000.5
私は生まれながらから臆病だったと思う。
だけどここまで攻撃的ではなかったと思う。
なぜか?
私は、今まで住んでいたところから出て、知らない人に手渡された。その人は、いつもニコニコとしていた。
そして、知らない人の心を見た。
吃驚するほど、どす黒かった。
ウル、だとか、イタメツケル、だとか、イイオモチャダだとかよく意味の分からないことではあったが、とにかくそれは、悪意で。敵意で。私からすれば、ただの恐怖でしかなかった。
――から、近づいてきたその人に、念力を放った。
これまた吃驚するほど怒られた。
叩かれた。捻られた。焼かれた。
痛かった。
それから私は、今まで住んでいたところに戻された。
そこからだろうか、人間が怖いのが。
今目の前で世話をしてくれる、白づくめの男の心も、どす黒いかもしれない。
それを知ったら、念力を放ってしまうかもしれない。
よく来る快活な女の子の心も、どす黒いかもしれない。
それを知ったら、念力を放ってしまうかもしれない。
戻されてから、しばらくして。
一人の、自身のなさそうな男の子が来た。その男の子の心も、どす黒いかもしれない。
ボールから出された。
――また手渡されるのだろうか。また叩くのだろうか。捻るのだろうか。焼くのだろうか。そう考えると、恐ろしくて、恐ろしくて、恐ろしくて――無我夢中で、逃げ出していた。
途中、何かが襲ってきたが、何とか撃退していた。
そうしたら、あの自信のなさそうな男の子が、こちらに向かってボールを投げていた。あれに捕まってしまえば、またひどいことをするのだろうか。
ボールを叩き落した。
男の子が駆け寄って来る。
思わず、男の子に向かって攻撃をしてしまった。それは、白いもふもふな虫に防がれたが。再び攻撃を放つが、男の子は反撃を虫にさせず、自分の体でそれを受けた。
それでもなお、彼は優しく笑っていた。
しかし、その心はどす黒いかもしれない。
三度、攻撃を放った。彼の頭にクリーンヒットしたそれは、意識を刈り取ってしまったようで。ぐらりと仰向けに倒れ――
――巨大な蛇が、彼の体を吹っ飛ばした。
008
その後。
何やら、巨大な集合体が蛇を抑えていたが。
その体から、無差別に無数の光線を放ち始めた。木々は折れ、雪は舞い散る。
世話をしてくれていた、白づくめの男は光線を躱すのに手いっぱいで。
時々来る快活な女の子も、巨大な熊にあぶないからと言わんばかりにとおせんぼうされていて。
男の子のボールから出てきた集合体は、蛇を抑えるのにいっぱいいっぱいで。あの虫は、もう男の子のボールの中に納まってしまった。
光線の一つが、こちらに放たれた。
――怖い。
しかし。
そんな私の感情とはまた別の。
外からの感情を、この角が、勝手にキャッチした。普段からこの角はあまり使わないようにしている。
今も使おうとしていない。
しかしそれでも、強すぎる感情を、この角はキャッチしてしまう。
――慈しみ。優しさ。
それが、彼の、溢れ出すような感情であった。中には当然、恐怖もある。しかしそのうえで、塗りつぶすように、それらの温かい感情が溢れ出していた。
頭が痛いはずだ。
足が痛いはずだ。
私と同じく、怖いはずだ。
彼の体が、私に覆いかぶさる。
もう、怖くなかった。
009
体は咄嗟に、ラルトスに覆いかぶさっていた。
しかし背中は、いつまでたってもれいとうビームの威力を感じない。後ろを向くと、四方50センチメートルほどの、薄紫色の壁がれいとうビームを受け止めていた。
【ひかりのかべ】だ。
その壁を展開したのは、もちろんラルトスで。しかし今までの彼女ならば、何もしなかったと思うのだけれど――。
「るぅ」
彼女はまるで、しかたないなと言わんばかりに、ため息をついていた。
その小さな体はもう、震えていない。
「一緒に戦ってくれるのか?」
もちろんだと言わんばかりに、彼女は胸を叩いた。先程のれいとうビームを受け止めた光の壁は、凄まじい硬度であった。これならば、ギギギアルの攻撃による衝撃波ぐらいなら、防ぐ事が出来る。
反撃に、回ることができる。
「ギギギアル、ギアソーサー!」
ハガネールにまとわりついていたギギギアルは、再びその体を巨人の形態に戻し、その両腕を振るう――!
「ラルトス、【かべ】で防御を頼む!」
腕をふるったことによって、発生した衝撃波。そしてそれによって破壊された木々などがこちらに飛んでくるが、それらはラルトスの壁に阻まれた。
「サンカ、私たちも援護しよう」
「了解した!」
ブランがボールを振るうが、何も出ていない。
不思議に思っていると、ハガネールの体から冷気があふれ出した。あの、無差別れいとうビームが再び放たれようとしているのか――!
――しかしそれは、不可視の一撃に邪魔され、放たれることがなかった。
雪に溶け込むようにして見えなくなっていた、その生物はだんだんと姿を現す。その様相は、とあるポケモンに酷似していた。
「げろ」
【カクレオン(コチキタのすがた) いろへんげポケモン こおり】
「かげうち」
ばちい!と。
すさまじい威力と正確さで、その長い舌がハガネールのこめかみを打ち抜き、れいとうビームの発動を阻止する。おまけに、ポケモンとしてではなく、生物として、ハガネールは怯んでいた。
そして再び、ギギギアルの腕は振るわれた。
ギアソーサーは、二回攻撃である。
【効果は バツグンだ!】
【
「――ハガネール、戻れ」
――しかし。
再びギギギアルの鉄腕が、ハガネールに炸裂することはなく。
僕でも。
サンカでも。
ブランでもない。
まったくの新登場である第三者が。
ハガネールを、ボールに戻した。
「なんやかんやと言われてないがぁ――教えてやろう、俺の正体を」
どこかくたびれた雰囲気の男は、デリバードに乗って飛んでいた。
――直感でしかないが。
あの男は、不味い。
このまま生かしておいては、禄でもないことが起きるような。何とも不気味で、不吉な予感を思わせる――!
「ギギギアル!あの男に向かってギアソサー!」
どがん!と音を立てて、間違いなくギアソーサーは直撃した。立て続けに二度。手ごたえはあったし、間違いなくその男は地面に叩き付けられていた。
もうもうと、雪が舞う。
「――ッ!!」
「おいおい少年、人にポケモンの技を叩きつけてはいけないぞお。習わなかったのか、学校でなりなんなりでぇ……」
その、不気味で不吉な男は、平然とした様子で歩いていた。デリバードももれなく無事だ。
「自己紹介がまだだったなぁ……俺はあるときは謎の旅人。ある時は謎の風来坊。あるときは謎の旅烏……」
「全部謎かよ」
しかも言い換えただけだし。
「当たり前だろう。怪しい奴が初対面でベラベラと個人情報を漏らすか?」
「自覚もありと来たか」
「まあ、目的ぐらいなら話してやろう。俺はこのハガネールを回収しに来ただけだ。貴様らと争うつもりはない」
――なにせ、レベルが違いすぎると争いにならんからな。
そう男が付け加え、デリバードに指示を出した。
「これから旅に出るであろう若人よ」
――デリバードが、およそその尻尾に入るわけのない箱を取り出し、こちらに投げつける。
「まず――」
「【プレゼント】、だ」
その箱が光り輝き、炸裂した。