ファンタジーゲームの主人公に転移したら、女主人公がすでにいた   作:瓜売り

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11話:ゆかいな仲間 ジェオとレルヴェルベール

 炎の守護竜と氷の守護竜を同時に倒した僕たちは、火口の溶岩の上で息も絶え絶えになっていた。

 

 僕とヴァニテューとカルム、たったの三人でボス敵を二匹同時に倒せたのは奇跡だった。

 

 

「お疲れ様あ~。大変だったみたいだねえ~」

 

 今さらになって火口に到着したビュヴ―ルは能天気に僕たちを労う。

 その他人事のような口ぶりに対し、僕は不満全開の視線を向けた。

 

 恨めしそうな僕の視線に気づかないビュヴ―ルはウォッカの瓶に口をつけて、くぴくぴとラッパ飲みをしている。

 ウォッカはつい先ほどまでいた雪山で体を温めるために飲んでいたらしい。

 

 …だったらもう飲むなよ。ここは灼熱の火山だぞ?

 

 

 ビュヴ―ルは僕たちが戦い終えた直後に、この火口に突如として現れたのだ。

 現れる直前に地面に魔法陣のような模様が浮かび上がっていた。

 

 どうやらそれが『空間移動魔法』というものらしい。

 

 空間移動魔法とうのは要するにどこでもドアだ。

 世界旅行にだって行けるだろう。

 

 そんな便利な魔法があるなら、ますます早く来いよと思ってしまう。

 

 

「ぬふふふふ、カルム様の座標を見つけるのに時間がかかってしまいましたので…」

 

 座り込んだ僕の後ろで、長身で顔色の悪い不気味な男がつぶやく。

 

 男は真っ黒な法衣に身を包んでおり、その長身よりもさらに長い杖を持っている。

 

 空間移動魔法を使ったのはこの怪しい男らしい。

 

 

(わらわ)に手間をかけさせるとはの、心配したぞ『世界の救世主』よ」

 

 ビュヴ―ルと怪しい男、そしてもう一人、空間移動魔法で飛んできたのがこのちび女だ。

 ちび女は横にとがった三角の耳をしており、老人のような言葉遣いとは裏腹に少女のような見た目をしている。

 頭をぐるっと一周している髪飾りと紫の民族衣装が特徴的だった。

 

 おそらくだがエルフだか妖精だか、なんかその辺のファンタジー系の人種なのだろう。

 

 武器は…ランタン?を片手に持っている。

 

 

 

「…ていうか、誰だよお前ら!!」

 

 僕は今さらながらツッコミを入れる。

 

 なんか何食わぬ顔で「いつものメンバーです」という登場の仕方をしていたが、僕にとっては二人とも完全に初対面だった。

 

 新キャラを二人同時人出すなよ…!

 

 

「私はジェオと申します」

 

 怪しい男はそう名乗る。

 

「役職は…。そうですね、今は地理学者とでも名乗っておきましょう」

 

 名乗っておきましょうってなんだよ?

 怪しすぎるだろ…。

 

 

(わらわ)はレルヴェルベールじゃ」

 

 今度はちび女が名乗る。

 

 レルベル…? なんだって?

 

「童はエルフ一族の族長じゃ。もっとも、それは数百年前の話じゃがな…」

 

「じゃあ今話すなよ! 結局お前は何者なんだよ!」

 

「エルフの一族は滅びた。いや、あの忌々しい吸血鬼共の手によって滅ぼされたのじゃ。その復讐に手を染めた童は奴らと血を交わえた。それが故に、皮肉なことに魑魅魍魎の血統を束ねた十一の主席の座に就いたのじゃからな…笑えるわい。もっとも、それも数百年前の話じゃが…」

 

 まだ喋ってたよ。

 しかもまた数百年前の話だし…。

 

 ていうか一人だけキャラ設定盛りすぎだろ、絶対ゲーム内で回収されないやつじゃないか!

 

 

 僕は怪しい男と設定のややこしいちび女の正体を掴み損ねていた。

 

 助けを乞うようにカルムの方を見る。

 

「えっとね、その二人はわたしの仲間だよ!」

 

「二人とも!?」

 

「うん」

 

 カルムは無邪気な笑顔で頷く。

 

 僕が一切の寄り道をせずに炎の守護竜戦にたどり着く間に、カルムは仲間の加入イベントを二回もこなしたうえで氷の守護竜戦にたどり着いていたようだ。

 

 相変わらずバカみたいに早い攻略速度だ。

 

 …さすがはRTA女。

 

 

 僕があきれていると、ジェオが屈みこんで、その不健康で不景気そうな顔を僕に近づけてくる。

 

 どうやら挨拶のつもりらしい。

 

「ぬふふふふ。あなたはカルム様のご友人ですね。ぜひ私とも仲良くしてください。……時がくるまではね。ぬふふふふ」

 

 大丈夫かよこいつ、怪しすぎるだろ! 

