ファンタジーゲームの主人公に転移したら、女主人公がすでにいた 作:瓜売り
この世界に転移したばかりの僕には住居がない。
そして、宿屋に何泊もできるほどの所持金もない。
そのため、僕は仲間になったヴァニテューに、家に泊めてもらえないかとお願いしてみた。
彼は「別に構わないぜ。遠慮するなよ、俺様たちは共に死線を潜り抜けた仲間じゃないか」と快く引き受けてくれた。
死線…潜ったかな?
どちらかと言えば、死線を潜ったのは盗賊団のメンバーだろう。
ここにいるのは死線を作った加害者と、それを眺めていた傍観者だ。
無事に鎮火した盗賊団のアジトから『伝説の短剣』を回収した僕は、ヴァニテューに連れられて歩いていた。
盗賊団のアジトから少し歩くと、綺麗な水が流れている川のほとりについた。
いわゆる河川敷というやつだ。
「ついたぞ、ここが俺様の寝床だ」
ヴァニテューは小さな橋の下に潜り込むと寝袋を取り出した。
橋の下には、寝袋以外にも釣り竿や荷物がいくつか置かれているのが見える。
ヴァニテューは自慢げに寝袋を二つ並べて見せるが、自慢げにされてもだ…。
「ヴァニテュー、おまえもホールレスだったのかよ」
この世界に転移したばかりの僕がホームレスなのは仕方ないとして、なんで王国兵という定職についているお前までホームレスなんだよ。
いったい、王国兵の給料はどこにきえてるんだよ。
僕にホームレスであることを指摘されたヴァニテューは、気恥ずかしそうにはにかむ。
「実は先月ブラックジャックやポーカーで大負けしちまってな。家賃が払えなくなったからここで生活し始めたんだ」
「ブラックジャックにポーカーって…、ギャンブルで給料を全部すったのかよ!」
家賃が払えなくなるまで負けるということは、ギャンブル依存症レベルだとみて間違いないだろう。
どうやら僕はとんでもない奴を仲間にしてしまったようだ。
しかし、当のとんでもない奴は、なぜか清々しい表情をしている。
「安心してくれデキスギ。俺様はポーカーの必勝法を思いついたんだ。だから今月は勝てる! 絶対にだ!!」
僕は今までの人生で一番あてにならない "絶対" を聞いた。
凄いなこいつ、家を追い出されたのに何一つ懲りていない。
寝床どころか寝袋すら持っていない僕は、このホームレス生活を受け入れるしかなかった。
僕はヴァニテューの用意した寝袋を座布団代わりにして座る。
今僕たちの頭上では星が綺麗に輝いている。立派な夜だ。
けれど、つい先ほどまで昼だったので、僕はまだ眠気を感じてはいなかった。
僕は今のうちにヴァニテューについて知ることにした。
もちろん、この人生が博打男のプライベートが知りたいわけではない。というかこれ以上は知りたくはない。
僕が知っておきたいのは、こいつの戦闘面での能力だ。
「――――使える魔法はない! 俺様はこのハルバード一本で戦うスタイルだぜ!」
ヴァニテューは槍と斧を合わせたような武器(ハルバードというらしい)を豪快に振り回す。
その姿はまるで熱血アニメの登場人物のようだ。
…いやお前、回復魔法どころか死者すら蘇らせるとか言ってなかったか?
