ファンタジーゲームの主人公に転移したら、女主人公がすでにいた   作:瓜売り

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6話:VS風の守護竜

 

 河川敷で釣りをしているヴァニテューは、一本釣りで見事に魚を釣り上げた。

 

「おいデキスギ、こんなにでかい魚が釣れたぜ!」

 

 ヴァニテューは釣り上げた魚を嬉しそうに僕に見せてくる。

 太陽の光に照らされた魚の鱗は、きらめくような光沢を放っていた。

 

 僕はその光景を眺めながら思わずため息を漏らす。

 

「また魚かよ…。もう焼き魚は食べ飽きたぞ」

 

 

 このゲームの世界に転移してから3日、僕たちの食事は川で釣った魚を焼いた「焼き魚」だけだった。

 魚には頭が良くなる成分が含まれているらしいが、さすがに3日間同じ魚を食べ続けていると頭がおかしくなりそうだ。

 

 ちなみにだが、この3日で僕たちがやったことはチュートリアルである盗賊団アジトの攻略だけだった。

 

 攻略速度が遅いと思われるかもしれないが、それはこの世界の一日の長さが原因だ。

 女主人公のカルムがコロコロと昼夜を切り替えるせいで、一日が24時間どころか数時間で過ぎることもあるのだ。

 

 そのせいで僕が風呂屋でどんな目にあったことか…。

 

 

 

 

 今僕の隣では、ヴァニテューが釣った魚を捌いて刺身にしようとしている。

 僕が「焼き魚はもう食べ飽きた」といったからのようだ。

 けれど違うのだ。僕は別に調理のレパートリーに飽きたわけではなく、もそも食材の魚に飽きたのだ。

 

 焼いてようが、刺身だろうが、魚は魚だろ…。

 もう嫌だ、このお魚地獄…。

 

 

 ヴァニテューは伝説の短剣を握りしめている。魚を捌くのに使いたいと頼み込まれたので僕が渋々貸したのだ。

 

 伝説の短剣は主人公の専用武器のため、他の仲間は装備をすることができない。

 けれど、調理器具として使うくらいはできるだろう―――――そう思っていたのだが。

 

 

 

 ヴァニテューの手元からパキッという、竹が割れたような小気味の良い音が聞こえた。

 

 音の方を見ると、短剣の()()()()()()を握ったヴァニテューが固まっていた。

 ()()()()は綺麗に折れて、魚の横に転がっている。

 

 …こいつ、やりやがった!!

 

 

 どうやら主人公専用武器を他の人が使うとこうなるらしい。

 

 ヴァニテューは真っ二つに割れた伝説の短剣を呆然と眺めてから、ゆっくりと首をひねって僕の方を見る。

 

「…違うんだデキスギ、俺様はただ魚を捌こうとして」

 

 ヴァニテューは青ざめた顔で僕に必死に弁明した。

 

 

 

 一通り言い訳をし終えたヴァニテューは「鍛冶屋に頼んで、修理してもらってくる」と言い残し、折れた伝説の短剣を持って走っていった。

 

 ところでヴァニテューは修理費を払えるのだろうか?

 

 

 

 先ほど真っ二つに折れた伝説の短剣についてだが、あれは僕がおじいちゃんから譲り受けた形見ということになっている。

 もちろん、おじいちゃんというのは僕の本当の祖父ではなく、このゲームの世界でのおじいちゃんだ。

 

 要するに、僕からすれば赤の他人の形見ってわけだ。

 

 

 …あ、いや違う。

 

 

 あの伝説の短剣は、元々はカルムが盗賊から奪われたものだったのだ。

 つまり、カルムのおじいちゃんの形見というわけだ。

 

 …なんだ、どのみち赤の他人か。

 

 僕にとっては主人公専用武器ではあるが所詮は赤の他人の形見なので、壊されてもそこまで怒りは湧かなかった。

 

 

 

 

 

 魚の捌き方を知らない僕は、仕方なく魚を串刺しにして焼き魚の準備をしていた。

 すると、ヴァニテューが鍛冶屋から帰ってきた。

 

 随分と早い帰還だ。ヴァニテューが鍛冶屋に向かってからまだ十分も経っていない。

 こんなに早く帰ってきたということはやはり修理費を払えなかったのだろう。

 

「短剣は修理できなかったのか?」

 

 僕がそう尋ねると、ヴァニテューは首を横に振る。

 

「いや、修理は終わったぞ」

 

「はやっ!! いくらなんでも修理が早すぎるだろ!?」

 

 まさかボンドでくっつけただけじゃないよな?

