空想鬼譚   作:庵non

17 / 26
柱合裁判~画策編
17.露呈と裁定


 

 

 

 

 この日、竹雄は師匠である煉獄杏寿郎と共に、鬼殺隊の本部へと赴いていた。

 

 深い森の奥、まるで大名屋敷のような壮麗な邸宅が、世から隠されるように佇んでいる。

 隠の手によって目隠しを施され、何度も人員を替えられ、藤の家をいくつも経由しながら――辿り着くまでに、煉獄邸を出てから日の出後の数時間を要した。途中で煉獄とは一度引き離され、再び合流したのは表門の前。そこに至るまでの道程すら、竹雄の記憶には断片的にしか残っていない。

 本部の所在は徹底して秘匿され、時には場所そのものが移されるという。その厳重さこそが、鬼殺隊が数百年にわたり鬼の脅威と対峙し続けてこられた理由のひとつだった。

 

 二人は粛々と敷地へ足を踏み入れる。

 

 (師匠の家も大きかったけど……それよりも、ずっと広い……!)

 

 言葉にならない感嘆が、胸の奥で膨らむ。

 庭に点在する蔵ひとつ取っても、生家が丸ごと収まりそうな大きさだ。竹雄は無意識に視線を巡らせ、そうしていなければ押し潰されそうになる重圧から、少しでも意識を逸らそうとした。

 

 鬼と刃を交えるときとは違う。ここにあるのは血の匂いではなく、冷ややかに張り詰めた空気と、逃げ場のない視線の気配だった。

 兄を、二人の姉を救うために――自分は何を選び、どう立つべきなのか。

 答えは見えないまま、それでも足だけが、前へ前へと運ばれていく。

 

 

 

 思い返すのは、今朝のことだった。

 

 夜明けとともに一羽の鎹鴉が舞い降り、裁判の知らせを運んできた。羽音を残して止まり木に留まったその姿を前に、煉獄は書状へと視線を落とす。

 

「“裁判”が開かれる。柱合会議の前に行うようだ」

 

 読み上げられた声は、火を落とした炉のように物静かで、余分な熱を含んでいなかった。

 

「竹雄の兄上の炭治郎殿と、姉上たちの件だ。君の兄が鬼の姉妹を連れていることが表沙汰になり、問題となった。承知していると思うが、鬼を庇う行為は隊律違反だ。該当者は斬首される。だが……鬼を連れた隊士という例は、これまでになかった」

 

 淡々と告げられる言葉の一つ一つが、胸に沈んでいく。

 

「裁判……俺も、出るんですか」

 

 絞り出すように尋ねると、煉獄は短く頷いた。

 

「うむ。竹雄は立ち合いを命じられている」

「じゃあ、俺も……裁かれるんですか?」

 

 その問いに、煉獄は一拍の沈黙を置き、静かに首を振った。

 

「違う。お前は証人だ。入隊後に鬼を庇ったことも、共に行動したこともない。掟には反していない。被疑者ではないんだ」

「でも、俺だって――!」

 

 言葉が、勢いのままに溢れ出る。

 

「弟だから当事者だ!!俺は、竈門炭治郎の弟です!!兄ちゃんと一緒に裁かれる立場じゃないんですか!?」

 

 焦りに駆られた声を、煉獄は遮らなかった。

 ただ、真正面から竹雄を見据える。その眼差しは揺るがず、諭すでも叱るでもない重さで、竹雄の胸を締めつけた。

 次の言葉を探した瞬間、外から声が届く。

 

「煉獄様、隠が到着いたしました」

 

 煉獄は小さく息を吐き、背を向けた。

 

「迎えが来た。話はここまでだ」

 

 それきり、何も言わなかった。

 

 

 

 ――――そして今。

 

 先を歩く師の背は、いつもと変わらず大きいはずなのに、今はまるで巨大な壁のように立ちはだかって見えた。

 竹雄は唇を噛み締め、その背を追って歩を進める。

 

 白砂利の敷かれた縁側へと出た瞬間、空気が変わった。

 庭に佇んでいたのは、七人の剣士だった。揃いの隊服に宿る黒が視界を占め、日輪刀と金具が淡く光を反射する。その静止した姿だけで、場を支配している。鬼殺隊の最高位――“柱”