早々に魔法に見切りつけてるじゃんか。
「そういうデキスギはどんな魔法が使えるんだ?」
今度はヴァニテューが好奇心をのぞかせて聞いてくる。
僕はヴァニテューに主人公の使える魔法を説明した。
太陽の出ている間は必殺魔法、星が輝く夜には補助魔法が使えること。
そして、補助魔法は三種類あること。回復魔法と防御魔法―――。
「…で、これが姿を透明にする透明魔法だ。といっても、相手に姿が見えないというだけで、モノを透けて通れるわけじゃないぞ」
僕は補助魔法の一つである透明魔法を実演して見せる。
ヴァニテューは目の前で姿を消した僕におおーッと声を漏らしながら拍手した。
これらの補助魔法は夜の星の力を使っているため、太陽が昇ると魔法は全てとけてしまうのだ。
だが、これらの補助魔法――――特にこの透明魔法については、色々な使い道があるのではないかと僕は考えを巡らせている。
頭脳派の僕にかかれば、きっと沢山の有意義な使い道が見つかるだろう。
「その魔法があれば、女湯を覗きに行けるな」
僕の考えとは裏腹に、ヴァニテューがくだらない提案をする。
まったくもって救えない男だなコイツ。
女湯を覗くなんてのはの〇太のようなバカのすることだ。「の〇太さんのエッチ―ッ!」というやつだ。
僕は仮にも出木杉君と呼ばれた男だ。僕は
それに…。
「いや、やっぱり無理か…」
ヴァニテューも僕と同じ結論に至ったようだ。
「だってその魔法、デキスギ自身は透明になってるけど、服やズボンがそのままだもんな」
そう。この透明魔法は僕の肌や髪の毛は透明にするくせに、身に着けているものは透明にならないのだ。
ヴァニテューの目には宙に浮いた僕の学生ブレザーが映っているだろう。
ファンタジー世界のくせに、こんなところだけ現実味を持たせるなと言いたくなる。
つまり、完全に透明になるには僕自身がすっ裸になる必要があるのだ。
「女湯を覗こうと思ったら、その前に自分がすっ裸にならないといけないんだもんな。さすがにそれはまずいよな」
ううん…と唸って考え込むヴァニテューに思わず呆れてしまう。
そもそも、女湯を覗く方法なら僕がすでに何度も考えて………、いや今のはなしだ。
まあ、とにかくだ。女湯の近くで男の僕がすっ裸になれる場所が存在しない以上、この魔法で覗きをするというのは不可能なのだ。
………いや、ちょっと待てよッ!!
その瞬間、雷に撃たれたような強烈なひらめきが脳天を貫いた。
あるではないか! 女湯の近くで男がすっ裸になっても違和感のない場所が。
そうだ、女湯の近くには必ず男湯があるのだッ!
男湯の脱衣所ですっ裸になってから透明魔法を使う。そして、透明な姿のまま女湯に行けばいいのだ。
さすがは僕だ、なんて天才的なアイディアなのだろう!
しかし、このアイディアはまだ仮説段階だ。必ずうまくいくとは限らない!
……ま、まあ、そもそも女湯を覗くなんて実に子供じみた発想だ。実にバカらしいことだ。
「おいヴァニテュー、覗きの話はもういいだろ」
僕に嗜められたヴァニテューは残念そうに肩をすくめる。
「それもそうだな。だがデキスギは凄いな、たくさん魔法が使えるなんて」
「まあな」
これも主人公の特性なのだろう。技の選択肢が少ない主人公など、プレイヤーからすれば面白味がないに違いない。
…ところでだ。
「ふう。なんだか話していると汗をかいてきちゃったな」
僕はぽつりとつぶやく。
そんな僕のつぶやきを聞いたヴァニテューは目の前の川を指さす。
「汗ならそこの川で水浴びするといいぜ」
川で水浴びか。確かに川の水は綺麗そうなのでそれもありだ。
だが…。
「せっかくならお湯につかりたいんだよな。なあヴァニテュー、この辺りでお湯につかれるところってあるか?」
「それなら、この近くに風呂屋があるぞ」
「へえ、風呂屋ね……」
そうか、近くにあるのか。
せっかくなら寄ってみるのも悪くないかな。
うん。
「確か入場料は50ロワ―だったかな」
「50ロワ―か…」
ちょうど僕が持っているポーチには50ロワ―が入っている。これを使ってしまえば僕は一文無しだ。
…だが、僕は天才なのだ。そして、天才というのは総じて、自分の立てた仮説を立証しなければならないのだ。
「じゃあ、僕は風呂でも浴びに行ってくるよ」
そう言って、僕は風呂屋に向かった。もちろん湯船で汗を流すのが目的だ。やましい気持ちや下心など一切ない。
ただ、汗を流すついでに、天才として自分の立てた仮説が正しいことを確かめてくるだけだ。
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わたしは占いの館で淡く光る水晶玉を眺めていた。その水晶玉を輝かせているのは、いかにも怪しげな雰囲気をまとった占い師のおばあさんだった。
おばあさんは一息つくと占いの結果を告げる。
「ふむ。そなたは『
風の守護竜―――その存在についてはもちろん知っている。
守護竜というのは、この世界を守ってくれているドラゴンのことだ。
風以外にも、水、火、氷もいるらしい。なんでも四匹とも凄く強いのだとか。
大人しいと噂の守護竜だけど、占いによると『
守護竜が暴れるということは、この世界でよくない何かが起きているのかもしれない。
そういえば、今朝もこの占いの館で「そなたはこの世界の救世主じゃ」と言われたけれど、それとなにか関係があるのかもしれない。
いきなり救世主だと言われて悪い気はしなかったけれど、よく考えれば、救世主が必要になる出来事がこの世界で起きるということになる。
…それって一大事だよね?
