ファンタジーゲームの主人公に転移したら、女主人公がすでにいた 作:瓜売り
「貴様らがジェオを倒した二人組だな!?」
セルパンは太い眉を寄せて僕とカルムを睨む。
冥界の教団の大幹部だったジェオを僕たちが倒したという情報は、教祖であるセルパンにまで伝わっていたらしい。
「貴様らのうちどちらかが世界の救世主というわけか。どちらが救世主なんだ?」
まさか二人とも救世主だとは知る由もないセルパンは、僕かカルムのどちらか片方が救世主だと思っているようだ。
もしそうだったら、僕は木に縛り付けられることなんてなかったんだけどな…。
「どっちでもいいでしょ、そんなの」
カルムは力強い瞳でセルパンを睨み返した。
「それよりも、どうしてあなたたち冥界の教団はこの大地を冥界に落とそうとしているの!?」
「この大地を冥界に落とす理由だと…? そんなもの決まっている。冥界こそが真の世界だからだ!!」
セルパンは両手を大きく広げ、まるで演説をするように語り始める。
きっと教団員の前でも同じように語ってきたのだろう。
「冥界は悪い者の魂が死後に行きつく場所だと言われている。だが、この魂だけの姿というのが人間の本来あるべき姿なのだ。
すなわち、生前の行いが良かろうが悪かろうが関係なく、人間はみな本来の姿を取り戻すために冥界に落ちるべきなのだ。
それに大地というのは風水的にも縁起が良くないのだ。だからこそ……」
やばい、何言ってるか全然わからない。
以前もこのゲーム世界の世界観についていけないことはあったが、今回はさらにひどい。
また僕が知らないだけでこの世界の常識なのか、それともこのセルパンという男の頭がおかしいだけなのか判断がつかなかので、ちらりとカルムの様子をみる。
すると、彼女はあきれきった顔で演説するセルパンを眺めていた。
よかった、セルパンの頭がおかしいだけだったようだ。
それにしても、周りでは教団員たちが守護竜相手に必死こいて戦っているというのに、よくもまあしたり顔でべらべら話し続けられるものだ。
今度はカルムが僕に目線を送ってきた。
その意図をくみ取った僕は右手を突き出した。
そんな僕たちの様子に気が付かないセルパンは、まだ演説をほざいている。
「……つまり、大地がなくなることで冥界の地価があがって儲かるというわけで……」
「悪いけど、これ以上あなたの演説に付き合ってられないの!」
カルムは演説を遮ると、僕と同じように右手を突き出す。
そして僕たちは声をそろえて叫んだ
「「必殺魔法 サン・バイオレンス!!」」
主人公の必殺魔法の同時撃ち。
主人公が一人しかいないフラットアース・ファンタジーのゲームでは、決して見ることのできない合わせ技だ。
セルパンは爆発の威力で後方に吹っ飛ばされ、世界樹の表面に激しくぶつかった。
その勢いの余りしばらく木の皮に張り付いた後、ストンと地面に落下する。
かつて二階建ての盗賊団アジトを焼き払ったほどの威力がある必殺魔法を二つ同時に浴びたのだ、いかにラスボスといえどそのダメージは深刻だろう。
「そ…そんな、教祖様がやられてしまった!」
「ああ。教祖様が先に冥界に旅立たれるなんて…!」
黒焦げな状態で崩れ落ちたセルパンの様子に冥界の教団員たちは慌てふためく。
その隙をついて、守護竜やヴァニテューたちは躊躇いなしに教団員たちを撃退していく。
教団員たちはジェオの時と同じように黒い霧となって霧散していった。
「ねえ、これで終わったの?」
カルムは呆気なさそうな困惑顔で聞いてくる。
「…いや」
確かにセルパンには致命的なダメージを与えることができた。
けれど、セルパンはファンタジーゲームのラスボスなのだ。
ラスボスには必ずといっていいほど
その直後、セルパンは崩れ落ちた体勢のまま低い声で不気味に笑った。
「ふははははは……。まさか、この吾輩が大地に住む人間ごときにやられるとはな」
「セルパン! いきてたの!?」
「当然だ。だが… 人間の姿を保つのは限界のようだな。貴様らには特別に見せてやろう。吾輩の本来の姿を… 冥界に住む魔物の真の姿をッ!!」
そう叫ぶと、セルパンの体はグネグネとうねりながらだんだんと巨大化していく。
緑の法衣は引き裂かれ、金銀の装飾も散らばる。
やがて姿を現したのは、巨大な紫色の蛇だった。
コブラのように頸部を扇状に広げて威嚇しているその姿は、守護竜に匹敵するほどの迫力と、それ以上に禍々しいオーラを放っていた。
……でたな、第二形態!
