百合厨のあたしのいる吹部は百合の花が咲く【完結】   作:合間理保

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最終話

 堀先輩を引き連れて千葉さんのもとへと向かった。もといた場所へ戻れば、こちらに気づいた千葉さんと倉木ちゃんがベンチから立ち上がった。

 数歩歩み寄ってくる。あたしは堀先輩の背を押した。

 

 堀先輩と千葉さんが向かい合う。緊張のせいか、堀先輩は口を真一文字に引き結んでいた。

 肘のあたりをもう片方の手でギュッと握っていた。それから、

 

「千葉さん、あのね……」

 

「菜々香ちゃん!」

 

 大きな声で千葉さんが遮った。

 

 菜々香ちゃん? と思ったが、それより先に千葉さんが続ける。

 

「菜々香ちゃん! また、ちゅーしてよ!」

 

「へぇっ!?」

 

 堀先輩がすっとんきょうな声を漏らした。

 あたしも叫びそうになった。

 背後で倉木ちゃんがうんうんとうなずいている。

 

 な、なにをどう焚きつけたんだ! 彼女は!

 

「菜々香ちゃん! 私、菜々香ちゃんが好きだよ。ずっと、ずっと好きなままだよ」

 

 千葉さんは顔を真っ赤にしてぷるぷると震えている。それでも言葉は止まらなかった。一歩近づく。

 

「菜々香ちゃんはどう? 私のことまた大好きって言ってくれる?」

 

 千葉さんが堀先輩を正面から見据える。そのまっすぐな視線に、堀先輩も目をそらすことはできないようだった。

 堀先輩は肘に当てていた手を離した。

 

「私だって、あなたのことが大好きよ。ずっとずっと昔から同じよ」

 

 穏やかな声で返す。千葉さんがぱぁっと表情を明るくした。

 

 あたしはひそかにほっと息をついた。ふたりとも胸のうちを話して、わだかまりも無くなる。これで大丈夫だろう。

 倉木ちゃんがそばに寄ってくる。彼女と目を合わせた。良かったねとばかりに口元を緩めていた。

 

 これで一件落着だろう。そう思ったのだが、千葉さんはまだ最初の言葉を忘れていてはないようだった。

 

「菜々香ちゃん、ちゅーしてよ。昔みたいに。名前で呼んで」

 

 さらに一歩近づく。もう体が触れあうような距離だ。

 

「でも……」

 

 堀先輩は息を漏らす。あたしたちを見やった。

 人に見られている中では、ということだろう。

 あたしと倉木ちゃんは顔を見合わせる。それからふたり揃ってぷいと顔をそらした。

 

 見てませんよ、という態度だ。

 けれどあたしは横目でガン見していたし、倉木ちゃんもさすがに気になっているだろう。チラチラ見ているはずだ。

 

 あたしたちが居るものの、その意思表示で堀先輩は妥協したようだ。千葉さんの腕に手を回し、もう片方の手を彼女のほおに添える。

 ふたりで見つめ合った。

 

「大好きよ、あやちゃん」

 

 言って、唇を合わせた。

 

(うぇ!? 口ぃ!? 昔みたいに、って言ってたよね!? 子どもの頃から口にキスしてたの!?)

 

 子どものころの「ちゅー」だから、すっかりほおだと思っていた。

 

 (うぇ……、すごっ!)

 

 倉木ちゃんに目をやれば、彼女もほおを染めて目を丸くしていた。

 

 たっぷり口づけを交わしたふたりが顔を離す。

 

 恥ずかしげに耳の端を赤く染める堀先輩とは対照的に、千葉さんは満面の笑みだ。

 

 倉木ちゃんに負けないくらいの素敵な笑顔に、うまくいって本当に良かったなと思う。

 

「菜々香ちゃん! もう一回! ね、お願い!」

 

「だ、ダメよ!」

 

「ええ! なんでぇ」

 

 堀先輩は口元を腕で隠した。

 

「……抑えが利かなくなっちゃうから」

 

 つぶやかれたその言葉に、飛び上がって喜びの声を上げなかったあたしを褒めてほしい。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 その後ふたりを見送った。

 

 堀先輩の腕に抱きつきながら、千葉さんがこちらに手を振る。あたしたちも手を振りかえした。

 ふたりはくっついて、何事かしゃべりあい、笑いながら歩いていった。

 

 その様子を見て思う。

 

 やっぱり百合って最高だ。

 

 ふんす、と鼻息を漏らすあたしに、倉木ちゃんが笑いかけてきた。

 

「良かったね。古戸ちゃん」

 

