M-ΛTCH――アルファ・インスタンス   作:P-PEN

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アルファ・インスタンス

 湾岸第四区。貨物クレーン群の影。夜の気圧が異様に重い。M-ΛTCHシステムによる局地座標再構成が進み、視界の奥で地平が沈み始めている。すべてが計測され、演算され、祓圧場が安定している――はずだった。だが、万有重力の法則が微かに揺らぐ。その震源は、黒星オーバーフォールド()

 

 彼女は左足を軸に、重装狩衣の裾を翻した。銀線のように伸びた絶九嬰が、空気の層を切り裂く。その動きには焦りも昂揚もない。ただ静かな計測。

 

 「もう少し力を測るべきかしら……」

 

 指先が一つ動くたび、地表の磁束線が歪む。周囲の瓦礫が僅かに浮かび上がり、亜音速で落下。瓦礫下の隙間を縫ってきていた冷気の蛇を叩き潰す。

 

 右方。紅蓮の閃光が走る赫竜エクリプス(アリサ)。竜人の尾がアスファルトを撫で、火花が散る。鼎の右側面で停止、瞳の奥で熱が動いている。

 

 「黒星オーバーフォールド()……貴女、本気を出していませんね?」

 

 「ええ。あなたもでしょう?赫竜エクリプス(アリサ)

 

 二人の声が重なり、祓魔師の加護出力と竜の瘴気出力が空気密度に干渉する。

 

 そこへ――電脳の干渉呪詛が混ざる。先だってチーム間の同士討ちを防ぐため、支援情報処理に注力していた亜門=ベイル が距離が離れた好機に、広範囲呪詛攻撃を試みたのだ。背の《バベル・ルータ》が点滅し、電波が螺旋を描く。街灯が瞬き、看板が詠唱を始めた。Wi-Fi、監視カメラ、街の電線――すべてが呪詛詠唱の回線へ変換される。

 

 「二人とも速いね。高速戦闘が得意なら、こういうのはどうだい?」

 

 都市そのものが“詠唱する”。電磁ノイズが符号化され、空気中に数千の祈祷パケットが浮かぶ。その一つ一つが小型の“呪弾”。祓具を通さず、直接思考領域へ侵入するタイプの認識攻撃。

 

 認識攻撃であるがゆえに不可避にして不可視。しかし攻撃の予兆を察知できる隙があるのは、実戦経験豊富な二人にとっては致命的だ。

 

 「私が対処する?」

 

 彼女の声に、アリサが応じた。

 

 「ここは(さいきょう)が対処します。このタイプは初めて会いましたし」

 

 炎が吹き上がる。アリサの口から吐き出されたのは火ではなく――熱情報流。電子データを焼き切る、情報階層への“噛みつき”。電波そのものを燃やし、都市の祈りを焼却する――原理的にはプラズマが発生する温度なら可能だが、アリサが吐き出した炎の温度は明らかに其処までの高温ではない。しかし

 

 「とりあえず、焼けばいいでしょう」

 

 祈祷ネットワークが崩壊する。街灯が落ちモニタが爆ぜた。わずかに遅れて電磁ノイズが交錯し、都市の照明が瞬く。

 

 光が失われた間隙を逆に利用し鏑木ライラが前へ踏み出した。アリサの防御が硬いとみて、先ずは緒戦で防御結界を展開していた鼎を崩すためだ。「殴るたびに穢れを削ぐ」――それが彼女の信条。だが、今夜の相手は、拳が届かぬ距離にいた。

 

 鼎の制空圏に踏み込んだ瞬間、重力が増大。地を蹴る動作が“沈む”挙動に変わり、重心が狂う。その隙にアリサが滑り込む。竜の尾が、獣のように走る拳を受け止めた。赤熱の尾が軌道を描き、空気を焦がす。ライラの拳が熱波に包まれ皮膚が泡立つが、先程の様なカウンターを受ける事は避けた。

 

 「面白い……拳が燃えるのは久しぶりだ!」

 

