラスタル……それに準ずる特殊現象が、この地方にもある……」
もったいぶるように溜め――口を開く。
「『タマシイリンク』」
と。
「ポケモンがごくまれに落とす特殊部位と、この『たましいの珠』がそろって引き起こされる現象さ。その魂魄のポケモンの得意な技とか、身体的特徴を引き継ぐ……ってのがタマシイリンク」
これが魂魄ね、と、一枚の紺色に、そして妖しく輝く鱗を取り出す。ミロカロスの物だろうか。
ごく稀に落とす、とのことから、大事なものなのかと思ったが、しかしロニエは、鱗を無造作に、こちらに向かって放り投げた。
「あげるよ、それ。そこそこの枚数あるしね」
両手の中にあるそれは、ひんやりとしていて――綺麗だった。
「さ、着いた――コートに行こう」
そしてたどり着いたのは。
先程まで釣りをして――そして死闘を繰り広げた滝。
オオワタツノカミの御前である。
「コートって言っても、あまり場所が」
「大丈夫さ、戦うのはここじゃない――おいで」
そういって、放り投げたボールから現れたのは――ミロカロス。
しかしその姿は、広く知られている姿とは違う。
頭部から生えてるヒレ、そして尾びれの先は怪しく揺らめいている。体色は淡い青紫で、下半身の鱗は深い紺色――コチキタのすがた、である。
原種よりも幻想的で――そして妖しい。
「みろうう」
【 ミロカロス(コチキタのすがた) ???ポケモン ???・??? 】
「乗って。滝の向こうにコートがあるから」
身軽にミロカロスの背にまたがって、それに倣うようにして僕もまたがる。
「あれ、でも、普通は入れないんじゃ」
「そこはまあ、誠心誠意お願いするのさ」
悠々と、水面をすべるようにして移動し――滝の前までたどり着く。
「オオワタツノカミ様。どうか我々ををお通しください」
……滝の勢いは一向に弱まらない。依然すさまじい勢いで、位置エネルギーを運動エネルギーへと変換し続けている。直撃したら首折れそう。
「レッツ正面突破」
「今なんて」
「いいかいススム君、これから行う行為はいわゆるノックに近い。その物と言ってもいい」
「考え直しましょうロニエさん」
「部屋に入りまえにノックするだろう?だから合法、OK?」
「違法行為なんですか!?」
「神様もきっと許してくれるさ、リピート・アフター・ミー『南無阿弥陀仏』」
「先立つ不孝をお許しください……」
「待って、違う、そうじゃない」
合掌、である。
両手を合わせてただ祈る――。
「ま、いいか――ミロカロス、【なみのり】」
――盛り上がる水面。
は、大質量そのものである。
水はうねり、膨れ上がり、滝へ向かって直進するミロカロスと共に進み――衝突。天然の障壁を突き破り、大量の水しぶきを上げて貫いた。
「い、生きてる……」
こんな状況で生きてる喜びを味わいたくなかったのだが。
そうして、軽く命の危険を感じる勢いで滝を貫き、たどり着いたのは広々とした洞窟。目を凝らすと、奥の方に祠が見えた。
やけに四角く整えられた岩を踏む。
「ここはバトルコート――そして神の御前さ。ここで戦うってわけだね」
てくてくと、黙ってロニエは向こうまで歩いていく。
そして振り返ったようだが、しかし周辺は薄暗くてその表情は読めない。が、突如として、入口に鬼火がともり、壁に沿うようにして、次々と発火していく。
ぼっ。
ぼっ。
ぼっぼっぼっ。
発火して、発火して、発火して。
燃えて、燃えて、燃えて。
燃ゆる鬼火は、祠の上までたどり着く。
――ああ、居る。
そこに居ないけれど、感じる。
洞窟を満たす闇、その最奥。
こちらを品定めするような、鋭い眼光を。
「これは確かに、匹なんて付けられないや」
確かめなくても分かる。
聞かなくても分かる。
見るまでもなく分かる。
――分からされる。
あの視線が――あの存在感が、神であると。
何がおかしいのか、ロニエはくつくつと笑う。
「いやあ、珍しいね。今日は機嫌がいいのかな?」
「まず間違いなくあんな入り方をしておいて、機嫌がいいという事はないと思いますけれど」
「ま、それもそうだね――神様ってのは、皆戦いが大好きで気が短いんだ――ちゃっちゃと始めよう」
ロニエと僕は、真正面から向き合う――。
【 ▼ ロニエが 勝負を 仕掛けてきた!】