 

 ジェオは骨ばった手を差し出してきたが、僕はその手を握り返せなかった。

 

 そんな僕の様子を見てジェオはほくそ笑む。

 

「おや残念、…勘がいいですねえ」

 

 それは裏切り者がよく言う意味深なセリフだった。

 

 ……もう確定だろ!

 

 

 

 

 

 

「ふむふむ、なるほどそうか…」

 

 レルヴ…ベールは炎の守護竜と氷の守護竜に向かって話しかけていた。

 

「わかったぞ、なぜ守護竜たちが錯乱して暴れておったかがな」

 

 どうやらレルヴ…ベールはドラゴンと会話ができるらしい。

 そのおかげで、守護竜たちが錯乱していた理由がついにわかったようだ。

 

 きっと、このゲームのストーリーにおける最重要な話に違いないだろう。

 

 

 僕は立ち上がって、レルヴ…ベールの話を真剣に聞く。

 

「どうやら何者かが世界樹を枯らそうとしており、その影響でこの大地にエネルギーが届かなくなっていたようじゃ。このままでは大地は崩れて冥界とつながりかねない。

 守護竜たちはそれを危惧して人間たちに伝えようとしておったようじゃな」

 

 レルヴ…ベールの話を聞き終わった僕は、うんうんと深く頷く。

 

 

 

 ……やばい、何言ってるかさっぱりわからなかった。

 

 

 

 いや、わからない単語は「世界樹」と「冥界」だけだった。

 文法自体はわかるので知らない単語も何となくのイメージはつくはずだ。

 大丈夫だ、古典のテストでもわからない単語を推測してきたじゃないか。

 

 ただ、難しいのはこの世界が平安時代でもなければ鎌倉時代でもないファンタジー世界だということだ。

 

 大地が崩れるってなんだ?

 そもそも世界観が全然わからないぞ。

 

 

「…世界樹を枯らそうとしているのは『冥界の教団』じゃろうな」

 

 レルヴ…ベールはぼそりと呟く。

 

 また知らない単語を増やしやがった。

 

「えっと、今の話よくわからなかったんだけど…」

 

 僕は恥を忍んで質問をすることにした。

 

 さすがに知らない単語が三つ出てくるとお手上げだ。

 

「童の説明のどこがわからなかったのじゃ?」

 

「えっと、どこっていうか、その… 全部?」

 

 その僕の言葉に、隣で聞いていたカルムがムフッと鼻で笑う。

 

 ち……ちくしょう!バカにバカにされた!!

 

 

 

 

 

 レルヴ…ベールが説明してくれた内容をまとめると、この世界の中心には『世界樹』と呼ばれる巨大な木が一本生えているらしい。

 僕たちの今いる大地はその木の幹によって支えられている―――つまりは世界樹の真ん中くらいの高さで浮いている状態だ。

 そして、世界樹の根の部分―――僕たちのいる大地の下には『冥界』と呼ばれる、なんか悪い魔物とか、死んだ悪人の魂の掃き溜めのような世界が広がっているらしい。

 

「つまり、僕たちの足元には魔物や死者の魂がうじゃうじゃいるってことかよ…」

 

「そうじゃな。もっとも、この大地がある限り冥界の魔物はこちらの世界にはこれんよ」

 

 レルヴ…ベールは自信満々に語る。

 

「そうなのか? 大地なんて崩壊させなくても、ちょっと穴をあければ冥界と繋がるんじゃ…」

 

「それはそうじゃな。確か五十年前にも冥界の蛇が一匹、大地に登ってきたといって大騒ぎになったのう」

 

「登ってこれるのかよ!?」

 

 じゃあダメじゃん。

 

 なんかこの世界の設定ガバガバ過ぎないか?

 

 

「一匹くらい魔物が逃げ出してくる分には退治すればよいだけじゃ。それよりも…、問題なのは『冥界の教団』じゃよ」

 

 レルヴ…ベールはそう前置きして話を元に戻す。

 

 なんだか都合の悪い話題から話を反らしたようにも聞こえた。

 

「『冥界の教団』というのは近年活発に活動している宗教団体じゃ。冥界の教団の目的は、世界樹を枯らしてこの大地をまるごと崩壊させることのようじゃな。

 やつらは大地が崩れて冥界に落ちることが人類の幸せだと本気で思っている連中じゃからな」

 

 

 

 

 

 

 説明を一部始終聞き終えた僕は、何となくだがこのゲームの目的を理解することができた。

 つまり、僕たちは世界樹という木を枯らそうとしている『冥界の教団』を倒せば良いわけだ。

 

「……ちょっと待てよ、じゃあ今までの守護竜との戦いは何だったんだ?」

 

「じゃから、守護竜たちはこの世界の危機を人間に伝えるために暴れていたんじゃよ」

 

「………………はあ!? なんで伝えるために暴れるんだよ!? そんな方法で伝わる訳ないだろ!!」

 

 なんか世界樹が大変ですよ―――という情報を伝えるために、守護竜たちは錯乱して暴れまわっていたらしい。

 