 ライラが笑う。だがその笑みの奥に、既に焦げた血の匂いが滲んでいた。アリサは冷ややかに目を細めた。

 

 「……戦いを愉しむとは、羨ましい性格ですわね」

 

 「そうすることでしか生きられなくてね、アンタもそうじゃないのか?」

 

 その瞬間、アリサの表情が変わる。紅い瞳孔が細まり、彼女の周囲に圧縮空気の輪が形成された。

 

 「(さいきょう)と――貴女が同類と言いたいのなら、身の程を教えて差し上げましょう」

 

 紅焔が奔りライラの姿が消える。その直後空間が“鳴った”。衝撃波に再びライラが吹き飛ばされ、湾岸の闇に消える。

 

 左翼側、壬生斎虎の祈骸が這い出す。地中から、骨と筋が糸のように組み上がる。彼の祓術は、死体を媒体にした再演算構造。だが、その再生成過程は完遂されなかった。

 

 「なっ……加護構造体が潰れる?」

 

 重圧で骨が折れる音。それを見下ろす鼎は実験結果を確認する科学者の表情をしていた。

 

 「通常のものと異なり、多数の手数を生み出せるインスタントの式神としてバランスは悪くないわね。けれどこの程度の被呪耐性では、範囲結界や領域結界を維持して戦える祓魔師や上級の界異には通用しないわ」

 

 壬生が歯噛みし封骨器を投げる。白骨が弾丸のように飛び出す――が、鼎の手前で“止まる”。空気が、質量の壁を成している。鼎は艶然と微笑みかけた。

 

 「その遺骨、少し借りても?」

 

 屠羿が閃き骨片が粉塵化した。崩れた残滓は戮封豨側に展開した術式に吸い込まれていく。

 

 「な。何を……!?」

 

 一方、奇襲を防がれた冬賀シェリルが冷却域を広げた。鼎の重力圏を突破するのは相性的に難しいとみてアリサの周囲温度が一気に低下。空気が白く凍結し、熱量を奪う。

 

 「熱は穢れ。冷却こそが正義」

 

 だが、アリサは微笑む。火ではなく、息を吸い――吐く。白麗と赤熱が交わる。氷が音もなく融け、蒸気が逆流した。

 

 「熱も冷たさも、同じ強度でしかありませんの」

 

 声のトーンはあくまで丁寧で、余裕を帯びていた。彼女の尾が軽く床を撫でると、氷の結晶が砕けて灰色の砂になる。シェリルは咄嗟に蒸気を凍結させ、氷の回廊を進みアリサの射程外に機動していく。

 

 その刹那、鼎の左側に赤い残光が走る。重力と炎が干渉した副次波。アリサが一歩引き、鼎が一歩踏み込む。二人の動きは完全に逆位相――だが、軌跡は重なっていた。敵陣の中心を、赤と黒の二本線が同時に抜ける――一旦退いて集合したのは、敵に包囲展開を取らせるためだった。

 

 閃光。

 圧縮された空気が爆ぜ、

 鉄骨が変形し、音速の衝撃が夜気を裂く。

 

 ライラが壁際に叩きつけられる。壬生の祓骸が粉砕される。シェリルの冷結層が剥がれ落ちる。亜門が再構築しかけていた電波ノイズが一瞬で全消した。彼のひきつった笑みを浮かべながら放ったぼやきが宙に浮かんで消えた。

 

 「尖ってる同士の癖に連携も出来るって、マジかよ……」 

 

 

 砂塵の中で、鼎とアリサが立つ。

 

 互いに息を整えるでもなく、ただ、相手を“計測”していた。それだけの余裕のある戦局を維持していたからだ。常に先頭の合間に互いを観察していた――この戦場で最大の脅威を。

 

 「……なるほど、貴女“相当”ですね。気に入りました」

 

 「お手柔らかに……ふぅ、面倒なダンスになりそうね」

 

