ファンタジーゲームの主人公に転移したら、女主人公がすでにいた 作:瓜売り
カルムは劣勢ながらもセルパンの攻撃をかわし続けていた。
体には複数のかすり傷があるものの、致命傷となる傷はなさそうだった。
ラスボスの第二形態相手に単身で渡り合えるのか…。
認めたくはなかったけれど、素の戦闘力でいえばカルムの方が僕より確実に上のようだ。
僕は世界樹の葉が刺さった短剣を突き出して、必殺魔法の狙いを定める。
「カルム! よけろ!!」
僕の声に反応して、カルムはトットッと軽快にバックステップを刻む。
反応が遅れたセルパンは顔をのそりと動かして振り向いた。
「貴様、まだ生きていたのか…!」
「蛇に小突かれた程度で死ねるかよ!」
僕はこんなところで死ぬわけにはいかない。
なにせ、僕の命には別の使い道があるのだ…。
「必殺魔法 サン・バイオレンス!!」
僕は世界樹がため込んでいた太陽光のエネルギーを使って大爆発を巻き起こす。
夜の暗闇を吹き飛ばすような赤い光はセルパンを飲み込んで、いつも以上の豪快な音を響かせた。
「ぐはあああ!」
爆炎に包まれたセルパンの悲鳴が聞こえる。
爆風に煽られながら、僕は「おお、本当に撃てた!?」と思わずつぶやいてしまった。
正直なところ、必殺魔法を夜に撃てるかは賭けだったのだ。
必殺魔法はたとえチャージが溜まっても太陽のでている間にしか撃てない。
けれど、世界樹の葉っぱが常に太陽のエネルギーを送り続けているという特殊な状態だと、夜でも撃てるようだ。
「貴様…! よくも吾輩を燃やしてくれたな!!」
セルパンは炎に包まれた状態のまま、僕に狙いを定めて突っ込んできた。
「返り討ちにしてやるよ! サン・バイオレンス!!」
もう一発打ち込んだ爆発でセルパンの上半身は大きく後方にはじけ飛んだ。
しかし、すぐさま状態を戻してまた僕目がけて突き進んできた。
逃げそこねた僕の身体に、セルパンの長い胴がぐるぐると巻き付いてきた。
瞬く間に縛り上げられ、腕を広げる隙間すら奪われる。締めつけられるたびに骨が軋み、肺の空気が押し出されてしまう。
「痛たたたた!!」
「さあ、これでどうする!?」
縛り上げられて悶絶する僕に、セルパンは巨大な蛇面を近づけてあざ笑う。
「拘束さえしてしまえば必殺魔法は使えまい。もし使えるのだったら使ってみろ!」
「…ご丁寧に前振りどうも」
自分の有利を確信しているセルパンに対し、僕はあざ笑い返す。
せっかく前振りをしてくれたのだ、思いっきり必殺魔法を撃たせてもらおう。
……頼んだぞ、カルム!!
「必殺魔法―――!!」
セルパンの巨大な顔の背後からカルムの叫び声が聞こえた。
「なに!? まさか貴様も…」
カルムの右手には伝説の短剣が握られていた。
その短剣には世界樹の葉っぱが刺さっている。
セルパンに突撃されたときに、とっさに僕がカルムに向かって投げていたのだ。
伝説の短剣は主人公専用武器だ。
つまり、主人公であるカルムも使える。
「―――サン・バイオレンス!!」
カルムの放った必殺魔法は的確にセルパンを撃ちぬく。
そして、セルパンに締め付けられていた僕もろとも炎に包みこんだ。
「ぐはああああああああ!!」
「うぎゃあああ!! ふっざけるなよ!!!!」
爆音にも負けない大きさで、セルパンと僕の悲鳴が混じる。
倒れ込んだセルパンの胴体から這い出た僕は、全力で地面を転がって法衣にまとった炎を消す。
「ちくしょう、燃えてるじゃんか!!」
かつて必殺魔法で盗賊団を燃やしたことがある僕だったが、まさか自分が燃やされることになるとは思わなかった。
目の前でピカッと光ったかと思えば、次の瞬間には轟々と迫りくる炎に包まれていた。
普通にトラウマものの経験だった。
結局、燃え移った炎が消え切らなかったので、僕は法衣を脱ぎ棄てた。
「おいカルム!! 僕もいることを忘れ―――」
「――サン・バイオレンス!!」
僕が叫び終える前に、カルムの追撃が迫りくる。
今度は爆発の直撃は避けられたものの、爆風に煽られて地面をごろんごろんと転がされる。
あの脳筋バカ女! 僕が射程に入っていることをまったく考慮していない!!