 

 次の瞬間、その視線が一斉に竹雄へと注がれた。

 胸の奥で、心臓が強く跳ねる。逃げ場のない圧に、喉がひくりと鳴った。

 

 (あの人たちと対面した鬼の気持ちは……)

 

 言葉にならないまま、思考が途切れる。

 

 (きっと、今の俺と同じだ)

 

 竹雄は、その場に立っているだけで現実から引き剥がされていくような感覚に囚われていた。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

「竈門、竹雄です。本日は……お時間をいただき、ありがとうございます」

 

 煉獄杏寿郎の背から一歩進み出た少年が、僅かに声を震わせながら名乗った。白砂利に落ちる影は細く頼りなく、それでも深く頭を垂れる姿勢には、逃げずに立とうとする実直さが滲んでいる。

 

 相対する“柱”たちの視線が、一斉にその小さな身体へと注がれた。

 無言の圧に、息が詰まる。胸の奥が重く軋み、鼓動が早鐘のように打ち始めた。

 

 (これが、“柱”……)

 

 列の端に立つ大柄な男が、飾り立てた額当てを陽に光らせる。鎖に連なる宝玉が七色に反射し、左目に紅の紋様を縁取る赤紫の双眸が、値踏みするように竹雄を捉えていた。派手な忍装束も豪奢な装飾も、その異様な威圧の前では飾りに見えない。

 

 “音柱”――宇髄天元。

 

 (派手な人だ……けど、ただの見た目じゃない。息を呑むほどの圧だ)

 

 視線が自然と逃げ、隣に立つ女と交わる。

 桜餅を思わせる華やかな髪色を持つ、“恋柱”――甘露寺蜜璃。新緑の瞳が穏やかに細まり、柔らかな微笑みが返ってきた。

 

 煉獄邸で共に過ごした日々が胸をよぎり、竹雄はほんの一瞬、肩の力を抜く。

 だが、その安堵を切り裂くように、乾いた声が落ちてきた。

 

「煉獄。なぜ拘束していない」

 

 松の枝の上から降り注ぐような声。

 “蛇柱”――伊黒小芭内が、首に白蛇を巻きつけ、二色の瞳を細めている。問い詰めるように指を伸ばし、その声には隠しきれない苛立ちが滲んでいた。

 

 煉獄が、即座に応じる。

 

「胡蝶からの文に“関係者を同伴せよ”とあった!竹雄は関係者ではあるが、入隊後に鬼を庇った事実はない!!ゆえに証人として同行させた!拘束する理由はない!!」

 

 煉獄の声が庭に響き、空気が震える。

 

 誰もすぐには言葉を返さなかった。竹雄は思わず喉を鳴らし、握った拳に力がこもる。

 その沈黙を破ったのは、飄々とした声だった。

 

「ふーん、派手に筋は通ってるな」

 

 宇髄が得心したように頷き、唇の端を面白そうに吊り上げる。余裕のある笑みは、場の緊張を測るようでもあった。

 

「掟は入隊後に適用される。()()入隊前に身内を庇っていたとしても、それは罪にはならねぇ……ま、煉獄が地味な嘘を吐くとも思えねぇがな」

 

 言葉のあとに、また一拍の間が落ちる。

 誰も笑わず、誰も動かない。砂利の上を渡る風が、衣の裾を揺らすだけだった。

 

「証人だと?――身内を庇うなら、それも処分の対象と見做すべきだな」

 

 伊黒が鋭く視線を細める。

 煉獄は、迷いなく頷いた。

 

「うむ、当然だ!」

 

 その一言が、竹雄の胸を深く締めつけた。

 

 煉獄の頷きは、ただ掟に従っただけのものだ。

 だが竹雄には、それが自分を切り捨てる合図のように映る。師の横顔は揺るぎなく、正しく、だからこそ遠かった。

 その距離感が竹雄の胸の奥で、まだ形にならない幼い決意を、確かに押し固めていく。

 

 

