ファンタジーゲームの主人公に転移したら、女主人公がすでにいた   作:瓜売り

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13話:魔法は同時に使えない

 カルムがジェオによって誘拐された後、僕たちは火口で呆けていた。

 

「えっと、カルムが誘拐されたけど… どうしよう」

 

 それから、徐々に現状を理解し始めたビュヴ―ルとレルヴ…ベールが慌てて大騒ぎをしだした。

 彼女たちはカルムの仲間なのだ、カルムが誘拐されれば騒ぐのは当然だろう。

 

 けれど、僕は別にあいつの仲間ではない。

 

 だから―――。

 

 

 

 そんなことを考えていた直後、僕の目の前に空間の歪みが発生した。

 

「……なにこれ?」

 

 それを何と形容すればいいのか僕にはわからなかった。

 ただ、本当に空間が歪んでいるのだ。

 

 それを見たレルヴ…ベールが叫ぶ。

 

「そ、それは空間の歪じゃ! 童も初めて見る!」

 

「だから空間の歪って何だよ?」

 

「数千年に一度現れる、遠くの空間とつながる現象じゃ。まさか実在したとは…」

 

「そんなレアなものなのか…。 それってつまり…」

 

 ああ、もうわかっている。

 

 そんな突拍子もない理由で僕を移動させようとするのは、運命の強制力しかありえない。

 つまり、カルムは誘拐された先で、主人公ならではの重要イベントに遭遇しているようだ。

 

 それにしても空間の歪って…。

 いよいよもう何でもありだな。

 

 

「まあ流れを考えれば、ついさっき裏切ったジェオとの戦闘だよな…」

 

 今の僕は疲労がたまっていて、しかも魔力は残り少ない。

 このまま正面からジェオとの戦いに挑んでも勝ち目が薄いのは明白だ。

 

 そうとなれば仕方がない。背に腹は代えられないというやつだ。

 

 僕はビュヴ―ルやレルヴ…ベールのいる火口で、構わずズボンを脱ぐ。

 ……そして、パンツも脱いだ。

 

 これですっ裸だ。

 

 

 

「ぬあッ!」

 

 ――と、驚いた声をだしたのはレルヴ…ベールだった。

 

 けれど、彼女が驚いたのは、パンツを脱いですっ裸になった僕にではない。

 すっ裸になったとたん透明で見えなくなった僕にだ。

 

「透明魔法 ウラヌス・スケスケ!!」

 

 

 透明魔法は服や身に着けているものは透明にできない。

 だからこそ、本当に透明になるにはすっ裸になる必要があるのだ。

 

 相手からは見えていないとわかっていても、すっ裸になるのはさすがに恥ずかしい。

 

 けれど問題はない。僕はこの恥ずかしさに関してはすでに経験済みなのだ。

 戦闘で―――じゃなくて銭湯で…!

 

 あとは、カルムがうっかり昼にしないことを本気で祈る。

 もし昼になれば風呂屋の悲劇の再来だ。

 

 

 透明になった僕は、伝説の短剣だけを手に持ち、先ほどまで着ていた学生ブレザーや荷物をヴァニテューに渡す。

 

「僕はカルムのところに行ってくる。だからこの服や荷物は頼んだ」

 

「ああ、わかったぜデキスギ。 必ずまた会おう!!」

 

「ああ!!」

 

 僕はヴァニテューに向かって拳を突き出す。グータッチをするためだ。

 けれど、ヴァニテューはイカした笑顔で答えるだけだった。

 

 …そうか、透明な僕の拳は見えないか。

 

 そう思った直後、空間の歪とかいうよくわからないものが僕を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 空中に放り出されるなんて聞いていないぞ!!―――そう叫びたかったが、必死に声を押し殺した。

 叫んでしまっては透明になった意味がなくなる。

 

 僕は古い教会の屋根の上に落ちたのだが、その直後、老朽化した屋根が崩れて僕も協会の床に叩きつけられた。

 それでもうめき声を漏らさなかった僕を誰か褒めてほしい。

 