この手のファンタジーゲームのラスボスが、ちょっとガタイのいいだけのおっさんなわけがない。
変身して本来の姿になるだとか、覚醒した姿になるというのがお約束なのだ。
王道ファンタジーゲームと銘打つこのゲームが、そのお約束を無視するはずがない。
つまり、ラスボスのセルパンが第二形態に変身することくらい最初から分かり切っていたことなのだ。
カルムはずっと高くにあるセルパンの蛇顔を見上げる。
「まさか… セルパン、あなたは冥界に住む魔物だったの!?」
「そうだ! 先ほどまでの人の姿は人間どもを欺くための仮の姿、これこそが吾輩の本来のすがたなのだ」
蛇の顔となったセルパンは舌をチョロリと揺らして、目を細める。
「吾輩は人冥界で人々の魂を腹いっぱい食べるために、冥界の教団という宗教団体をつかってこの大地を落とす計画を立てた。
その計画ももうすぐ完遂する。なにせ世界樹は既に枯れている。あとは、世界の救世主がくたばればこの大地が崩壊することは確実なのだ!」
この大地を崩すために人間を利用するとはずる賢い。
蛇の姿がぴったりお似合いだ。
「さあ、戦いを続けようではないか!!」
大蛇となったセルパンは長い胴体を自慢げにうねうねとくねらせる。
第二形態のラスボス戦の始まりだ。
僕は「夜になれ」と願った。
僕とカルムが必殺魔法を撃ち終えた以上、昼のまま戦い続けるメリットがない。
もちろん、太陽光のチャージが溜まるまで一時間ほど待つという選択肢もあるが、一時間も短剣一本でこの大蛇の攻撃を凌ぎ続けるのは無理だろう。
巨大な蛇の姿になったセルパンは、突進や噛みつきという見た目通り蛇のような攻撃を主体として僕たちを襲った。
僕たちは二人がかりでセルパンの攻撃を必死に凌いだ。
僕もカルムも右手には伝説の短剣を持ち、左手をかざして防御魔法を駆使する。
幸いにもセルパンは物理攻撃しかしてこないので、なんとか防御魔法のタイミングを合わせられた。
けれど、このまま相手の攻撃を凌ぎ続けていてもジリ貧でしかない。
拮抗した戦いが続く中、セルパンが口を大きくあけてこちらを向いた。
何のモーションだ? ――と考えた次の瞬間、セルパンの口からビームが飛び出し僕を撃ちぬいた。
「痛ったぁ…? いや熱っつ!!」
今までの人生でビームなんて浴びたことのない僕は、思わず「痛い」と叫んだ。
だが実際に走ったのは、殴られたような衝撃ではなく、熱線に肌を焼かれたような鋭い痛みだった。
咄嗟に腹部を手で押さえるが、撃たれた個所はまるで熱した金属のように灼けていて、手を添えた途端に火傷しそうなほどの熱が伝わってきた。
「ふははははは。 ようやく吾輩の攻撃がまともに当たったな!」
「……ふっざけるなよ。なんで口からビームが出るんだよ! 蛇が口から吐くのは毒だろ普通は!」
「ふん。蛇がビームを撃つことくらい常識だろう」
…え? そうなの?
ファンタジー世界って蛇がビーム撃つの?
僕は灼けた腹部をおさえてうずくまりながらカルムを見る。
僕の視線に気が付いたカルムは、首を横にぶんぶんと振った。
「冥界の常識も知らんとは、やはり地上の人間はダメだな」
「冥界の常識かよ!! んなもん知るわけないだろ!!」
僕はともかく、せめて他のファンタジー世界の奴らにはわかる常識であれよ。
セルパンと軽く言葉を交わしたせいで攻撃を受けたにもかかわらず、僕は思わず気を緩めてしまった。
けれど、その油断をセルパンは見逃さなかった。
「隙を見せたな!!」
セルパンはそう叫ぶと、その巨体で僕に突進をしてきた。
…しまッ!!
