ファンタジーゲームの主人公に転移したら、女主人公がすでにいた   作:瓜売り

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4話:盗賊団のアジト

 

 木造2階建ての盗賊団アジトは豪快な炎に包まれていた。

 

 建築の木材に含まれた水分が蒸発し、パチパチと小気味よい音を響かせている。

 しかし、そんな小気味よい音をかき消すように、燃えたアジトの中から盗賊たちの悲鳴が聞こえてきた。

 

「熱ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

「ちくしょう、燃えてるよぉぉぉ!!」

 

 叫び声の主である盗賊たちは、アジトの入り口から飛び出してきてそのまま地面を転げまわる。

 服に燃え移った火を必死になって消しているようだ。

 

 一人、また一人とアジトから飛び出してきては、炎に包まれたアジトを泣きそうな顔で眺めている。

 

 いくら盗賊といえど、流石に可哀そうに思える。

 

 

 いったい誰が盗賊団のアジトを建物ごと燃やしたのか…!

 

 

 そんな非情なことを誰がしたのか…!

 

 

 それは、他でもない僕だった。

 

 

 

 

 僕と一緒に盗賊団のアジトに乗り込もうとしていたヴァニテューという男は、僕の肩に手を置き、少しひきつった顔でこちらを見ている。

 

「デキスギ… この威力は人に向けちゃダメだろ」

 

「…ち、違うんだ!!」

 

 やめろ。僕のことを道徳を持ち合わせていないクズを見るような目で見るな。僕はいたって善人だ。

 

 ただ、少し手違いがあっただけだ。

 

 いったい何故こんなことになってしまったのか説明させてほしい。

 

 

 

 

 

 

 カルムという女主人公(という女盗賊)に伝説の短剣を強奪された僕は、代わりにカルムが元々所持していた伝説の短剣を取り返そうと思い、盗賊団のアジトへと向かった。

 

 ゲーム内の設定では、伝説の短剣は主人公しか装備できない専用武器となっている。

 そんな特別扱いをされるということは、物語の重要なキーアイテムになる可能性が高い。

 

 ストーリーの終盤まで進めて、『伝説の短剣を持っていないのでこの先に進めません』となっては目も当てられない。

 そうならないためにも、今のうちに取り返すべきだと考えたのだ。

 

 

 

 盗賊団のアジトに向かう途中、見習い王国兵のヴァニテューという男に出会った。

 今僕の肩に手を置いている、長身かつ筋肉質で紫色のリーゼントを嗜めた男だ。

 

 ヴァニテューは僕が盗賊団のアジトに向かっていると知ると、自分もついていくと言い出したのだ。

 

 ヴァニテューは「王国最強と言われる俺様がついていこう。有難がってくれて構わないぜ!」という大口をたたいて僕の仲間になった。

 

 まったく、とんだ自惚れものだ。

 

 確か、僕が見た動画の配信主は「ヴァニテューは初めに仲間になるキャラクターですが、レベルもステータスも低く、伸びしろのないキャラクターなので育てなくていいです」といっていた。

 

 そのことを思い出してから彼のセリフを聞くと、なんだか悲しい気持ちになる。

 

「どうしてそんな憐れんだような目を向けるんだ、デキスギ」

 

「気にするなヴァニテュー。強く生きろよ…。」

 

 そんなやり取りをしながら僕たちは盗賊団のアジトにたどり着いた。

 すると、アジトの入り口の前でバンダナを巻いた盗賊と戦うことになったのだ。

 

 僕はその盗賊に向かって太陽の紋章が刻まれた右手を突き出し、必殺魔法を放った。

 

 

 その結果がこれだ。

 

 今僕の目の前では、盗賊の男―――どころか、その後ろのアジトまでもが火だるまになっている。

 

 

 

 僕は知らなかったのだ。必殺魔法がこれほどの威力を持っていることを。

 

 確か配信動画でみたゲーム画面では、小さな爆発エフェクトがボバンッ…というショボい効果音と共に表示される程度だったはずだ。

 

 そして何より、市場で出会った女主人公のカルムはこの必殺魔法を僕に向けて撃とうとしていた。しかも群衆の集まった市場のど真ん中で。

 であれば、普通はこんなに高威力だと思うまい。

 

 すべては、あの爆発テロ(未遂)女のカルムが悪い!

