縫合者、紫雲院利玖のデュエル・スピリット 作:クォーターシェル
第1話 笑うぬいぐるみの少年
5月11日、この世界において紫雲院利玖という人物が産声を上げた日である。俺は元々遊戯王OCGというカードゲームを嗜んでいた男であったが、事故に遭い気が付いたら神様的存在の前にいた。「君が次に転生するのは遊戯王GXだからよろしくね☆」そんな神の言葉とともにあれよあれよと俺は日本の少し裕福な家庭の1人息子、紫雲院利玖(しうんいん りく)として産まれていた。正直言って最初は理解が追い付かなかった。まさかあのアニメ遊戯王の世界に生まれ変わってしまうとは……。確かに遊戯王は好きだったが、別にこの世界に生まれ変わりたいという程でもなかった……。
産まれてから10年。俺は小学生になり、「デュエルアカデミア」の話を耳にするようになった頃だ。正直、毎日の生活はそれなりに充実している。学校に行って友達とデュエルをして遊ぶのも楽しいし、家族仲も良好だ。
だが最近になって、この世界の住人たちの奇妙な行動に悩まされるようになっていた。
◇ ◇ ◇
ある休日の午後、近所の公園でカードショップに向かおうとしていた時だった。
「おい待て爺! ポケットティッシュ1個分の金額でごちゃごちゃ言いやがって!」
「なんじゃと? あんたこそワシの財布から金を抜き取ろうとしとるんじゃろが!」
「証拠はあるのか?」
「そんなもんいらんわ! やるのかやらないのか!」
「上等じゃ!」
ガラの悪いオッサンと背中の曲がった爺さんが睨み合っている。すると周りの人々は、「また始まった」という顔をして集まり始めた。
「いくぞ!」
「「デュエル!!!」」
まさかの決闘開始だ。
「なんで揉め事の解決方法がデュエルなんだよ!」心の中で叫びながらも足早にその場を去った。この世界ではこれが普通なのかもしれないが、常識的に考えておかしいだろう。揉めたらとりあえずデュエル。それがこの世界のルールなのか?
◇ ◇ ◇
もっと厄介なのはデッキ構築の方だった。
俺は元々OCGを嗜んでいたので、自分の好きなテーマでデッキを組むつもりだった。エレメントセイバーとかダイノルフィアとかで行きたいと思っていたんだ。
しかしこの世界には未だ発売されていないカードが多く、シンクロ、エクシーズ、ペンデュラム、リンクといった召喚は勿論できない。
「よし、今回は『ワイト』メインの墓地肥やしデッキにしてみようかな」
そう思ってカード屋に行ったら、
「いらっしゃいませ〜。新しいパック入りましたよ!」
「お、これ気になる!」
開封結果:
・エッジインプ・シザー
・融合×3
・沼地の魔神王
・ファーニマル・ドッグ
・闇の幻影
・暗黒界の門
・トリオンの蟲惑魔
何故か【紫雲院素良】の使用カードがたくさん混ざってくる。いや、素良って【融合】使いだったよな? でも俺が狙ってるテーマじゃないし……。
別の日にカードパックを開けてみると、
・デストーイ・シザー・ベアー
・デストーイ・チェーン・シープ
・デストーイ・デアデビル
・デストーイ・シザー・タイガー
・死霊公爵
・捕食植物ドラゴスタペリア
・ガーディアン・キマイラ
もう確信した。俺に与えられた運命は【紫雲院素良】なのだと。
夜、自室でカードを見つめながら考える。
「でもなぁ……」
俺は【紫雲院素良】が嫌いなわけではない。むしろARC-V序盤からキャラクターとして好きになったタイプだ。けれど問題はそこではない。
「俺が素良になってしまうということは……つまり……」
頭の中に浮かぶのはARC-Vの敵組織アカデミアの尖兵として活動する姿だ。
「もろ悪役だよなあ……。それに」
神様が言っていたのは遊戯王GXの世界にであって遊戯王ARC-Vとは言っていない。色々悩んだ俺は出した結論は。
「原作はやばそうな所は十代達に任せよう!そして俺は素良と同じ苗字だけど利玖だ!ここはARC-Vの世界じゃない!」
とりあえずGXを平和に乗り切ればいいと。そして素良のカードばかり手に入るという事は俺も素良と同じく融合召喚が得意となるわけだ。こうなったら俺なりの融合デッキを作るしかない。幸いGX世界ではまだまだ融合を使う人は少ないけど決して不遇という事もない。こうして俺のデッキ作りが始まった。
デッキ作りが終わり、俺は鏡を見る。そこには紫雲院素良に似た顔立ち、髪の色の少年が居た。いままで意識してなかったが、髪型こそ違うが素良とそっくりと言っていいい。
「まだ小学生くらいだし、だから余計に似てるのかな」
そして一応できたデッキはデストーイ融合モンスター第1号、デストーイ・シザー・ベアーを主軸にしたデッキだ。シザー・ベアーははっきり言ってデストーイ融合モンスターの中でも最弱だ。だからこそ本気を出しすぎない感じのデッキを作った。デストーイデッキは本気を出せば下手なデッキ相手なら容易にワンキルできるテーマだ。この歳から勝ちまくって友達を無くす気はないし、ちょっと手加減系のデッキにしたのだ。そういえば、この世界前世のOCGにはなかったカードもあり、その中には俺の主力になるデストーイユニットの関連カードも結構あってそれが集まってきている。
