ファンタジーゲームの主人公に転移したら、女主人公がすでにいた   作:瓜売り

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16話:空を自由に飛びたいな

 まだ薄暗い早朝に出発したわたしたちは、森の中をずいずいと進んでいた。

 途中で日が昇り、木漏れ日の光を浴びた。

 

 何度目かの「もう休憩しようぜ」というデキスギくんの言葉を無視して走り続けていると、木々の奥を抜け、目の前の景色がぱっと開けた。

 

 その先で目にしたものは、深く口を開けた巨大な断崖だった。

 谷底は霧に包まれ、太陽の光を受けて銀色に輝いている。

 

 はるか向こうの対岸を眺めながら、長い吊り橋でもかかっていないかと探したけれど見当たらない。

 

 どうやら、あちら側まで行く手段はなさそうだ。

 

「えっと…。どうしよう」

 

 少し遅れて断崖の前まできたデキスギくんは、その谷底を覗いて絶望的な表情を浮かべる。

 

「嘘だろ… ふざけるなよ……」

 

 デキスギくんは数歩後ずさりをして、近くの岩にもたれかかって座り込む。

 

「この断崖を超えるのは無理だよな… でも回り道するにしても、そもそも向こう岸に辿り着けるのかすら怪しいな」

 

 わたしもデキスギくんと同じ意見だった。

 

 この手の森は繋がっていそうで繋がっていない道がいくつもある。

 遠回りをしてもたどり着けないことだってあるのだ。

 

「まさかタケコプターが欲しいと思う日がくるなんて……。とりあえず休憩しよう。走りつかれた…」

 

 相変わらず体力のないデキスギくんは、ぜえぜえと肩で息をしている。

 

 デキスギくんが休憩をしている間に、わたしは対岸まで移動する方法を考えることにした。

 

 

 

 断崖の深さは相当なもので、谷底が霧に包まれているので正確にはわからない。

 

 …けれど、別に登ったり降りたりできないことはなさそうだ。

 丈夫なツタがあれば、それを結び付けて断崖を上り下りすることはできる。

 

 もちろん、この深さの断崖なら何時間もかかるし、落ちれば死ぬだろう。

 けれど、ツタが丈夫なら手を滑らせても落ちはしない。

 

 落ちれば死ぬ断崖でも落ちなければ死なない。つまりは安全だ。

 

 

「…でも、この方法だと時間がかかっちゃうよね」

 

 わたしの独り言に、デキスギくんが反応する。

 

「おいカルム、お前また無茶な方法考えてないだろうな…」

 

「え? 無茶なことなんて考えたことないよ?」

 

 わたしは岩にもたれかかったデキスギくんの方を振り返る。

 

 ―――その直後、わたしは天才的なひらめきをした。

 

 昔からそうなのだけれど、わたしは行き詰った場面で最適な方法をひらめくことがよくあるのだ。

 

 きっと、わたしは発想の天才なのだろう。

 

「ねえデキスギくん! わたし、凄いアイディアをひらめいたよ!!」

 

「………却下だ」

 

 デキスギくんはわたしのアイディアを聞く前から一蹴する。

 

 いったいなにが気に食わないのだろうか。

 

「あのね、デキスギくんがもたれかかってる岩があるよね。そのおっきい岩に乗って、空を飛ぼうよ!」

 

「…は? 空を飛ぶ?」

 

「うん。わたしの必殺魔法でその岩を打ち上げるの。それで、その岩に飛びのれば空を飛べるでしょ?」

 

「自分で飛ばした岩に飛び乗るって…… 漫画じゃないんだぞ」

 

「マンガ…?」

 

 …って何だろう。まあいいか。

 

「それで、もし岩が向こう岸まで届かなかったらどうするんだ?」

 

「えっとね。その時はデキスギくんの必殺魔法を空中で撃つの。そうすれば、岩がもう一回飛ぶでしょ」

 

「それでも届かなかったら?」

 

「え? そのときは………… 届かないかなんて、やってみないとわからないでしょ?」

 

 失敗したときのことをそこまで深く考えたって仕方がない。

 成功しそうなアイディアがあるのなら、それは試す価値が十分にあるのだから。

 

 そんな前向きなわたしに、デキスギくんは頭を抱えて絶句していた。

 

「……なんていうか、お前の仲間たちに同情してきた」

 

「え? それってどういう意味?」

 

