百合厨のあたしのいる吹部は百合の花が咲く【完結】   作:合間理保

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第4話

「あれ……?」

 

 あたしの漏らした声に、倉木ちゃんが返事をした。

 

「どうしたの? 古戸ちゃん」

 

「いや、ペンケースがどっか行っちゃって」

 

 困ったなあ、もうすぐ下校時刻なのに、とつぶやく。

 夕方の音楽室には、あたしたち以外にも何人かの生徒が残っていた。

 

 しょうがないなあ、と腰に手を当て、倉木ちゃんが一緒に部屋を探してくれる。すると、周りの人も何かあったのかと感じて声をかけてくれた。

 

「ふたりともどうしたの?」

 

「古戸ちゃんのペンケースが見当たらないみたいで」

 

「そうなの? それじゃ、私も探してみるわ」

 

 そう言ったのは二年の先輩だ。他の残っていた部員も協力すると言ってくる。さすがに大ごとになりすぎだと思って手をワタワタと振った。

 

「いや、そんな。悪いですよ。皆さん先に帰られてください」

 

「下校時刻までダラダラしたかっただけだから全然いいよ。もうちょっとで下校時刻のチャイムなるでしょ? それまでの暇つぶし」

 

 ねー、と他の人に声を掛ける。周りもうなずいた。これ以上固辞するのも逆に失礼だと思って、素直に頭を下げる。

 

「ありがとうございます。ええと、色とかは……」

 

 

 手分けしながら探していると、先輩のひとりが、そういえばと切り出した。

 

「最近倉木ちゃんと古戸さんって仲いいよね」

 

「あっ、思ったー」

 

「ええ? そうですかあ?」

 

 同意する部員に、倉木ちゃんが小首をかしげた。あたしも彼女のほうを向く。

 

「ちっちゃいわんこみたいに『大江先輩!』ってついてってたのが、最近は古戸さんと一緒なこと多いもんね」

 

「ねー。古戸さんも倉木ちゃんみたいなタイプと絡んでるの意外だったわー」

 

 彼女らの視線がこちらに向く。注目されているようでなんとも据わりが悪い。

 倉木ちゃんは笑っているが。その目は鋭くこちらを見ていた。

 

『余計なことを言うんじゃないぞ』

 

 と、その目で雄弁に語っていた。

 

 周りの部員も近寄ってくる。これはもうペンケース探しはお開きだろう。おしゃべりの時間の始まりだ。

 

「何かふたりにあったの?」

 

「なにかと言われても……うぅん」

 

 と悩んでいると、ほかの部員が腕を組んで訳知り顔でうなずく。

 

「ま、友達なんて大きなきっかけがあってなるもんでもないか」

 

「いつの間にかなってるものよねえ」

 

「そうですよう。大したきっかけなんて無いです。……あっでも、古戸ちゃん、こんな感じにぬぼーっとしてるからお世話焼きたくなっちゃって」

 

「うぇ」

 

 そう言って笑う倉木ちゃんや部員に、あたしは肩を落とした。

 

「あたし、そんなぼけっとしてます?」

 

「してなきゃペンケース失くしてないでしょ!」

 

 人差し指であたしを指さす倉木ちゃんに、今度こそ周りが大笑いした。

 

「まあ、でも、ふわふわしてるというか。そんな感じではあったね」

 

「誰かと距離を縮めて、グループ間のあれこれに首つっこみたくないのかと思ってた。それが大江さんのグループに近づくなんてね」

 

 鋭い指摘に声を漏らす。実際そんなもんだったので、乾いた笑いでやり過ごした。

 こちらを見ている倉木ちゃんと目が合う。あたしたちの仲のきっかけは間違いなくその大江先輩だ。

 

 けれど、

 

「大江先輩に近づきたいとかそういうわけじゃ……」

 

 あたしの目的は一貫している。百合が見たい。それだけだ。

 

 ふぅん、と先輩がうなずいたところで下校時刻のベルが鳴った。

 

「やっば、帰らないと。古戸さんごめんね、ペンケース見つけられなくて」

 

「いえ、大丈夫です。明日になったらなんか出てくるかもしれませんし」

 

 慌てて支度をして帰っていった部員を見送る。倉木ちゃんが少し時間がかかっていたので、あたしは彼女を待った。

 用意ができたようなので、ふたりで音楽室を出る。

 

「結局見つからなかったね」

 

「ごめんね倉木ちゃん。付き合わせちゃって」

 