 あたしはこくりと首を縦に振った。

 

「ね。ホントに良かった」

 

 こんな上質な百合を間近で見られるなんて。

 

「ねえ、古戸ちゃん」

 

「ん、なに?」

 

「ふたりは幼なじみで、それ以上に好きあって、いったい何があったのかな? なにか大きなきっかけでもあったのかな?」

 

 彼女は小首をかしげてこちらを見ている。

 なんだ、そんなことか、と思った。

 

「きっと大きなきっかけなんてないよ。驚愕の出来事とか、特筆すべき事件なんてなくても、なんてことのない毎日の積み重ねで、人は人を好きになれるんだよ」

 

 物語に描かれることのない、なんてことのない日常の中にだって百合は生まれるのだ。

 

 訳知り顔で言えば、思いのほか彼女は感銘を受けたらしい。

 あごに手を当て、そっかと視線を下にやった。

 さすがに真面目に受け取られすぎて気まずくなる。

 

「そっか、そうだよね。なんにもなくても好きになっちゃうよね」

 

「えっと、あの、倉木ちゃん? 適当に言ってるだけだからね……?」

 

 体の前で手をさまよわせた。その片手を倉木ちゃんが握ってくる。

 

「古戸ちゃん!」

 

「ひゃいっ!?」

 

 大きな声で呼ばれる。倉木ちゃんの顔は先ほどの千葉さんと同じような表情をしていた。

 なにか意を決したような表情の倉木ちゃんが顔を寄せてくる。

 

 気づいた時には、あたしのほおに温かみのある柔らかい感触があった。

 ちゅ、と可愛らしい音が鳴る。

 倉木ちゃんが顔を離す。あたしは自分のほおに手を添えた。まだ温かさが残っていた。

 今、なにを。

 

 握られたままの手を、倉木ちゃんは両手で包むようにしてきた。

 

「わたし、古戸ちゃんのことが好き」

 

「うぇ?」

 

「わたし、古戸ちゃんのことが好きなの」

 

 くり返し言う彼女の表情はいたって真面目だ。突然告げられたことに思考が追いつかない。舌がつっかえた。

 

「え、なん、いや、でも、なんで」

 

「さっき古戸ちゃんが言ってた通りだよ。大きなきっかけなんてないけど、古戸ちゃんと一緒に居て、いつの間にか好きになってたの。もっと一緒にいたいなって思ったの」

 

 確かにあたしは言った。けれど、それは百合の話で……。

 

「古戸ちゃんはさ、たぶんいろんな女の子の関係を見てるでしょ。でも、わたしを見てほしい。わたしと誰かじゃなくて、わたしそのものを見てほしい」

 

 倉木ちゃんの目があたしの目を覗きこむ。潤んだそれに引きこまれそうになった。

 なにか言わなければ、そう思うのに言葉が出てこない。

 

「倉木ちゃん……」

 

「古戸ちゃん、また明日ね!」

 

 あたしの言葉を止めるように言いおいて、彼女は逃げるように去っていった。

 

 ひとり取り残されたあたしは、キスされたほおを指先でなぞる。キスされた。倉木ちゃんに。今更ながらその実感が湧いてきて、顔に熱が集まる。

 

 あたしは百合が好きで、女の子同士の矢印が大好きで、けれどその矢印が自分に向かってくるだなんてこれっぽっちも思っていなくて。

 

 でもそれじゃあ倉木ちゃんにキスされたことが嫌かと言われると、全然そんなふうには思えなくて、むしろあの感触と彼女の表情を思い起こせば、いっそう顔が熱くなる。

 

 顔は真っ赤なのに、頭の中は真っ白だ。それくらいまったく思ってもみない衝撃だった。

 膝から力が抜け、ぺたんとその場にへたりこんだ。

 

 倉木ちゃんは、好き。あたしを。

 

「うぇ、うぇえええ!?」

 

 なんだこれは。

 

 どうしよう。

 どうしよう!

 どうしよう!!

 

 

 

 

 




おしまい


百合好きの女の子が急に自分に矢印が向いていることに気づいた瞬間って良くね?
というワンシチュエーションから出来た話なので本編はこれにておしまいです

この後の古戸ちゃんと倉木ちゃんの関係やら堀先輩と千葉さんやら
あるいは大江先輩とか丹羽さん、まだ見ぬ部員たちなんかも含めてこの世界で作りたいお話はありますが、
まあ本編はここまで

みなさんお読みいただきありがとうございます
評価やお気に入り登録、ここすき、感想までいただき本当に嬉しく思っています
本当に力になります
ありがとう

ではまた
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