 鼎の声は冷静と余裕をもって聞こえるが、瞳は警戒を宿していた。

 アリサの笑みは柔らかいが、瞳孔は爬虫類のそれだった。

 一連の攻防で、二人は既に理解していた。

 

 ――この戦場にいる限り、背を預けても信用はできない。

 しかし同時に

 ――この戦場で背を預けられるのは、互いしかいない。

 

 

 その矛盾こそが、今の二人を動かしていた。

 

 「そろそろ終幕にするわ。赫竜エクリプス(アリサ)

 

 「あら、せっかちなのね黒星オーバーフォールド()。でも人らしいわ」

 

 その会話が終わるより早く、新たな光が上空で瞬いた。MATCHシステムが戦場ログを更新する。

 

《戦闘継続判定:YES/目標生存》

《圧界安定率:臨界直前》

 

 二人は同時に顔を上げた。互いの存在を測りながらまだ、お互いに本気を出していない。それが、この夜の最も恐ろしい均衡だった。

 

 貨物ヤードの鉄骨が、弦のように軋む。杭の一本一本が、重力の波で唸る。空気が硬化し、風が流体ではなく“圧力の層”として存在している。この異常環境を維持しているのは、他ならぬ二人――九鬼鼎と、アリサ・ドラクル。

 

 鼎は静かに呼吸した。息を吸うたび、体内の霊力が整っていく――リズムが変更され急速に加護力が満ちていく。黒太陽たちを封ずるためのものだが、同時に鼎自身の加護出力にも多くの制限を受けるリミッターにより、霊力調整は最も重要なファクターであり、クラシカル祓魔師としては普通の事である呼吸法ではあっても、鼎はよく注意を払う。

 

 彼女の背後では、黒重力の波が円を描いていた。九つの焦点。空間の座標を固定するための、彼女特有の重祓陣。それは重力の井戸であり、空間拘束の檻でもある。本来の重力術式は高難易度と言えど、此処まで綿密な空間制御術式を重複させることはない。人間の脳の演算限界を超えるからだ。人間的な限界値は鴉達の協力を得られる鼎には関係が無いのだ。アリサは紅い瞳でそれを見やり、細い息を吐いた。その息は白煙ではなく、熱を孕んだ血の香りだった。

 

 「貴女の術式、観測するだけで体温が上がるのですけれど?」

 

 「竜も風邪を引くのかしら?後でお医者さんに連れて行って欲しい?」

 

 鼎がわざと挑発的な笑みを浮かべる、だがアリサはそれが傲慢に見せるための演技であり、その奥ではアリサの挙動パターンを精密に分析している事に気が付いている。

 

 上空――亜門=ベイルの“信号残滓”がまだ漂っていた。祓圧波の衝突で破壊された電子祈祷群。それが、ノイズのように空間を乱している。

 

 アリサの耳が僅かに反応する。獣の聴覚。竜の嗅覚。彼女は、無意識に鼎の背中を追っていた。まるでそこに、自身の熱源が吸い込まれるかのように。その視線を感じながら鼎は瞳を閉じる。

 

 空気が鳴った。それは“風”ではない。質量そのものが擦れ合い空間が軋む音だった。鼎の右腕――篭手《屠羿》が震動を始める。黒漆の表面に光の亀裂が走った。同時に左腕の《戮封豨》が呼応し、低い唸りを上げる。

 

 「遊びは終わりよ」

 

 その声は冷ややかだったが、微かに愉悦を含んでいる事は疑いようも無かった。理性が“解放”を知覚して微笑んでいる。全ての振動が、鼎の身体に吸い込まれる。世界が彼女の中に折り畳まれる。

 

 彼女の足元に、黒い花弁のような影が開いた。

 その中心から、九つの光点――黒太陽が順に点灯していく。

 それぞれが、重力の中心。

 “世界を沈める”九の穢恒星。

 

 そして。

 

 黒い羽が零れ落ちた。

 

