ファンタジーゲームの主人公に転移したら、女主人公がすでにいた   作:瓜売り

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9話:そして水の守護竜戦へ

 寝返りをうとうとして目が覚めたわたしは急いで支度をして部屋を出た。

 宿の廊下はまだ日が昇るまえの星明かりに照らされている。

 

 廊下の角を一つ曲がると、ビュヴールが壁にもたれかかって座り込んでいた。

 

 ビュヴールは自分の足では立てない程に酔っ払っている様子だった。

 

 いったい、いつからここにいたのだろう? 

 

「ビュヴール、なんでこんなところにいるの?」

 

「え~? カルムがあたしを仲間に誘ってくれたんじゃんか。だから、カルムのことを待ってたんだよお~」

 

 ビュヴールは「酷いな~」と呟く。けれど、その表情は言動とは異なり嬉しそうだった。

 

 わたしはまだビュヴールを正式には仲間に誘えていなかった。

 それでも、ビュヴールはわたしのことをとっくに仲間だと思ってくれていた―――――らしい。

 

 …だとしたら嬉しいな。

 

 

 

 わたしはビュヴールの肩をゆする。

 

「ねえビュヴール。これから困っている人を助けるために港湾都市ムエットに行くんだけど、一緒にきてくれる?」

 

「うん、いいよお~」

 

 ビュヴールはわたしの誘いをあっさりと承諾してくれた。

 

「それでね、今から出発するんだけど…。ビュヴール歩ける?」

 

「うん、歩けるよお~」

 

 そう言うと、ビュヴールは壁にもたれかかりながら立ち上がろうとして、ドスンと尻餅をつく。

 結局また元の体制で座り込んだビュヴールは楽しそうに笑う。

 

「はっはっは~。やっぱり無理だあ~」

 

 ん~。だめだなこの酔っ払い。

 

 

 わたしはビュヴールの状態に頭を悩ませる。ビュヴールはわたしより背が高いから、背負って長距離移動するのは難しいそうだ。

 

 他になにかいい運搬方法は…。

 

 その時、わたしは名案を思い付いた。

 

 確か、この村の農家が土や野菜を運ぶための手押しの一輪車を持っていた。

 その一輪車を借りよう。

 

 

 こうしてわたしは、風の守護竜を倒した翌日の深夜、まだ朝日が顔を出す前に冒険に出たのだった。

 

 …ビュヴールを乗せた一輪車を押しながら。

 

 

 

 

 

************

 

 

 

 

 

 早朝の朝日が差し込む中、地べたで眠っていたヴァニテューをたたき起こした僕は、次の冒険の準備を始めていた。

 正直なところ、二日酔いでなかなか起きないヴァニテューに少し苛立った僕は、こいつを農作業用の手押し一輪車に乗せて冒険に出てやろうか――と考えたが、さすがに可哀想なので止めておいた。

 

 僕もそこまで非道じゃない。

 

 

 今頃カルムは宿屋のふかふかなベッドで寝ているに違いない。

 であれば、そこまで大急ぎで冒険に出る必要はないだろう。

 

 

 二日酔いで唸るヴァニテューを連れて村を出ようとしたところ、占い師のババアに出会った。

 

 いったいなぜ占い師のババアがこの風車(かざぐるま)の一族の村にいるのかは知らない。

 

 まあ、どうせ温泉旅行にでも来たのだろう。

 年寄りの長距離移動は温泉旅行か墓参りだと相場が決まっている。

 

「おや、そなたはデキスギじゃったな。そなたの運命を占ってやろう」

 

 占い師のババアは僕を見つけるなり、いきなり水晶玉を取り出して勝手に占いを始める。

 

「そなたの運命は…」

 

「ちょっと待て!!」

 

 僕は出会い頭に占いの結果を告げようとするババアを強引に止めた。

 

「念のため聞くけど、この占い有料じゃないだろうな!?」

 

 このババアには以前、所持金のほとんどを持っていかれたので、僕は完全に警戒モードになっていた。

 

 占い師のババアは僕の言葉にコクンと頷く。

 

「もちろん…」

 

「もちろん…?」

 

「……有料じゃ。そなたは『港湾都市ムエット』の商人た」

 

「待て待て待て!! ふざけるなよ!!」

 

 僕は必死になってババアのお告げを食い止める。

 

 ババアは勝手に僕のことを占って、そのうえでお金を巻き上げようとしていたらしい。

 

 つまりは "占いの押し売り" だ。

 

 

 …なんて恐ろしい商売をしやがるんだ!

 

 

 僕に押し売りの魂胆を見透かされたババアは舌打ちをする。

 

「ちぃ、しょうがないのう。今回だけ特別に無料にしてやるわい」

 

「当たり前だろ!!」

 

 怒り心頭な僕をよそに、占い師のババアは改めて占いの結果を告げる。

 

 占いの結果は、元の世界で視聴した動画の通りだった。港湾都市ムエットに向かい、水の守護竜を倒すというやつだ。

 やはり占いの結果は運命などではなく、ただのゲームのストーリーのようだ。

 

 おそらくだが、チュートリアルやボス戦などの避けられないイベントが運命として占いの結果に表れるのだろう。

 

 

 つまり、『運命=ゲームの必須イベント』というわけだ。

 

 

「…『水の守護竜』と戦うのはそなたの運命。()()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃ」

 

 占い師のババアはいつもの決まり文句で締めくくる。

 

 何が運命だよ偉そうに…!