さて、俺の目標だが、爺さん達のデュエルには引いたとは言え、プロデュエリストは悪くない選択肢に思えた。好きなことやって食っていければ最高だからね。その為にもデュエルアカデミアに入学するのが最適解なんだろう。デュエルアカデミアに入学したら事件に巻き込まれそうだが、最終的に世界が云々の話になるしその辺は原作主人公の十代くんに任せておくとして、俺は安全圏で見守るとしよう。
◇ ◇ ◇
俺は構築したデッキの試運転がしたくて、市内のカードショップを訪れた。前世でもそうだったが、カードショップというものはカードの売り買いだけではなく、店舗の規模がそれなりなら対戦ができるスペースも設けられているからだ。そこで俺は今日来店していた大人達にデッキの具合を確認するために勝負を挑むことにした。カードショップの対戦スペースには大人達が数人。店長のおじさんはレジ後ろに控えてこちらを温かい目で見ている。今日は他の客も少なく店長以外の人間は大人2人と俺のみ。早速、近くの大人に声をかける。俺は小学生だしあまり強くなくて可愛げのあるカード使っているから対戦拒否はされないはず。そもそもこの世界の住人は皆デュエルが大好きで声をかけられたら断ることなどほとんどしないらしい。前世でも多少そういうところはあったが、ここまでではない。
「あのお兄さん。僕とデュエルしてくれませんか?」
「おっ良いぜ坊主」
よし乗ってきた。それにしても子供に対して威厳があるようなデュエル態度は取ってくれるみたいだ。この世界の人はそういうところがあるんだよね。ちゃんと相手が子供でも容赦せず全力でデュエルをするんだ。逆に舐めたりする人はデュエルが弱いことが多く、そういったことをすると周りから白い目で見られることが多い。それをわかっているのかこっちも子供相手と舐めてくれていないみたいだ。その証拠に。
「いいぜ坊主。お互い全力で楽しもう」
「はい!」
先攻後攻はコイントスで決めた。
――ターン1――ショップの客A
客A「俺のターンドロー!」
客A 手札5→6
利玖(そうそう。この世界まだ先攻ドローあるんだよな。GXの時代には無かった筈のカードもあるし不思議な感じだよ)
客A「俺はモンスターを裏側守備表示でセット。カードを1枚伏せてターンエンドだ」
客A LP4000 手札4
・モンスター
裏側守備表示×1
・魔法・罠
伏せカード×1
――ターン2――紫雲院利玖
利玖「俺のターン!ドロー」
利玖 手札5→6
利玖「俺は先ず魔法カード、ナイト・ショットを発動!相手のセットされた魔法・罠カード1枚を破壊する!」
ナイト・ショットの効果で客Aの伏せカードが破壊される。
客A「むっ、心太砲式が」
利玖(破壊したのは除去罠カードか。これで相手の伏せは無くなった)
利玖「俺は手札からファーニマル・ライオを攻撃表示で召喚」
ファーニマル・ライオ 攻撃力1600
利玖のフィールドにぬいぐるみのライオンが現れる。
利玖「バトルフェイズ、ファーニマル・ライオで裏側守備表示モンスターに攻撃!この時にファーニマル・ライオの効果発動。このカードの攻撃力をバトルフェイズ終了時まで500アップする」
ファーニマル・ライオ 攻撃力1600→2100
ファーニマル・ライオが裏側守備表示モンスターに体当たりする。出てきたモンスターは…
シールド・ウィング 守備力900
客A「シールド・ウィングは1ターンに2度まで戦闘では破壊されない!」
ファーニマル・ライオ攻2100VSシールド・ウィング守900
シールド・ウィングは風のバリアを纏ってファーニマル・ライオの攻撃を防御した。
利玖「バトルフェイズを終了します」
ファーニマル・ライオ 攻撃力2100→1600
利玖「俺はカードを2枚伏せてターンを終了します」
利玖 LP4000 手札2
・モンスター
ファーニマル・ライオ 攻撃力1600
・魔法・罠
伏せカード×2
――ターン3――ショップの客A
客A「ドロー!」
客A 手札4→5
客A「俺は手札1枚を捨て手札から速攻魔法、ツインツイスターを発動。君の伏せカード2枚を破壊させてもらう!」
二つの旋風が吹き荒れ利玖の場のカードを破壊する。
客A 手札5→3
利玖「(墓地に行ったのは我が身を盾にか…)俺は破壊されたカードの内の1つ、トイポットの効果発動!デッキから、エッジインプ・シザー1体を手札に加える」
利玖 手札2→3
客A「俺はシールド・ウィングをリリースして、フロストザウルスを攻撃表示でアドバンス召喚する!」