 胡蝶しのぶが一歩、前へと進み出た。

 その声音には感情の揺れが一切なく、昨夜の出来事――冨岡義勇と新人隊士・竈門炭治郎が、二人の鬼を庇った一件を、事実として滞りなく報告する。

 

「二人の鬼を庇ったその隊員を守るように、冨岡さんは行動しました。その後、私を制止し、鬼殺の妨害をしています。結果として――隊律に背いた、ということになりますね」

 

 言い切りの言葉が、庭に落ちた。

 

「なんと、悲しきことか……柱が掟を破り、鬼を庇うなど……」

 

 “岩柱”――悲鳴嶼行冥。盲目の瞳から、静かに涙が零れ落ちる。数珠を擦り鳴らしながら祈りを捧げるその姿は、哀悼であり、断罪でもあった。岩のような巨体は微動だにせず、低く重い声が庭全体を覆っていく。

 

 竹雄は、理由もなく悟った。

 ――この男が、ここにいる誰よりも強い。

 

 宇髄は腕を組み、顎に指を添えていた。派手な身振りも言葉もない沈黙。それは思考の時間であり、感情を削ぎ落とした冷静さの表れだった。

 

「下弦を斬った新人を処分、か。人材不足のご時世に、有能株を地味に潰す気か?――派手に間抜けだな」

 

 低く落とされた一言に、空気が僅かに波打つ。

 それを合図にしたかのように、柱たちの反応が重なり始めた。賛同、反発、沈黙。庭を満たす気配が、色を持って揺らぎだす。

 

「だからこそ、危険だろうに」

 

 伊黒の声は鋭く、冷たい。

 

「力があるにもかかわらず、私情で掟を平然と違える。その危うさを、なぜ野放しにする必要がある」

 

 吐き捨てるような言葉の奥には、はっきりとした嫌悪があった。

 鬼を庇う――それだけで、彼の中では信用に値しない。どれほどの功績を積もうと、根が腐っていれば、いずれ隊を蝕む。そんな存在を許す理由は、どこにもない。

 

 そして――確実に掟を破ったはずの冨岡は、拘束されることもなく、庭の隅に立っていた。

 その事実が、伊黒の感情に油を注ぐ。

 絡みつくような視線を向けられても、冨岡は微動だにしない。弁明も、反論もなく、ただ庭園の奥を見つめたままだ。

 

「冨岡はどうするのかね」

 

 伊黒の声が低く落ちる。

 

「どう処分する。どう責任を取らせる――どんな目に、遭わせてやろうか」

 

 蛇の舌が、竹雄の耳元で囁いたかのようだった。

 心臓が、跳ねる。その刹那。少年の内側で、何かが――――音もなく、弾けた。

 

 

俺も……!!処分をお願いします!!

 

 

 張り裂けるような叫びが、庭を貫いた。

 一瞬にして、空気が凍りつく。

 柱たちの視線が、再び一斉に竹雄へと突き刺さった。先ほどまで他人事のように進んでいた裁定の場が、少年一人の言葉で強引に引き戻される。

 

 間髪を入れず、煉獄杏寿郎が隣に立つ竹雄の肩を力強く掴んだ。

 

「竹雄!その心意気は立派だ!!だが、感情のままに突き進むのは未熟者のすることだ!!」

 

 普段は交わらぬはずの煉獄の視線が、今は真正面から竹雄にぶつかり合う。

 叱責の色は濃い。だが、その眼差しは決して少年を押し潰すものではなかった。むしろ――その覚悟の質を量ろうとする、師としての厳しさが宿っている。

 

 竹雄は一瞬だけ息を詰め、それでも目を逸らさなかった。

 怒鳴り返すのではない。感情を叩きつけるのでもない。必死に、伝わる言葉を探しながら口を開く。

 

「師匠には……悪いと思ってます!でも、やっぱり俺は兄ちゃんの弟です!!俺は、姉ちゃんたちを人間に戻すために入隊しました!!ひとりだけ生き残っても……そんなの、意味がないんです!!」

 

 煉獄は短く息を吐き、眉を寄せた。

 

