百合厨のあたしのいる吹部は百合の花が咲く【完結】   作:合間理保

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第6話

 無事に倉木ちゃんと仲直りができた。

 それからも二人でいることが多く、吹部ではすっかり仲良しペアという認識を持たれている。

 そのうちの一方は大江先輩に懐いていることも知られているので、あたしもきっと大江グループのひとりだと思われているだろう。

 

 それは別にいいのだが、大江先輩から話しかけられた日から、自分の立ち位置がだいぶ変わってきたなと思う。

 

 大江先輩と距離を置く部員たちからはあたしも距離を置かれつつあるものの、逆に倉木ちゃんと仲の良い大江グループの先輩たちからは可愛がられるようになった。

 あたしじゃなく、お互いを可愛がりあってほしい。それを見たい。

 本当に。

 

 とにかく、なあなあで大江グループの一員になりつつあるが、それは気にしない。あたしは倉木ちゃんと友達でいたいだけだし、百合が見れれば満足なのだ。

 

 放課後、部活も休みだったので、倉木ちゃんとふたりで帰ろうとしていた。

 まっすぐ帰らずに音楽室に寄りたいと倉木ちゃんが言う。あたしは特に急いでいるわけではなかったから素直にうなずいた。

 

 くだらない話をしながら音楽室に向かえば、女子生徒がドアから中をのぞき見ているようだった。最近こんな事がよくあるなと思った。

 不思議そうな顔で倉木ちゃんが彼女に声をかけた。

 

「千葉ちゃん? どうしたの?」

 

 彼女は呼びかけに気づきこちらを向く。だいぶうろたえているようだった。その様子を不思議に思い、あたしも声をあげる。

 

「中に誰かいるの?」

 

「ええと、その……」

 

 やはりなにかあるらしい。倉木ちゃんと顔を見合わせ、ドアのすき間に目をやった。

 

 音楽室の中には二人の女子部員がいた。ひとりが壁を背に立っており、もうひとりがその顔の横に手をやり、行き場を塞いでいる。壁に押し付けているような格好だ。

 

「丹羽さんと、堀先輩……?」

 

 一緒に見ていた倉木ちゃんがつぶやく。その名前に千葉さんが肩を震わせた。

 

 押し付けている方が二年の丹羽さん(後輩にも『さん』で呼ばせている)で、壁を背にしたほうが三年の堀先輩だ。

 丹羽さんが体を寄せるように何事か言って、それに対し堀先輩は彼女の体を弱々しく押し返している。

 

「なんか、意外だね。あの二人がそういう感じだなんて」

 

 倉木ちゃんの言葉にあたしはうなずいた。

 

 堀先輩は真面目でお堅いイメージのある先輩だ。

 対する丹羽さんと言えば、あまりいい噂を聞かない。本当かどうか知らないが、上級生も下級生も関係なく女の子を()()まくっているらしい。

 

 あたしとしてはその真偽を詳しく聞いてみたいところなのだが……。

 

 とにかく、そんな対照的なふたりであることには間違いない。それがあんなふうに体を寄せているだなんて思いもしなかった。

 

 と、そこで丹羽さんが堀先輩に顔を寄せる。

 そのままキスでもしちゃうのではないかと息を呑んだ。が、違ったらしい。丹羽さんは耳元に顔を近づけ何かつぶやいた。

 

 瞬間、弾くように堀先輩が彼女の体を押し返した。そしてこちらのドアのほうを見る。急ぎ足で近づいてきた。

 

(バレた!?)

 

 慌ててその場から離れようとするも、三人も固まってたせいでお互いの体がぶつかりあい、もつれてその場から動けなかった。

 勢いよくドアが開かれる。

 

 青ざめた表情の堀先輩がこちらを見ていた。

 

「千葉さん……あなた……」

 

「あの……。な……堀先輩、ええと」

 

 千葉さんがしどろもどろに口を開く。覗いていた事がバレたあたしと倉木ちゃんもうろたえているが、彼女の様子はよりひどい。

 何事か言おうとして口を開きかけ、それでも言葉が出てこないのか手をぎゅっと握りしめた。

 

 明らかに覗きがバレただけの様子とは思えなかった。

 

 そんな千葉さんと堀先輩の様子を、音楽室の中から丹羽さんがニタニタと笑って見ている。

 

 おそらく彼女が私たちが覗き込んでいることに気づいたのだろう。そしてそれを堀先輩に教えた。

 そしてあまり見られたくないような場面だと思うのだが、堀先輩の背後にいる丹羽さんはにやけた顔を隠そうともしない。

 

 なぜそんなことを?

 

 分からない。うろたえているあたしたちの中で、彼女だけがなにかを掴んでいるようだった。

 

 千葉さんが唇を震わせる。

 

「あの……。堀先輩、その……」

 

 震えた音は言葉にならず、彼女はその場から駆け出した。

 

「あっ! 千葉ちゃん!?」

 

 倉木ちゃんが手を伸ばしかける。それより先に、彼女は階段を下りていった。

 

「追うよ! 古戸ちゃん!」

 

 こちらの返事も聞かず倉木ちゃんも走りだす。追いかけようとしたところで、丹羽さんが堀先輩に近づいたのが視界の端に映った。

 彼女は堀先輩の背後から腰の前に手を回す。おへそのあたりで手を重ねるようにしてゆるく抱きすくめた。

 

「ふふ。見られちゃいましたね」

 

 丹羽さんが耳元でささやいたのが聞こえた。

 堀先輩は丹羽さんを振りほどき、千葉さんとは別の方向に走っていった。

 

 あたしはどちらを追うか迷ったが、まずは倉木ちゃんと合流したほうがいいと思って、千葉さんのほうを追うことにした。

 

 

 校舎の脇の花壇のそばでふたりを見つけた。四人くらいは座れる長いベンチの真ん中に並んで腰かけている。

 あたしに気づいた倉木ちゃんが手招きをした。

 

 千葉さんはうつむきがちに座っている。倉木ちゃんの反対側に座ろうとしたところで、倉木ちゃんに手を引かれた。

 

「あんたはこっち」

 

「え、でも……」

 

 真ん中に倉木ちゃんがいて、その両脇にあたしと千葉さんが座る位置だ。

 千葉さんから話を聞くのだから、彼女が真ん中のほうがいいと思うのだけれど。

 小声でそう聞けば、

 

「そんなことしたら、ふたりで挟み込んで問い詰めているみたいじゃない」

 

 とあきれられた。

 

 なるほど確かに。それだと話しづらいだろう。倉木ちゃんの人当たりのよさが垣間見えて、あたしは感心してしまった。

 

 倉木ちゃんが千葉さんのほうに向きなおる。

 

「ええと、千葉ちゃん。何があったか話してくれる? わたしたち力になるよ」

 

 もちろん良ければだけど、と彼女は付け加えた。千葉さんが膝のうえでこぶしを握る。あたしは黙ってその様子を見ていた。

 

 やがて千葉さんが語りだす。

 

「私、堀先輩とは幼なじみなの」

 

 その言葉に、あたしと倉木ちゃんはわずかに顔を見合わせた。




 それぞれの担当楽器も決めているけど、別に楽器に詳しいわけでもなければ演奏シーンがあるわけでもないので完全なるフレーバー要素です
 誰がどの楽器でしょうか
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