ファンタジーゲームの主人公に転移したら、女主人公がすでにいた 作:瓜売り
ボス戦までのストーリーを丸々吹っ飛ばしているので、風の守護竜と僕の間には何の因縁もない
―――にもかかわらず、なぜか風の守護竜は終始僕だけを睨み、僕だけを攻撃し続けてきた
…ふざけるなよ! いったい僕に何の恨みがあるんだよ!!
いつの間にか、僕がドラゴンの注意を引き付けてその隙にカルムとビュヴールが攻撃するという連携の取り方になっていた。
途中までうなだれていたヴァニテューはというと、急にキレて
「上等だ! ドラゴンだか何だか知らねえが、やっちまうぞコラァ!!!」
――と叫びながら、ワイン瓶で攻撃に参加し始めた。
ファンタジーな武器や魔法を使う女性陣に交じってヤンキー漫画から出てきたようなリーゼント男が瓶で殴っている姿には、ここまで的確に『場違い』という言葉を体現できるものかと、思わず感心してしまった。
終始逃げ惑う僕、ギリギリで攻撃をよけ続ける僕、最後の最後まで標的になり続ける僕。
そんな僕の活躍もあり、初めてのボス戦は勝利に終わった。
「ふっっっざけるなよ!! このトカゲ野郎!! 錯乱してたから記憶がありませんで済むと思うなよ!!」
僕は大人しくなった風の守護竜の足をビシビシと蹴る。
何かしらの原因があり、この風の守護竜は錯乱していたらしい。ビュヴール達の村を襲ったのもそれが原因だとか。
…が、それにしては的確に僕ばかりを攻撃してきやがったじゃないか。一周回って求愛行動かと疑うレベルだったぞ!
「記憶にございません」なんて政治家みたいな言い訳が通用するか!!
風の守護竜相手にキレ散らかす僕。
そんな僕の姿を酒の肴にしているビュヴ―ルは、大樽のビールを飲みながら笑う。
「ドラゴンはそこら辺のモンスターと違って頭がいいからね。戦闘では相手のリーダーや、一番頭の良さそうな人から狙うらしいよ」
僕はビュヴ―ルの言葉に思わず納得した。
……なんだよ。そういうことかよ。それならそう先に言えよ。
「爬虫類のくせにわかってるじゃないか」
仕方がないので、僕は風の守護竜の所業を許してやることにした。
今いる崖がどこなのかさっぱりわからないので、僕はカルム達に同行して帰ろうと考えていた。
すると、カルムの方から近いてきた。
「ねえ、デキスギくん…だったよね」
「ああ、そうだよ」
当然、デキスギは僕の本名ではないのだが、もう面倒くさいのでこの世界ではデキスギと名乗ることにしていた。
カルムは僕の腰のベルトに結びつけてある『伝説の短剣』を指さす。
「デキスギくんが持っているそれって…、わたしが持っているのと同じ短剣だよね?」
カルムは自分の伝説の短剣をベルトから外して僕に見せる。
僕も取り外した短剣をカルムの短剣の横に並ぶように差し出した。
「同じ短剣が二本…。伝説の短剣は世界に一本しかないっておじいちゃんが言ってたのに、そんなことって…」
伝説の短剣が二本並んでいる光景を前に、カルムは目を見開いて驚いている。
信じられないのも無理はない、僕が転移してくるまでは本当に世界に一本しかなかったのだから。
「ねえ、デキスギくん。なんで伝説の短剣が二本あるの?」
カルムは不思議そうに、そしてどことなく不安そうに聞いてくる。
僕はその答えを知っている―――が「実はゲームの主人公に転移したら、女主人公の君もいたんだよ」と説明する訳にもいかないので適当にごまかすことにした。
「さあ? ドラ〇もんのスペアポケットみたいなもんじゃないか?」
「ドラ〇もん?」
……そうだった。
「……要するに、この短剣を作った鍛冶師が予備でもう一本作ったんだろ」
カルムはあまり納得していない様子だったが、なんとか受け入れたようだ。
