ファンタジーゲームの主人公に転移したら、女主人公がすでにいた   作:瓜売り

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5話:ゆかいな仲間 ヴァニテュー

 

 この世界に転移したばかりの僕には住居がない。

 そして、宿屋に何泊もできるほどの所持金もない。

 

 そのため、僕は仲間になったヴァニテューに、家に泊めてもらえないかとお願いしてみた。

 

 彼は「別に構わないぜ。遠慮するなよ、俺様たちは共に死線を潜り抜けた仲間じゃないか」と快く引き受けてくれた。

 

 死線…潜ったかな? 

 

 どちらかと言えば、死線を潜ったのは盗賊団のメンバーだろう。

 ここにいるのは死線を作った加害者と、それを眺めていた傍観者だ。

 

 

 

 無事に鎮火した盗賊団のアジトから『伝説の短剣』を回収した僕は、ヴァニテューに連れられて歩いていた。

 

 盗賊団のアジトから少し歩くと、綺麗な水が流れている川のほとりについた。

 いわゆる河川敷というやつだ。

 

「ついたぞ、ここが俺様の寝床だ」

 

 ヴァニテューは小さな橋の下に潜り込むと寝袋を取り出した。

 橋の下には、寝袋以外にも釣り竿や荷物がいくつか置かれているのが見える。

 

 ヴァニテューは自慢げに寝袋を二つ並べて見せるが、自慢げにされてもだ…。

 

「ヴァニテュー、おまえもホールレスだったのかよ」

 

 この世界に転移したばかりの僕がホームレスなのは仕方ないとして、なんで王国兵という定職についているお前までホームレスなんだよ。

 いったい、王国兵の給料はどこにきえてるんだよ。

 

 僕にホームレスであることを指摘されたヴァニテューは、気恥ずかしそうにはにかむ。

 

「実は先月ブラックジャックやポーカーで大負けしちまってな。家賃が払えなくなったからここで生活し始めたんだ」

 

「ブラックジャックにポーカーって…、ギャンブルで給料を全部すったのかよ!」

 

 家賃が払えなくなるまで負けるということは、ギャンブル依存症レベルだとみて間違いないだろう。

 

 どうやら僕はとんでもない奴を仲間にしてしまったようだ。

 

 しかし、当のとんでもない奴は、なぜか清々しい表情をしている。

 

「安心してくれデキスギ。俺様はポーカーの必勝法を思いついたんだ。だから今月は勝てる! 絶対にだ!!」

 

 僕は今までの人生で一番あてにならない "絶対" を聞いた。

 

 凄いなこいつ、家を追い出されたのに何一つ懲りていない。

 

 

 

 寝床どころか寝袋すら持っていない僕は、このホームレス生活を受け入れるしかなかった。

 

 僕はヴァニテューの用意した寝袋を座布団代わりにして座る。

 

 今僕たちの頭上では星が綺麗に輝いている。立派な夜だ。

 けれど、つい先ほどまで昼だったので、僕はまだ眠気を感じてはいなかった。

 

 僕は今のうちにヴァニテューについて知ることにした。

 もちろん、この人生が博打男のプライベートが知りたいわけではない。というかこれ以上は知りたくはない。

 

 僕が知っておきたいのは、こいつの戦闘面での能力だ。

 

 

 

 

「――――使える魔法はない! 俺様はこのハルバード一本で戦うスタイルだぜ!」

 

 ヴァニテューは槍と斧を合わせたような武器(ハルバードというらしい)を豪快に振り回す。

 その姿はまるで熱血アニメの登場人物のようだ。

 

 …いやお前、回復魔法どころか死者すら蘇らせるとか言ってなかったか?

 早々に魔法に見切りつけてるじゃんか。

 

 

「そういうデキスギはどんな魔法が使えるんだ?」

 

 今度はヴァニテューが好奇心をのぞかせて聞いてくる。

 

 僕はヴァニテューに主人公の使える魔法を説明した。

 

 太陽の出ている間は必殺魔法、星が輝く夜には補助魔法が使えること。

 そして、補助魔法は三種類あること。回復魔法と防御魔法―――。

 

「…で、これが姿を透明にする透明魔法だ。といっても、相手に姿が見えないというだけで、モノを透けて通れるわけじゃないぞ」

 

 僕は補助魔法の一つである透明魔法を実演して見せる。

 

 ヴァニテューは目の前で姿を消した僕におおーッと声を漏らしながら拍手した。

 

 これらの補助魔法は夜の星の力を使っているため、太陽が昇ると魔法は全てとけてしまうのだ。

 