 質量を持った影。炭素でもなく、霊でもない。“超高圧の穢れそのものが物質化した羽毛”。それが一枚、また一枚と舞い上がり、鼎の身体を包み込む。重装狩衣が内から侵蝕を受け変質を開始。膨大な噴出する穢れに侵され、漆黒のフェザードレスに変容する。ドレスの裾から、無数の鴉の羽が嵐のように舞い上がり、戦場を黒い旋風で覆い尽くした。羽根は、血のように赤い輝きを帯び、不可思議な粒子となって空気を震わせ、長い黒髪が宙に浮き、閉じられた瞳が開かれる。その虹彩の奥で、九つの黒太陽が赤い光を反射していた。

 

 アリサは、ただ立ち尽くしていた。炎の加護を持つ彼女にとって、空間の歪みは直感的に“危険”として伝わる。だが、この時だけは違った。危険より先に――美しさを感じ取ってしまった。アリサの中の“竜”が、ざわめいた。肉体の奥に眠る古代反射。同族の威圧でも敵意でもない。もっと根源的な「陽光」への畏怖。

 

 彼女の皮膚が粟立ち、血が熱くなる。それは鼎の術式による圧ではない――竜を殺す可能性を持つ人間(ドラゴンスレイヤー)を目にして血が沸き立たない竜が居る筈が無いのだ。漆黒の羽が一枚、アリサの頬を掠めた。触れた瞬間、空気が押し潰されるが、彼女を傷付けることはないそれは、冷たい、けれど優しく――飼い慣らされた人ならざる力(精密な制御を受けた力)

 

 アリサの瞳が細まる。紅い光が、鼎を測るように揺らめく。

 

 「……貴女、何者ですの?」

 

 

 既に祓魔術の発動準備に入っていた鼎は答えず、その黒瞳の奥で光が集束し、莫大な瘴気がただ一つの術式を構築する。まず風景が、ゆっくりと“湾曲”した。直線が丸まり遠景が沈む。天地の境界がわずかに撓む――それが《黒域圧界》の前兆。

 

 両手を前に突き出した構えを取る、彼女の周囲の砂粒が同時に落ち始める。地面ではなく彼女を中心に“内側”へと。空気中の微粒子が、全て同じ方向へと流れた。質量そのものが呼吸を止め、世界が一つの肺として収縮していく。この現象の範囲は戦場一体で発動しており、ストリート祓魔師達はその場で踏ん張ったり、何かに掴まって“引き寄せ”られないようにするのが精一杯だった――もし引き寄せられたら何が起こるか。わからずとも死ぬことだけは確信できていた。

 

 「抵抗は無意味よ」

 

 数百の術式と呪詛式が宙を漂う。それぞれに微細な金文字が刻まれており、光ではなく“定義”を反射している。攻撃範囲以外への影響をシャットダウンする結界が念入りに展開される中、空間の底から低音が這い上がってくる。轟音ではない。万物の「位置情報」が重なり、共鳴し、重苦に呻いた。

 

 鼎の両手から、黒と青の粒子が滲み出す。それは炎のように見えて炎ではない。質量を持つ青黒い残光――存在そのものを沈める、重力の霊火。体内の穢れの流が、重力定義の数値と同期し、神経を経由して《屠羿》の中心へと集束していく。世界の表層が軋む。

 

 ストリート祓魔師達が息を呑んだ。彼等の眼から見て視界の中心が、消えたのだ。正確に言うなら――“視認できるという現象”が、そこから削除された。即ち鼎の両手の先に黒球が生まれると言う事。だがそれは色ではなく、情報の穴。半径三メートルのその範囲では時間が一秒で一億倍に伸び、光が自身の軌跡を忘れる。

 

 本来なら、このまま何事もなく祓魔術が発動し、全ては終わっていただろう。しかし、この超高位祓魔術の発動中、範囲外に指定されたアリサだけが自由に動くことができた。よって――そっと鼎に寄り添うように背後から手を伸ばし、その痩躯を包み込むように抱き留め、伸ばされた掌に竜の掌を重ねる。驚きに目を瞬かせる鼎をのぞき込みながら微笑んだ。

 