それからも少し考えこんでいたカルムだったが、不意にハッとした表情を浮かべる。
「ねえ、伝説の短剣が二本あるっていうことは、もしかしてデキスギくんの持っている短剣が…」
どうやらカルムはやっと真実に気が付いたらしい。
そう、僕が今持っている短剣は元々カルムのものなのだ。
「僕の短剣はカルムに取られたから、代わり僕がカルムの短剣を盗賊団のアジトから取り返してきたんだぞ」
「……! そうだったんだ。じゃあ、デキスギくんは本当に盗賊じゃなかったんだ」
カルムはそう呟くと、勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさい!! わたしずっと勘違いしてたみたい」
僕は必死に謝罪するカルムの姿を見てほほ笑む。そして
「誤解が解けて良かったよ。盗賊扱いされたことは別に気にしていないよ」
―――――という優しい言葉を飲み込んで、代わりに今までの恨み節をぶちまけることにした。
「謝罪程度で許すわけないだろ! お前のせいで市場の人からは盗賊扱いされるし、盗賊団の連中と戦う羽目になるしで散々だったんだぞ。それなのに、何が『これは貸しだからね キランッ!』だ! この勘違いバカ女!!」
僕の罵詈雑言を受け、カルムの頬はみるみる赤くなる。
カルムは先ほどまでのしおらしい態度から一変して声を荒げた。
「な……ッ! し、仕方ないじゃん! 伝説の短剣は世界に一本しかないって思ってたんだから。それに、『キランッ!』なんて言ってないよ!」
この後もカルムは反論してきたが、言いたいことを言いきった僕はそれ以上は耳を貸さなかった。
僕とカルムはお互いに持っている伝説の短剣を交換した。
これで、どちらも元の所有者のもとに返ったわけだ。
「本当にそっくりだね。伝説の短剣はおじいちゃんの形見だったのに、入れ替わってても気づけなかったな」
カルムは少し淋し気な表情で、伝説の短剣を鞘からスッと抜いて天に掲げる。
「刃も本当にそっくり。……あれ?」
同じ短剣が二本あることをしみじみと噛みしめていたカルムだったが、急に目を細めて疑いのまなざしを短剣に向けた。
「なんかこの短剣、刃が傾いてるような…」
「そ、そんなことないぞ!!!」
咄嗟に叫んだので、つい大声になってしまう。
すっかり忘れていたが、僕の持っていた伝説の短剣はヴァニテューが真っ二つにして接着したものだったのだ。
さすがに「君のおじいちゃんの形見こわしちゃった。てへっ」とは言えない。
「き、きっと目の錯覚だろ!?」
「…そうかな? やっぱり曲がってるような」
「そんなわけないだろ!! きっとあれだ、光の入射角と反射角と屈折角が原因でそう見えるんだ!!」
「…そうかな?」
「絶対にそうだ!!」
僕はヴァニテューの『伝説の短剣、大破&接着事件』を必死に誤魔化したのだった。
風の守護竜を撃退した僕たちは、そのことを報告するために
村には三十人くらいの人が住んでいおり、彼らは皆、ビュヴールと同じく褐色の肌に白い髪を持ち、男女を問わず屈強な体つきをしていた。
村では夜遅くまで酒盛りが行われた。風の守護竜による被害がおさまったこと、そして、それを成し遂げた女主人公カルムへの感謝の宴のようだ。
村人たちは次々とカルムの周りに集まって感謝を伝えている。
沢山の村人に囲まれて少し困り気味の笑顔をするカルムは、まさにファンタジーゲームの主人公だった。
村人から英雄扱いされるカルム。────を遠くから眺めている僕はきっと今、荒んだ目をしているに違いない。
先ほどから村人たちの視線がちらちらとこちらを向く。
その視線には「誰あの人?」といったメッセージが込められていた。
僕が誰かって? お前たちの村を助けた英雄だよ。
どうしたほら?
