善逸視点回ですが、原作のテンションそのままだと読みづらくなるので、全体的に語りは控えめにしています。
その代わり、一部は全力でやりました。
我妻善逸こと――俺は、那田蜘蛛山の任務で、激クサデカ鬼との戦闘で死にかけた。
山の別れ道で、灯麻希ちゃんが「蜘蛛に気をつけて」って忠告してくれてたのに、俺はそれを活かせなかった。気づいたときにはもう遅くて、背後から迫ってきた手下の蜘蛛――元は人間だったらしいけど――見た目は完全に化け物に、チクリと毒を刺された。
そこからはもう最悪だ。体は痺れるし、皮膚は軋むし、真っ先に髪は抜けるし。このまま蜘蛛になるんだって分かった瞬間、怖すぎて意識が飛んだ。
でも……運が良かった。夢の中に爺ちゃんが出てきて、半分夢と半分現実みたいな状態だったおかげで、夢の中で動かした身体と現実の身体が重なったんだ。
唯一まともに使える技――“壱ノ型・霹靂一閃”。それで、なんとか鬼を倒せた。
全集中の呼吸を続けていたのも、結果的には正解だったらしい。
灯麻希ちゃんとしのぶさんが作ってくれた薬のおかげで、俺の身体は殆ど元に戻った。まだ完全じゃないけど、生きている。それだけで、もう十分すぎるくらいだ。
その後に始まった蝶屋敷での機能回復訓練も、最初は正直、悪くなかった。
炭治郎と伊之助を除けば、周りは女の子ばっかりだし、同じ空間にいて、合法的に触られたり、触ったりできる機会がある。最高に決まってる。
伊之助は体解しで涙目になって騒いでたけど、そんなの大げさだ。臭い薬湯だって、女の子がかけてくれるなら、それはもうご褒美だろ。
まあ、鬼ごっこで勢い余ってアオイちゃんに後ろから抱きついて、ボコボコに殴られたことはあったけど……あれは、俺が悪いんじゃない。
――――勝負に勝って、戦いに負けただけだ。
問題は、その先だった。
カナヲちゃんに、全く歯が立たなかった。炭治郎は少しずつだけど確実に動きに追いついていくのに、俺と伊之助は完全に置いていかれていた。もう、善逸じゃなくて“紋逸”に改名した方がいいんじゃないかってくらい、下手を晒した。
伊之助は負け慣れてないらしく、不機嫌になって不貞腐れて、ついには訓練場からいなくなった。
で、その様子を見て俺は思った。
――――俺にしては、ここまでよく頑張った方じゃない?
命が助かって、身体も戻って、訓練もちゃんとやった。
だったら、もう十分だろ。少しくらい休んでもいいはずだ。そう考えて、俺は遊びに出かけることにした。
伊之助もどうやら裏の山に脱走したらしい。
イノシシと気が合ったのは、これが初めてだった。
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サボり始めて、もう二日になる。
この時、俺は台所からこっそり盗んだ饅頭を手に、物陰に隠れて食べていた。中にぎっしり詰まったあんこがやたら甘くて、絶品で――気づけば周りを警戒することすら忘れていた。
その瞬間、隣から謎の
「ヒィッ……!」
気配に飛び上がると、すぐ隣に胡蝶しのぶさんが立っていた。あの、いつもの優しい笑顔のままで。
「ここにいたんですね、善逸君。探しましたよ」
(可愛い………でも今、どんな感情なのぉ……!?)
笑顔なのに、怖い。
初めて会った時から変わらない
「お饅頭は、美味しいですか?」
「は、はい……美味しいです………」
しのぶさんの方に視線を戻すと、背後に伊之助もいた。
入院着の上に風呂敷を外套みたいに羽織り、仁王立ちでこっちを見ている。服は泥だらけだし―――裏山で何をしていたんだ、コイツ。
それでもしのぶさんは、伊之助のことなど気にする様子もなく、穏やかな声で言った。
「“機能回復訓練”から逃げ出してしまったと、聞いていますよ」
完全に詰んだ。
「炭治郎君が、善逸君より動けている理由は分かりますか?」
俺は首を振る。
「彼は“全集中・常中”を身につけているんです。灯麻希さんから聞きました。善逸君も、あと少しで会得できるところまで来ていたと」
胸の奥が、ちくりと痛む。
「………でも俺、きつくて」
声が自然と小さくなる。
「息ができなくて、体も言うこと聞かなくて……俺なんかが頑張ったって、どうせ才能ないし。無理してまた死にかけるくらいなら、逃げた方がいいかなって……思っちゃって……」
言い訳だって分かってる。でも、正直な気持ちだった。
しのぶさんは少しだけ目を細めて――
「また頑張ればいいじゃないですか」
そう、当たり前みたいに言った。
「一度は、惜しいところまで行けたんです。今努力すれば、もっと楽にできるようになりますよ」
そして―――
「頑張ってください、善逸君。
そう言って、俺の手をぎゅっと握る。
花が咲いたみたいな、とびきりの笑顔で。
(今……俺のこと、
一気に、顔と全身が熱くなる。頭が真っ白で、心臓がうるさい。
(ごめん、禰豆子ちゃん……!でも、君のことが一番好きなのは本当だ!ただ……ここで女の子のお願いを断るような男には、絶対なりたくない!!)