 

 だから、僕は悪くないのだ!!

 

 

 

 

「まあ、こいつらは敵だし別にいいか……」

 

 さっきまで引きつった顔をしていたヴァニテューだったが、燃えているのが盗賊だということを思い出したらしく、すっかり冷めた表情になっていた。 

 

 ヴァニテューは男勝りな顎を撫でて唸った後、ポツリとつぶやく。

 

「…放って帰るか」

 

「…いや、さすがにダメだろ! どんな倫理観してるんだよ!!」

 

 まさか僕が人に倫理観を解くことになるなんて思わなかった。

 

 人や建物が燃えているのに無視して帰るなんて、いったいどんな神経してるんだよコイツ。

 

 …燃やしたのは僕だけれど。

 

 

 

 幸いにもアジトを燃やしたのが僕だということは、バンダナの盗賊以外には知られていないようだった。

 通行人の振りをして盗賊を助けることくらいはできそうだ。

 

 そんなことを考えていると、二階の割れた窓から大男が飛び降りてきた。

 

 大男は、先ほど僕が吹っ飛ばしたバンダナの盗賊を抱えている。

 バンダナの盗賊はアジトの二階まで吹き飛んでいたようだ。

 

 大男は着地に失敗して顔からこけ、グヘッと声を漏らす。

 その後、何とか起き上がってアジトを見つめる。

 

「俺様のアジトが… このブリガン様のアジトが…」

 

 ブリガン? ああ、そう言えばこの盗賊団はブリガン盗賊団という名前だった。

 彼らがその名を刻んでいた屋上看板は今では真っ黒な木炭になっているが。

 

 立ち尽くすブリガンに向かって他の盗賊が叫ぶ。

 

「ブリガン様! そんなことよりジャックは… ジャックは大丈夫なんですか!?」

 

 ジャックと呼ばれているのは、先ほど僕が吹き飛ばしたバンダナ盗賊のようだ。

 ジャックはブリガンに抱えられたままぐったりとしており、白目をむいて動かなくなっている。

 

「そうだった、ジャックが大変なんだ!! おい誰か、誰か回復魔法を使えないか!?」

 

 ブリガンはあたりを見渡し、僕たちと目があう。

 

「おい、そこの二人。お前たち回復魔法は使えないか? 俺様の仲間が大変なんだよ!」

 

 

 僕はチラリとヴァニテューに視線を送った。

 

 ヴァニテューは僕の意図に気づいたらしく、自信満々に宣言する。

 

「回復魔法が使えるかだって? もちろん、俺様は最強の王国兵だからな。いずれは回復どころか死人だって蘇らせちまうぜ!」

 

「おお! ということは、回復魔法を使えるのか?」

 

 僕の期待の眼差しを受けたヴァニテューはさっと目線を逸らす。

 

 …あれ?

 

「いや、今はまだ勉強中だからな。…その、なんだ。…使えねえ」

 

「使えないのかよ!! 思わせぶりな言葉を吐きやがって」

 

 少し期待しちゃったじゃんか、この無能な自惚れ野郎め! 

 

 僕が内心で毒づいていると、今度はヴァニテューが僕に視線を送ってきた。

 「そう言うデキスギは使えるのか?」という視線だ。

 

「僕は………」

 

 回復魔法が使えるかだって? 僕はもちろん使える!

 

 

 

 …けれど、今は使えない。

 

 主人公である僕は夜にしか回復魔法を使えないのだ。

 

 

 配信動画では主人公は昼と夜を入れ替える能力があると説明していた。

 だが、その能力の発動方法を僕は知らない。

 

 よって、回復魔法を使えるかの答えは…。

 

「……夜になったら使える」

 

「それは…、気の遠い話だな」

 

 今度はヴァニテューが失望したような目で僕を見てくる。

 

 こいつ、自分も回復魔法を使えないくせに…!

 

 このやり取りで分かったことは、今は二人とも回復魔法が使えないということだった。

 

 

 

 

 …よし、やっぱりこの場から逃げよう!!

