継ぎ接ぎだらけの少年少女   作:鹿呂久陸

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第三話:データは案外役に立たない

 005

 

 サラユキタウンの、一番大きな建物が研究所であるとサンカは言う。

 

「博士ー、例のお孫様だー!」

 

 研究所のドアの前でサンカが声を張り上げるが、返事はない。

 

「また研究に没頭しているな……?」

 

 そう頭を掻きながら、鍵を鍵穴に刺し、ロック自体は解けたものの、なぜかサンカは扉を開けない――、否、扉があかないのだ。

 

「いや、この研究所のドアは内開きなのだが、博士はズボラでな……よくモノを溜めてドアが開かないようにするのだ」

 

「ここ玄関だよね?」

 

「玄関のはずなのだが……」

 

「ここまでモノがたまってるってこと?」

 

「まあ、そうなるだろう……仕方ない、ガチグマ」

 

 ぽんっ、と。

 軽快な音と共にボールから出たガチグマは、その腕に薄茶色のオーラを纏わせていた。

 ――まさか。いやしかし、そんな暴力的な方法をとるまでもなく扉ぐらい開くはずだ――。

 

「扉に向かって【ぶちかまし】」

 

 そのまさかドストレートであった。ど真ん中である。全身全霊のぶちかましが扉に炸裂し、派手に吹っ飛び――

 

「ギャーっ!?」

 

 と、奥から悲鳴が聞こえてきた。

 

「よし行こう」

 

「扉このまま!?っつーか悲鳴上がってたけど!?」

 

「大丈夫、いつものことだ」

 

「いつもの事なの!?そして扉はそのままなのね!?」

 

 尚、扉の開閉を拒んでいたのは大量の、膝ぐらいまでの高さまで積みあがった紙であった。紙には、何やら小難しい内容がいろいろ書かれている。

 論文の類だろうか。大事なんだか大事じゃないんだか……。

 

「ああそうだススム、君のメラルバは炎技を覚えてるだろう?焼いてくれないか、これらを」

 

「いや駄目でしょうが!」

 

「大丈夫、これらの論文は全てパソコンのデータに入ってるし、床に置かれている理由も『ぽいから』と言って、一度も読んでいるところは見たことがない」

 

「何それ……」

 

 何ともズボラ、と言うか適当な博士である。後凄まじく迷惑だ。せめて外開きにならないだろうか……あれか?防犯か?

 

「安心してくれ、責任は私が取る」

 

「つーか自分のポケモンで焼けばよくないか?いるでしょ一匹ぐらい……」

 

「……まあ、それはそうだけども」

 

 ――その時の彼女の顔は、先ほどまでの快活その物と言っていい笑顔から転じ、どこか儚げで――切なかった。

 

「いや、まあ、別にいいけど……」

 

 そんな顔をされてしまえば、これ以上言い返すことはできない。メラルバをボールから出す。

 

「本当に焼いてもいいの?」

 

 良いと言われても、さすがに躊躇してしまう。ああ、構わないとサンカが言い、メラルバが紙に潜り込む――。

 

だんだんだんだんだんだん!!

 

「ちょっと待ちたまえ!本人に許可を取りなさいよ!」

 

 研究所の奥。

 そこから慌ただしく飛び出てきた人間は研究所の主であろう……と言うか、そうでないと困る。――怪しすぎるのだ。その、声から察するに男であろう人物は、全身が白ずくめであった。上から下まで、頭の先からつま先まで、である。

 しかし、本人の肌の色が一切見えないというその怪しすぎる男の言い分はもっともである。

 

「む、博士」

 

 サンカの様子から察するに本当に博士のようだ。

 

「サンカ、来てたなら声を出してくれよ……」

 

「いやしっかりと声をあげたぞ。インターホンを付けたらどうだ?」

 

「ピンポンダッシュが怖いから……ただでさえこの風貌で、近所の子供たちからお化けだのなんだのと言われているし。面倒くさいだろう?」

 

 恰好がおかしいことに関しての自覚はあるようであった。まったく、やれやれと言った感じでため息をつくと、ようやくこちらに気が付いたようである。

 

「む。サンカ、この男の子は?」

 

「師匠のお孫様だ。旅に来たようであるが、目的地も何も決まっていないらしいからな。そのご【いせまいり】をすることにしたのだが、手持ちが二匹、実質一匹しかいないのだ」