 

 

 

 僕は占い師のババアに背を向けて次の冒険に向かおうとした。

 そんな僕の背中越しにババアは意味深なことをつぶやく。

 

「しかし、まさか同じ運命を持つものがおるとはな…」

 

 その意味深な物言いがひっかかったので、僕は振り返ってババアに尋ねた。

 

「同じ運命ってのは僕とカルムのことか?」

 

「なんと! そなたは自分と同じ運命のものがおると知っておったのか?」

 

「僕とカルムが運命を早い者勝ちで取り合っているってことだろ。それなら知ってるよ」

 

 運命なんて大げさなものではないが、僕とカルムはゲームのイベントを取り合っている。

 そう考えると、僕とカルムは「同じ運命」と言われてもあながち間違いじゃないのかもしれない。

 

 

 

 

 僕の仮説が正しければそのはずだった。

 

 しかし、占い師のババアはキョトンとした顔で口を開く。

 

「早い者勝ち? それは違うぞ。早い者勝ちなら遅かった方が運命を避けたことになるじゃろ。いつも言っておるじゃろうが、()()()()()()()()()()()()()()()()と。

 つまり、同じ運命というのは早い者勝ちではなく、運命共同体なのじゃ」

 

「…はあ? 運命共同体って、どういう意味だよそれ?」

 

「運命共同体というのは、同じ運命を共有する、いわば一蓮托生というか、一心同体な関係じゃ」

 

「僕とカルムが一心同体だって? そんなわけがないだろ!」

 

「うむ…。一心同体は言い過ぎたのう。じゃが、一蓮托生であることは事実じゃよ」

 

 ババアが言うには、僕とカルムはお互いに運命に巻き込み合う関係らしい。

 

 なるほどババアの言いたいことは理解した…。

 理解はしたが………。

 

 

 

「……いや、それって現実的じゃないよな」

 

 僕はババアの言い分を理解はしたが、納得はしていなかった。

 ババアの言い分には現実味のなさというか、理論的な弱点があるのだ。

 

「だって、僕とカルムは常に一緒にいるわけじゃないんだぞ。もし僕がカルムと離れたところにいたら運命を共有することなんてできないだろ?」

 

 そもそもカルムが僕の傍にいることの方が圧倒的に少ない。

 なにせ、あいつと僕は別に仲間ではないのだから。

 

 

 

 僕はババアを論破したつもりだった。

 

 けれど、僕の指摘を受けてもババアは動じない。

 

「ワシは運命は避けられないと何度も言っておるじゃろ。なぜかというと、この世界には人の運命を絶対にする力、すなわち()()()()()()が働くからじゃ」

 

「運命の強制力!?」

 

 

 今度はまた随分とオカルトチックな単語が出てきた。

 

 運命の強制力というのは、タイムリープなどが出てくるSF映画でよく耳にする設定だ。

 要するに、ドラ〇もんやの〇太がタイムマシンで過去に行っても、未来は変えられなかったというパターンのときに登場する力のことだ。

 

 だが、僕は異世界転移はしたけれど、タイムリープなんてしていない。

 それに、ババアのいう『運命』というのは、ゲームの必須イベントのこと指しているはずだ。

 

 そうなれば、ここでいう『運命の強制力』は、さしずめゲームがシナリオ通りに進むよう、主人公である僕を必須イベントに参加させる力のことになる。

 

 

「…って、そんな突拍子もない力がはたらいているわけないだろ!」

 

 僕はまるでツッコミのように否定した。

 

 けれど、ババアは僕のノリに合わせることなく淡々と語る。

 

「そなたが信じようが信じまいが、運命の強制力が存在するのは事実じゃ。そもそも、そなたも覚えがあるのではないか?」

 

「はあ? そんなバカげた力に覚えなんて…」

 

 僕はそう言いかけて、言葉に詰まった。

 

 

 運命の強制力によって巻き込まれる―――その経験に僕は思い当たる節があったのだ。

 

 僕たちを風の守護竜戦に放り込んだあの風の渦だ。

 

 あのまったく意味の分からなかった風の渦の正体が、主人公である僕をゲームの必須イベントから逃さないための強制力だというのなら…。

 

 だとしたら、この世界には本当に運命の強制力が働いていることになる。

 なにせ、僕自身がその力を体験してしまったのだから否定ができない。

 

 それに、よく考えたらここはゲームの世界なのだ。

 現実世界には存在しない力が働いていても不思議ではない。

 

 

 

 

 今まで、僕はカルムとゲームのストーリーを取り合っているのだと思っていた。

 

 けれど、どうやら少し違ったらしい。

 

 僕とカルムのどちらが先に進もうと、ボス戦のような避けては通れない必須イベントでは『運命の強制力』がはたらいて、必ず二人そろって挑むことになるようだ。

 