 

 協会の中では、僕の予想通りカルムとジェオが戦っていた。

 

 屋根と共に落下した直後、僕は一瞬だけカルムと目があった気がした。

 

 カルムは僕の持っている伝説の短剣に気が付いたのかもしれない。

 僕の体は透明だが、伝説の短剣だけはカルムからも見えるはずだ。

 

 

 カルムは全身に痛々しい打撲の跡がついていて、頭からは血が流れていた。

 

 僕はそのカルムの有り様を見た瞬間、頭の奥がカッと熱くなった。

 自分でも信じられないほどの怒りがこみ上げ、思わず歯を食いしばっていた。

 

 いったい何に対して怒りが湧いたのか自分でもわからない。

 ただ、カルムが執拗に痛みつけられた姿は、僕にとっては許せないものだったらしい。

 

 僕は衝動のままにジェオに近づいた。

 

 透明な僕が近づいていることにジェオは気づいていない様子だった。

 

 

 

 その直後、カルムとジェオの会話が始まった。

 

 怒りのあまり頭の奥に突き抜けるような感覚が走り耳鳴りがなる。

 それでもカルムとジェオ会話の内容は鮮明に聞き取れていた。

 

 僕は衝動に任せて短剣の柄をギュッと力いっぱい握りしめ、そのままジェオに歩み寄る…。

 その間も、ずっと二人のやり取りは聞こえていた。

 

 

 …そして、

 

 

 ……そして、

 

 

 

 ジェオに短剣が届く距離まで近づいて、僕は強く思った。

 

 

 これ、大概カルムが悪いな―――と。

 

 

 

 会話の内容をまとめると、ジェオは出来の悪いソリに乗せられて、雪山のてっぺんから突き落とされたらしい。

 カルムが人助けに早く向かおうとした結果なのだろうが、さすがに可哀想すぎる。

 

 このRTA女の仲間は毎回こんな仕打ちを受けているのだろうか…。

 

 

 カルムのボロボロな姿を見た時は思わず頭に血が登った僕だったが、今では自業自得だなという気持ちさえ芽生えてしまっていた。

 

 

 

 その直後、カルムが僕に向かって「早くしてよ!」と叫ぶ。

 やはりカルムは、僕が透明になってここに来ていたことに気が付いていたようだ。

 

 僕は渋々カルムの味方をしてジェオを背後から突き刺した。

 

 

 

 

 

「うへぇええ。 なんか黒い霧になって散ったぞ…。なんだこれ?」

 

 霧散したジェオに引き気味の僕とは対照的に、カルムはそれほど気にしていない様子だった。

 

 ボロボロになったカルムは僕の隣で尻餅をついて座り込む。

 

「助けてくれてありがとう、デキスギくん」

 

 全身のいたるところを紫に腫らしたカルムの姿は痛ましく、見るに堪えなかった。

 それでも、その表情だけは満足そうに笑っていた。

 

「デキスギくんと運命共同体だって話は本当だったんだね」

 

 水の守護竜を倒した後、カルムも占い師のババアから運命共同体の話は聞いたらしい。

 

 もっとも、ゲームの主人公だとか、主人公の必須イベントだとかいう話は知らないだろう。

 そのため、カルムがこの運命共同体をどう理解しているかは知らない。

 

 

 

 僕はボロボロになったカルムの隣に座り込む。

 

 カルムは人助けのためなら平気で仲間にも無茶を押し付けるRTA女だ。

 正直、多少は痛い目を見た方がいいと思う。

 

 それでも、この姿は余りに痛ましい…。

 

 

「回復魔法 マーキュリー・ヒール」

 

 僕は残ったすべての魔力をカルムの回復に使うことにした。

 

 

 

 

 

************

 

 

 

 

 

「ねえ、デキスギくん」

 

 わたしは回復魔法を使っているデキスギくんに声をかけた。

 

 デキスギくんは真剣な表情のまま振り向く。

 

「…ッ ううん、やっぱりなんでもない」

 

