015
「おはよう――どうした、元気がないな」
「ああ、いや、何でもないよ……」
朝一番。開口一番にサンカから心配されてしまった。いやまあ、今の状態が起こ可夢うつつであるのは認めよう。ただ、やたらと鮮明で不思議な夢を見たのだ――
※※※
昨晩。
山中で拾ったアイテムを整理しようと、無理やり詰めているだけの状態から解放しようと、サンカとは別の部屋でそれらを広げていた。
しかし。
整理整頓を始めて五分で、心が折れた。そもそもちょっとだけバックからはみ出ていたし、無理をしないで全てを収めようとするのは土台無理な話であったのだ。
しかし、中には換金アイテムが結構ある。
時計は十一時を回っていたので、フレンドリィショップを訪ねるのは明日にしよう――僕は、部屋のベッドに沈み込んだ。
「俺の名前はシュウゾウ!収納術を教えるぜ!」
そして直後にたたき起こされた。誰だこいつ。ひと昔、と言うか何百年も前の人間が来ていたような、博物館で展示されているような服を着た人間が、ベットの真横に立っていた。
……本当にどこから入った!?って言うか収納術って!?
「俺の名前はシュウゾウ!収納術を教えるぜ!」
「いや、あんた一体――」
「俺の名前はシュウゾウ!収納術を教えるぜ!」
「うん、一回黙ろうか」
「俺の名前はシュウゾウ!収納術を――「うるせえ分かったって!」
喧しいわい!
「収納術を学ぶんだな?」
「教えてもらったら帰ってくれるんだな?」
僕がそういうと、シュウゾウなる不審者は今だと言わんばかりに目を輝かせ、ぬけぬけとこういった。
「いい心がけだな!指導料は1000円だッ!!!」
「有料かよッッッ!?」
「安心しろ。損はさせないし、それぐらいなら全部入る……」
「損したらだめなんだわ、その怪しい商法」
まあしかし。
千円とは、安いとも高いとも言えない値段であるが、それぐらいでこの溢れかえっている……わけでもないが、そこそこ余っているアイテムを収納できるというなら、願ってもいないことである。明日換金しに行くとはいえ、この先役に立つだろうし。
「わかった、その収納術買った!」
「まいどあり!」
その後の意識はなく、気が付いた時には朝で、シュウゾウは消えていたが、その収納術を実践してみたところ、しっかりと溢れかえるアイテムたちは、すべて収まった。財布からは、千円札が消えていた……。
※※※
その出来事は夢である。と言うか夢であってほしい。そしてそんな体験を、一緒に旅をする人に話せるだろうか。いや無理だ。そもそも説明できる自信がない。
誰だよシュウゾウ。なんだ?パルキアなのか?
うっすらと、シンオウ地方に伝わる空間を司るという神が浮かんでは消えた――。そういえばパルキアやディアルガなる神とは別物なのだろうか。
まあいいか。
「さて、昨日でここまでこれたのならば、今日中にはカカクタウンには行けるだろう」
「テンポがいいな」
「いや、珍しいぞ、一日でサラユキタウンからフラーワまで来るのは。何かスポーツでもしていたのか?」
「いや、別に――」
スポーツはしていない。スポーツはしていないし、体力づくりや山中行軍に関しても思い当たる節はない。おじいちゃんによく山に放置されたこと以外。あれは酷かった。残酷であった。そしていないことに気が付いていなかった。あれ、目から汗が。
「どうした急に泣き始めて」
「いや、なんだか悲しくなってきて……」
「ふうん……」
サンカは興味なさげに頷き、荷物をまとめ終えた。
「さて、出発しようか――そういえばススム、バックが随分とすっきりしたじゃないか」
「うわー、本当だ、なんでだろうな―ッ!」
――不思議だなあッ!