 だが、これらの補助魔法――――特にこの透明魔法については、色々な使い道があるのではないかと僕は考えを巡らせている。

 頭脳派の僕にかかれば、きっと沢山の有意義な使い道が見つかるだろう。

 

 

「その魔法があれば、女湯を覗きに行けるな」

 

 僕の考えとは裏腹に、ヴァニテューがくだらない提案をする。

 

 まったくもって救えない男だなコイツ。

 

 女湯を覗くなんてのはの〇太のようなバカのすることだ。「の〇太さんのエッチ―ッ!」というやつだ。

 

 僕は仮にも出木杉君と呼ばれた男だ。僕は叡智(えいち)であってエッチではない。

 

 それに…。

 

 

「いや、やっぱり無理か…」

 

 ヴァニテューも僕と同じ結論に至ったようだ。

 

「だってその魔法、デキスギ自身は透明になってるけど、服やズボンがそのままだもんな」

 

 そう。この透明魔法は僕の肌や髪の毛は透明にするくせに、身に着けているものは透明にならないのだ。

 

 ヴァニテューの目には宙に浮いた僕の学生ブレザーが映っているだろう。

 ファンタジー世界のくせに、こんなところだけ現実味を持たせるなと言いたくなる。

 

 つまり、完全に透明になるには僕自身がすっ裸になる必要があるのだ。

 

「女湯を覗こうと思ったら、その前に自分がすっ裸にならないといけないんだもんな。さすがにそれはまずいよな」

 

 ううん…と唸って考え込むヴァニテューに思わず呆れてしまう。

 

 そもそも、女湯を覗く方法なら僕がすでに何度も考えて………、いや今のはなしだ。

 

 まあ、とにかくだ。女湯の近くで男の僕がすっ裸になれる場所が存在しない以上、この魔法で覗きをするというのは不可能なのだ。

 

 

 

 

 ………いや、ちょっと待てよッ!!

 

 

 

 

 その瞬間、雷に撃たれたような強烈なひらめきが脳天を貫いた。

 

 あるではないか! 女湯の近くで男がすっ裸になっても違和感のない場所が。

 

 

 そうだ、女湯の近くには必ず男湯があるのだッ!

 

 

 男湯の脱衣所ですっ裸になってから透明魔法を使う。そして、透明な姿のまま女湯に行けばいいのだ。

 さすがは僕だ、なんて天才的なアイディアなのだろう!

 しかし、このアイディアはまだ仮説段階だ。必ずうまくいくとは限らない!

 

 

 

 ……ま、まあ、そもそも女湯を覗くなんて実に子供じみた発想だ。実にバカらしいことだ。

 

「おいヴァニテュー、覗きの話はもういいだろ」

 

 僕に嗜められたヴァニテューは残念そうに肩をすくめる。

 

「それもそうだな。だがデキスギは凄いな、たくさん魔法が使えるなんて」

 

「まあな」

 

 これも主人公の特性なのだろう。技の選択肢が少ない主人公など、プレイヤーからすれば面白味がないに違いない。

 

 

 …ところでだ。

 

「ふう。なんだか話していると汗をかいてきちゃったな」

 

 僕はぽつりとつぶやく。

 

 そんな僕のつぶやきを聞いたヴァニテューは目の前の川を指さす。

 

「汗ならそこの川で水浴びするといいぜ」

 

 川で水浴びか。確かに川の水は綺麗そうなのでそれもありだ。

 

 だが…。

 

「せっかくならお湯につかりたいんだよな。なあヴァニテュー、この辺りでお湯につかれるところってあるか?」

 

「それなら、この近くに風呂屋があるぞ」

 

「へえ、風呂屋ね……」

 

 そうか、近くにあるのか。

 せっかくなら寄ってみるのも悪くないかな。

 

 うん。

 

「確か入場料は50ロワ―だったかな」

 

「50ロワ―か…」

 

 ちょうど僕が持っているポーチには50ロワ―が入っている。これを使ってしまえば僕は一文無しだ。

 …だが、僕は天才なのだ。そして、天才というのは総じて、自分の立てた仮説を立証しなければならないのだ。

 

「じゃあ、僕は風呂でも浴びに行ってくるよ」

 

 そう言って、僕は風呂屋に向かった。もちろん湯船で汗を流すのが目的だ。やましい気持ちや下心など一切ない。

 ただ、汗を流すついでに、天才として自分の立てた仮説が正しいことを確かめてくるだけだ。

 

 

 

 

************

 

 

 

 

 

 わたしは占いの館で淡く光る水晶玉を眺めていた。その水晶玉を輝かせているのは、いかにも怪しげな雰囲気をまとった占い師のおばあさんだった。

 