 

「そこで私からポケモンを貰おう、と言うわけだね」

 

「さすが博士、話が早い」

 

 くるりと、博士はこちらに向き直った。

 

「――初めまして、確かススム君、だったかな?」

 

「はい、初めまして」

 

「私の名前はブラン――こんなナリだが、優しくしてくれると助かるよ」

 

 ブラン――確か、カロスの方で白、とういう意味だったか。まんまである。いっそ、ひしひしと感じる親しみまで怪しく感じるが――さすがに考えすぎであろう。しかし、自分の格好が怪しいと思っているのであれば、他の服に着替えるという発想はないのであろうか……。

 

「しかし君、旅の護衛が、お供がサンカなんて、贅沢そのものと言ってもいいね」

 

「……なぜです?」

 

「何せ彼女は――」

 

 ――博士。

 

 ブランの言葉を遮ったのは、間違いなくサンカであった。しかし、その声は。

 明るさなど、欠片もない。

 ハイライトなど、どこにもない。

 暗く。暗く。底冷えするような、背筋が凍えるような。今降る雪などよりも、よっぽど冷たい。

 ――絶対零度、そのものの声であった。

 

006

 

「……すまないね」

 

 そう、ブランはサンカに顔だけ向ける。

 

「いや、彼女はポケモンバトルが上手なのだ。道中も、だいぶ楽だろう」

 

「まあ、いざというとき以外手出しするつもりはないがな」

 

 サンカの声は、すっかり先ほどまでの快活なものになっていて。先程聞いた声は、もしや白昼夢なのかもしれない、とまで思わせた。

 

「そういえば博士、先ほど、ススムを探しに行った時なのだが」

 

「待て、その言い方だと、まるで僕が迷子になってしまったみたいではないか。迷子になったのは僕のメラルバで、僕はそれを探しに――」

 

「みみっちい」

 

「みみっちい言うな!」

 

 まあ、迷子にはなっていたし。我ながらみみっちいと思う。しょうもないと思う。何とも器が小さな男だ……。

 

「まあ、話を戻そう。ガチグマに頼んで、ススムの捜索を行っていたのだが、途中でガチグマが糞をしてな。その下にいたのが、何とハガネールだったのだ」

 

「ハガネール?野生のか?」

 

「いや、かなり鍛えられていたし、レベルアップで覚えないはずのジャイロボールまで覚えていた。完全な野生ポケモンではないと思う」

 

「なるほど……そこは考察を重ねる必要があるね。そのハガネールは?」

 

「投げた」

 

「は?」

 

「だから投げたのだ。ガチグマに頼んで」

 

 ぽーん、と、ボールを投げるジェスチャーをするサンカ。それをブランは、あぜんとした様子で、信じられないといった感じで見つめていた。

 

「いいかいサンカ、彼らはポケモンとはいえ、その前に野生動物だ。そこまでレベルが高いという事は、生き残り――プライドもそれ相応に高いだろう。まあ、向こう側は君たちが今ここにいることを知らないだろうが……今度からは、しっかり倒すか捕獲することを心掛けるんだよ」

 

「うむ、心がけよう」

 

「まあいい、ススム君。コチキタでは初めに渡すポケモンが決まっているわけではないのだけれど、一匹おすすめの子がいるんだ」

 

 ブランは懐から、一つのモンスターボールを取り出し、投げる。

 軽快な音と共に煙が溢れ出し――薄紅色の突起が、僕の頭に突き刺さった。ごちん、と、割と大きめの音が鳴った。

 「ずつき」である。いや技ではないが。とにかく、あの形状とあの色の突起が頭にあるポケモンは、一種類しかいない。しかしそのポケモンは、元来ここまで攻撃的ではないはずであるが――。

 煙が晴れ、頭突きの下手人は着地していた。

 

 そして僕の予想は、当たっていた。

 

「シッ!」

 

 若葉色の毛が、目を隠していて。

 薄紅の突起は、煌煌と輝いていた。

 

【ラルトス きもちポケモン エスパー・フェアリー】

 

 ――なんか荒んでいないか?

 

 本来大人しい気性であるはずのラルトスは、ペッ、と唾を吐き出していた。




ラルトス エスパー・フェアリー
性別:♀
備考:荒んでいる。頭突きはなかなかの威力だったそうな
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