ファンタジーゲームの主人公に転移したら、女主人公がすでにいた   作:瓜売り

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15話:昔はガキ大将

「ごめんね、カルムちゃんとは遊んじゃダメだってお母さんが言ってたの」

 

 

 そんな声が聞こえて、ふと目が覚めた。

 

 まだ日が昇る前の暗い森にはわたしと背を向けて寝ているデキスギくんしかいない。

 

 さっきの声は夢の中で言われたのだと気づく。

 

 夢の内容は覚えていない。

 けれど、きっと子供の頃の夢を見ていたのだろう。

 

 夜の冷えた空気が頬を静かに撫でていく。

 

 仰向けになると星々が滲んで見えた。

 子供の頃にも、家の窓からこうやってずっと一人で星空を眺めていたことを、ふと思い出した。

 

 

 

 

 

 

 わたしには親がいない。

 赤ん坊のころにおじいちゃんに拾われ、それからは二人でデビュ王国で暮らしてきた。

 

 おじいちゃんは冒険家で、よく旅に出ては長い間家に帰ってこないことがあった。

 

 わたしもつれて行って欲しいと何度もねだったのだけれど、わたしが冒険に出られるくらい成長したころには、おじいちゃんは冒険家を引退してしまっていた。

 

 

 

 おじいちゃんが旅に出ている間は、家ではずっと独りぼっちだった。

 けれど、淋しくはなかった。わたしには一緒に冒険家になろうと約束をした友達がいたからだ。

 

 友達というのは、近所に住んでいる年の近い子供たちだった。

 子どもの頃は男女問わずみんな冒険家に憧れるもので、よく一緒に王国内を冒険したものだった。

 

 わたしは子供たちの中でもリーダーのような立ち位置だった。

 

 喧嘩では負けたことがなく、年上の男の子にだって勝ったことがある。

 そのうえ、強力な魔法に昼と夜を切り替える不思議な力までもっていた。

 そんなわたしの存在は、みんなの憧れだったのだろう

 

 …今にして思うと完全にガキ大将だったけれど。

 

 

 

 ある日、子供たちの一人が王国の外を冒険してみたいと言い出した。

 

 王国の外にはモンスターがいるため、子供だけで王国の外に出ることは強く禁止されていたのだ。

 けれど、リーダーだったわたしは三人の友達を連れて王国の外に出た。

 

 わたしはおじいちゃんから、王国の近くにいるモンスターは弱いということを聞いていた。

 それに、おじいちゃんに戦い方も教えてもらっていたから大丈夫だと思ってしまったのだ。

 

 

 

 デビュ王国をぐるりと囲う塀を抜け出し、わたしたちは王国の外に出た。

 

 視界いっぱいに広がる草原に心を躍らせたのは今でも覚えている。

 

 友達たちもみんな喜んでくれた。

 

 得意げになったわたしは、みんなの前でモンスターを倒して見せた。

 それをみた皆は目をキラキラと輝かせてはしゃいでいた。

 

 そして………。

 

「俺も倒してやるぜ!」

「あたしだって、やっつけちゃうんだから!」

「…ぼ、僕も!」

 

 モンスターとの戦い方なんて知らないにも関わらず、皆は一斉に散らばってモンスターにちょっかいをかけ始めた。

 わたしが自慢げにした行動は、皆の好奇心や冒険心を煽ってしまっていたのだ。

 

 ずっと調子に乗っていたわたしは、ここにきてやっと危機感を覚えた―――けれど、もう遅かったのだ。

 

「ダメだよ! みんな危ないよ!」

 

「大丈夫だろ。カルムだって簡単に倒せてたじゃんか」

 

「そうだよ。あたしもカルムちゃんみたいにやってみたいよ」

 

「あ! あそこに弱そうなモンスターがいる! ……よーし!」

 

 そう言った男の子は、石を拾ってモンスターに投げつけた。

 

 それを見た皆も真似してモンスターに石や木の枝を投げつける。

 

 デビュ王国の周りにいるモンスターは子供の頃のわたしでも倒せるくらいには弱い。

 けれど、武器もなければ魔法も使えない、戦う手段をもたない子供よりはさすがに強かった。

 

 

 

 そこからの記憶は曖昧だ。

 

 けれど、皆の悲鳴や泣き声だけは今でも耳にこびりついている。

 

 怪我をして泣きわめく皆を必死に守りながら、わたしは一人で戦った。

 

 たった一度の必殺魔法を使い切ったわたしは、おじいちゃんの部屋から持ち出した伝説の短剣だけでモンスターたちを倒したのだった。

 

 

 

 傷だらけで、泣きつかれたわたしたちはデビュ王国に帰った。

 

 わたしたちの姿を見つけるなり、数人の大人たちが駆けつけてきた。

 皆のお父さんやお母さんだった。

 

 皆は王国の塀を抜け出して冒険に出たことについてきつく叱られていた。

 

 ……けれど、わたしを叱ってくれる人は誰もいなかった。

 

 

 皆はたくさん叱られた後、怪我を心配されて、おいおいと泣きながら家族に連れられて帰っていった。

 

 わたしは一人で帰路についた。

 

 

 それ以来、近所の子供たちは「カルムちゃんと遊んだらダメ、あの子と遊ぶのは危ない」と言いつけをされるようになったらしい。

 

 ……わたしは遊べる友達がいなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 そんなわたしの様子を見かねてか、おじいちゃんは頻繁に帰ってきてくれるようになった。

 