「お前の心は尊い!!しかし、今ここで命を差し出すことが義ではない!!命を懸けるべき時と場を、決して見誤るな!!戦うべきはここではない!鬼との戦場だ!!」

 

 その声は熱を帯びている。

 だが竹雄には、その奥に公平さを崩さぬ冷静さが潜んでいるのが見えていた。情だけで庇わず、理だけで切り捨てもしない――その距離感が、かえって胸を締めつける。

 

「……その通りだと思います!!」

 

 一拍、竹雄は息を吸い込んだ。

 

「でも――姉ちゃんたちは、悪い鬼じゃないんです!兄ちゃんが連れているってことは、俺が別れてからも人を喰っていないはずです!それを確かめもしないで裁かれるなんて……間違ってます!!」

 

 声は次第に熱を帯び、庭の空気を揺らした。

 

 宇髄は腕を組んだまま、(……継子の、最初の見立ては外れたな)と口角を上げる。

 甘露寺は両手を胸元に当て、どうしていいかわからない様子で目を瞬かせた。

 伊黒は面倒そうに舌打ちし、悲鳴嶼は祈りの手を止めぬまま、静かに数珠を鳴らし続ける。

 “霞柱”――時透無一郎は興味を失ったように、小さく欠伸を漏らした。

 

 そして――庭の隅に立つ冨岡だけが何も言わず、身じろぎもせずに、その師弟の言い争いを見つめ続けていた。

 

 胡蝶が、庭の奥から忍び寄る足音に最初に気づいた。

 風の流れが、ほんの少し変わる。彼女は視線だけで柱たちを制し、落ち着いた声色で告げる。

 

「お二人とも……そこまでにしましょう。どうやら、到着したようです」

 

 張り詰めた空気を割るように、縁側の向こうへ黒装束の隠が姿を現した。

 その背に担がれていたのは、血と泥に塗れた少年――竈門炭治郎だった。

 

 竹雄の喉が、音もなく詰まる。

 駆け寄りたい衝動とは裏腹に、足は白砂利に縫い留められたまま、動かなかった。兄の姿を視界に捉えた瞬間、胸の奥で何かが、音を立てて崩れ落ちる。

 

 喧騒は、嘘のように消え失せた。庭にいた全員の視線が――否応なく、炭治郎ただ一人へと集束する。

 

 裁きの場に、ようやく()()()が姿を現した。

 

 

 

 

 

 隠が乱暴に肩を揺さぶった。

 

「――やい!!いつまで寝てんだ!!……柱の前だぞ!!」

 

 荒い声に、炭治郎は呻くように息を吸い、はっと目を開いた。

 差し込む陽光に目を細め、瞬きを繰り返しながら、ぼんやりと庭を見渡す。視界に飛び込んできたのは、整然と並ぶ八つの影――“柱”。

 何が起きているのか、理解が追いつかない。思考が追い縋るより先に、澄んだ声が落ちてきた。

 

「ここは鬼殺隊の本部です。あなたは今から裁判を受けるのですよ、竈門炭治郎君」

 

 胡蝶の声音は柔らかく、しかし蟲の羽音のように感情の起伏を持たなかった。

 

 炭治郎の瞳が、大きく揺れる。慌てて周囲を見回すが、禰豆子と姉の気配がない。仲間の影さえ存在しない。

 代わりに、その視線が絡め取られたのは――

 煉獄と甘露寺の背後で、息を呑むように立ち尽くしている一人の少年だった。

 

「……竹雄?」

 

 名を口にした瞬間、炭治郎自身が信じられないというように目を見開く。

 竹雄の喉が詰まり、声にならない息が漏れた。

 

 胡蝶が一歩前へ出る。

 庭の空気を整えるように静やかに告げた。

 

「まずは、坊や本人の話を聞きましょう」

 

 その言葉の裏には――冨岡の処遇も、いずれ同じ俎上に載せるという冷ややかな意志が潜んでいる。

 視線が一斉に炭治郎へと集まった。

 煉獄の腕が僅かに動き、羽織が風を含んで鳴る。

 