「いーのいーの。でも音楽室には無さそうだったね。ほかの場所なんじゃない?」

 

 言われ、確かにそうかもしれないと気づく。

 

「他って言うと……。あっ、最後の授業、クラスとは別の教室だったからそこかも」

 

「ほんと? じゃあ帰る前にそこ行ってみよ!」

 

 まだ付き合ってくれるという彼女を引き連れ、教室へ向かった。

 

 その教室は普段は空き教室で、さらに下校時刻ともなれば、閉まりきっていて誰もいないはずだ。

 そんな思いとは違い、教室のドアは少しばかりすき間があった。そこからわずかに物音が聞こえてくる。

 

 誰かいるのだろうかと倉木ちゃんと顔を見合わせた。

 そっとふたりですき間から中を覗く。

 

 中を見て、倉木ちゃんが慌てて口を押さえた。

 

 中では、残っていたふたりの女子生徒が、顔を寄せあい、唇を合わせていた。しかも、その、()()()()を。

 

(うぇっ!? なんっ!? えっ、えぇっ!?)

 

 あまりの光景に驚きすぎて声も出てこない。

 

 彼女らはこちらに気づく様子もなくキスを続けている。

 開かれた口から覗く鮮やかな舌が、溶けるように絡みあう。その口から漏れてくる吐息が耳元から聞こえる気がした。

 抱き合っていたふたりの手が互いの制服の上を滑る。スカートの上だ。

 

(な、なんか、まさぐってない!? うわ、うわぁ……!)

 

 興奮に鼻が大きくなる。倉木ちゃんのほうを見た。

 

「倉木ちゃん、凄いところに出くわしちゃったね」

 

 小声で彼女に話しかけると、倉木ちゃんはゆっくりとこちらを向いた。

 照れているのか、その頬は真っ赤に染まり上がり、半開きの口から吐息が漏れてくる。

 

「古戸ちゃん」

 

 彼女はあたしの袖をつまんで一歩近づいてきた。

 その様子に違和感を覚える前に、彼女はゆっくりと顔を寄せてくる。

 

「古戸ちゃん……」

 

 そのとろんとした瞳を見て、あたしはハッとした。

 

(なんか、倉木ちゃん、()()()()()ない!?)

 

 熱に浮かされたような表情は、とても平静な様子に思えない。

 彼女は袖をつまむ手に力を入れ顔を近づける。その瑞々しい唇に思わず目がいき、体がこわばった。

 

「古戸ちゃん」

 

 と、三度呟かれるあたしの名前を聞いて、まずいという理性がようやく体を動かした。

 一歩退くように足を引く。

 ガタンと扉に肩をぶつけた。

 

「誰かいるのっ!?」

 

 教室の中から驚いた声が聞こえてくる。その声に、倉木ちゃんが夢から覚めたように目を見開いた。

 あたしは彼女の手を引いた。

 

「に、逃げるよ……!」

 

 小声で叫び、倉木ちゃんを引き連れてその場を離れる。

 昇降口に着いたころには肩で息をしていた。そんな距離があったわけではないが、緊張したせいだろう。

 倉木ちゃんもうつむきがちに荒い息を吐いている。

 誰にも追いかけられてないことを確認して、大きく息をついた。

 

「よかった。バレなかったみたいだね」

 

 倉木ちゃんのほうを向けば、彼女は口元に手を当て、あちこちに目をさまよわせていた。

 返事がないことを不思議に思い、もう一度呼びかける。

 

「えっと、倉木ちゃん?」

 

 名前を呼ぶと、彼女はびくりと肩を震わせた。

 

「えっと、その……。古戸ちゃん、さっきのは、その、違くて……」

 

 さっきの、とは扉の前の浮かされた様子だろう。

 教室の中のふたりの雰囲気にのまれて、顔を寄せてきた。言ってしまえば、あたしはキスされそうになった。

 さすがにそれが分からないほどではない。

 けれど、

 

「ええと、倉木ちゃん」

 

 言いかけたところで、彼女は弾かれたようにこちらを見て、顔を真っ赤にする。

 

「違っ、その、あの……ごめん! 古戸ちゃん!」

 

「えっ! ちょっと!?」

 

 こちらの返事も待たず、倉木ちゃんは駆けていった。

 気にしてないよ、と伝えたかったのだが、その前に逃げるように去ってしまった。

 本当に気にしてないんだけど……。

 

「ええと……」

 

 どうしよう、とあたしは首をかしげた。




そろそろ一人称書き間違えそうで怖い
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