百合厨のあたしのいる吹部は百合の花が咲く【完結】   作:合間理保

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第3話

 あの日以降、宣言通り、倉木ちゃんはあたしによく話しかけてくるようになった。

 

 仲のいい友達が増えたようだが、愛嬌のある笑顔を振りまきつつ、時々ちくりと刺してくるような言葉も少ないくないのは、彼女本来の気質によるものなのかもしれない。

 

 一方で、大江先輩と言えば、変わらず自分のグループの子たちと仲良くしている。

 そんな中であたしに話しかけてくる頻度もそれなりに出てきたから、あたしも派閥の一員になりつつあると周りに思われているかもしれない。

 

「古戸ちゃん! 一緒に帰ろ」

 

 などとつらつらと考えていると、倉木ちゃんに話しかけられた。

 

「いいよ。片付けるからちょっと待っててね」

 

 吹部の活動も終わり、荷物を片しているところだったので、彼女を待たせないよう慌てて鞄に荷物をつっこんだ。間をもたせるように口を開く。

 

「倉木ちゃんはさ」

 

「なに?」

 

「大江先輩のグループに入った理由とかあるの?」

 

「うーん、入部したてのころに良くしてもらって、まあその時に優しくて美人な先輩がいるから仲良くなりたいなって思ったのはそうなんだけど……」

 

「けど?」

 

 彼女は口を覆って、悩む素振りを見せた。

 

「いや、うーん。バカにしない? 古戸ちゃん」

 

「しないしない」

 

「……大江先輩のね、笑ってる顔が見たくて」

 

 恥ずかしげに目を逸らしながら言う彼女に、あたしは首をかしげた。

 

「けっこう笑ってない? 大江先輩」

 

 一見クールで凛とした印象の大江先輩だが、大派閥の中心人物なだけあって人当たりは穏やかだ。

 よく人と話しては口元に手をあてて笑みを浮かべている姿はよく見る。

 

 そこで倉木ちゃんは、こちらをじっと見つめた。

 

「わたしってさ、可愛いじゃん?」

 

「は、え、まあ、うん」

 

 急にカーブを切った話題に、一拍ついていけずにどもったあと、首を縦に振った。

 

 「それはね、笑ってるからなの。可愛い笑顔には人を惹きつける力がある。古戸ちゃんもわたしを邪険にしないでしょ?」

 

 言って笑う彼女の顔は、まあ確かに満開のと形容されてもおかしくない笑顔で、それを見て彼女を悪く思う人はいないだろうと思える。

 

「だからね。わたしは大江先輩の笑顔が見たい。先輩の可愛い顔が見たい。いつもだって薄く笑ってるけど、そんなんじゃない。思わず涙を浮かべるほどの笑顔が見たいの」

 

「それは……」

 

 大変そうだ。

 あの大江先輩が、あたしみたいに、お腹を抱えて涙を浮かべて笑っている姿など想像できない。

 

「わたしの力で大江先輩を笑顔にできたらいいなって思うの」

 

 そう照れたように笑う彼女は、まあ本人の言う通り可愛らしく、確かに惹きつけられるものがあった。

 

「私が何かあった?」

 

 そこに背後から声をかけられた。突然の声に肩をビクリと震わせる。

 振り向けば、そこにいたのは大江先輩だった。

 

「大江先輩、びっくりしましたぁ」

 

 先程まで話していたことなどおくびにも出さず、倉木ちゃんが胸に手を当てた。大仰に息を吐く彼女に、大江先輩が近寄った。

 

「ふたりして私の噂話? 緊張しちゃうわ」

 

「そうです! 大江先輩って素敵だなって話をしてたんですよ!」

 

ぴょんぴょんと小さく跳ねる倉木ちゃんの肩に、大江先輩が手を添えた。自然、二人の距離が縮まる。

 近づいた大江先輩の顔に倉木ちゃんが目を輝かせた。

 

 その様子を見ているあたしも顔がにやつく。

 

 そんなあたしを大江先輩はちらりと見て、

 

「もう、倉木さんは私のことが大好きね」

 

「はいっ! もちろん!」

 

 きゃあ、と悲鳴のような声を上げ、倉木ちゃんが抱きつこうとする。

 

 あたしも悲鳴を上げそうになった。

 

(はあああああ! いい! めっちゃ百合してる!)

 

 ふんすふんす、と鼻息を荒くするこちらを気にも留めない倉木ちゃんを、大江先輩がやんわりと押しとどめた。

 抱きつけずにしゅんと萎びた倉木ちゃんのころころと変わる表情を見て、大江先輩がくすくすと笑みを浮かべる。

 

 その様を見るに、大江先輩のことを笑わせるという彼女の願いはじきに叶うかもしれないと思えた。

 

「古戸さんは?」

 

 大江先輩が急にこちらに水を向ける。

 

「はい?」

 

「古戸さんはどうかしら? 私のこと、好き?」

 

「うぇ、ええと……」

 

 まがりなりにも彼女のことが好きな倉木ちゃんの前で、「はい」とは言えまい。かと言って面と向かって「いいえ」とも言えない。

 

「ええと、大江先輩と倉木ちゃんが一緒にいるのは好きですよ」

 

 結局、そう逃げることにした。援護を受けたと思ったのだろう。倉木ちゃんが大江先輩の腕を取った。

 

「ほら、先輩。古戸ちゃんもこう言ってますしもっと仲良くしましょうよ!」

 

「ふふ、これからの話ね」

 

 きゃあきゃあと倉木ちゃんが盛り上がってきたところで、下校時刻直前の放送が流れ出した。

 

「おしゃべりはここまでね。それじゃあ、ふたりとも、また明日」

 

 大江先輩が、手をひらひらと振って出口に向かっていった。あたしたちは見送ってから荷物を手に取る。

 

「それじゃ、あたしたちも帰ろうか」

 

 そうだね、と倉木ちゃんが首肯し、並んで校舎の出口へと歩く。

 そこで、彼女があたしの名前を呼んだ。

 

「あの、ありがとね」

 

「え、なにが?」

 

「さっき、わたしと大江先輩が一緒にって……。背中を押すというか、なんというか……」

 

「あ、ああ。うん」

 

 まさか彼女たちの百合を思う存分見たかったからなどと言えない。適当にもにょもにょと相づちを打った。

 

「いやほら、友達が好きな人と仲良くできるのはいいことじゃん?」

 

 ね、と彼女の顔をのぞき込む。

 

「うん、ありがとう」

 

 照れたように口を尖らせる彼女の顔は、あまり見ない様子だったので、思わずこちらの口が緩んだ。

 

 彼女の恋路がうまく行けばいいと素直にそう思う。

 

 隣を歩く彼女が一歩こちらに近づく。そうして二人で並んで帰った。




倉木ちゃん
古戸と同学年、クラリネット担当
人好きのする笑顔や立ち居振る舞いの女子
大江先輩が好き
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