「ふんっ」と鼻を鳴らして、僕は村人たちの視線をシカトした。
そもそも、僕は呑気に宴をしている場合ではないのだ。
――――それは、僕とカルムは
僕とカルムは共にこのファンタジーゲーム世界の主人公だ。
そして、本来一人しかいないはずの主人公が二人いればどうなるか。
その答えが今回の一件で明らかになった。
今回の一件は女主人公のカルムが先に村に到達し、ビュヴールを連れて風の守護竜と戦いに向かった。そのせいで、僕は本来主人公として歩むべきストーリーを歩めていないのだ。
つまり、先にイベントを発生させた主人公だけがゲームのストーリー通りに冒険できるというわけだ。
そうと分かれば、一刻も早くこの村をでてカルムより先に冒険を進める必要がある。
ちなみにだが、僕とヴァニテューがボス戦にだけ放り込まれた理由はわからない。
あの風の渦はいったい何だったのだろうか…。
僕が一人で考え込んでいると、ヴァニテューが宴の輪から抜け出して僕の方に近づいてきた。
ヴァニテューは僕と同じ "誰だお前枠" なのに、すっかり村人たちと打ち解けて宴を楽しんでいる。
少し千鳥足になりながら向かってきたヴァニテューの手にはビール瓶が握られていた。
好きだな酒瓶…。
「おうデキスギ! 宴を楽しんでるか?」
「楽しんでいるように見えるか?」
僕は皮肉交じりの表情で返す。
僕たちは一刻も早く次の冒険に向かわないといけないのに、呑気に酒なんて飲みやがって。
「そうか、デキスギはお子ちゃまだから酒が飲めないのか。それは残念だな。でも輪に入ってジュースを飲むくらいならできるだろ?」
ヴァニテューは「俺様たちの輪に来いよ」といって僕の手を強引に引っ張る。
ヴァニテューが向かおうとしている先には、村人の中でも特に屈強なおっさんや兄ちゃんたちが集まっていた。
冗談じゃない。何が嬉しくてあんなむさ苦しい男どもの輪に入らないといけないんだ。
同じ宴をするなら、ビュヴ―ルのようなお姉さんのいる輪に入りたいに決まっているだろ。
…あ、決して下心はないぞ。
なかなかこの場を動こうとしない僕に対して、ヴァニテューは小さな声で耳打ちする。
「実はさっきまで俺様たちはデキスギの話題で盛り上がってたんだぜ?」
「僕の話題?」
「そうさ、デキスギの英雄譚をみんなで凄いって褒めてたんだ」
僕の英雄譚?
…そんな、まさかな。
僕が宴の輪の方を見ると、屈強な兄ちゃんたちがこっちにこいよと手招きしていた。
「宴の主役がいないと盛り上がらないだろ!」
ヴァニテューはそう言ってもう一度僕の手を引く。
僕は今度はその勢いに抵抗することなく、宴の輪の方に向かった。
まあ、あれだ。この宴にはカルムも参加しているのだ。
なら今すぐ冒険に出なくても、明日の早朝に出発すればカルムより早く次の目的地にたどり着けるはずだ。
それに、せっかくの宴だというのに、主役の僕がいなくて盛り上がらないのは可哀想だからな。
僕が宴の輪に入ると、野郎どもが一斉に盛り上がる。
「おお、真打の登場だ!」
「英雄だ!」
「思ってたよりずっとイケメンじゃんか!」
「こんなイケメンなのにやったのか!?」
僕はみんなの盛り上がりように思わずにやける。
どうだカルム、この盛り上がりよう。お前だけが主人公だと思うなよ。
輪の中にいる顎髭を生やしたいかつい顔の男が、僕に真剣な表情で話しかけてくる。
「聞いたぜ兄ちゃん。あんたスゲーことをやってのけたんだってな」
「…あ、ああ」
風の守護竜戦では結局逃げ回っているだけだったが、どうやら僕の戦いっぷりは村人たちに過剰に評価されているらしい。
「なんでも、単身で乗り込んだんだってな。しかも正面から堂々と」
「…単身?」
風の守護竜は僕を含めて四人で攻略したのだ。
あれ…? なんか話がかみ合わないぞ。
「しかも、裸を覗くのならこちらも裸になるのが礼儀だと言って、全裸になって挑んだんだろ。─────女湯にッ!」
「女湯!!??」
ちょっと待て、話が違うぞ!
僕はてっきり風の守護竜戦の話だと思っていたのに…!!
僕はヴァニテューの方をキッと睨む。
この場で覗きの件を知っているのはヴァニテューだけだ。
僕に睨まれたヴァニテューは嬉しそうに親指を立ててウインクをする。
「場は温めておいたぜ!」といった表情だ。
「ふっっっざけるなよ!!」
宴の輪にいた村人たちは、次々に僕に声をかける。
「かーーーーーッ! たまらねえなあ兄ちゃん! あんた男だぜ!!」
「ちがう、あれは誤解だ!!」
「聞かしてくれよ、兄ちゃんの英雄譚を!」
「英雄譚ってそのことか! 僕にそんな英雄譚はない!!」
「さすがだぜ、エロスギ!!」
「僕に変なあだ名をつけるなーーッ!!!」
僕は立ち上がって、身振り手振りの全力で否定をする。
しかし、村人たちはそんな僕のリアクションすらも楽しんでいる様だった。
彼らは両手をこすり合わせて、ありがたそうに僕を
「やめろ、
こうして僕は望まない形で宴の輪に入り大騒ぎをした。
このにぎやかな宴は夜遅くまで続いたのだった。