客Aの場に氷を纏った恐竜が現れた。
フロストザウルス 攻撃力2600
客A「バトルだ!フロストザウルスでファーニマル・ライオを攻撃!」
フロストザウルス攻2600VSファーニマル・ライオ攻撃1600
フロストザウルスがファーニマル・ライオに尻尾を振るう。ファーニマル・ライオはそのまま戦闘破壊された。
利玖 LP4000→3000
客A「バトル終了。俺はこのままターンエンドだ」
客A LP4000 手札2
・モンスター
フロストザウルス 攻撃力2600
・魔法・罠
無し
――ターン4――紫雲院利玖
利玖「俺のターン、ドロー」
利玖 手札3→4
利玖「俺はファーニマル・ドッグを召喚」
ファーニマル・ドッグ 攻撃力1700
フィールドにぬいぐるみの様な犬が現れる。
利玖「ファーニマル・ドッグの効果発動。手札からの召喚に成功したことでデッキからファーニマル・ベアを1体手札に加える」
利玖 手札3→4
利玖「俺は手札から魔法カード融合を発動します。手札のファーニマル・ベアとエッジインプ・シザーを素材に、デストーイ・シザー・ベアーを融合召喚!」
手札のぬいぐるみの熊とハサミのモンスターが融合し、前者2体が合体したかのようなモンスターが現れる。
デストーイ・シザー・ベアー 攻撃力2200
客A「不気味なデザインのモンスターだな…。しかし折角の融合モンスターだが、攻撃力はこっちのフロストザウルスの方が大きいぞ」
利玖「それは分かっています。バトル!デストーイ・シザー・ベアーでフロストザウルスを攻撃!バトル直前に速攻魔法、武装再生を発動します!これでデストーイ・シザー・ベアーの攻撃力を800アップさせます」
デストーイ・シザー・ベアー 攻撃力2200→3000
デストーイ・シザー・ベアー攻3000VSフロストザウルス攻2600
シザー・ベアーがそのハサミでフロストザウルスを両断する。
客A LP4000→3600
利玖「更にデストーイ・シザー・ベアーの効果発動!戦闘破壊したモンスターを攻撃力1000アップの装備魔法扱いで装備します」
シザー・ベアーが墓地のフロストザウルスを装備する。
デストーイ・シザー・ベアー 攻撃力3000→4000
利玖「更にファーニマル・ドッグでダイレクトアタック!」
ファーニマル・ドッグ 攻撃力1700
客A LP3600→1900
利玖「これでターンエンドです」
デストーイ・シザー・ベアー 攻撃力4000→3200
利玖 LP3000 手札0
・モンスター
ファーニマル・ドッグ 攻撃力1700
デストーイ・シザー・ベアー 攻撃力3200
・魔法・罠
フロストザウルス(デストーイ・シザー・ベアーに装備)
――ターン5――ショップの客A
客A「俺のターン、ドロー!」
客A 手札2→3
客A「(逆転できそうなカードは来ないか……)俺はモンスターを守備表示でセット。カードを1枚伏せてターンエンドだ」
客A LP1900 手札1
・モンスター
裏側守備表示モンスター×1
・魔法・罠
伏せカード×1
――ターン6――紫雲院利玖
利玖「俺のターン、ドロー」
利玖 手札0→1
利玖「(まあ、ここは攻めてみるか)俺はデストーイ・シザー・ベアーを対象として手札から通常魔法、トイ・パレードを発動します」
利玖「トイ・パレードの効果でこのターン、デストーイ・シザー・ベアーしか攻撃できませんが、デストーイ・シザー・ベアーはモンスターを戦闘で破壊して墓地に送る度に続けて攻撃できます」
利玖「俺はファーニマル・ドッグを守備表示にしてバトルに入ります。デストーイ・シザー・ベアーで裏側守備表示モンスターに攻撃!」
シザー・ベアーが攻撃したモンスターの正体は…
機動砦のギア・ゴーレム 守備力2200
デストーイ・シザー・ベアー攻3200VS機動砦のギア・ゴーレム守2200
ギア・ゴーレムが戦闘で破壊される。
利玖「デストーイ・シザー・ベアーで続けてダイレクトアタックです」
客A「俺の負けだよ」
客A LP1900→0
◇ ◇ ◇
デュエルの結果は俺の勝利に終わった。
「よし!」
俺は小さくガッツポーズをする。すると向こう側ではお兄さんが悔しがっているのが見える。しかしすぐに表情を切り替えて笑顔になる。
「参った! 坊主強ぇな!」
「いえいえこちらこそ楽しかったです。ありがとうございました。そういえば、さっきの伏せカードは何だったんですか?気になるんですけど」
「伏せていたのはブラフのシールドスピアさ。発動してもあの状況じゃ意味は無かったさ」
「なるほど、改めて相手してくれてありがとうございました」
「あぁまたやろうな!」
「はい! 是非お願いします!」
俺達は握手を交わす。そして俺はこの後も何度かカードショップでデュエルをしたのだった……。
駄文閲覧ありがとうございました。ご感想等お待ちしております。