第七話:醜い魚の子
013
むかしむかし。
大昔の事。
とある川に、コイキングの一家がいました。男の子が二人、女の子が一人。
そして、ヒンバスが一人。
どこからか紛れ込んだタマゴから生まれたヒンバスは、他の兄妹から「醜い」と言われ、ひどくいじめられていました。
事実、そのヒンバスは美しくありませんでした。
そのうろこは地味でぱっとしない土色。まだら模様まであります。
目はどんよりとしていて、隈のような模様があり。
ヒレは、生まれつきボロボロに見えるような切込みがありました。
しかしヒンバスは、せめて心だけは美しくあろうと、品行方正を志して生きてきました。
ある日のことです。
みんなが住んでいる川に、大きなピジョットが飛んできました。ピジョットはあっという間に、兄妹のコイキングの一匹を攫ってしまいました。
お母さんのギャラドスは、今は居ません。
ヒンバスは、必死になってピジョットを追いかけました。他の兄妹は止めはしましたが、それを振り切って、ヒンバスはピジョットを追いかけました。
ヒンバスは、何とかピジョットに追いつき、【みずでっぽう】を、ピジョットに向かって打ちました。しかし当然、ピジョットに効くはずがなく。そして怒りを買い――。
【ピジョットの エアスラッシュ!】
ヒンバスの腹は裂かれ、はらわたをまき散らしながら、滝に落とされました。しかしヒンバスは、無念の中、死んでも死にきれない怨念が、一つの奇跡を引き起こしました。一柱の神様を――引き寄せました。
コチキタに大大大昔から伝わる神様――イザナギノミコトが、ヒンバスの前に現れました。
――あなたの心の美しさを、あなたの心の強さを、肉体の殻から引き出しましょう――。
かっ!っと。
滝から光が溢れ出し。
滝を割って出てきたのは、それはそれは美しいミロカロスでした。
ヒンバス、もといミロカロスは、あっという間にピジョットを追い払い、コイキングの兄を助け出しました。
コイキングの兄は、その心の美しさを直視し、今までのヒンバスに対する仕打ちに対し、泣きながら許しを請いました。
ミロカロスはそれすらも許し、兄妹みんなで、仲良く暮らしましたとさ。
めでたしめでたし
014
――と、いうのが、オオワタツノカミの童話だ――。
そう、サンカが得意げに話していたのだが、今の僕にはそれに反応する気力も体力もない。
今現在。どこにいて何をしているのかと言うと、僕らは雪の降る山の中を行軍しており、手ごろな棒をつきながら、何とか歩いているような状態だ。サンカは余裕そうに歩いている。僕の膝はもう大笑いである。爆笑である。
気を紛らわせようとしたのかは定かではないが、息は絶え絶えで、会話をできそうにないが、何とか振り絞って、疑問点をサンカに聞く。
「種族はお楽しみじゃないのかよ……」
「あッ」
……どうやらただのうっかりミスのようだ。迂闊すぎないか?
「――いや、町についてからとは言っていない!」
「あッって言っちゃってるじゃんか!」
「幻聴じゃないか?今日は大変だったからな、疲れたのだろう」
「んなわけあるか!」
ザクザクと、所々野生ポケモンの足跡がある山中を歩く。歩いて歩く。そうしていると、うすぼんやりと、町の光が見えてきた。
日は少しづつ暮れてきているため、その光はありがたかった。そこからさらに数分間歩き、その町のポケモンセンターまでたどり着いた。どうやらフラーワタウンと言うらしい。
ポケモンセンターは、トレーナーであるなら無料で宿泊が出来る。受付をし、とりあえず椅子に座った。
「そういえば サンカ、なんで電車を使わないんだ?通ってるだろ?」
ふと、思い立ったことを聞く。
「あー、まあ、いるにはいるぞ、電車に乗って旅をする人。ただなあ……道中電車に乗るという事は、山を通らないという事。山を通らないという事は、それ即ちほとんどポケモンと戦わないという事だ」
「ふむ」
「そうするとな、当然レベルが上がらないだろう?そうして試練でボコボコされて悶絶する巡回者が、そこそこの人数居るのだ……」
ちなみにいうと、巡回者はいせまいりに挑む人たちの総称である――なるほど、一理ある。サンカはいせまいりのことをジム巡りのようなものと言っていたし、当然、ポケモンやトレーナーと戦ったりもするのだろう。けいけんちアメでレベルを上げても、動きを伴わないと聞いたことがある。難儀なものだ。
「まあ、そちらを選ぶのなら止めはしないが、おすすめはしないな」
「うん、僕もやめておこうかな……」
ふむ。当然、カカクタウンでは何かしらのポケモンと戦うのだろう。最悪の場合、と言うか是非、オオワタツノカミのことを思考したい。サンカは、もう一度旅をしているという事から、オオワタツノカミのことも詳しく知っているのだろう。
ポケモンバトルで重要になるのは、タイプ。一番とは言わないでも、かなり大事なものとなるだろう。
ヒンバスで、ミロカロス。まあ水タイプは確定だろう。そもそも原種が単タイプなのだ、水単タイプが一番可能性が高いだろう。一応第二のタイプがあるとすれば、ゴーストタイプだろうか。童話では、サンカの表現が正確かはわからないが、肉体の殻を破ってと書いていった。まああり得るとすればエスパーか――次に考えるべきは、そのポケモンの特徴。
通常のミロカロスは特殊防御力が高く、難攻不落の要塞として名をはせている。しかし、そのミロカロスが多く確認されている、原種とは限らない。コチキタのすがたの可能性もあるのだ。そうなれば、先ほど考えたタイプ云々も関係なくなるだろうが……。まあ、滝から出てきて、川に住んでいて、【みずがみじんじゃ】だもんなあ……。
特徴に関しては、やはり不明だと言わざるを得ない。しいて言うならば、サンカの口伝から聞いた童話的に、特殊攻撃力などが高いのだろうか……?
結論は出なかったが。まあ、楽しい時間であったと思う。
暫定的な事ではあるが、とりあえずまとめる――オオワタツノカミ。種族はミロカロス(サンカが嘘をついていなければ)。タイプは水(多分確定)・ゴースト(だと嬉しい)で、特殊方面に優れている(と思われる)……。悲しいほどに希望的観測にまみれているまとめである。これがテスト等であったら赤点待ったなしだろう……。
しかし、タイプが何にしろ、手持ちとのタイプが相性最悪だ。
メラルバ(ほのお・むし)
ラルトス(エスパー・フェアリー)……。ギギギアルは論外。あれを試練などで使うのはルール違反のような気がする。
「なあサンカ、サンカは試練、どうやって突破したんだ?」
「ん?んー……いや、試練の内容を話すか話さないか迷っているのだが……まあ、カミと戦うことはないぞ」
「そうなの?」
「勝負になるわけがないだろう。あの不気味な男ではないが、レベルが違いすぎると争いに――試練にならない」
確かにそうだ。
一般トレーナーで勝てるぐらいの強さであれば、カミとなど呼ばれないか。
「まあ、水タイプ中心ではあるぞ。メラルバでは辛いかもな」
「まじかあ……」
わいわいと、雑談しながら夜が更けていった。