 

 

 

 なぜ『運命の強制力』なんてバカな力がはたらいているのか、理由は察しがつく。

 

 本来、ゲームの必須イベントというのは “主人公が参加する前提" でプログラムされている。

 そうシステムに組み込まれているはずなのだ。

 

 そのシステムが、このゲームの世界にも引き継がれてしまったのだろう。

 この世界でもシステム的な力がはたらいて、必須イベントには主人公が参加するように強制されているのだ。

 

 そのシステム的な力のことを、占い師のババアは『運命の強制力』と呼んでいる。

 

 

 厄介なのは、そのシステム的な力が「主人公が二人いる」という致命的なバグに対して、『ならば二人とも、シナリオ通りに必須イベントをこなすべきだ』と判断してしまったことだ。

 

 そのせいで、片方の主人公が必須イベントを始めた瞬間、もう一人の主人公は、無茶苦茶な理由を押しつけられ半ば強制的にイベントへ参加させられてしまう。

 

 

 

 風の守護竜とのボス戦は、まさにその一例だった。

 

 ビュヴ―ルを仲間にするのは必須イベントではなかったから、カルムは僕抜きでストーリーを進められたのだろう。

 けれど、風の守護竜とのボス戦は必須イベントだったのだ。

 そのため、カルムが開始したイベントであるにも関わらず、もう一人の主人公である僕も『運命の強制力』によって問答無用でボス戦にだけ放り込まれてしまった訳だ。

 

 そう考えれば、あの不可解な状況にもすべて説明がついてしまう。

 

 

 

 

「…いや、ふざけるなよ! それって、またカルムが先に守護竜と戦えば、僕もそこに放り込まれるということだろ!?」

 

「そうじゃな。例えそなたが飯を食べていようと、寝ていようとお構いなしにじゃな」

 

「ふっざけるなよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はヴァニテューを連れて早々に村を出ることにした。

 カルムが宿で寝ている隙に、少しでも先にストーリー攻略を進めるためにだ。

 

 村を出る直前、農家のおじさんとすれ違う。

 

「あれ、兄ちゃんたちも、もう出発するのかい?」

 

「ああ」

 

 僕は軽く挨拶だけ済まして村を出ようとした。

 ――が、直後、ある違和感に立ち止まる。

 

 ヴァニテューがどうした? という表情をしてくるが、それに構っている余裕はない。

 

 僕は慌てて農家のおじさんを引き留める。

 

「ちょっと待ってよ! さっき僕たちに向かって、兄ちゃんたち "も" って言ったよな。

  "も" ってことは、僕たち以外にも誰か冒険に出発したのか!?」

 

 そんなわけがないと思いながらも、僕の頭の中にはある嫌な予感が立ち込めていた。

 そして、農家のおじさんはその予感が的中したことを僕に告げる。

 

「ああ、カルムって娘がビュヴ―ルを連れて冒険に出て行ったよ」

 

「嘘だろ!? 何時!? いったい何時に出たんだよ!?」

 

 僕は思わず声を荒げて農家のおじさんに詰め寄った。

 

 おじさんは驚いた様子でたじろぐ。

 

「何時って… 確か朝の3時だったかな。早朝というより、まだ日が昇ってすらいない深夜だったよ」

 

「朝3時!? なんでそんな時間に冒険に出るんだよ!!」

 

 想定外の早さに思わず叫んでしまった。

 

 さすがの僕も、カルムがそんな朝早くに起きて冒険に出ているとは考えもしなかった。

 しかも、酔っぱらって歩けそうにもないビュヴ―ルを連れてだ。

 

 いったいどうやったんだ!?

 

 

 

 

 

 ここにきて、僕は自分の計画の甘さを認識させられた。

 

 これは、よくよく考えれば予想できることだった。

 

 僕がこの世界に転移した初日の夜には、カルムはまだデビュ王国にいたはずなのだ。

 それなのに、僕が転移してから3日目の昼には風の守護竜と戦っていた。

 

 つまりカルムは、たった1日半で風車の一族の村にたどり着き、村の人から助けを求められて、ビュヴールを連れて風の守護竜との戦闘にまでこぎつけたのだ。

 

 まるでRTA走者のような攻略スピードだ。

 

 僕はカルムのことを『ここがゲームの世界だと知らない、無知な女主人公』だと思っていた。

 けれど違った。僕の運命共同体の相手は『ストイック過ぎるRTA女』だったのだ。

 

 そのことに気付くことができていれば、ドラゴンと戦闘した翌日にもかかわらず、カルムが朝3時に冒険に出発することも予想できたはずだ。

 

 ……いや、やっぱり予想できるか!!

 

 

「ふざけるなよ! これじゃあまた僕がボス戦に放り込まれることになるだろうが!!」

 

 いつボス戦に放り込まれるかビクビクしながら生活するなんて冗談じゃない。

 

 僕はヴァニテューを連れて急いで次の冒険に向かった。

 次の目的地は「港湾都市ムエット」だ。

 

 そして、僕は何としてもカルムより先に「水の守護竜」とのボス戦に挑まないといけないのだ。

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