 

 僕が修理の早さに疑念を抱いていると、ヴァニテューは得意げに鼻を鳴らす。

 

「実は俺様の鍛冶スキルはエキスパート級だからな。鍛冶職人に頼らず工房だけ借りて自分で修理をしたのさ。そこいらの職人より出来がいいぞ!」

 

 ヴァニテューの自惚れた自己評価はいつものことなので、エキスパート級というのはあまり信用ならない。

 

 僕は手渡された伝説の短剣を改めて眺めた。

 

 ぱっと見は、確かにきれいに修理されている。

 これなら大丈夫そうだ。

 

 ……いや待てよ。

 

 

 念のため刃と柄のつなぎ目に視線を落とす。

 

 すると、明らかに「一度割れたけどひっつけました」と言わんばかりの盛り上がりがあった。

 おそらく、別の金属を溶かして刃と柄の間に塗ってひっ付けたのだろう。ボンドと同じ要領だ。

 

 それによく見ると、接着部分が少し曲がっており、短剣が軽くお辞儀をしている様にも見える。

 

「どこがエキスパート級だよ。ちょっと図工が得意な学生レベルだろ!」

 

 

 

 

 

 僕は修理の出来に文句を並べたが、ヴァニテューはまったく意に介さない様子だった。

 

 それどころか、ワイン瓶を取り出してきて

 

キュポッ!

 

 …と耳心地の良い音を立て、コルクを抜きやがった。

 

「おい、僕の話を聞いてるのかヴァニテュー」

 

「もちろんだ。だが、過ぎたことはしょうがないだろ。ワインでも飲んで忘れようぜ」

 

 その手の台詞は本来、被害者が言うものであって、やらかした本人がのうのうと言っていいものではない。

 

 どうやらヴァニテューは、嫌なことは全部酒で流してしまうタイプの大人らしい。

 

 …ダメだこいつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そんな話し合いをしていると、突然、二人の間に小さな風の渦が現れた。

 

 透明なはずの風なのに、それは漫画やアニメでよく見る白い風の渦のように、目の前でくっきりと回っている。

 

 正直、さっぱり意味が分からない。

 

 

「……へ?」「……何だこれは?」

 

 

 あまりに唐突で突拍子もない出来事に、僕もヴァニテューも会話をやめて呆然と立ち尽くす。

 

 二人で呆けていると、その小さな風の渦は段々と大きくなり僕を飲み込んだ。

 

 

「…え? なにこれ? 足、足が浮きそうなんだけど!?」

 

 

 強風にあおられながら、僕はとっさにヴァニテューの手をつかんだ。

 

 数秒は踏ん張っていた彼だったが、僕に引っ張られるようにして、結局は二人まとめて風にさらわれ上空へと持ち上げられていく。

 

 

「どういう事だ? これはいったい… ああ、足が浮いてきたーーー!」

 

「嘘だろ!!」

 

 僕たちはぐるぐると回されながら空高くに上昇していく。目線を足元に向けると、先ほどまで僕たちがいた河川敷が段々小さくなる。

 

 もちろん、こんな出来事はファンタジー世界に転移してから初めてだった。

 

「いやいやいや、訳が分からない!! 浮いてる! 回ってる! 怖ええええええええええ!!!」

 

 

「うわわわわわ、やめてくれーー! 俺様が何をしたって言うんだぁぁぁ!!!」

 

 

 僕たちは小さな台風に巻き込まれておよそ十分間、空中を飛び続けた。

 

 十分もあれば二人とも冷静さを取り戻す………なんてことはなく、僕たちは地面に着地するまで叫び続けたのだった。

 

