百合厨のあたしのいる吹部は百合の花が咲く【完結】   作:合間理保

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第5話

 ちらちらと視線を感じる。

 その方に顔を向ければ、こちらを見ていた倉木ちゃんが、ぷいと顔をそらす。

 最近そんなことばかりだ。

 

 あの日、キスされそうになった日以降、彼女はあたしから距離をとっている。あたしが話しかけようとしても、すぐに足早に逃げていってしまう。

 

 分からないでもない。友達に思わずキスしてしまいそうになりましたなど、その後どうすればいいか到底分からなくなってしまうだろう。

 

 けれど、せっかく倉木ちゃんと友達になったのだ。このまま疎遠になっていくのは嫌だなと思う。

 あたしは別に気にしてないよ、と伝えればそれで終わる話だと思うのだが、そのきっかけすら作らせてもらえない。

 

 いや、そんなんじゃダメだと思う。友達を大切に思っているのなら、無理やりにでも行動に移すべきだ

 倉木ちゃんを捕まえて、ちゃんと話すべきだ。

 

 そう決意し、さてどうすればよいのだろうかと考えたところで、あたしの頭にはひとりの顔しか浮かんでこなかった。

 

 

「ふぅん。なにも聞かずに、倉木さんを呼んでほしい、と」

 

 目の前の大江先輩がアゴに指先を当てる。

 あたしには、彼女を頼るという選択肢以外が見つからなかったのだ。

 

「頼りにしてくれるのは嬉しいけど、なにも事情も分からないのに、ねえ」

 

 至極当然の言い分に、うぐ、と息を漏らす。

 事情を詳しく言うわけにもいかない。かといって、なにも言わずにというのも誠実さに欠けるだろう。

 

「いや、その、えーと。ちょっと話しかけづらくなっちゃって……。仲直りしたいだけです」

 

「ふぅん。ま、いいわ。詳しい事情は聞かないであげる」

 

 にこりと彼女は笑みを浮かべる。ほっと息をついたところで、それより、と切り出された。

 

「古戸さんが私のことを頼ってくれて本当に嬉しいわ。あなた、いつもそっけないんだもの」

 

「いや別に邪険にしているとかじゃあ……。倉木ちゃんみたいに感情が派手に表に出ないだけですって」

 

 悲しそうに目を伏せる大江先輩に、慌てて手を振る。

 実際、彼女を嫌っているわけでもない。ただ、相変わらずあたしのことを気にかけていることがよく分からない。

 優秀な先輩のただの気まぐれかもしれない。

 そう思っておくことにしている。

 

「ま、あなたのお願いは分かったわ。今日の放課後、倉木さんを呼んでおくわ。そこにあなたも来てちょうだい」

 

「ありがとうございます。大江先輩」

 

「こんなことなんでもないわ。もっと私のことを頼っていいのよ」

 

 言って、彼女はにこりと目を細める。あたしは再び頭を下げた。

 

 

 放課後、お願いした通り、大江先輩は倉木ちゃんを廊下の端に呼んでくれた。あたしは近くに隠れて、二人が話しているところに飛び込む算段だ。

 

 隠れているあたしなど本当に知らないかのように大江先輩が廊下に立っている。

 そこに、倉木ちゃんがやってきた。大江先輩に呼ばれて嬉しいのだろう。喜色が溢れている。

 二人は声を掛け合って話を始めた。

 

 さて、ここからだ。ここであたしが飛び出して、倉木ちゃんを捕まえなくてはならない。

 ふう、と呼吸を整える。用意はできた。いこう。

 

「く、倉木ちゃん!」

 

 あたしにしては大きな声で呼びかければ、彼女は肩を震わせた。こちらを振り向き、その驚いた顔と目が合う。

 倉木ちゃんは、その後勢いよく大江先輩のほうを向いた。大江先輩は邪気のない顔で、どうしたのと言わんばかりに小首をかしげた。

 

「あの、大江先輩。わたし、失礼します!」

 

 倉木ちゃんが足早にその場を離れようとする。あたしはそれを慌てて追いかけた。

 

「待って! 倉木ちゃん!」

 

 早足の彼女に追いつくようこちらも足を速める。

 すると彼女は早足から小走りにスピードを上げた。追いつけるようにあたしも走りだす。

 

「待って! ねえ、聞いて!」

 

倉木ちゃんはいつのまにか駆け足だ。運動の得意でないあたしはもはや全力疾走に近い。付いていくので精一杯で、全然距離が縮まらない。

 

「ねえ、倉木ちゃん!」

 

 逃げる彼女はこちらの呼びかけに耳も貸さず、走り続ける。手を伸ばすも、全然届かない距離だ。

 ついにあたしの脚と肺が悲鳴を上げだした。徐々に追いかけるスピードが下がっていく。

 

「待って! ま゛っ……! お゛ぇ……」

 

 声をあげると同時にえずいた。

 

「ああ! もう!」

 

 それが聞こえたのだろう。倉木ちゃんが脚を止める。くるりと振り返り、こちらに近づいてきた。

 膝に手をつき、背中を丸め、ぜえぜえと息をつくあたしの背を、彼女はゆるゆるとさすった。

 

「ほら、もう。大丈夫?」

 

「うん。大丈、夫」

 

 息を整え上体を起こす。思いのほか近くあった倉木ちゃんの目とこちらの目が合う。彼女の手を握った。

 

「えへへ。やっと捕まえた」

 

 言えば、彼女は変なものでも食べたかのような顔をした。それから長いため息を吐く。

 

「うっさい。そんなへばってて、よく言う」

 

 ツンと口をとがらせている彼女の様子は普段とさほど変わりない。

 よかった。話はしてくれるようだ。

 

「倉木ちゃんとしっかり話したくて……。大事な友達だから」

 

「……うん」

 

「あの時のことなんだけど」

 

 そう切り出すと、彼女は肩を震わせる。それから慌てて口を開く。

 

「あれは、その、空気に飲まれたっていうか」

 

「うん。大丈夫だよ。あたしは気にしてないから」

 

安心させるように彼女の手をぎゅっと握り、はっきりと言う。彼女は目をぱちくりと瞬かせた。それから、

 

「全然?」

 

「うん。全然。ちっとも」

 

 だから安心して、と笑えば、彼女はわずかに眉を寄せた。

 

「それはそれでなんかシャクね」

 

 倉木ちゃんが苦笑する。何を言っているのか分からず首をかしげるあたしの頭を、彼女はポンポンと叩くように撫でた。

 

「古戸ちゃん。ごめんね。変に避けちゃって」

 

「うん。でも、またちゃんと話せるようになってよかった。嬉しい」

 

 素直にそう言えば、彼女がもごもごと口を動かす。

 

「あんた、結構そういう……」

 

「うぇ?」

 

「まあ、いいよ」

 

 はーっ、と長く息を吐かれた。なにかあきれられることをしただろうか。

 ともかく、これでわだかまりもなくなったと思っていいだろう。

 倉木ちゃんがこちらに向きなおる。

 

「古戸ちゃん。ありがとね」

 

 すっきりした顔でそう言われ、それから二人で笑いあった。




起承転結の起と転結だけ作って話を書いているから承の部分で詰まる(いつもの)
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