 おばあさんは一息つくと占いの結果を告げる。

 

「ふむ。そなたは『風車(かざぐるま)の一族』の村人たちを助けるため、『風の守護竜』と戦うことになるじゃろう」

 

 風の守護竜―――その存在についてはもちろん知っている。

 

 守護竜というのは、この世界を守ってくれているドラゴンのことだ。

 風以外にも、水、火、氷もいるらしい。なんでも四匹とも凄く強いのだとか。

 

 大人しいと噂の守護竜だけど、占いによると『風車(かざぐるま)の一族』の村人を襲っているようだ。

 守護竜が暴れるということは、この世界でよくない何かが起きているのかもしれない。

 

 そういえば、今朝もこの占いの館で「そなたはこの世界の救世主じゃ」と言われたけれど、それとなにか関係があるのかもしれない。

 

 いきなり救世主だと言われて悪い気はしなかったけれど、よく考えれば、救世主が必要になる出来事がこの世界で起きるということになる。

 

 …それって一大事だよね?

 

「ねえ、おばあさん。守護龍が暴れてるって大事件だよね。今までにもそんなことってあったの?」

 

「うむ…。確か五十年ほど前に蛇を見つけて大暴れしておったな」

 

「へ、…蛇?」

 

 まあ、蛇を見つけたらわたしだってびっくりはするけれど…。

 守護龍ってドラゴンだよね、蛇くらいで大慌てしないで欲しいな。

 

 別にこの世界に大事件なんて起きていないのかもしれない。なんだかそんな気がしてきた。

 

 

 

 

 となれば、目先で気にしないといけないのは風車の一族のことだ。

 

「蛇はいいとして……。その占いの話だと風車(かざぐるま)の一族の人たちが、今も困っているんだよね?」

 

「ん? まあそうじゃな」

 

「そっか。困っている人がいるのか。じゃあ、助けないとだね!」

 

 困っている人は助ける、困っている悪党は気が向けば助ける。それがわたしのモットーだ。

 

 

 早速、風車(かざぐるま)の一族の住む村に向かおうと席を立ったところ、占い師のおばあさんに呼び止められた。

 

「ところでカルムよ。今朝のワシの占いは当たっておったか?」

 

 今朝の占いのお告げというのは『盗賊と戦闘をする運命』のことだ。

 結局わたしは盗賊とは戦っていない。けれど、今日は盗賊とよく関わる一日だった。

 

「ん~。半分くらい当たってたよ」

 

 わたしは今日の占いの結果をそう評した。

 

 その答えに占い師のおばあさんは少し驚く。

 

「ほう、半分とな!? まあ、運命は絶対じゃが、捉え方次第ではそう感じるのかもしれんな」

 

 占い師のおばあさんは「ではまた来るんじゃぞ」と言って手を振る。

 今度はもう呼び止めるつもりはないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日出会った盗賊団は印象的だった。

 

 中でも、市場で出会った少年の盗賊は特に覚えている。なにせ、かなりのイケメンだったのだ。

 柔らかい黒髪で、前髪が少し目にかかる中性的な顔立ちをしていた。

 

 しかも彼は、おそらく自分がイケメンだとわかったうえで表情を作っていた。

 あの困り顔なんて絶対にわざとだ。

 

 …まったく、タチの悪い男だね。

 

 

 

 

 

 占いの館を出たわたしは、さっそく冒険の準備に取り掛かった。

 そして、星空の光を頼りにデビュ王国を出発して次の目的地へと向かった。

 

 一人旅の始まりだ。

 

 デビュ王国を背にして、ひらけた草原を走り始めたときふと思いつく。

 

「そうだ! 夜はモンスターが活性化するから昼にしよう」

 

 安易に昼と夜を切り替えると、世界中の人に迷惑が掛かってしまう。けれど、今回は風車(かざぐるま)の一族を助けるという大事な目的がある。

 きっとみんなも許してくれるはずだ。

 

 それに、夜が昼に切り替わったところで、わたしのように "夜にしか使えない魔法" を使う人なんて滅多にいない。だからきっと大丈夫。

 

 そう考えたわたしは「昼になれ」と願った。

 

 

 その直後、デビュ王国の方から女性の悲鳴と男性の

 

 「ふっっざけるなよ!! 僕を助けろドラ〇もん!!!」

 

 という悲痛な叫び声が聞こえた…気がした。

 

 

「気のせいだよね?」

 

 デビュ王国を背にしたわたしは、そのまま駆け足で次の目的地へと向かう。

 

 

************

 

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