Street Exorcist Fight(ストリート祓魔師ファイト)
通称:〈SEF〉/スト祓(ストバツ)
表向きには存在しない、“裏界祓魔師たちの闘技場”。ダークウェブ上で流通する非合法マッチングアプリ《M-ΛTCH》を介して、登録した祓魔師同士が「儀式戦闘」を行い、その結果が匿名で賭博・配信・研究データとして流通する。敗北条件はサレンダーか、形代三枚の消費。
祓魔師界の“見てはならぬ地下格闘”でありながら、公式機関「境界対策課(境対)」内部でも黙認されているとの噂がある。登録ストリート祓魔師は、主に未成年を占め、呪詛犯罪者から元境対志望生など多岐にわたる。観戦映像もライブで閲覧できるが、動画の人物と現実の人物を一致させることが出来ない強烈な認識阻害が働いているため、映像から特定しての逮捕は難しい。基本的に複数対複数のタクティカルストリート祓魔バトルであり、チームで登録する事も出来るが、その場合普通に境対に捕捉される確率が上がるので、今は大抵ソロがその場その場でマッチした仲間と戦う感じで落ち着いている。腕に自信があるものは、独りでチーム登録して参加することも出来るようだが、その様なストリート祓魔師は上位ランカーには殆ど存在しない。
構造上、マッチング相手を見て棄権する権利があるが、その場合ファイトマネーは入手できない。参加者の報酬はレートによって決まったファイトマネー+スパチャ。更に相手がランカーならそのランクに応じたボーナス。なお、勝敗関係なく形代は上限を三枚としてどういう経路を通ってくるかは不明だが、必ず参加者の手に届く様に支給される。
【アプリ構造】
■ アプリ名:《M-ΛTCH(マッチ)》
【正式名称】
Multi-Autonomic Tactical Combat Hub
通称:《M-ΛTCH(マッチ)》
表向きは「都市伝説系SNS」。だが内部階層――**“深層コード”**にアクセスした者のみが、真の祓魔儀式システムに到達できる。
M-ΛTCHは、“戦闘=儀式”として定義された祓魔師専用マッチングネットワーク。祓師たちの「加護」「穢れ」「戦績」などを演算し、戦闘力バランスを考慮した魂の同調率と、個人レートによってマッチングを決定する。
開発者は不明。
一説には、境対の旧祓術演算AI《サリエル・エンジン》の残骸が再利用されたとも言われる。
《起動》
画面が暗転する。
黒と金の符号列が、液晶上で蠢くように流れ始めた。
〈祓紋解析完了。──魂位確認〉
耳に届くのは電子音ではなく、低い詠唱の残響。
液晶の中央に円陣が浮かぶ。幾重にも重なる陣の外縁が光を放ち、文字が反転して現れる。
> MATCH_RITE://INITIATE
指先が触れた瞬間、掌が熱を帯びる。
──これが、「マッチング開始」の合図。
円陣の中心に浮かび上がるのは、相手の“魂紋”。
名前は表示されない。代わりにコードネームと穢度グラフが波形として示される。
背景では、二人の加護値を演算する数式が生き物のように蠢き、
結果が出ると、画面に赤い印が灯る。
> MATCH FOUND
> PROBABILITY OF VICTORY: 48%
> ACCEPT THE RITE? [YES/NO]
YESを押すと、端末の背面から淡い光が漏れ出す。
そして現実の空間に、“次元座標指定符”が焼き付く。
> BATTLE FIELD: 旧湾岸線第四区・貨物ヤード
《起動:アリサ・ドラクル》
― BATTLE FIELD:旧湾岸線第四区・貨物ヤード ―
部屋の照明は落としていた。わずかに灯る端末の光だけが、アリサの頬を照らしている。指先が液晶に触れると、黒と金の符号列が蠢くように流れ出す。その光はまるで血管の内側を流れる炎のようだった。
〈祓紋解析開始。──魂位検出〉
その声は機械音ではなかった――祈祷の残響。竜の聴覚を持つ彼女の耳に、低い詠唱の波が脳内を震わせる。アリサ・ドラクルはゆっくりと目を細めた。ルビーのような瞳孔が縦に収縮し、紅玉の奥で理性と獣性の狭間がわずかに揺れる。掌に当たる端末の熱。皮膚の下で鱗が疼く。それは「戦いを望む竜」と、「対話を望む人」がせめぎ合う瞬間だった。
MATCH_RITE://INITIATE
黄金の螺旋が液晶に浮かぶ。符号が円陣を描き、外縁部で微細な光子が踊る。その中心に波形が現れた――相手の魂紋。アリサの視線が静かに揺れる。波形は極めて整っている。均衡していて無駄がない。だが、その奥に沈むのは超重圧――均衡している波形は基本的に
MATCH FOUND “黒星オーバーフォールド”
PROBABILITY OF VICTORY: 52%
ACCEPT THE RITE? [YES/NO]
アリサは微笑んだ。唇に乗った笑みは柔らかく、それでいて火花のように熱を帯びていた。
「ふふ……可愛らしい祓紋。けれど、手強そうですわね」
YES。
光が爆ぜた。
端末の背面から放たれた祓光が部屋の空間を裂き、
床が静かに“書き換え”られていく。
祓式座標が、彼女の存在と同調して焼き付けられる。
BATTLE FIELD:旧湾岸線第四区・貨物ヤード
――落下。
だが、墜ちてはいない。
質量が転移していく感覚。
光が裏返り、潮の匂いが肺に刺さる。
次の瞬間、アリサは廃れた港湾の地面に立っていた。夜風が冷たく、滾る血には丁度良かった。下調べによると最初に遭遇するのは
――そこにいた。
崩れた鉄骨の上、夜の帳を背負うように腰掛ける少女。白から黒へと移ろう
光ではない。
熱でもない。
重力そのものが、彼女の周囲を護っている。
アリサは息を吸う。潮風に混ざる夜と霧の匂い。硝煙や騎士たちが使う聖水の匂いがしない、どこか懐かしい人間の世界の匂いだ。
【通信】
システム:〈M-ΛTCH〉より通達。
《ペア登録固定:コードネーム NOIR=HANE》
「貴方が……
「……そう、私は
その声に、アリサの胸の奥で何かがわずかに鳴った。敵意は感じないが、力を持つ声。静かで、恐ろしく研ぎ澄まされていて――深い闇。驚くべきことにその闇の深さを見通す事が出来ない……底なしの高さ、底なしの低さ、底なしの奥行き――広がり。その癖、踏み出せば――高くも低くも広くもない、閉ざされた闇かも知れないのだ。
風が吹き抜けた。コンテナが軋み遠くで鉄鎖が鳴る。アリサは微笑んだ。尾がわずかに動き鱗が月光を反射する。
「よろしい。では……
港湾の空気が熱を帯びた。彼女の翼が開き、火花が散る。
「いいわ、遊びましょう」
鼎の足下では、加護出力と呪詛出力が干渉し合い鳴動する。夜の帳の中、活性化した祓魔術の術式が
互いの祓紋が、呼応した。
黒と紅――
重力と炎――
少女と竜――
この夜、ふたりは出会った。そして、〈M-ΛTCH〉のシステムがまだ知らない