防御魔法が間に合わなかった僕は、ビームに続いてセルパンの突進も諸に受けてしまう。
全身に重たい衝撃を受けた僕は吹っ飛び、そのまま地面に二度、三度と打ち付けられた。
これがゲームなら、体力ゲージが大幅に削れて赤く点滅しだすだろう。
それくらいのダメージが体に蓄積されたのを直感した。
「デキスギくん!!」
遠のきかけた意識が、カルムの悲痛な叫び声でなんとかつながる。
身体が言うことをきかず、ただ荒い呼吸だけが耳の奥で響く。
体を起こそうとしても力が入らない、自分の身体ではないかのような感覚だ。
次の攻撃がきたら避けられないだろう。
そう思っていたが、セルパンからの追撃はなかった。
疑問に思い倒れたまま目線だけ向けると、カルムは一人でセルパンと対峙していた。
僕がとどめを刺されないように、セルパンの攻撃を食い止めてくれていたのだ。
倒れ込んだ僕はその様子をただ眺めることしかできなかった。
せめてもの武器をとろうと、手で大地をまさぐり落としてしまった伝説の短剣をさがす。
―――すると、僕の頬に優しく何かが触れた。
頬に振れたそれをつまむ。
それは緑色で星型に似た形をした葉っぱだった。
「……世界樹の、葉っぱ?」
なんだ、ただ葉っぱが落ちて来ただけか…。
そう思って捨てようとしたところ、ある違和感に気が付く。
僕は慌ててその手を止めた。
世界樹の周りには枯れ葉が散らばっていた。
その葉は灰色でカサカサと乾いた音をたてて、触ると今にも崩れてしまいそうだ。
世界樹は枯れているのだ、その葉っぱも枯れているのは当然だろう。
けれど、僕の頬に触れた葉っぱは緑色で元気な葉っぱだった。
まるで先ほどまで生きていたと言わんばかりに。
なにより、この緑の葉っぱは焼けた石のように温かかったのだ。
その熱が、葉っぱにはエネルギーが詰まっていることを教えてくれる。
世界樹はわずかに残ったエネルギーをすべてこの葉っぱに詰めて、僕に託したのかもしれない。
そんな考えがよぎる。
「…僕に、この葉っぱを使えと…言ってるのか?」
僕は仰向けに転がり世界樹を見上げる。この葉が芽吹いていたであろう枝は遥か高く、星の光だけでは目視することすらできなかった。
ただ、灰色の葉がひらひらと舞い落ちてくる。
世界樹は僕の言葉に肯定も否定もしない。
…当たり前だよな。相手は木だし。
「使えったって、どうやって使うんだよ」
薬草みたいに草をすりつぶして塗れば傷が治るのだろうか。
もしくは、食べればパワーアップするのかもしれない。
僕は嫌だぞ、葉っぱを食うなんて。
世界樹の葉っぱを握っていた僕の手はじんわりと汗をかき始めた。
その手の中の温もりを感じていると、この葉っぱの使い道を不意に思いつく。
「葉っぱが集めるエネルギーといえば、そうだよな……ッ!」
僕は軋む体に鞭を打って起き上がる。
そして、落としてしまっていた伝説の短剣を拾い上げた。
僕は伝説の短剣を右手に握りしめると、その短剣で世界樹の葉を串刺しにする。
すると、短剣を通して僕の右手にエネルギーが流れてくるのが伝わった。
確かカルムが言っていた、伝説の短剣はエナジードレインの効果があるのだと。
握った鞘が温かくなり、その熱が右手の血管を通って右肩あたりまで流れつく。
―――そして、僕の右手の甲にある太陽の紋章が淡い光を放った。
必殺魔法のチャージが溜まったときの演出だ
僕は改めて世界樹を見上げる。
「借りるぞ、お前が葉っぱに集めたエネルギー ……太陽光のエネルギーを!!」