朝焼けに、声が響き渡った。
016
「む」
晴れ。
雪は降ってこそいないが、しかしまだ降り積もっている中をじゃくじゃくと歩いている途中。
前を歩くサンカが、手で僕にストップをかけた。
「どうした?」
「静かに――リングマだ」
「げ――」
リングマ。
サンカの手持ちであるガチグマの進化前。身体能力がすさまじく、かなり強いポケモンである……。
「どうする?戦うか?」
「いや、向こうから襲ってきたのならまだしも、こちらから攻撃するのは避けたい。なるべく静かに迂回しよう」
「――意外だな」
「何がだ?」
「いや、トレーナーって言うから、目につけたポケモン全員なぎ倒して進んでいくものかと」
――僕をいじめていたやつらも、そういうタイプであった。目につく人間を、手あたり次第に手を付けて。配下に下るならまだしも、反抗するのであれば、徹底的に痛めつけるような――。
「まあ、そういうやつもいると聞くな。ただ、この地方にいると思わされるのだが、我々はこの地方に生かされているのだ。むやみやたらに手を出しては、いずれ大きなしっぺ返しが来るぞ――しかもよく見ろ、あのリングマ、かなり疲弊している」
サンカに言われてよく観察するが、なるほど、肩で息をしているし、全身傷だらけだ。
「何があったか定かではないが、縄張り争いでもあったのだろう――もしくは、オカシラに歯向かったか」
「オカシラ?」
「うむ。この地方特有の、突然変異種のようなものだ。多くの場合、その系統の同種を従えていて――すさまじく強い。まあ、何が言いたいかと言うと、どちらにしろあの個体より強いリングマが傍にいるかもしないという事だ」
――逃げるが吉、と言わんばかりにサンカがくるりと旋回する。
そしてその拍子に、木の枝を思い切り踏みつけた。なかなかにいい音が鳴り響いた――。リングマが、こちらの方を振り向く。
「何してんの!?」
「あれだ。こういう事にも気をつけましょうという、体を張った教えだな」
「体張りすぎて死んだら意味ないんだよッ!?」
しかも今の会話で、思い切りこちらに向けて走り出している。
「うわあメラルバ出てきて――!」
しかし。
軽快な音と共に出てきたのは、ラルトスであった――。
「るう!?」
「ボール取り違えた――ッ!?」
好奇心は猫を殺すが、パニックは人を一体何人殺してきたのだろう……。殺す気かこの野郎と、ラルトスが思い切りこちらを睨みつけてくる。
「ええいままよ、ラルトスサイケこうせん!」
とっさに放たれた、サイケデリックな光線。それはリングマの頭部に直撃し、一撃で昏倒させるに至った――。
「おっちょこちょいのわりに運がいいな」
「おっちょこちょい言うな」
――違和感。
「そもそもサンカが枝を踏んだからこんなことに――」
「はて、何のことだ」
――違和感。
「ごまかすなっ!」
「はっはっは、まあいいではないか。こうして無事で、一撃で倒す事が出来たのだから――ん?」
――違和感。
を、お互いに共有する。
「おかしくないか?」
「ああ、僕も思ってた」
「いくら弱ってたとはいえ、向こうのレベルは三十を超えているはずだぞ?」
「たったレベル十前後のラルトスが、一撃で倒せるはずもない――か」
与えられるダメージは、本当に僅かだろう――しかし。効果なしでもなければ、一ダメージぐらいは与える事が出来る――。
「……ろくでもない匂いしかしないな」
「ああ――例えば、悪意のある何者かが、あえてここまで弱らせていた――とか」
だとすれば、許されざることではない。そして許す気もない。
「あまり、君を危険なところへ行かせたくないのだが――」
サンカはあきらめるようなジェスチャーで、ため息をついた。
「まあ、仕方がないな」
どこかつやつやとしているのは気のせいだろうか。しかし、本当に悪意のあるものがいるのだろうか――。
「リングマの足跡を見つけたぞ!」
「でかした!貴重なサンプルだ、絶対に見つけるぞ!」
と。
声をあげながら走ってきたのは、安っぽい巫女服と装束を着た男女二人。先程の台詞から、こいつらがリングマに対して何かしらしていたのは間違いないだろう。
彼らと僕らの、目が合った。
「なんだぁ?ガキども――」
「そんなことよりも、リングマの足跡が途絶えている!」
ぎろり、と男がこちらを睨みつけた。
「お前ら、さっきボロボロのリングマを見なかったか?」
「見てたとしても言うわけがないだろう」
サンカが堂々と答えた。
「それじゃあ、言う気になるまで痛めつけようか――!」
男と女が、モンスターボールを構えた。
「俺たちはシンメツ団!」
「邪魔する奴らは――」
「「皆殺しだッ!」」
【シンメツ団が 勝負を仕掛けてきた!】