「ハイッ!!」
気づいたら、自然と返事をしていた。
「俺にも、饅頭食わせろ」
「いいよ~」
一瞬で、俺の饅頭は伊之助に全部奪われた。
でも、不思議と腹は立たなかった。さっきまで大事だったはずの饅頭がどうでもよくなるくらい、俺の頭はもう別のことでいっぱいだった。
しのぶさんに連れられ、伊之助と一緒に訓練場へ戻る。
床に走る木目、反射する光。道場特有の張りつめた空気。正直、俺はこういうの得意じゃない。
――でも今の俺は、そんなことで逃げたりしない。
胸の奥で自分に言い聞かせ、踏み出した足は自然と力強くなる。
梅雨の湿った外気を想像していたのに、中はひんやりとしていた。壁上部の格子窓から差し込む日の光が、硝子越しに柔らかく床を照らしている。空気の匂い、木の香り、微かな風の揺れ―――
全てが、訓練場に戻ってきたことを実感させた。
(うへぇ……)
中央では炭治郎とカナヲちゃんが鬼ごっこの真っ最中だった。
カナヲちゃんは身を翻し、逃げながらも俊敏に動く。炭治郎は真剣な眼差しで、手加減なく追いかけている。その姿に、思わず息を飲んだ。全力でカナヲちゃんを応援しなくては―――
「カナヲちゃん、頑張れ!炭治郎に負けるな!」
その時だ。
「二人とも頑張って下さいー!」
「もうちょっとだよー!」
明るい声が、左の方から飛んできた。思わず視線を向ける。
入り口近く。すぐそばの壁際に、すみちゃんが立っている。
……それはいい。問題は、その隣だった。
黒い二重回しを何枚も重ねて、手袋もあって肌は一切見えない。頭巾を被り、顔には“隠”が使う
人の形はしているのに、人の音がしなかった。
「――――――うわぁッ!?」
喉から勝手に声が飛び出した、その瞬間。
「うるせぇぞ!
ゴンッ、と鈍い音と一緒に、伊之助の拳が後頭部に叩き込まれる。
(痛っ!――待て待て待て、今なんて言った?紋……なに?)
「“悶絶”………ぷっ」
堪えきれなかったらしい。布に覆われた不審者が、肩を揺らしてくすくすと笑う。
――この声。そして、耳の奥で聞こえる独特の音。
「あぁ!?なんだぁ!灯麻希ちゃんか~~~!!」
一気に力が抜けた。心臓に悪すぎる。
その格好で急に現れるのはやめてほしい。もし、夜に出会ったら発狂するよ!?
「驚かせてごめんね、善逸くん。でもこの格好をしているのには、ちゃんと理由があるんだよ」
面部の奥から届く声は、柔らかくて落ち着いている。
「そんなに厚着して、暑くないの?」
「今日くらいの気温なら大丈夫だよ。心配してくれてありがとう――……あっ、終わったみたいだね」
その言葉に、視線が自然と訓練場の中央へ向く。
炭治郎の手が、ちょうどカナヲちゃんの左肩に触れたところだった。合図もなく鬼ごっこは終わり、二人の間に張り詰めていた空気がすっと解ける。
(カナヲちゃんの肩から手を離せ!堅物デコ野郎!!ズルいぞぉぉ!!)
灯麻希ちゃんが二人の方へ歩いていく。途中で俺たちの後ろに立っていたしのぶさんに気づくと、ぺこりと丁寧に頭を下げた。
「大丈夫ですよ」
しのぶさんは素敵な笑顔でそう返し、そのまま静かに訓練場を後にする。
ただ挨拶を交わしただけなのに、空気が一瞬だけ張り詰めた気がした。
そう思ったのも束の間――
「おい、お前!体をほぐせ!」
伊之助はもう先を行っていて、なほちゃんの前にどんと立っていた。
「ちょ、ちょっと待てよ伊之助!俺もいるからな!?」
置いていかれないよう慌てて声を張り上げる。それと、女の子に乱暴な言動は絶対ダメだぞ!
