ファンタジーゲームの主人公に転移したら、女主人公がすでにいた 作:瓜売り
ヴァニテューは背負っていた金のハルバードで、僕を縛っていたツタを切断してくれた。
やっと体が解放された僕は、立ち上がって大きく伸びをする。
「ありがとうなヴァニテュー。ところで、そんなの持ってたっけ?」
僕はヴァニテューが持っている金のハルバードを指さす。
確か最後にヴァニテューと別れた時は、こいつはハルバードを持っていなかったはずだ。
僕に指摘されたヴァニテューは気恥ずかしそうに鼻の下を指でこする。
「はは、やっぱり気になるよな。この指輪」
「へ? 指輪?」
ヴァニテューは左手の薬指にはめた指輪を僕に見せつけてくる。
ヴァニテューは僕が指輪を指摘したと勘違いしたらしい。
僕が男のアクセサリーなんか気にするわけないのにな…。
「カジノでバカ勝ちしちまってよ、その勢いでつい買っちまったんだ。俺様はシルバーにしようって言ったんだぜ、だけどハニーがライトピンクの方がいいってよ」
「……ハ、ハニー??」
すると、隣にいたビュヴ―ルが照れ顔でヴァニテューを小突く。
「だって、ダーリンの髪の色にはライトピンクの方が似合うじゃん?」
「…ダ、ダーリン!?」
ヴァニテューはビュヴ―ルの腰に手を回して抱き寄せる。
「ああ、俺様にはなんだって似合うからな。もちろん、ハニーも似合ってるぞ」
「んもうッ!」
二人は僕の目の前で公然といちゃつき始めた。
……こいつら、いつの間にかそういう関係になっていたらしい。
しかも、僕とカルムが世界樹を守るため冒険している間におそろいの指輪まで買ってだ。
「いちゃいちゃするな!! あと、カジノに行く暇があるなら僕のことをもっと必死で探せ!!」
僕は目の前でイチャつきだしたバカップルに向かって叫ぶ。
すると、法衣の袖をちょんちょんと引っ張られた。
振り向くと、レルヴ…ベールが歓喜をにじませた表情をしていた。
今にもうれし泣きしそうだ。
「ああ。よくぞ言ってくれたデキスギ。童は…童は…、毎日毎日、目の前でいちゃつくあのバカップルの姿を一人で見てきたんじゃ。いったい何度、本気で呪ってやろうと思ったことか…。
けれど、これからはあのイチャイチャを一人きりで見なくて済む。無事でいてくれてありがとう、デキスギ…」
……僕を歓迎していたのはそういうことか!
レルヴ…ベールは僕に出会うまで、あのバカップルと三人で行動していたのだ。
つまり、二人が付き合いだしたときも、指輪を買うときも、ずっと付き添ってきたことになる。
「……地獄すぎる!!」
いや、この世界だと『冥界すぎる』と言うべきか……?
今さらながら、ドラゴンが三頭いるのにヴァニテューとビュヴ―ルがどちらも風のドラゴンから降りてきたのを思い出した。
「なあ、童と一緒に氷の守護竜に乗ろうな! 一緒に乗ろうな!」
レルヴ…ベールは僕の袖をぐいぐいと引っ張る。
僕は心からの慈悲を込めて答えた。
「……ああ、一緒に乗ろう」
「なんだデキスギ、いつのまにレルヴェルベールと仲良くなったんだ?」
「お前は黙ってろッ!!」
********
世界樹のふもとでは、百人近い教団員が祈りをささげていた。
世界樹の幹には黒い紋章がいくつも浮かび上がっており、その紋章からはまがまがしいオーラが発せられている。
間違いなく、世界樹を枯らすための呪いの儀式だ。
世界樹は鉄よりも固いので、とても斧や剣で伐採できるものではない。
そのため、冥界の教団員たちは呪いを使って世界樹を内側から枯らそうとしているようだ。
わたしは、大きな岩陰に隠れて教団の儀式を観察していた。
祈りをささげる教団員たちの前にはひと際大柄な男が立っている。
男は他の教団員とは違い、緑をベースとして金銀の飾り付けがされた法衣を着ていた。
あの男が、占い師のおばあさんの言っていた教祖『セルパン』という男だろう。
セルパンは見事に伸ばした黒い顎ひげを撫でると、太い眉を上下に動かしながら教団員たちを見張っていた。
わたしは今から、この百人近い教団員と教祖のセルパンを同時に相手にする。
しかも、ゆっくり戦っていると、デキスギくんが運命の強制力によって来てしまう。
そうなる前に、最速で片をつける必要があるのだ。
「……はは。相手の数、多すぎるよ」
わたしはてっきり、世界樹のふもとでは教祖のセルパンが一人でエイサホイサと呪いの儀式を行っているものとばかりに思っていた。
まさかこんなに敵が集結しているなんて想定外だった。
…それでも、作戦を変えるつもりはない。
とりあえず教祖のセルパンに必殺魔法をぶつけて、あとはなるようになる。
それ以外に方法は思いつかなかった。
「心細いな…」
ぽつりと言葉がこぼれた。
無意識に漏れたそれが自分の本音だと気がついて、余計に淋しくなる。
おじいちゃんが亡くなってから、わたしはずっと一人で人助けをしてきた。
ビュヴ―ルやレルヴェルベールと出会ったのはここ最近だし、デキスギくんと一緒に冒険したのなんて一週間程度だ。