 なんというバッドコミュニケーションだ。

 

 何かあればとりあえず泣く赤ん坊と同じじゃないか。

 おむつを替えるかミルクを与えるかで迷うこちらの身にもなれ。

 

 

 炎の守護竜は頭を低くして「グギュギュ…」と小さく唸る。

 

「グギュギュじゃねえよ!! ふっざけるなよ!!」

 

 僕は大人しくなった炎の守護竜と氷の守護竜の足を順番に蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 今さらながらこのゲームの世界観を理解した僕はぽつりとつぶやく。

 

「まさか、この大地が球体じゃなくて平らだったなんて…」

 

 僕はてっきり地球のような球体の惑星にいるものだと思っていた。

 けれど、どうやら根本的にこの世界は地球とは作りが違うようだ。

 

 ファンタジーゲームの世界だもんな、地球と同じ方がおかしいか。

 

「…あれ?」

 

 急に静かになったのであたりを見渡す。

 

 すると、みんなが僕の方を向いて、目を細めて頬を膨らませていた。

 

 次の瞬間、そろって大爆笑がまきおこる。

 

「ハッハッハ!! デキスギ! お前はこの大地を球体だと思ってたのか!? そんなわけがないだろ!!」

 

「アハハハハ!! デキスギくんも、もしかして酔ってるのお~!? あたしでもさすがに大地は平らだって知ってるよお」

 

 や、やめろ! 僕を笑うな! バカにするな!!

 

「クッ… クク… デキスギくん。この大地が球体だったらね… 裏側にいる人はね… お、落っこちちゃうんだよ。

 クッ……カッ…アハハハハハ!! デキスギくんバカすぎるよ! …もうバカスギくんじゃん!」

 

 カルムはお腹をおさえて地面にうずくまりながら笑っている。

 

 ……よし決めた、次のボス戦があったら間違えたふりしてケツを思いっきり蹴ろう。

 

 

 バカ共が笑い転げている中、ジェオだけは真面目な顔をして唸っていた。

 

「この大地が球体ですか…。 突拍子もない話に聞こえますが、球体の中心に引き寄せる力が働いていればあるいは…。 ぬふふふ…。なかなかに興味深い仮説ですね」

 

 

 ジェオ、疑ってごめん。

 

 僕の真の仲間はお前だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕たちの次の目的地は、この大地の中心に位置する世界樹に決まった。

 その世界樹こそがこのゲームの最終目的地、つまりはラスボスのいる場所なのだろう。

 

 そうと分かれば、もう占い師のババアを頼る必要はない。

 あとはエンディングに向かって突き進むだけだ。

 

 

 僕が次の冒険に向かおうとしているのを察して、目的地が同じなカルムも立ち上がる。

 

「きゅ… 球体… イヒヒ…」

 

 …まだ笑ってやがったのかコイツ。

 

 

 

 守護竜と戦った直後のカルムを気遣ってジェオが声をかける。

 

「ところでカルム様、お怪我は大丈夫ですか?」

 

「…え? ああ、うん。かすり傷だったし大丈夫だよ! すっかりへとへとだけどね」

 

 カルムは笑い疲れた様子で呼吸が乱れている。

 けれど、その疲れは笑ったこと以上に守護竜との戦いによる疲労が原因だろう。

 

「…そうですか。では魔力の方はいかがですか」

 

「魔力は…。実はもうすっからかんなんだ」

 

 カルムはぎこちなく笑って見せるが、その笑みは引きつっていた。

 

 このお人好しは守護竜との戦いが終わった後、魔力がなくなるまで僕とヴァニテューに回復魔法を使ったのだ。

 そのおかげで僕は傷も癒えたし、回復魔法を使っていない分、魔力も少し残っている。

 

「…そうですか。ではカルム様は今、必殺魔法どころか補助魔法も使えないのですね」

 

「え? …うん、そうだけど」

 

「つまり、たとえ誘拐されても、今は抗えないということですね」

 

 ジェオは口角を大きく上げて満面のにやけ顔になる。

 

 その直後、ジェオの足元に魔法陣が浮かび上がる。

 

 その魔法陣にはジェオとカルムだけが触れていた。

 

「空間移動魔法、コーディネイトワープ!!」

 

 そう叫ぶと、次の瞬間にはジェオとカルムの姿だけが消えていた。

 

 

 

 

「…えっと、裏切られた……ってこと?」

 

 あまりの急展開に僕の頭は処理をしきれていなかった。

 

 出会って数分のキャラクターがいきなり裏切りだしたのだ。

 こっちは名前を覚えたばかりだというのに。

 

 まさかこいつが裏切るなんて―――と驚けるほども僕はジェオのことを知らない。

 

 

 

 

 

「ほ、ほらな! ずっと怪しいって思ってたんだよ僕は!」

 

 混乱している僕の頭では、わかっていましたアピールをするのが精一杯だった。

 

 

 

 ………真の仲間? いったい何のことだ?

 

 

 

 

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