少し離れた場所で、灯麻希ちゃんの声がする。
「カナヲちゃん、炭治郎の相手してくれてありがとね」
「師範に、私の修行にもなるからって言われたから。この後は、残りの隊員の柔軟を手伝う」
淡々とした声。感情は薄いけど、拒む気配はない。
「そうだね。でも、お礼を言わせて」
そのやり取りが、間に混じる息遣いまで含めてやけに鮮明に耳に届く。
「――あ」
視界の端で、カナヲちゃんがこちらを向いた。
そのまま、まっすぐ俺の方へ歩いてくる。
まさか。
「……」
(来た!!カナヲちゃんが!俺の体を!解してくれる!!やったーーーー!!)
敷かれた布団の上で、伊之助の体を解しているなほちゃんに、灯麻希ちゃんの格好の理由を聞こうとした――その瞬間だった。
ドン!!
訓練場の床が、腹の底に響くように揺れた。
「何だ、今の!?」
思わず声が出る。視線を跳ね上げると、黒い残像を追う炭治郎の姿が見えた。息を詰めて床を蹴り、必死に何かを追いかけている。
――その先にいるのが、灯麻希ちゃんだと気づく。
カナヲちゃんを捕まえられるようになった炭治郎の、次の相手。今は灯麻希ちゃんが訓練に加わっているんだ。
「おい!まだかよ!!」
「伊之助さん……!まだ動かないでください~!」
伊之助が痺れを切らしたように叫び、なほちゃんが慌てて押さえつける。
「早くしろ!子分共に負けてらんねぇ!!」
「で、でも今は無理ですよ……!まだ筋が───」
伊之助は、理由なんて分かってない。
でも、本能で察してるんだ。
「もしかしてさ。灯麻希ちゃんが、あんな全身布づくめなのって……」
なほちゃんは一瞬だけ視線を泳がせ、それからきちんと答えた。
「灯麻希さんは……しのぶ様がお忙しくて機能回復訓練に入れないので、その代わりをしてくださってるんです。 窓を閉め切るのは、患者さんのことを考えて灯麻希さんが断ったそうです。なので、少しでも日光から身を守るために、あの格好をしているんです」
頭が、追いつかない。
「夜と同じようには動けないみたいですが……今のところ、問題は起きてません」
──問題ない?
俺は、白目を剥きそうになった。
音を聞けば分かる。なほちゃんは、灯麻希ちゃんの言葉をそのまま受け取ってる。
――でも。
耳を澄ます。確かに負担はある。けど、それ以上に――楽しんでる音が、はっきり聞こえる。
昼間にここまで動ける鬼なんて、俺は知らない。二度と行きたくない場所・第一位の藤襲山だって、昼の間は鬼たちは暗がりに潜み、決して表には出てこなかった。俺が唯一正気に戻る時間帯だった。
禰豆子ちゃんだって同じだ。昼間に起きていても、必ず深い日陰か、暗い場所に身を置いている。
なのに――灯麻希ちゃんから聞こえてくる音は、違った。
真っ暗な夜道を、そっと照らす月明かりみたいに
炭治郎の家族は、みんなやさしい音がする。
竹雄は焚き火みたいに、じんわりと温かくて。
禰豆子ちゃんは……言うまでもない。澄んだ湖みたいで、朝靄の残る森の奥にひっそり咲く花みたいで、見ているだけで胸の奥がふわっと明るくなる。*1
でも――灯麻希ちゃんは、少し違う。
月が遠いように、灯麻希ちゃんからはいつも
(俺は、それが少しだけ……怖い)
触れられそうで、触れられない。そこにいるのに、どこか手の届かない場所にいるみたいで。
それに――太陽の灼熱に、焼かれたりしないか不安なんだ。月は、朝が来たら消えてしまうものだから。
「ゔっ……」
ボーっとしていたら、ぐいっと身体を伸ばされて思わず声が漏れた。痛いし、苦しい。
(カナヲちゃんに体を解されるのはこれが初めてだったけど、かなり痛い!!!可愛い顔してるのに、容赦ないね!?)
なんか、曲がっちゃいけないところまでいってるような……いやこれ絶対やばい……ちょっと待って無理無理無理―――
「ィギャ――――――ッッ!!!」
善逸の脳内原稿は、炭治郎が読んだ“善逸伝”(単純に読みづらい、全てが極端で偏ってる←炭治郎評価)をイメージして書いています。
流石に本文にそのまま入れると大変なことになるので、注釈に回しました。
内容自体は同じですが、文体を少し整えたショートver.も用意しています。もし「長すぎる!」「読みづらすぎる!」という声が多ければ、そちらに差し替えますのでご安心ください。