 「壁の華は嫌だと言いましたよ?」

 

 愛を囁くような情熱的な言葉と距離のまま、アリサの唇から劫火の吐息がゆるりと吐かれる――鼎が展開した“黒星”に向かって!炎がその中心へと吸い込まれていくが、鼎の祓魔術と干渉する気配がない。

 

 「む、無茶苦茶しないで……!」

 

 鼎の瞳孔が細まり、アリサの声が重なる。

 

 「私を煽った貴方が悪いんですよ?」

 

 急激に術式にエネルギーを注ぎ込まれた鼎は、即座に祓魔術構成を再演算、崩壊させずに再構築する。崩壊する祓魔術に新しい祓魔術を重ねたのだ。何という技量、何という術式感覚。

 

 「それは身勝手って言うのよ」

 

 「ええ、私は“竜”ですから」

 

 融合点が形成される。重力の特異点に、炎の熱核が重なり、黒と紅の双極光球が生まれる。双極光球に接していない空間が鳴り、鉄が歪む。海が持ち上がり、空が折れる。そこに在った全ての物理法則が、一瞬で反転し――沈黙の臨界が訪れた。鼎の髪が浮遊する。重力の方向が存在しない。だが、彼女の立つ一点だけが、世界の基準として固定されている。鼎が呟く。

 

 「質量界限、突破……黒星――」

 

 アリサの瞳孔が細まる。

 

 「紅焔臨界、発火――」

 

 二人の声が重なる。重力が沈み炎熱が浮かぶ。理論と神話が一点に収束する。

 

 圧界の中心。

 

 九つの黒太陽が一斉に回転軸を変えた。まるで宇宙の座標を再定義するかのように、それぞれがアリサの炎の螺旋を捕食する。赤と黒が、対消滅ではなく融合を選ぶ。それは力と力ではない。概念と概念の接続だった。重力が形を持ち、熱が質量を得る。空間が光よりも重くなり、音が光速を超える――この瞬間、科学的因果は意義を失った。

 

 その名を、後に鼎からデータ提供を受け、観測記録を分析した神祇官はこう呼称した。黒陽紅竜融合現象(アルファ・インスタンス)と。

 

 上空で、電磁ノイズが弾けた。〈M-ΛTCH〉の演算空間が再構築を始める。

 

《ALERT:SOUL LINK DETECTED》

《FORCED PARTY SYNCHRONIZATION》

 

 赤い光が、二人の背中に走った。それは紋様のようであり、まるで魂のコードを共有するかのように光る。

 

「何を……したの、〈M-ΛTCH〉?」

 

 鼎の声が震える。電子的な共鳴が彼女の腕を駆け抜け、屠羿と戮封豨の内部符号が再点灯した。

 アリサの肺腑では竜炎が燃え、尾の先が白熱する。同時に、二人の脳裏に同じ視界が流れた。

 

 アリサが見た。

 ──穢れた狩衣のドレスを纏い、黒羽を背に立つ少女。

 静かな瞳。呼吸の度に、大気を歪める命。

 

 鼎が見た。

 ──燃える髪、紅い瞳、緋の翼。

 人ならざる圧倒的存在。

 だがその中に、人間らしい哀しみがあった。

 

(……この人も、戦ってるんだ)

 

(……この子も、“墜ちてない”)

 

 一瞬の同期。

 それだけで、〈M-ΛTCH〉の演算が悲鳴を上げた。

 

《SOUL COMPATIBILITY ERROR:99.8%》

《EXCESS LINKAGE DETECTED》

《UNAUTHORIZED SYNTHESIS—BEGINNING》

 

 湾岸が白光に包まれた。

 音が消える。

 時間が、止まった。

 

 その中で、

 鼎は、微かに口を開いた。

 

「……あなた、名前は?」

 

「アリサ。アリサ・ドラクル」

 

「私は鼎。九鬼鼎」

 

 たったそれだけの言葉。

 けれど、その“通信”が、演算層の限界を超えた。

 

 

 

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