それでも、いつのまにかわたしは一人だと心細いと感じるようになってしまったようだ。
伝説の短剣を鞘から抜いて、わたしは覚悟を決めた。
デキスギくんを置いてきたのだ、今さら後戻りはできない。
わたしは岩陰から飛び出して姿を晒した。
「そこまでだよ、冥界の教団!!」
わたしが叫ぶと、呪いの儀式がピタリと止まり教団員たちが一斉にこちらを振り向く。
けれど、振り向いた教団員たちは一瞬だけわたしに目を向けると、すぐにはるか上空を眺めた。
「なんだ、あれはッ!?」
教祖のセルパンが野太い声で叫ぶ。
セルパンもわたしの遥か上空を眺めていた。
「……あれ?」
意を決して叫んだのに全然注目されなかったので、自分の中での勢いがから回ってしまう。
彼らの視線に釣られるようにしてわたしも上空を見上げると、そこには三頭のドラゴンがいた。
風の守護竜と炎の守護竜、それに氷の守護竜だ。
守護竜たちは徐々にこちらに近づくと、わたしの目の前に着地した。
飛んでいるときには気づかなかったけれど、守護竜の背中にはよく知る人たちが乗っていた。
「ビュヴ―ル! レルヴェルベール!!」
わたしは仲間の名前を叫ぶ。
よく見ると、二人だけでなくヴァニテューさんもいた。
「無事そうでよかったよ、カルム」
風の守護竜から飛び降りたビュヴ―ルは、わたしの方に歩み寄りながら微笑みかける。
珍しくまだお酒で酔ってはいないみたい。
わたしは思わずビュヴ―ルに駆け寄って抱き着いた。
ビュヴ―ルもわたしのことを受け止めてくれる。
それだけで、ついさっきまでの心細さがまるで嘘のように満たされていった。
「なんだ、貴様らはッ!」
セルパンは威厳のある声で叫んだ。
「童たちはカルムの仲間じゃ。そして、カルムと同じでお前さんたち教団を壊滅させにきたんじゃ」
「壊滅だとッ!? 吾輩の教団をつぶそうと言うのか!」
セルパンに睨まれたレルヴェルベールは、それでも一歩も引き下がらない。
「ああ、そうじゃ。世界樹を傷つけるもの、この大地を冥界につなげようとするもの。あとは、三人組のときにいちゃつくカップル。童はこれを絶対に許さないと決めているのじゃ!」
レルヴェルベールはそう啖呵を切ると、守護竜たちに戦闘開始の合図を告げた。
守護竜たちはその大きな体を使って教団員を蹴散らし始めた。
レルヴェルベールやヴァニテューさんも、それに加わる形で戦闘を始める。
わたしも戦場に向かおうとしたところ、ビュヴ―ルに止められた。
「おっと。カルムは彼とちゃんと話し合ってからね」
それだけ言い残すと、ビュヴ―ルも戦場に走っていった。
…彼?
わたしが振り向くと、そこにはデキスギくんがいた。
「嘘…なんで?」
デキスギのことは、確かに木にぐるぐる巻きに縛り付けてきたはずだった。
もしかして、これも運命の強制力――――
「先に言っておくが、運命の強制力じゃないぞ。僕は自分の意志でここに来たんだ」
デキスギくんはわたしの思考を遮る。
わたしには、どうしてデキスギくんがここに来たのかわからなかった。
わたしはデキスギくんに何も言わずに一方的に酷いことをして別れた。
それなのに、こんなタイミングで来るなんて…。
まるでわたしを助けるために来たような―――。
その直後、デキスギくんがわたしのお尻を思いっきり蹴り上げた。
「イッッ!」
思わず声にならない悲鳴が漏れる。
心の準備もなにもできていなかったので凄く痛い。
「お前が僕の顔面を三発も殴ったこと、何も相談せずに一人で抱え込んでいたこと、今の一蹴りでチャラにしてやるよ」
デキスギくんは人のお尻を蹴ったくせに、あきれ顔のまま「感謝しろよ」と付け加える。
「痛かった! 凄く痛かったんだけど!!」
わたしは頬を真っ赤にして抗議する。
本当に、凄く痛かった。
けれど、デキスギくんは素知らぬ顔で目も合わせない。
わたしはお尻をさすりながらデキスギくんを睨む。
「本当に、もう!! ………………………ごめんなさい」
わたしの謝罪を聞いて、やっと目を合わせてくれたデキスギくんはニヤリと笑う。
どうやら、わたしが彼にしてきた仕打ちは許されたらしい。
……ありがとう。
わたしは心の中でそう呟いた。
わたしたちの目の前にある世界樹は枯れ果てていた。
となれば、わたしかデキスギくんのどちらかが命をささげて世界樹を復活させないといけない。
わたしは自分の命をささげるつもりだった。
その気持ちは今でも変わらない。
それでも、そのことを知ってか知らずか、デキスギくんはここに来てくれたのだ。
きっとわたしたちは、ちゃんと話合わないといけない。
わたしが口を開こうとすると、デキスギくんはそれを遮った。
「話したいことは色々あるけど、まずは教祖のセルパンとかいうやつを倒してからだろ」
デキスギくんは右の拳を前に突き出す。
彼の右手の甲には太陽の紋章が刻まれている。
「うん。 ……そうだね!!」
わたしも同じように紋章の入った右手を構える。
作戦に変更はなしだ。