「必殺魔法! サン・バイオレンス!! サン・バイオレンス!! サン・バイオレンス!!」
爆炎の光に包まれかろうじてシルエットだけ見えるセルパンに向かって、今度は必殺魔法を三発連続でお見舞いする。
相手が生きているかどうかも確認せずにだ。
…え、えげつない。
途切れない爆発の中、黒い蛇型のシルエットが地面に倒れ込むのが微かに見えた。
もしかしたら、退治したついでに火葬まで終わらせてしまったかもしれない。
そんな予感が僕の中でよぎる。
その直後、眩しい炎の中で、蛇型のシルエットからにょきにょきと新しいシルエットが現れた。
まるで、倒れ込んだ蛇から新しい蛇が生えてきたようだ。
…まさか、脱皮か!?
「き…… 貴様!! 何度も何度も爆発させやがって、少しは遠慮をしろッ!!」
その叫び声と共に、轟々と燃える炎の中からセルパンが飛び出してきた。
セルパンは先ほどより一回り小さくなっており、色も黄緑色に変色していた。
セルパンは飛び出した勢いをそのままにカルムにかじりつく。
カルムは左手の短剣でそれを受け止めた。
セルパンの牙と衝突した伝説の短剣は、ガキンッと固い衝突音を響かせる。
はじけ上がったカルムの左腕に、すかさずセルパンが体を巻き付ける。
「ぜえ… ぜえ… 必殺魔法を連打できるのはその短剣が原因だろ! こうして腕ごと縛り上げてしまえば封じ込める」
セルパンは息を切らしていた。
どうやら脱皮した姿は第三形態という訳ではなく、一時しのぎの緊急回避方法だったようだ。
カルムは左腕をギリギリと締め付けられながら、それでもクスクスと笑う。
「残念、そっちはハズレだよ」
カルムはニヤケながら、空いた右手でセルパンの後ろを指さす。
セルパンの後ろにいるのは、世界樹の葉っぱ付き短剣を持った僕だった。
カルムは葉っぱの刺さった短剣を僕に投げ返して、元から持っていた短剣でセルパンの攻撃を凌いだのだ。
つまり、今必殺魔法を撃てるのはカルムではなく僕だ。
セルパンはカルムの指さしに従い、慌てて僕の方を振り向く。
「また貴様の方か!! 何度も同じ手をくらうわけがな……」
振り向いたセルパンは言葉に詰まる。
ギョロリとした目を泳がせるが、すぐ後ろにいるはずの僕の姿を見つけられないでいた。
「……どこだ? あの男はどこにいる!?」
「透明魔法 ウラヌス・スケスケ!!」
燃えた法衣を脱ぎ棄てていた僕は、透明魔法を唱えていたのだ。
もちろん、本格的に透明になるために、別に燃えていないパンツもしっかりと脱いでいた。
全裸で透明になった僕は、セルパンの長い胴体に伝説の短剣を突き刺した。
「ぐはッ! 何事だ!! いったいなぜ吾輩の体に短剣が刺さっているのだ!?」
僕がセルパンの体に突き刺しているだけなのだが、セルパンからは短剣がひとりでに飛んできたように見えたのだろう。
セルパンが自分に刺さった短剣を抜こうともがくことで、カルムの左手を縛っていた力が緩む。
カルムがするりと抜け落ちた直後、僕は短剣を突き刺したまま叫んだ。
「くらえ、必殺魔法 サン・バイオレンス!!」
超至近距離で撃ち込んだ必殺魔法の爆発がセルパンを飲み込んだ。
僕が必殺魔法を唱えた直後、短剣に串刺しにしていた世界樹の葉っぱは灰色に乾いてカサカサと崩れた。
合計何発の必殺魔法を受けたのだろうか、爆発の炎に焼かれたセルパンはついにダメージが許容量を超えたらしい。
徐々に体が黒い霧となって霧散し始めた。
「……そんなまさか。吾輩が地上の人間ごときに負けるのか。冥界に帰ることもできず、ここで消えてしまうのか」
セルパンは悔しさのあまり顔をゆがませながら僕とカルムを睨む。
「貴様ら… よくも… よくも吾輩を……」
セルパンは最後の言葉を言い切る前に、黒い霧となり風に流されていった。