010
デリバードが投げつけた大きな箱。
その技は、まさしく【プレゼント】だろう。対象の相手に、ランダムな効果を発揮する技であり、時々相手の体力を回復する場合もあるそうだが……あふれる光から、そのことは期待できそうにない。
爆発する――!
とでも思っていたのか?」
光と煙が充満し――箱が炸裂することはなかった。
不思議に思っていると、不吉な男は口を開いた。
「プレゼントボックスが爆発するわけがないだろう」
やれやれと言う感じで、男は続ける。
「前途多難は若人よ。この先貴様には困難が……というか俺が待っている。それは餞別だ」
――箱の中身には。過剰包装ともいえる量の綿があり。そしてその中に、蒼い、蒼い宝珠が入っていた。その蒼は、どこか深海を想起させ、ずっと見ていると、まるで吸い込まれそうな気持になる。
「それはッ!」
「ふん。小娘、貴様は知っているか」
ならば説明は不要だろう――。そう男が付け加え、再びデリバードに乗って、飛行する。少しづつ、風が強くなっていた。
「我々はシンメツ団。いずれ――神を堕とす」
瞬間的に発生した、猛吹雪。目も開けられないほどの勢いで吹き荒れ――止んだころには、男はいなかった。
011
「なあサンカ。この珠ってのは何なんだ?何か知っているようだったけれど」
その後。
ラルトスもギギギアルもボールに戻し、ブランの研究所に帰った時の事。メラルバがあらかた論文を焼き尽くした後の事(ブランから許可はもらった。邪魔だったんかい)。
そして、夕食時。
温かいシチューをご馳走になりながら、あの不吉な男に半ば押し付けるような形でもらった紅い珠について、僕は問うた。
掌にちょうど良く収まるサイズで、少し透き通っている。中心に向かうにつれ、だんだんと色の深みは増している――見れば見るほどきれいだ。
「それはだな」
もぐもぐごくんと。
異様な量のコメとシチューをあらかた食べ終えたサンカが答えた。シチューはすごくおいしい。うまみが複雑だ。なお、それを作ったブランは、食卓にもつかず、仕事部屋のようなものにいるようだ。
「【たましいの珠】と言って、この地方で時々産出される特有の鉱石でな。メガシンカやZ技を知っているか?」
「ん、ああ、一応だけど」
「それに類する現象を、この珠があれば引き出す事が出来るのだ。まあ、もう一つアイテムがいるのだが……。貴重であるから採掘場も限られているし、購入もほとんど不可能と言ってもいい。しかしなぜあの男がたましいの珠を……あっ」
食事中に失礼する!と、彼女は慌ただしく席から立ち上がり、焦ってどこかへ走り去っていった。そして大した時間もかけずに戻って来る。
「これを見てくれ!」
彼女が持ってきたのは、新聞だった。
その新聞の日付は今日の物ではなく、少し前の物であった。そしてその新聞の一面には、こう書かれていた。
――【おこざわこうざんに襲撃 狙いはたましいの珠か】
と。
……確証はない。確証はないが、おそらくこのたましいの珠は、正規の手段で入手したものではないだろう。しかもその手段は容易に想像できる。
なんかあの男は、シンメツ団だの神を堕とすだの大仰なことを言っていたが。やってることこそ凶悪だが、言い換えてしまえば泥棒でしかない……。なんだろう、立派な悪事ではあるのだが、なんだか悲しくなってくる。
「って言うか珠、返しに行った方がいいんじゃないか?」
「それもそうだな」
正直に返しに行ったところで、割と騒ぎになりそうではあるが。
「安心してくれ、私は割と顔が利く方でな。捕まりはしないだろうよ。それに、旅をする上で都合もいいし……それは明日のお楽しみだな」
「はあ……」
まあ、ブランはこの地方の博士だというし、最悪彼の名前を出せば大丈夫だろう……たぶん。本当に今日は確証がないことが多すぎる。後単純に出来事が多い。
数時間空港に乗って?
メラルバを探しに森を走って?
ハガネールと戦って?
また戦って?
挙句の果てに窃盗品を押し付けられる?
気分的には四日間かけてやったぞ。
そのことを自覚したら、どっと疲労が押し寄せてきた。しかも足が普通に痛い。罅が入ったりはしてないだろうが、一晩寝た程度では治るものじゃないだろう……。
少し残っていたシチューを飲み干す。
「ご馳走様でした……」
「お粗末様でした。皿洗いは私がやろう、君は風呂に入って寝るといい」
「あー、申し訳ない……」
「いやいいのだ、君は客のようなものだしな。布団はもう敷いてある」
「いつか御恩はお返しします」
「いや、これは私の恩返しのようなものだ、気にしないでくれ」
そういえば、ブランも僕のことを快く迎えてくれた。おじいちゃんと面識があったのだろうか。
ずるずると、重い体を引きずりながら風呂に入り、そのまま布団にダイブする。ふかふかだ。
本当に……疲れた……。
――そういえば。
あのハガネールは、たまたまサンカが目覚めさせてしまったものだが、あれはあの男の手持ちだと言っていた。ならば、なぜあんなところにいたのだろうか。
そして、なぜ彼は自身が困難になると言いながら、たましいの珠を渡したのだろうか――。
謎が謎を呼ぶとは、正にこの事である。謎が謎を深めていると言ってもいい。
しかし、割と大きめの疑問であるが、それ以上の睡魔と疲労が意識を塗りつぶす。
ゴーッ、と言うストーブの音と温かさ。
星星が、部屋を照らす。
疲れてはいたが、心地よい眠気が体を覆った。
012
「よいしょ、と」
二日後。旅のノウハウを、サンカとブランから一通り仕込まれ。実家から持ってきた、おじいちゃんが使っていたという旅道具を背負って、研究所を出ようとしていた。
まあ、異性の同行者って時点で二重の意味でドキドキだけどな……。トラウマ的な意味と、男的な意味で。
「まず最初に巡るうえでよいとされているのが【カカクタウン】だ。そこにはおこざわ鉱山もある……な、都合がいいだろう」
「確かに」
「そして、そこにある神社は【水神神社】で、祀られている神は【オオワタツノカミ】だ。種族はお楽しみだな」
にしっ、と、悪戯っぽく彼女は笑う。すこしどきりとしてしまった。
――少年は、傷つけられ、人を傷つけた。
――少女は傷つけ、傷つけられた。
――因果応報ではない、複雑な傷を、子供たちは持っている。
――傷は治っても、傷跡までは治らない。
――継ぎ接ぎ跡が、残る。
――しかしその跡を、新しい思い出で塗りつぶすことを、切に願う。
少年少女の青春劇が、始まった。
序章終了です。
諸事情によって、かなり更新頻度が落ちると思います。
気長にお待ちください。