 空気が硬く張り詰める中、炭治郎は喉を痛めたまま咳き込み、声を出そうとしても途切れてしまう。

 胡蝶は小さな瓢箪を差し出し、薬を溶かした水を飲ませた。

 喉の灼ける痛みが和らぐ。だが、彼女は穏やかな声で釘を刺す。

 

「怪我が治ったわけではないので、無理はいけませんよ。傷口が広がれば、治るものも治らなくなりますから」

 

 水を飲み下し、炭治郎は焦げつく喉を押さえながら、必死に声を絞り出した。

 

「……俺の姉と妹は、鬼になりました。でも、人を喰ったことはありません。今までも、これからも――絶対に、人を傷つけません!」

 

 その時、場の温度が一段落ちた。

 

 伊黒の肩で、白い蛇がすっと鎌首をもたげる。身内を庇う言葉など、妄言に過ぎない。その眼差しは冷え切っていた。

 続いて、悲鳴嶼の数珠が鳴る。節の触れ合う音が、やけに大きく庭に響く。鬼に取り憑かれた子供を生かすことは、哀れを引き延ばすだけだ――その判断に迷いはない。

 

 炭治郎は肩で息をしながらも、視線を逸らさなかった。

 

「聞いてください!!二人が鬼になったのは二年以上前です!その間、一度も人を喰ったりしていない!!」

 

 宇髄が鼻で笑い、額当ての宝玉が揺れる。

 

「話が地味にぐるぐる回ってるぞ、アホが。人を喰ってない、これからも喰わないこと――口先だけでなく、ド派手に証明してみせろ」

 

 時透は、ふと空を横切る鳥影を目で追っていた。

 場の緊張も、少年の必死さも、彼の意識には届かない。

 

 (……なんだっけ、あの鳥)

 

 そして、甘露寺が頬を赤らめながら、恐る恐る口を開いた。

 

「あの……疑問があるんですけど……()()()がこのことを把握していないとは思えないです。勝手に処分しちゃって、いいんでしょうか?」

 

 その一言が落ちた瞬間、庭の空気が、きしりと軋み――風向きが、確かに変わった。

 

 

 

 

 竹雄は、めまぐるしく交わされる言葉の応酬を外側から眺めながら、柱たちの立ち位置を頭の中で整理していった。

 

 炎柱・煉獄、そして恋柱・甘露寺は、明確な処分反対派。

 音柱・宇髄は理屈を重んじる男で、当初は中立――だが議論が進むにつれ、反対へと傾きつつあるのが分かる。

 蟲柱・胡蝶もまた、感情的な断罪を良しとせず、慎重な立場を崩していなかった。

 

 一方で、蛇柱・伊黒、岩柱・悲鳴嶼、霞柱・時透は処分賛成派。

 とりわけ最年少の霞柱が放った「死にたいなら死ねば?」という冷淡な一言は、刃のように竹雄の耳に残っていた。

 

 (……やっぱり、()()()が鍵なんだな)

 

 竹雄は、そう確信する。

 この場でどれほど理屈が積み上げられようと、最終的な裁定を下すのは――お館様と呼ばれる人物ただ一人。

 

 最悪の場合、彼が現れるまでの時間を稼ぐために、自分が再び「連座する」と騒ぐことさえ、覚悟のうちだった。

 

 今は、兄の炭治郎もここにいる。

 兄の性格を思えば、黙って竹雄の連座を見過ごすはずがない。きっと師匠と一緒になって、この場をひっくり返そうとするだろう。

 

 (この感じだと、俺が騒ぐまでもなさそうだけど……)

 

 そんな心の声が、ふと溢れる。

 炭治郎は後からこの場に来たこともあり、議論の熱量にすっかり飲まれ、少し目を回しているようだった。

 

 その一方で――

 伊黒は、眼下のやり取りに苛立ちを募らせていた。

 

 (冨岡に発言権がないのは当然として。それにしても、ここまで意見が割れるとは……)

 

 煉獄と甘露寺は想定内だ。

 だが、宇髄と胡蝶までがそちら側に回るとは――

 

 (宇髄は最初、「派手に頸を斬ってやろう」と息巻いていたはずだろう……!三対四は不利だ。不死川はまだ来ないのか……!)

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。