 

 倫理観? そんなものは知らん!!

 

 

 

 

 困り果てているブリガンを置き去りにして全力で逃げることを決めた僕は、市場のある方を向く。

 その直後、市場の方角からドドドドドドドドドと小さな、複数の足音が聞こえてきた。

 

「何だこの足音、人間? いや動物だよな。それもかなりの数だぞ…」

 

 ヴァニテューも足音に気づいたようだ。

 その足音は段々とこちらに近づいてくる。

 

「おいおい、俺様のアジトに向かってくるじゃねえか! 今度は何だよいったい!?」

 

 ブリガンの慌てようから察するに、この足音は盗賊団とも関係がないようだ。

 もちろん僕も身に覚えはない。

 

 ただ、足音が近づくにつれてその正体が段々と分かってきた。

 

「白い綿の大群? …いや違う、羊だ! 羊の大群がこっちに向かってきてる!!」 

 

 その足音の正体は羊だった。

 それも何十頭といる、まさに大群だ。

 

 距離が近づくとメェーメェーという鳴き声まではっきりと聞こえてきた。

 

 なんだこの羊の大群は…。こんなのゲームのストーリーにはなかったはずだぞ。

 

 

 

 羊の大群は僕たちの前に到着すると、背中に乗せていた荷物のようなものをポイっと放り投げて来た方向に帰っていった。

 

 僕たちは呆気にとられながら羊たちが投げ捨てたものを見る。

 てっきり荷物だと思っていたそれは人だった。

 

 それも金髪の少女―――

 

 

「……って、カルムじゃんか!」

 

 

 羊に運ばれてきたのは、数時間前に別れたばかりの女主人公カルムだった。

 "運ばれてきた"といえるほど、綺麗な運搬方法ではなかったけれど。

 

 カルムは綺麗だったショートカットの金髪をボサボサにし、全身に羊の毛をまとまりつかせた状態で目を回している。

 

「あれ…? ここどこ?」

 

 やっと目の焦点があってきたようで、カルムはようやく僕が目の前にいることに気付いた。

 

「君は…、確か盗賊だよね」

 

「僕は盗賊じゃない!」

 

 それを言うならお前は強盗だろ―――と言いかけたが話がややこしくなりそうなので止めておいた。

 

 それよりも今は、カルムが羊の大群に運ばれてきた理由が知りたい。

 

「わたし、市場にいたはずなのに…。ねえ、なんでわたしは羊にもみくちゃにされたの? なんで君の近くに放り捨てられたの?」

 

 カルムは困惑した表情で僕に聞いてくる。

 

 どうやらカルム自身もなぜ羊たちに運ばれてきたのかわかっていないらしい。

 

「奇遇だなカルム。今お前が聞いたことは、ちょうど僕がお前に聞こうとしていたことだ」

 

 

 あたりを見渡したカルムは燃え盛っている盗賊団のアジトと、そのそばで倒れているジャックに気が付いたようだ。

 

「ねえ、なんか建物が燃えてるけど大丈夫なの? それに、あの倒れている人って君の盗賊仲間だよね。白目をむいちゃってるけど大丈夫なの?」

 

「だから僕は盗賊じゃない!」

 

 ついでに、白目をむいているジャックも大丈夫ではない。

 

 カルムがジャックについて触れたことで、あっけにとられていたブリガンも我を取り戻したようだ。

 

 ブリガンはカルムにも助けを乞う。

 

「なあ、羊飼いの嬢ちゃん。あんたは回復魔法を使えないか? もし使えるなら俺様の仲間を助けてくれ!」

 

 ブリガンは、どうやらカルムを羊飼いだと勘違いしているらしい。

 羊飼いだってあんな移動はしないだろ。

 

「回復魔法なら使えるけど…。でも、あなたたち盗賊でしょ。つまり、敵だよね?」

 

 問いには一応答えたものの、カルムはあからさまに嫌そうな顔で渋る。

 とてもゲームの主人公とは思えない反応だ。

 

 ……さっきのヴァニテューといい、この世界の住民、敵に対してちょっと厳しすぎないか?