 

 

 

 

 ────そんな洗濯機さながらの回転から解放されたのは、これまた突然だった。

 

 急に風が止み、見覚えのない崖の上にポイっと捨てられた僕たちは、「グヘッ!」「ホギャッ!」という情けない声と共に着地した。

 

 いったい何が起きたのかさっぱりわからない。

 

 それに、360度構わずシャッフルされ続けたことで三半規管が完全に機能を失い、何と言うか、その、吐きそうだった…。

 

 

 僕がぐるぐると回る目で呆然と地面を眺めていると、聞き覚えのある声がした。

 

「あなた達ってこの前会った二人だよね? なんで急に空から降ってきたの!?」

 

 声の主は倒れ込んでいる僕を覗き込んで、心配そうな顔をしている。

 

 僕はその声の主に見覚えがあった。

 というか、この世界に転移してからもう何度も見ている気がする。

 

「なんでこんなところにお前がいるんだよカルム! それにあの台風は何だったんだよ!?」

 

 僕が無事そうなのを見て安心した様子のカルムは、今度は少し呆れた表情を浮かべる。

 

「なんでって、わたしがいるところに君たちが飛んできたんだよ。それに、台風に乗ってきた理由を聞きたいのは、わたしの方だよ」

 

 そうか、元からカルムのいたところに僕たちが飛んできたことになるのか。

 

 …あれ? 前にもこんなやり取りを逆の立場でやった気がするぞ。

 

 

 

 困惑している僕の様子を見てカルムはニヤニヤしだした。いったい何が嬉しいのだろうか。

 

 前から思っていたが、このカルムという少女は表情がコロコロと変わる。

 知的でクールな僕とは正反対だ。

 

「ねえ、もしかしてわたしたちと一緒に戦いに来てくれたの?」

 

「は? 戦い?」

 

 カルムがいったい何の話をしているのかさっぱり分からない。

 

 そもそも、いきなり台風に巻き込まれて、知らない崖の上に放置されたのだ。今のところは訳の分からないことだらけだ。

 

 僕が状況を理解できていないと察してか、カルムは僕の後ろを指さす。

 その指につられて後ろを振り向くと、そこには僕の身長の十倍はありそうな巨大なドラゴンがいた。

 

 

「ド! ド! ドララ…!!」

 

 

 あまりの恐怖で、思わずミニ〇ラのような声が出てしまった。

 

 僕が言いたいのはドララではなくドラゴンだ。

 

 このファンタジーゲームのボス敵がドラゴンであるということは事前に知っていた。

 けれど、知識で知っているのと実物を見るのでは明らかに違う。

 

 

 で、でかい! そして怖い! こんなのに挑めるわけがない!!

 

 

 おそらくだが、こいつはこのゲームの初めてのボス敵なのだろう。

 たしか配信動画で見た風の守護竜とかいう奴だ。

 

 その動画で配信者は、初めのボス敵に挑むにはレベルが10はないとダメだと言っていた気がする。

 

 ちなみにだが、僕は自分のレベルがいくつなのか知らない。というか、自分のレベルを見る方法すらしらない。

 けれど、チュートリアルしかクリアしていない僕が、推奨レベルに達していないのは明らかだ。

 

 

 

 ドラゴンに怖気づいている僕を見たカルムは、僕を庇うようにしてドラゴンの前に立ちはだかる。

 

「うん、その様子だと迷い込んできちゃっただけみたいだね。大丈夫、後は任せてよ。それじゃあ行くよビュヴール!」

 

 僕は全く気付いていなかったのだが、この崖には飛んできた僕たちとカルム以外にも、もう一人いたようだ。

 

 

 ビュヴールと呼ばれた女性は、褐色肌に白い長髪をなびかせた長身の美女だった。

 

 彼女は大きな風車(かざぐるま)状の武器を構える。

 その武器は一族の伝統品だとかなんだとか…。

 

 

 そんなことよりも大事なことがある。

 

 このビュヴールと呼ばれた女性は、このゲームで2人目に仲間になるキャラクターなのだ。

 本来、主人公である僕が彼女と出会うのは、彼女の住む風車の一族の村のはずだ。

 