 わたしはデキスギくんに言おうとした言葉を飲み込んだ。

 

 二人の間に沈黙が流れる。

 

 回復魔法の光に包まれたわたしは、その心地よい沈黙と魔法を受け入れた。

 

 

 

 少しの無言の後、飲み込んだ言葉の代わりにもう一度お礼を告げた。

 

「助けに来てくれて、ありがとね」

 

「ああ」

 

 デキスギくんは素っ気なく相槌を打つと、表情を変えずに回復魔法を使い続ける。

 ――その直後、彼はハッとひらめいた様子で、いたずらを思いついた子供のように二ヤリと笑う。

 

「……やっぱり、今回カルムを助けたのは貸しだからな キランッ!」

 

 デキスギくんは決め顔で、ぎこちないウインクを飛ばしてきた。

 「キランッ!」という効果音をわざわざ口で付け加えてだ。

 

 そのセリフや仕草は、盗賊団のアジトでわたしがデキスギくんに向けたものだった。

 …キランッ!は言っていないけれど。

 

 

 デキスギくんのウインクを正面から受けたわたしは、不覚にも自分の頬が熱くなるのを感じた。

 もちろん、ぎこちないウインクが刺さったわけではない。

 

 ただ、下手くそなウインクを披露しておいて得意げににやけている、そのデキスギくんらしい笑顔にほだされてしまったのだ。

 

 ……無駄にイケメンなのがずるい。

 

 

 

 デキスギくんはしてやったりと言わんばかりの顔で勝ち誇っている。

 

 なんか悔しいな。

 

 

 

 …本当は指摘しないつもりだったけど、やられっぱなしは良くないよね。

 

 

 

 わたしは意地悪な笑みを浮かべるデキスギくんに、せっかくなので意地悪な仕返しをすることにした。

 自分でも変なところで負けず嫌いを発揮しているなとは思う。

 

 けれど、せっかくだし…ね。

 

 

「ねえデキスギくん。わたし、デキスギくんにどうしても伝えたいことがあるの」

 

 わたしは乙女度を増した声でデキスギくんに呼びかける。

 そして上目遣いのまま彼の左手を両手で優しく包み込んだ。

 

 すると、先ほどまでにやけ顔をしていたデキスギくんの表情に、ほのかな緊張感と期待感が漂いだす。

 

「あのね、デキスギくん…」

 

 わたしはわざと恥ずかしそうにデキスギくんから目を逸らした。

 

 今度はごくりと生唾をのむ音が聞こえた。

 

 どうやらちゃんと意識してくれているみたいだ。

 

 

 わたしはモジモジと恥じらう仕草のままとどめを刺す。

 まるで、好きな男の子に告白するような素振りで――。

 

「…知ってた? 魔法って、二つ同時には発動できないんだよ」

 

 

 デキスギくんは、わたしの発言の意味が分からずポカンとした表情を浮かべた。

 

 数秒呆けた後、やっとわたしの意図に気が付いたのだろう、彼は慌てて自分の体を凝視する。

 透明魔法が解けて色々と丸見えになっている体をだ。

 

 わたしはここぞとばかりに追い打ちをかける。

 

「だからね、デキスギくんが回復魔法を使ってくれた時から、君の裸はまる見えだったんだよ。…キャッ、恥ずかしいっ」

 

 わたしは両手で目を覆い隠す仕草をする。

 もちろん、わざと指に隙間を開けてだ。

 

「な…! 気づいてるなら早く言え! あと指の隙間から除くな、この変態女!!」

 

「変態女って…、全裸男に言われてもね」

 

 先ほどまでの甘酸っぱい雰囲気は何処へやら、デキスギくんの大声が協会内に響きわたる。

 

「ちくしょう、せっかく格好つけていたのに!!」

 

「格好良かったよ?」

 

「ふざけるなよ!!」

 

 デキスギくんの反応をみて笑いながら、わたしはっそっと火照った頬を冷ます。

 気づかれないうちに冷ましておかないと、今度はわたしがからかわれてしまう番だ。

 

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