 デキスギくんは、わたしの質問に答えずに今度は空を仰ぐ。

 

 どうやらこのアイディアは気に入らなかったらしい。

 

「お前、ムエットで出会ったビジネになんて言われたか忘れたのか?」

 

「え? なんでビジネの名前が出てくるの?」

 

 ビジネはわたしが港湾都市ムエットで出会った女性だ。

 わたしやビュヴ―ルと一緒に水の守護竜に挑んだ仲間だった。

 

 もっとも、水の守護竜との戦いの後に仲間になって欲しいとお願いしたら、「君と冒険していたら命がいくつあっても足りない」と言って断れらてしまったのだけれど。

 

 

 …ああ、そういうことね。

 

 

 

「えっとつまり、もっと安全な方法がいいってことだよね? それなら最初に思いついたアイディアがあるんだけど…」

 

「安全なアイディアがあるなら先に言えよ」

 

 わがままなデキスギくんのご要望に応えるため、わたしは森の木々に絡まったツタの中から丈夫そうなものを見つけ、伝説の短剣で切り取って見せた。

 

「このツタを命綱にして断崖を降りるの。それなら安全でしょ」

 

「絶対に却下だッ!!」

 

「ええええ!?」

 

 デキスギくんはツッコミのように怒鳴る。

 

 もう、彼の求めている安全なアイディアというのが全然わかんない!

 

 

 

 

 

 

「防御魔法 ヴィーナス・ウォール」

 

 わたしは防御魔法の詠唱をして、横向きにした光の壁を作る。

 

 暗い夜に煌々と輝くその光の壁にわたしとデキスギくんは飛び乗った。

 

「防御魔法 ヴィーナス・ウォール」

 

 今度はデキスギくんがわたしの壁の奥に一枚、光の壁を横向きにして生み出した。

 

 わたしたちは、二枚の壁を交互に作り、消し、また作り…… そうして、歩く速度に合わせて一枚ずつ空中の道を埋めていった。

 

「凄いねデキスギくん。こんな方法を思いつくなんて」

 

「と…当然だろ、僕は賢いからな!」

 

 防御魔法である光の壁を二枚つかって、空中に道を作り出す。

 このアイディアはデキスギくんが考えたものだった。

 

 この光の壁で階段を作って断崖を降りるという案もあったのだけれど、霧で深さがわからない断崖より、距離が分かる対岸に向かった方がいいというのがデキスギくんの判断だ。

 

 その意見を聞いた時、思わずわたしは唸ってしまった。

 もしかしたら、彼は本当に頭がいいのかもしれない。

 

 ところで、さっきからデキスギくんはわたしの手をギュッと力強く握って離さない。

 

 男の子にずっと手を握られていると、さすがにちょっと気恥ずかしくなってくる。

 

「ねえ、デキスギくん。こうやって手をつないで歩いてると、ちょっと照れるね」

 

 わたしは照れ隠しであえて言葉にしてみた。

 

 きっと、わたしの頬は少し赤らんでいるだろう。

 

「…へ、手!? 手がなんだって!?」

 

 けれど、わたしとは対照的にデキスギくんの顔は血の気が引いていた。

 今のわたしたちは星明りで顔色が分かりにくいのに、それでもわかるくらいに真っ青だ。

 

「手は離すなよ! 絶対に離すなよ! 絶対だからなッ!!」

 

 デキスギくんは痛いくらいにわたしの手を強く握る。

 

 その手は異様に脂汗がにじんでいた。

 

「…ねえ。もしかしてだけど、落ちるかもしれないって怖がってる?」

 

「そ、そんなわけないだろ!? 僕が考えたアイディアなんだ。完璧に決まってる。絶対に安全なはずなんだ…」

 

 デキスギくんは震えた声で、防御魔法の詠唱を繰り返す。

 

 彼が無理をしているのははた目にも明らかだった。

 

 自分のアイディアだから意地になってやり通しているだけだよね…

 

 

 

 

 

 対岸までもう少しでたどり着けるというときだった。

 

「防御魔法 ヴィーナス・ウォール!」

 

 デキスギくんが詠唱したにもかかわらず、足元に光の壁が現れなかった。

 

 わたしがデキスギくんの方を振り向くと、彼の引きつった顔と目が合う。

 

「………魔力が、切れたみたい」

 

 デキスギくんは消えそうな声でぽつりとつぶやく。

 

 わたしとデキスギくんは、わたしの作った光の壁を足場にして、空中にぽつんと取り残されてしまった。

 

「ふ、ふっざけるなよ! どうすればいいんだ!?」

 

 デキスギくんは頭を抱えて叫ぶ。

 

 確かにピンチだけれど、わたしの魔力はまだまだ残っている。

 なので、デキスギくんみたいに慌てふためくほどのピンチだとは思わない。

 

 今から次の方法を考えればいいだけだ。

 

 大丈夫、わたしだって発想の天才なんだから…。

 

 

 わたしはふと、対岸までたどり着く方法を思いつく。

 

 ほらね、やっぱり天才だ!