「なんでビュヴールとこんなところで出会うんだよ!?」

 

 ビュヴールは初対面の僕に名前を呼ばれて、一瞬驚いた様子だったが、すぐにクスクスと楽しそうに笑う。

 

「出会い方にこだわるなんて、君は結構ロマンティストなんだね。大丈夫だよ、急に台風に乗って登場した君たちは充分印象的だったからさ」

 

 ビュヴ―ルはビールの入った大樽を持ち上げて、豪快にがぶがぶと飲みだす。

 

 長身の美女が樽の酒を飲む姿は、なかなか絵にはなっている。

 その姿を見て思いだしたのだが、ビュヴ―ルは大酒飲みが特徴のキャラクターなのだ。

 

 ヴァニテューといい、なんで仲間になるキャラクターが二人連続で酒好きなんだよ。

 ちょっとキャラ被ってるだろ!

 

 

 

 

 僕は今の状況についてやっと頭の整理が追い付いてきた。

 

 どうやら、本来主人公である僕が仲間にするはずのビュヴ―ルを、女主人公のカルムが先に仲間にしてしまったらしい。

 そして、カルムはビュヴ―ルを連れて二人でボス戦に挑んだようだ。

 

 …なら僕とヴァニテューは関係ないじゃないか!!

 

 

 いったいなぜ僕たちがボス戦に放り込まれたのか。あの台風は何だったのか。そこは未だにわからない……。

 

 僕がそこまで考えを巡らせていると、ドラゴンがこちらを見つめながら「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃ―――ッ!!」と鳴いた。

 

 なんとも品のない鳴き声だ。だが怖い。

 

 僕が再び怖気づいていると、カルムが振り向いてほほ笑む。

 

「大丈夫、わたしが守ってあげるから。君は隠れてて」

 

 カルムはきっと善意でそう言ったのだろう。けれど、そのセリフは僕のプライドに触った。

 同い年くらいの少女に守ってあげるから隠れていと言われて、うんと頷けるほど僕は意気地なしではない。

 

 いきなりボス戦? 正直怖いが上等だ!

 

 もとより攻略を急いでいた僕にとっては、展開が早くなるというのならありがたい話だ。

 

 それに、相手がドラゴン? 

 

 よくわからないが爬虫類だか両生類だかの延長戦上にいる生き物だろ?

 哺乳類の中でも頂点、その上超絶エリートの僕が負けるわけがない!

 

 

 

 

「おい、ヴァニテュー。 僕たちも戦うぞ」

 

 僕は勢いよくヴァニテューの方を振り向く。

 

 しかし、ヴァニテューは自分の手元を見ながら絶望的な表情を浮かべていた。

 

 いったい何に絶望をしているのだか。

 

 そういえば、ヴァニテューはいつも得意げに振り回していたハルバードとかいう武器を今は持っていない。河川敷にでも置いてきたのだろう。

 

 そして、代わりに彼が持っているのは…。

 

「なあデキスギ。一体何の罪を犯したら、ワイン瓶でドラゴンに挑むことになるんだ?」

 

 ヴァニテューは手持ちのワイン瓶を見ながら絶望している。

 

「……ヴァニテュー、一応聞くけどお前ってレベルいくつだっけ?」

 

「……3」

 

「……そうか」

 

 レベルが3で、装備はワイン瓶。僕の仲間使えなさすぎるだろ!!

 

 

 

 さすがの自信家の自惚れ屋も、この状況はお手上げのようだ。

 

「仕方ない、僕だけでも戦うか」

 

「隠れててって言ったのに…」

 

 カルムは面倒臭そうに、けれど少しだけ嬉しそうにほくそ笑む。

 

「ふん。お前の世話になる訳には行かないだろ。大体、僕の手にかかれば低能なドラゴンなんて相手じゃない」

 

 …はずだ。…今のところ策などないけど。

 

 

 

 

 こうして、僕は女主人公のカルムに巻き込まれる形で、この世界で初のボス戦に挑むことになった。

 

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