 「カルムよ。人と繋がりたいのなら人助けをすることじゃ。どうじゃ? おじいちゃんと一緒に人助けをしてみんか?」

 

 おじいちゃんはよくそう言ってくれていた。

 

 けれど、当時のわたしは人と関わるのが怖くなってしまっていたのだ。

 

 おじいちゃんが冒険に出ている間は、ずっと一人で家にいるようになった。

 

 わたしはその時初めて孤独というものを味わった。

 

 

 

 それから2、3年が過ぎた。

 

 おじいちゃんから文字の読み方を教わったわたしは、ずっと家で本を読んで過ごしていた。

 難しい本は読めなかったので、同じ小説や伝記を何度も何度も読み返していた。

 

 

 

 ある日、市場から少し離れたお店で買い物をしていると、大きな悲鳴が聞こえた。

 

 悲鳴のした方に駆け寄ると、そこには羽の生えた巨大な虫のようなモンスターがいた。

 どうやら、塀を飛び越えて王国内に入ってきたようだ。

 

 

 周りの人たちは、モンスターから離れるために必死に逃げまわっていた。

 

 その時、小さな女の子が足を絡ませてコケてしまった。

 

 モンスターはその女の子の方にのそのそと歩みを寄せる。

 

 それを見た大人たちは大声で王国兵を呼ぶだけで誰も助けようとはしなかった。

 

 わたしは、無意識のうちに女の子を守るようにしてモンスターと対峙していた。

 

 数秒にらみ合った後、幸いなことにモンスターが空を飛んだので、わたしは上空に目がけて必殺魔法を放った。

 

 

 

 モンスターは一撃で仕留めることができた。

 けれど、必殺魔法を放ったせいで周囲の視線が一気に集まってしまった。

 

 わたしはできるだけ早くその場を離れようとした。

 

 デビュ王国にはわたしについて良くない噂が広まっていたから、これ以上目立ちたくなかったのだ。

 

 ―――けれどその直後、溢れんばかりの拍手が巻き起こる。

 周りにいた人たちは次々と称賛の言葉をわたしに投げかけてくれたのだった。

 

 まったく予想していなかった周りの反応をどう受け取ればいいのかわからないまま、わたしは思わず立ち尽くしてしまっていた。

 

 すると、少し遅れて女の子の元にお母さんがやってきた。

 女の子のお母さんは、女の子を抱きかかえた後、わたしに向かって深く深く頭を下げた。

 

「ありがとうございます。本当にありがとうございます」

 

 その感謝の言葉は、長い間ずっとポカリと空いてしまっていた胸の穴を塞いでくれた。

 

 おじいちゃんが言っていたのは、きっとこういうことなのだろう。

 

 一人で孤独を抱えていたわたしにとっては、感謝の言葉こそが人と繋がれる唯一の方法だったのだ。

 

 

 

 

 

 その出来事から、わたしは独りぼっちにならないため人助けを始めるようになった。

 

 わたしが助けた人たちは、みんな私に感謝してくれた。

 その度に、わたしは誰かに存在を認めてもらえたような気がして嬉しかった。

 

 デビュ王国に広がっていたわたしの悪い噂も徐々になくなっていった。

 

 人助けは、わたしという人間を知ってもらうための手段にもなっていたのだ。

 

 

 

 おじいちゃんが冒険者を引退してからは、おじいちゃんと二人で人助けをして回った。

 

 この時のわたしは人生で最も満たされていただろう。

 

 皆に感謝されながら、おじいちゃんと笑って顔を見合わせるのだ。

 

 それだけで、淋しさを感じることはなくなった。

 孤独なんて感情はすっかり忘れてしまえるほどだった。

 

 

 ―――おじいちゃんが亡くなった後も、わたしは一人で人助けを続けている。

 

 わたしがまた独りで淋しがっていると、きっとおじいちゃんは天国で心配してしまう。

 だからこそ、わたしは人助けをして人と繋がり続けている。

 

 ずっと一緒にいてくれたおじいちゃんがいなくても、淋しいなんて思わないように……。

 

 

 

 

 

 

 

 不意に肌寒くなってきたので、星空から視線を落として小さくうずくまる。

 

 すると、呑気に寝ているデキスギくんの背中を見つけた。

 

 デキスギくんは「ん―」と小さく唸ると、ごろんと寝返りをうった。

 

 

 

「ねえ、起きてデキスギくん」

 

 わたしはゆさゆさとデキスギくんを揺さぶる。

 

 少しだけ意識を覚醒させたデキスギくんは、極限まで細めた目でわたしの顔をぼんやりと眺めた。

 

「……なんだ? モンスターでも出たのか?」

 

 のそりと起き上がるデキスギくんにわたしは微笑みながら空を指さす。

 

「今日の星空、すごく綺麗だよ」

 

「………………は?」

 

 デキスギくんは開いていない喉で「冗談じゃないぞ」と呟いた後、倒れ込むようにして二度寝しようとする。

 怒る元気もないと言ったところだろうか。

 

 暗く静かな森の中、夜風で冷えてしまっていたわたしの体は、いつの間にか少しだけ暖かくなっていた。

 

 デキスギくんのもぞもぞと動く背中を、今度は少しだけ優しく揺らす。

 

「デキスギくん、おやすみなさい」

 

「………いったいなんなんだよ」

 

 心底面倒くさそうなデキスギくんのぼやきに、わたしはクスクスと笑う。

 

 ほらね、やっぱり淋しくなんかない。

 

 

 

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