 

「ねえデキスギくん。わたし、凄いアイディアをひらめいたよ」

 

「………却下だ!!!」

 

 デキスギくんはまたわたしのアイディアを聞く前から一蹴した。

 

 けれど、わたしは構わずに説明する。

 

「光の壁は一枚だけど、さっきまでみたいに作って消してを繰り返せば…」

 

「僕を担いでジャンプし続けるって言いたいんだろ!?」

 

 わたしの説明を遮ったデキスギくんは、見事にわたしの考えを言い当てていた。

 

 わたしの考えたアイディアは、わたしが対岸に向かってジャンプをした直後に光の壁を消して、着地場所に新しい光の壁を作るという方法だった。

 これならリスクがなく安全に対岸までたどり着ける。

 

「安全なわけがあるか!? お前が足を滑らせたり、光の壁を出すタイミングが遅れたら僕たちは落っこちるんだぞ」

 

 わたしが「安全だよ」という前に、先回りをしてデキスギくんが否定してくる。

 

「でも、デキスギくんもこのアイディアを思いついたってことは、それ以外に方法はないんだよね?」

 

「それは、……そうだけど」

 

 どうやら図星だったようだ。

 やっぱりこの方法しかないだろう。

 

 わたしは両手を前に広げて、お姫様抱っこの構えをする。

 

 二人でジャンプするより、わたしがデキスギくんを担いで跳んだほうがタイミングがずれなくていい。

 

「…ち、ちくしょう。こんな危険な方法しか道がないなんて! しかも、僕の命をこんなお気楽バカ女に預けるのかよ…!」

 

 デキスギくんは恐怖で少し口が悪くなっているみたいだ。

 そういうことにしておいてあげよう。

 

「頼んだぞカルム!! お前に僕の命がかかってるんだからな!? この僕のッ!!」

 

 デキスギくんは一通り喚くと、その直後、わたしに正面から抱き着いてきた。

 

「うえっ!?」

 

 急に抱き着かれたので、びっくりして変な声が漏れてしまう。

 

 わたしはお姫様抱っこのつもりで腕を広げていたのだけれど、デキスギくんは抱っこの構えだと勘違いしたようだ。

 

 

 少しドキッとしたわたしを余所に、デキスギくんは目をめいいっぱい瞑って叫んでいる。

 

「絶対成功させろよ!! 失敗したら化けて出てやるからな!!」

 

 わたしは初めて男の子に抱き着かれた。

 本当ならドキドキするような展開だろう。

 

 けれど、その相手が喚いている内容がこれだ。

 これでは雰囲気も何もない。

 

「仕方ないな…。 しっかり抱き着いててよ!」

 

 わたしはデキスギくんを抱きかかえたまま、足に力を入れて全力でジャンプした。

 

 

 

 

 

 十回目のジャンプで、わたしたちは対岸まで無事にたどり着いた。

 ジャンプするたびに、耳元で恨み言を喚き散らすデキスギくんがうるさくて仕方がなかったけれど…。

 

 対岸についてもしばらくの間、デキスギくんはわたしに抱き着いていた。

 わたしが背中をポンポンと叩いても反応がない。

 

「もう! 対岸に! 着いた! よ~~!」

 

 わたしはデキスギくんの耳元で大きな声を張る。

 

 すると、デキスギくんはやっとわれに返ったようで、パッと手を放してわたしから離れる。

 

 どうやら、対岸についてもしばらくの間抱き着いていたことに、今更気が付いたようだ。

 

 みるみるうちに顔が赤くなる。

 

「まあ、その、なんだ。実はこれもすべて僕の計算通りなんだ」

 

「その強がりは無理があるよ…」

 

 喚いて、抱き着いて、顔を真っ赤にしてからのその言葉には、全く説得力がなかった。

 

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