「ねえ、おばあさん。守護龍が暴れてるって大事件だよね。今までにもそんなことってあったの?」
「うむ…。確か五十年ほど前に蛇を見つけて大暴れしておったな」
「へ、…蛇?」
まあ、蛇を見つけたらわたしだってびっくりはするけれど…。
守護龍ってドラゴンだよね、蛇くらいで大慌てしないで欲しいな。
別にこの世界に大事件なんて起きていないのかもしれない。なんだかそんな気がしてきた。
となれば、目先で気にしないといけないのは風車の一族のことだ。
「蛇はいいとして……。その占いの話だと
「ん? まあそうじゃな」
「そっか。困っている人がいるのか。じゃあ、助けないとだね!」
困っている人は助ける、困っている悪党は気が向けば助ける。それがわたしのモットーだ。
早速、
「ところでカルムよ。今朝のワシの占いは当たっておったか?」
今朝の占いのお告げというのは『盗賊と戦闘をする運命』のことだ。
結局わたしは盗賊とは戦っていない。けれど、今日は盗賊とよく関わる一日だった。
「ん~。半分くらい当たってたよ」
わたしは今日の占いの結果をそう評した。
その答えに占い師のおばあさんは少し驚く。
「ほう、半分とな!? まあ、運命は絶対じゃが、捉え方次第ではそう感じるのかもしれんな」
占い師のおばあさんは「ではまた来るんじゃぞ」と言って手を振る。
今度はもう呼び止めるつもりはないらしい。
今日出会った盗賊団は印象的だった。
中でも、市場で出会った少年の盗賊は特に覚えている。なにせ、かなりのイケメンだったのだ。
柔らかい黒髪で、前髪が少し目にかかる中性的な顔立ちをしていた。
しかも彼は、おそらく自分がイケメンだとわかったうえで表情を作っていた。
あの困り顔なんて絶対にわざとだ。
…まったく、タチの悪い男だね。
占いの館を出たわたしは、さっそく冒険の準備に取り掛かった。
そして、星空の光を頼りにデビュ王国を出発して次の目的地へと向かった。
一人旅の始まりだ。
デビュ王国を背にして、ひらけた草原を走り始めたときふと思いつく。
「そうだ! 夜はモンスターが活性化するから昼にしよう」
安易に昼と夜を切り替えると、世界中の人に迷惑が掛かってしまう。けれど、今回は
きっとみんなも許してくれるはずだ。
それに、夜が昼に切り替わったところで、わたしのように "夜にしか使えない魔法" を使う人なんて滅多にいない。だからきっと大丈夫。
そう考えたわたしは「昼になれ」と願った。
その直後、デビュ王国の方から女性の悲鳴と男性の
「ふっっざけるなよ!! 僕を助けろドラ〇もん!!!」
という悲痛な叫び声が聞こえた…気がした。
「気のせいだよね?」
デビュ王国を背にしたわたしは、そのまま駆け足で次の目的地へと向かう。
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