 白目むいてるんだぞ、助けてやれよ!

 

 ……白目むかしたのは僕だけれど。

 

「頼むよ嬢ちゃん…」

 

 ブルガンは目を潤ませてカルムに懇願する。

 

 その姿を見て、流石のカルムも観念をしたようだ。

 

「……しかたないなあ」

 

 ため息交じりにそう呟くと、カルムは吹っ切れた笑顔で僕たちの方を振り向く。

 

「…というわけで、ごめんね皆。回復魔法を使いたいから夜にするね」

 

 ヴァニテューやブリガンたちはカルムの言葉の意味がわからないようで首をかしげた。

 けれど、僕にはわかる。やはりカルムも主人公の能力が使えるようだ。

 

 カルムは祈るようなしぐさをして呟く。

 

「夜になれ」

 

 …と。

 

 どうやら、昼と夜を切り替えるには祈りをささげるだけでいいらしい。

 

 

 

 

 

 

 絵本のページをめくったら、次のページでは夜になっていた。

 僕の目の前で起こった現象は、まさにそんな感じだった。

 

 真上にあったはずの太陽は、ストンと弧を描きながら地平線の下に落下し、代わりに星がひょっこり現れる。

 

 その昼夜切り替えの余りの早さに、僕の目も脳もすっかり置き去りにされた。

 急に太陽の光を失い視界は真っ黒になった。けれど、何が起きたかわからず僕の頭は真っ白だ。

 

「はあ!?」

 

 ――と驚きの声を漏らした僕をよそに、カルムは回復魔法の詠唱を唱えていた。

 詠唱が終わるとジャックの周りを薄っすらと優しいピンク色の光が包む。

 

「回復魔法を使ったから、安静にしていればじきに目を覚ますはずだよ」

 

 ブリガンはカルムに涙ながらに感謝をする。

 

「あ、ああ! ありがとうな羊飼いの嬢ちゃん」

 

 ブリガンは倒れているジャックに駆け寄ると、ジャックが魔法の光に包まれていることを確認して安堵する。

 

 これにて一件落着のようだ。

 

 

 

 事態が収束に向かったことでほっと一息ついていると、カルムがこちらに歩いてきて、目の前で足を止めた。

 

 カルムは僕の顔にピシッと人差し指を立てる。その表情は、いたずらをした子供を叱るような、少しの優しさをにじませた怒り顔だった。

 

「盗賊さん。自分たちのアジトを燃やすような危険なことはしちゃダメだよ」

 

 どうやらカルムはまだ僕のことを盗賊だと思っているようだ。

 それに、僕たちがうっかり自分のアジトを燃やしたと思っているらしい。

 

「今回、あなたの盗賊仲間を助けたのは貸しだからね」

 

 カルムはコロッと表情を変えて、優しい笑顔でウインクをする。

 そのウインクには「キランッ!」という効果音がついてきそうだった。

 

 決め台詞の後にウインクをするなんて、僕なら気恥ずかしすぎて絶対にできない。

 けれど、カルムはファンタジー世界の住民だ。そのためか、そんなあざとく気恥ずかしいことを平気でやってのけるらしい。

 

 ………びっくりして、少しドキッとしてしまったじゃないか。

 

 まったくタチの悪い女だ!

 

 

 

 それに……。

 

 カルムは僕に貸しだと言ったが、よく考えたら盗賊団のアジトが燃えたのも、盗賊のジャックが白目をむいているのも、間接的にはカルムの責任でもあるのだ。

 

 自分で問題の種をまいて解決しただけのくせに僕に貸しだと? ふざけるなよ!?

 

 

 

 僕がそのことを指摘しようと思った時には、彼女は既に市場に向かって歩き出していた。

 

 今回の事件は半分くらいはカルムの責任だ。少なくとも僕はそう思っている。

 だが、そのカルムのおかげで解決したのも事実ではある。

 

 仕方がないので今回は大目に見てやろう。

 

「言っておくけど、こっちも貸しだからな!」

 

 

 

 僕は小さくなったカルムの背中に向かって叫ぶ。

 

 が、きっと彼女には聞こえていないだろう。

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